織斑一夏の無限の可能性13 |
Episode13:一夏を狙う年下の女、その名も五反田蘭
【箒side】
現在の時刻は早朝鍛錬の時間である。いつもであれば、私は剣道着に着替え、鍛錬をしている時間だ。
しかし今日の私はまだベッドの中にいた。目は覚めているのだが、昨日の事が頭の中をぐるぐる回り、鍛錬どころではなかった。
昨日、遂に私は一夏との同棲生活が解消されてしまった。
山田教諭にあのような状況を見られてしまった所為で直ぐにでも引っ越しをしなければならなくなったのは、自業自得とも言われるかもしれないが......。
引っ越しを済ませた後、いてもたってもいられず、一夏のいる部屋を訪ね、私は一夏に自分の想いの丈をぶつけられた......と思う。
『わ、私が優勝したら―――だ、抱いてもらうっ!』
ん? んん? 思い返してみると、告白の言葉がおかしい?
抱いてもらう?
............
.........
......
...
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
もしかして、私はとんでもない事を口走ってしまったのではないのか?
なんて事だっ!! 篠ノ之箒、一世一代の告白だったのにっ!!
その事を自覚すると、胸の動悸は早くなり、顔が早くなるのを感じた。
でも、済んでしまった事は仕方ない。うん、仕方ないのだっ。そもそも私の処女《バージン》は一夏以外に捧げるつもりもないっ!
処女を捧げる、つまり一夏と添い遂げる事っ! うむ、間違いないっ!
そうと決まれば、学年別個人トーナメントまでの時間、私は自分自身を鍛えなければならない。優勝というのは、今の私の実力から考えて、かなり難しい。
同学年にはセシリアや鈴といった代表候補生にまで選ばれる程の実力を有する恋敵《ライバル》がいる。そして何よりも一番の強敵となるのは―――私の想い人でもある一夏である。
正直、千冬さんにも言われている。私はまだ弱い。
だからこそ、強くなる為に自分自身を鍛える必要があるのだ。
―――優勝するために。
―――いつまでも恋敵《ライバル》の背中を見ているだけでなく、対等な存在となるために。」
―――想い人である一夏の傍にいられる女になるために。
私は強くなるしかないのだ。
よし、そうと決まれば、いつまでも寝ていられない。今日が日曜日だからこそ、鍛錬する時間は十分にあるのだ。
そう決意した私は直ぐに剣道着に着替え、竹刀を持って部屋を出た。
学年別トーナメントは今月だ。残された時間は一分一秒でも惜しいのだから。私は今よりも強くなる必要があるのだから。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*
【一夏side】
六月頭、日曜日。俺は久々に五反田の家に遊びに来ていた。
中学からの親友、五反田弾。中学時代は鈴に弾、それに御手洗数馬と一緒によく遊んでいた。IS学園入学以来、寮暮らしとなったため、なかなか会えなかった事もあり、今日は休みを利用して遊びに来たのだ。
今でも頻繁にメールのやり取りはしていたが、こうして会うのは本当に久しぶりだ。
何より女だらけの学園とは違って、男の友人というのは何の気兼ねもなく付き合えるのもいい。
んで、今は弾と一緒に発売日だけでも百万本セールスを記録した超名作である対戦ゲーム『IS/VS《インフィニット・ストラトス/ヴァ―スト・スカイ》』をやっていた。
「で?」
「で? って何がだよ?」
おいおい、対戦中に話しかけるな。うわっ、いきなり奥義を使うとは、こしゃくな!
「だから、女の園の話だよ。いい思いしてるんだろ?」
弾も見た目は15の俺も絶賛、思春期真っ只中の少年であれば、当然女の話にもなる。彼女を作って付き合う、果ては童貞喪失を夢見るのは当然の事だろう。
しかし、周りが女だらけの状況は本当に辛い。あの状況になるまでは俺もワクワクしていた。ところが現実問題、周りに女しかいない状況は本当にキツイ。
「お前......あの状況に男一人にされてみろ? いい思いどころじゃないぞ」
「嘘をつくな、嘘を。お前のメール見てるだけでも軽く殺意を覚えるんだが。何その天国《ヘブン》。招待券ねぇの? ないなら俺に女紹介してくれ」
「つうか、アレだ。鈴が転校してきてくれて本当に助かったよ。気軽に話せる話し相手も少なかったしな」
まぁ、クラス対抗戦の後にプロポーズみたいな事を言われたが。それに鈴だけじゃない、セシリアは俺の妻と言って憚らないし、箒に至っては先日、「抱いてほしい」宣言までされる始末だ。
あれ? これ混沌《カオス》じゃね?
「ん? お前、学園で何かあったのか?」
「んなっ! い、い、いや何もないぞ」
「動揺してるのが怪しんだが......」
くっ、さすが親友。俺の表情で勘付いたみたいだ。しかし、あんな事があったって知られると絶対にからかわれそうだ。いや、からかわれるよりも殺されそうだ。......うん、黙ってよう。
「しかし鈴か、鈴ねぇ〜。お前さ、鈴のこと―――」
弾が鈴のことで何かを聞こうとした言葉は、ドアをどかんと蹴り開け入ってきた突然の訪問者に遮られた。
「お兄! さっきからお昼出来たって言ってんじゃん! さっさと食べに―――」
突然の訪問者の正体は弾の妹、五反田蘭。歳は一個下で今は中三。有名私立女子高に通う、弾とは全く正反対な優等生でもある。
「あ、久し振り。蘭」
「いっ、一夏......さん!?」
やはり女の子というのは自宅ではラフな格好をするものなんだな。前世の記憶があるため、精神年齢が20代半ばの俺から見ると、まだあどけなさを残すものの、成長途中の未熟な果実も言えばいいのだろうか。
傍目から見ても蘭は”可愛い”部類に入る。ほどよくしまった肢体に成長途中とも言える、その膨らんだ胸がまたイイっ! まだまだ発展途上。つまり、もう少し待てば、熟成された立派なおっぱいに成長するわけだ。
既に現時点で鈴は抜いているが。
「おい、一夏。お前は人の妹をどんな目で見てるんだ?」
「はははははは」
「笑って誤魔化すな」
「だって可愛いから仕方ないだろ?」
前世の俺だったら犯罪レベルだが、今の俺は15歳。蘭は一個下。何の問題もないじゃないか!
ビバ! 転生!
「ふぇ?! か、か、可愛い? わ、私が、ですか......?」
「うん、蘭は可愛いと思うぞ」
「や、そんな......えへへ。可愛い......私が可愛い......」
【蘭side】
目の前には憧れの人、織斑一夏さんがいる。
いつからこの人を好きになったのか覚えてない―――気が付いたら私の視線はこの人を追っていた。そう、私の初恋の相手であり、お兄と同級生で、今では『世界で唯一ISを動かせる男性』として、とても有名な人だ。
今年の春、IS学園に入学するまではよくウチに遊びに来ていた。だから、常に顔を見る事が出来たのだけれど、今は全寮制のIS学園に入学してしまったため、会う機会がめっきり減ってしまった。
―――初恋は実らない。
よくそんな事が言われてるが、私はそんな言葉でこの初恋を諦めるつもりはない。
初恋は実らない? それなら私はこの初恋を実らせてやるんだ。だから絶対に諦めない。
今、通ってる有名私立女子高は大学卒業までエスカレーター式だけど、一夏さんを追いかける為、実は来年の春からIS学園に入学しようと画策していたりもする。
何せ、この前のIS適性診断で『A』が出たのだ。
つまり、私はIS学園に入学できるカードを手に入れたのだ。好きな人がそこにいるからこそ、私はIS学園入学を目指す。そして、この恋を成就させてみせるっ!
「蘭、お前なぁ、ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ―――」
ギンッ! 今まで視界の外にいたお兄が余計な事を口走りそうだったので、取り合えず視線で殺す。
オ マ エ ハ ダ マ ッ テ ロ
そんな私の心の声が聞こえたのか、お兄は壊れたオモチャのようにただただ首を縦に振るだけだった。
しかし、この馬鹿兄。一夏さんがウチに来る時はあれほど私に言え、と言っていたのに、今日、一夏さんがウチに来る事を私は知らなかった。
おかげで現在の私の格好は髪を後ろでクリップに挟んだだけの状態で服装もショートパンツにタンクトップという機能性だけしか重視していない服装なのである。しかもノーブラ......。
おかげで私は一夏さんにあまり今の格好を見られたくなかった。
この馬鹿兄は後でシメるしかない。うん、シメよう。
そんな想いを込め、馬鹿兄に視線を送る。私の想いを感じ取ったのだろう、馬鹿兄は顔面蒼白となっているが、シメる事は決定事項なので逃がさない。
それよりも、今は一夏さんだ。ラフな格好をしている今の私を「可愛い」と言ってくれたのだ。こんなに幸せな事はない。さすが、馬鹿兄とは違う。
「あ、あの、よかったら一夏さんもお昼どうぞ。まだ、ですよね?」
「あー、うん。いただくよ。ありがとう」
「い、いえ......」
よし! 今日のお昼は一夏さんも一緒だ! おめかししなきゃ。っと、その前に私は兄を手招きして呼び出す。
「ど、どうした? 蘭」
そのまま一夏さんを部屋に残し、一度ドアを閉める。そして部屋から少し離れた場所まで馬鹿兄を呼び出す。
「うふふ、私が何を言いたいか、分かってるよね? お兄」
表情は笑顔。でも、目が笑ってない私の表情。
「い、い、い、いや、今日突然来る事になってさ。蘭に、教える余裕がなくて......」
「......言い訳?」
「ひぃっ!」
私の雰囲気にのまれたのか小さい悲鳴を上げる馬鹿兄の鳩尾にコークスクリューブローを炸裂させる。
「ぐぇっ!」
「......次はないから」
「う、うぅ......は、はい......」
【一夏side】
蘭に呼び出されてから部屋を出ていた弾が戻ってきたので、一緒に一階の食堂に降りる。その際、何故か弾は顔面蒼白でお腹をおさえていたが、何かあったのだろうか?
弾の家は一階が定食屋で二階が住居となっている。一階に下りると弾の祖父である厳さんが調理場に立って、料理していた。
五反田食堂の大将にして一家の頂点でもある厳さんは長袖の調理服を肩までまくり上げ、剥き出しになっている腕は筋肉隆々。中華鍋を一度に二つ振るその豪腕は、熱気に焼けて年中浅黒い。
この厳さん、見た目はその名が示す通り、かなり厳ついのだが、蘭には何故か激甘である。
食卓にはメチャクチャ甘い事で定評のあるカボチャ煮定食が三人前用意されており、着替えてきたのか、先ほどと全く格好の違う蘭が食卓にいた。
さっきまでのラフな格好ではない、簡単にクリップ一つでまとめ上げられていた髪はしゅるりと下され、ロングストレートがきれいなキューティクルを放っている。
服装も機能性重視のショートパンツにタンクトップと言う格好ではなく、六月ということもあり半袖のワンピースにフリルのついた黒いニーソックスを履いている。
「あれ、蘭さぁ、着替えたの? どっか出かける予定?」
「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」
ん? 出かけるからオシャレしたんじゃないのか?
「もしかして......デート?」
蘭がデート相手か。相手の男が羨ましいな。蘭、可愛いし。
「違いますっ!」
ダンッ! テーブルを強く叩かれ即時否定された。食卓に並べられたお椀がその衝撃に揺れる。ヤベッ、これ溢したら厳さんに叱られる。
「ご、ごめん」
「あ、いえ......その、とにかく違いますからね」
「違うっつーか、寧ろ兄としては違ってほしくもないんだがな。何せお前がそんなに気合の入れたオシャレをするのは数ヶ月に一回―――」
弾は最後まで言葉を紡げなかった。その言葉は蘭のアイアンクローというかゴッド・フィンガー? に阻まれたからだ。
「私のこの手が光って唸る。勝利を掴めと轟き叫ぶ......」
「ーーーっ! ーーーっ!」
そのままヒートエンドしちゃうかもしれないという殺意を込められたゴッド・フィンガー? に弾はただただ許しを請うかのような何度も何度も頷いていた。
本当、この兄妹は面白いな。
「食わねぇなら下げるぞ。ガキども」
「く、食います食います」
おっと厳さんに叱られる前にここは大人しく食事にありつくとしよう。厳さんの作る料理は本当に美味しいからな。中学時代はかなりお世話になった。
「「「いただきます」」」
「でよう、一夏。鈴と、えーと、誰だっけ? ファースト幼馴染だっけか? ファースト幼馴染の子とも再会したって?」
「あぁ、箒な」
「ホウキ......? 誰ですか?」
幼馴染という言葉にピクンと反応した蘭が俺に質問してくる。
「ん? 俺のファースト幼馴染。ちなみにセカンドは鈴な」
「あぁ、あの......」
ん? どうしたんだ? 蘭は鈴の話題になると、いつも表情が硬くなる。何か鈴とあったのだろうか? 俺の知る限りでは何もなかった筈だが......。
「そうそう、それでさ。その箒と同じ部屋だったんだよ。まぁ、今は―――」
ガタンッ! と椅子を蹴るように立ち上がり、俺の目の前に蘭が迫ってきた。
「お、同じ部屋!?」
「へ? うん、まぁ、その......今は違うけど......入学して一ヶ月間くらい......」
蘭の鬼気迫った表情に気圧されながらも、質問に答える。......どうしたんだ? 蘭の表情がさっきよりも強張ってるような気がするのは気のせいだろうか?
「蘭? どうした? 取り合えず落ち着け」
「そうだぞ、蘭。いい年した女がみっともない―――」
オ マ エ ハ ダ マ ッ テ ロ 。 コ ロ ス ゾ
そう物語ってるような蘭の強い視線を受け、弾は萎縮する。
ははは、本当に弾は蘭に弱いよな。
「あ、あの、い、一夏、さん? 同じ部屋っていうのは、つまり、寝食を共に......?」
「あぁ、まぁ、そうなるかな。でも、それも先月までの話で、今は別々の部屋になってるよ」
「い、一ヶ月半以上も同せ―――同居してたんですか?!」
「ん〜、まぁ、そうなるかな」
俺の返答を聞いて、目眩でも起こしたのか、頭を押さえフラフラしてる。
どうしたんだろ? 具合でも悪いのか?
「......お兄。後で話し合いましょう......」
その言葉はあまりにも冷たく、その言葉を聞いた弾は冷や汗をダラダラ流してた。
えっと、今の俺の今の受け答えのどこか間違っていたんだろうか?
でも、これだけは間違いなく言える。今日、弾の寿命は縮んだ、と―――。
「お、俺、このあと一夏と出かけるから......。は、ははは......」
何とか蘭との話し合いを避けたいのか、弾は俺をダシに逃げようと試みるも、「では夜に」という蘭の有無を言わせぬ口調に、ただただ首を縦に振るしかなかった。
確か蘭って、お嬢様校の中等部生徒会長をやってたっけ。この年にして妙に鋭い雰囲気を持ち合わせている。怠け者の弾とは大違いだ。
「ところで、その、一夏さん」
「どうした?」
「私、来年IS学園を受験します」
え? IS学園を受験する? 確か蘭の通ってる学校はエスカレーター式で大学まで出れる超有名私立女子校だ。
わざわざIS学園に入学しなくてもいいくらいなのに。
しかもIS学園に入学する為には、IS起動試験でISを起動させなきゃならない。つまり適性がなければ、入学する事は叶わない。
「え? 蘭? IS学園に入学するにはISを動かせなきゃダメだぞ」
蘭は無言でポケットからなにやら紙を取り出し、俺の前に差し出してきた。
「うぇっ! IS簡易適性試験......判定A......」
「筆記は元から問題ないですし、ISも動かせます。問題は既に解決済みです」
IS簡易適性試験。政府がIS操縦者を募集する一環行われている簡単なIS適性試験で、希望さえ出せば、女性なら誰でも受けられるらしい。
「そ、それで、い、一夏さんには是非、先輩としてご指導を......」
そっか、来年には蘭が後輩になるかもしれないのか。
「あぁ、いいよ。受かったら、ISの操縦を見ても」
「や、約束しましたよ!? 絶対に絶対ですからね!」
蘭の勢いに押され、俺はこくこくと二回頷く。確かにこの有無を言わせぬ迫力は凄いな。弾の気持ちもちょっとだけ分かる。
そのまま「約束ですからね」と指切りまでさせられた。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*
食事を済ませた後は蘭は自室に戻り、俺と弾は外に遊びに行った。っていっても金の無い、彼女もいない男二人、行くところといっても限られてくる。
二人でゲームセンターで一頻り遊んだ後、俺は寮に、弾は家に帰った。
もうそろそろ日も沈む時間、寮に帰るまでの家路、今日の出来事を思い返しながら俺は一人で歩いてた。
弾も蘭も変わらない。本当に見ていて飽きない兄妹だ。
まぁ、IS学園に入学して、まだそんなに時間が経ってるわけじゃないからな。変わってたら逆に驚くが。今度は鈴も連れて行こう。アイツも久し振りに日本に帰ってきたんだし、一年振りに弾や数馬に鈴、そして蘭と遊びに行くのもいいかもしれないな。
―――そんな事を考えてた時だった―――
背後から俺を狙う、ドス黒い殺気を感じたのは。
直ぐに背後に視線をまわす。しかし、そこには誰もいない。気配も感じなかった。
一瞬の出来事だった。
まるで今すぐにでも俺を殺したい、というような殺気。あれだけの強い殺気を勘違いする筈がない。
誰だ?
周囲を警戒するが、人の気配さえ感じない。
一体、何だったんだ? 今のは......。
結局、その日、俺に殺気を向けたのが誰なのかを知る事は出来なかった―――。
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第13話です。 五反田兄妹、やっと登場。 当然、兄は弱体化。妹は強化。(笑) |
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私のこの手が光って唸る。ってシャイニングの方じゃなかったけ?(雪華) ハセヲ様:蘭が強化された以上は弾を弱体化するしかないかな、とw(赤鬼) samidare様:最後の殺気の正体は今後の展開で明らかにしていくつもりなので更新を楽しみに待っていて下さいね♪(赤鬼) 弾の立場がw(ハセヲ) ラウラかな? 最後の殺気(samidare) |
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