詰み
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「霖之助さん、男の子と女の子どちらがいいですかね。」

 

「その質問は可能なら今は答えたくないね。」

 

 

今、もっとも聞きたく無い言葉トップ5に入る言葉が来た。

 

今、僕は仰向けに倒れている、いや『押し倒されて』いる。

四肢は動きを封じられて首だけがなんとか自由に動かせるようだ。

咲夜は馬乗りになるような形で僕の動きを封じていて、

肩を押さえ付けて僕の足に自分の足を挟み込み、がっしりと閉めて僕を拘束していた。

 

これも侵入者を取り押さえるための技の一つなのだろうか

 

と思わず感心してしまった。

感心している場合では無いのはわかっている。

しかしこの状況を頭が受け入れられず現実逃避したかのように脳が思考を放棄していたのだった。

 

 

「じゃあ質問内容を変えましょう。」

 

 

片手だけでメガネを外され、顔の横に置かれたところで耳の下から顎にかけてゆっくりと指を滑らせる。

まるで何かを確認するように何度もゆっくりと滑らせてる。

そのうち猫を撫でるかのように顎をくすぐるようにに指を這わせるようになってきた。

男性から女性への図なら格好になったかもしれないが。

残念な事に僕は男で彼女は女性だった。

 

しかしそれを考えてしまえば、この押し倒されている状況が余計に情けなくなってしまう。

 

だがチャンスが来た。

今彼女の腕が僕の顔に来ているということは、片手は恐らく無防備になってる筈だ。

肩を少し浮かせて動くのを確認すると腕を伸ばして逆に押し倒そうとする。

女性相手に乱暴かもしれないが、相手は僕よりも動きの拘束に手馴れている。

今ならば彼女も話に集中していて手の力も多少弱まってる筈だ。

抜け出すには機会は今しか無い。

 

――しかしここまでした彼女がこんな所で気を抜くだろうか?

 

答えは否。

僕はそれを身を持って知る。

 

――肩がこれ以上上がらない?

 

まるで何かに引っ張られている様な感触だ。

唯一自由に動かせる首を片腕に向けてみたところ、服の袖が3本のナイフで等間隔に畳に刺さっていた。

いつのまにやられたのか、お得意の手品以上の何かを感じる。

これは本格的にマズイのかもしれない。

 

 

「せっかちな方ですね、それでも好きですけど。」

 

 

好き、彼女は今そう言った。

この状況で言えばそういう意味なのだろうが、一体彼女の何がここまでにさせてしまったのか。

男女の恋愛に疎いことは自覚をしていたが彼女をここまで追い詰めるようにしてしまった記憶は簡単に思い返しても考えがつかない。

嫌、思いつかないから追い詰めてしまったのだろう。

後悔はしても遅いが、もっとそういった機微も気にかけるべきだった。

 

 

「・・・聞きたいことって何かな。」

 

 

とりあえず対話をしなければ文字通り話しにもならない。

もしかすれば些細な誤解のせいでこのような状況にもなってるのかもしれないからだ。

場合によってはまだ間違いを犯さないですむ、かもしれない。

 

 

「うさぎ以外に年中発情している生き物って何だと思いますか?」

 

 

ダメだ対話の要素がない。

 

気がつけば両腕ともナイフで綺麗に固定されていて、僕の顔は咲夜の白魚のような手によって動かないようにされていた。

首を動かしてみたところ、足の方は咲夜がふさがっていて見えないのでよく分からないが、

恐らく足もまた同じ状況なのだと思う、現に少し浮かせてみたところ服が突っ張ってしまい少しも動かすことができなかった。

今の彼女は僕の下腹部の上で馬乗りになっているので予想できる事態ではあったが、四肢が完全に封じられているという状態は焦りが格段に増してくる。

 

 

「・・・自慰行為を覚えた猿とかかな。」

 

 

反応が無い。

これは怒らせてしまったかもしれないかな。

しかし素直に答えてしまえば事態が悪化してしまうし、沈黙もまた相手の感情を逆撫でしてしまう。

とりあえずはジっと相手の表情を伺う。

天井の明かりから影がかかってるせいで表面的には笑顔の表情だが、怒っている様にもも見えるし無表情のように捉えることもできる。

その表情から考え予想ができない今、相手がどんな行動をしてくるかわかったものではない。

 

不意に、両手が僕の頬を動かないように抑えてきた。

まさか――と思ったときには既に彼女の顔が目の前にあった。

 

 

「ん。」

 

 

十秒近く時間が経過しただろうか。

正確に時間を図っていた訳ではないのでよくは分からないが、彼女の赤い目がこちらを捉えて離さず、首を動かすことも目を逸らす事もできなかった。

普段ならなんとも無い目の筈なのに、今日はやけに威圧的な雰囲気を持つ。

腕に自信があったり、並の妖怪ならなんともないだろうが、残念な事に僕はただの道具屋であり、今はただの無力な一人の男だ。

 

 

「残念、ハズレです。答えは人類です。」

 

「・・・という事は今の接吻は罰ゲームだったのかな。」

 

 

思わず皮肉を吐いてしまい、しまったと思ってしまった。

相手の様子を伺うと、笑顔は消えて無表情に見下ろしていた。

 

逆撫でしてしまったか。

 

 

「ようやくいつもの霖之助さんらしくなってくれましたね。

 まあ必至に考えを張り巡らせて、表情をコロコロ変える霖之助さんもかわいくって好きですけど。

 知ってますか?霖之助さんって焦っているとご自分が思ってるよりもずっと考えが表情に出やすくなるんですよ。」

 

「ご丁寧に教授してくれてありがとう。」

 

 

もっとも、いまさら知ったところでどうにもならないが。

 

 

「あ、今『今更言うな』って表情しましたね。」

 

「・・・正解だよ。」

 

「でしたら。」

 

 

再び顔を近づけられて、唇を奪われる。

このくらいで済むなら安いものだが、この現場を誰かに見られた場合を考えれば、やはり一刻も早く抜けださなければと思った。

 

嫌、むしろこの状況なら誰かが来てくれれば最悪の状況は回避できるか?

その場合の店の損害や僕の被害を考えると頭が痛くなってくるが、多少の勉強代だと思って諦めよう。

 

 

「今のは賞品かな?」

 

「ええ、動けないようなので勝手にいただきました。」

 

「言ってくれれば店の物を好きに上げたんだけどね、ついでにそのままおかえり願えれば」

 

 

言いかけてる最中に三度目の接吻。

今度は舌が入ってきた上に今までよりもずっと時間が長かった。

 

 

「・・・・質問に答えた場合のみだと思い込んでいたが・・・」

 

「したじゃないですか、『今したキスは賞品か?』って」

 

「・・・・」

 

 

こういった些細な質問も含まれてしまうのか。

さて、そろそろこちらのペースもつかめてきた、いい加減脱出に講じよう。

状況は考えうる限り最悪。

接吻は回数を増すたびに咲夜の顔が赤くなって、目も据わってくる。

まあ言ってしまえば行為をする体勢になってきている、発情してきていると言ってもいい。

具体的には分からないが後十近くくらいまで接吻を行えば向こうは恐らく自分を抑えられなくなるだろう。

 

 

「主人の命令でやってるのかな?」

 

 

以前もここまででは無いが、主人の命令で自分の役職の跡継ぎ候補を用意しろと言われた際、僕の子種を使って産んだ子を跡継ぎにしようとしていた。

その時は人里から奉公を募るなり、マニュアルを作るなりすればいいではないかと解決案を出してどうにかその場は済んだ。

しかしそれを踏まえ今の状況を考えれば、主人の命令で来たというのは質問して何だが考えにくい。

そうなると自主的に彼女がやっていると考えれるが、今まで接客していた感想としては聡明な彼女がそんな暴挙に移るのは考えづらい。

となれば、僕が今まで無意識に彼女のを恋愛感情を刺激した事による鬱憤の爆発だろうか。

 

 

「いえ、それどころかお休みをいただいてまいりました。」

 

 

四回目。

口の中の体液が舐めとられて、逆に向こうから唾液が流し込まれた。

息をつまらせるわけにもいかないので飲み込むとする。

 

「んくっ・・・君が休みを自主的に取るなんて珍しいね、今日明日くらい取ったのかな。」

 

「十月十日程。」

 

 

とりあえず本気なのはわかった、しかも今晩一発で決める勢いだというのも。

しかも自主的に休みを取ったてことは、この行動も自主的だという事だ

 

考えてる最中に5回目。

今度は舌と唾液の複合だった。

さっきから接吻に対する技が豊富だが、そういう経験が実は豊富なのだろうか。

しかし彼女が主人に対して悪評が広まるような行動をやるとは考えづらい、ましてやそんな相手がいるなら僕では無くその相手の方に行くだろうに。

となれば時折彼女が買っていった少女漫画の類だろうか。

彼女が買ってくれるで僕は無縁塚に行った時に状態が良ければ拾う事が多いが、何度か中身を拝見した際には少女が読むにはあまりにも過激だという感想だった。

仮にそれを教科書に行動しているのだったら、今後のアクションがさらに過激になる事が見受けられる。

 

 

「霖之助さんがいけないんですよ、あんなに周りのほかの女の子を勘違いさせちゃうんですから。

 では、そろそろ最後の質問としましょうか」

 

 

しまった考えすぎていたか。

考えてる内容も些か脱線気味であった。

顔から首に冷や汗が伝っていくが、咲夜にそれを舐めとられる。

言いようのない感触に背中に変な感覚が走る。

 

 

「私は後何回キスだけで我慢できるでしょうか」

 

 

青く落ち着いた目がこちらをジっと見る。

最後の審判か。

 

それならば最後の希望を込めて。

 

 

「・・・・・五。」

 

「残念答えは0でした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

店の主人の行方は誰も知らない。

説明
待った無し一本勝負。
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東方 霖之助 咲夜 咲霖 ちょいR-15かも キス 

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