マジカントにて |
おとのいしに八つのおとが揃ってからの記憶がない。
身体がふらふらする。いつ気がついて、いつ起き上がったのかも覚えていない。
無意識という名の意識のもと、項垂れたままふらふらと歩き続ける。すると人に当たった。
緩慢な動きの中でも染み付いた条件反射から謝ろうと顔を上げると、そこには――ママがいた。
ママは微笑んでくれた。
「大丈夫?もう疲れたんじゃない?」
何故ママが此処に――というのはまともな思考が機能していないボクには些細な疑問だった。
目の前にママがいる、それだけでボクは全ての意識を投げ出すことができた。
「ママ――」
ボクはママに電話でいろんなコトを話した。でも、電話は所詮電話であって、声しかやりとりができない。
テレポートを覚えたとき、みんなが寝てる時に家に帰ろうとも思った。
でも、多分帰りたいのはボクだけじゃない。ポーラも、ジェフも、プーも、みんな帰る場所がある。
だから、ボクも帰らないことにした。強がった。
「ネスちゃん、ちょっと見ない間に男らしくなっちゃって♪」
そう言ってママはボクをギュッと抱きしめた。
ママはあたたかい。ストーブもジャケットもコーンスープもみんなボクをあたためてくれたけれど、ママのように離れてしまってもなお、あたたかいものはなかった。
心から全てが湧き出る。言葉、感情、血液、五感で感じたもの全部、五感が感じられなかったもの全部、全部、全部、ママに伝えたかった。
でも何故か口から漏れたのは嗚咽だけで、代わりに涙が出ていただけだった。
「ネスちゃん――」
家を出てから何ヶ月経っただろう。
どれだけの人に出会ったのだろう。
ここは何処なのだろう。
周りを見渡すと、僕の肩が見えた。そして、素足も、何もかも。
何故ボクは裸なのだろう。
周りが赤くなる。
周りが青くなる。
周りが黒くなる。
周りが――!!!
一瞬目の前が真っ白になって、その場に倒れた。二度目だ。
倒れたのに意識は何故か途切れていない。先程より重い頭痛を感じながら身体を起こす。
そこにはもうママはいなかった。
あったのは赤い海、紫の道、オレンジの空。極彩色が視界と脳内を塗り尽くす。
その先には緑色――否、あらゆるものに汚染された、毒々しい緑の海が見える。
そしてその中心に像がある。金色の像。
何かがフラッシュバックする。像がニヤリと笑う。誰かに似ている。像はまた卑屈な笑いを浮かべる。
フラッシュバック。頭痛に合わせて何度も、何度も。
ピントがあった。
誰かに似てるんじゃない。ああ――あれはボクだ。あのニヤニヤと醜い、下衆な笑みでボクを卑下しているのは、ボクだ。
あのボクがボクを惑わせている悪魔だ。この現実――否、本来のボクからする、ボクの夢を作っているのはあのボクだ。それはボクが知っている。だから間違いない。
後ろを振り返る。けれども、やはりママはいない。
いるはずがない。なぜならまだ冒険の旅は終わってないのだから。ギーグを倒していないのだから。
あの悪魔を倒さねばならない。
ボクはボクに勝たないといけない。ギーグを倒すために。
ボクはゆっくりと歩を進めた。
説明 | ||
ネスの葛藤。 よくムーンサイドがトラウマゲーとしての話題にあがりますが、自分はマジカントのほうが嫌だった覚えがあります。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
740 | 733 | 2 |
タグ | ||
MOTHER2 マジカント ネス | ||
姑獲鳥さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |