GROW4 第十四章 最強の武術降臨 |
1
ニヤリ・・・
蜜柑は、小さい口から白い歯を出して笑う。
天使さんがフェード5まで達し、圧倒的不利な状況に追い込まれながらの余裕の笑み。いったい何が隠されているのだろうか。
お互いの距離は、ほぼゼロ距離に近い。手を伸ばせば相手に触れられるような近さだ。ましてや今試合のフィールドはまっさらな武舞台だ。周りにかばうような造形物もない・・・
『どういうことじゃ?あの子の気が感じられない・・・』
「牡丹は臨界体勢をとって。油断できない」
「もう遅いよ、おねーさん♪流水兵等滑空(りゅうすいへいらかっくう)」
バシャァァァァッ
ザザザザザザッッ
「ああああああああっ」
《おいおい、ただの手刀だぞ!?》
【防御が・・・できない】
天使さんを襲ったのはただの手刀。肩から侵入したそれは、流れるように天使さんの足元まで滑り降りた。天使さんの水の肉体など関係なく・・・
肩から腹部を斬られた天使さんだが、牡丹の防御により本人にはダメージは入ってないようだが、状況は良くはなかった。
「フェード5“程度”ではこんなもんだねっ。わたしの使う武術の前では“無”だよ。憑いてる牡丹さんがくたばっちゃえばこれ以上のアップはすぐには無理だね♪」
ニッコリ笑う蜜柑。さっきの攻撃には一切の気が乗っていなかった。いったい何の武術なんだ?そもそも武術とは、気より構成されるもの。気のない武術などありえない筈。
「君が使っている武術、普通じゃないね。わたしの身体には普通は触れられないのに・・・」
傷が完全に塞がった天使さんは言う。
「えへへー♪今のはほんの序の口だよ。それに今のはただ単に水の特性を活かしただけ」
「まさか、流れ?そんな・・・」
「そうだよ。水には一定の流れが生じる。その流れに任せて行けば、簡単に崩せるんだよねー。あっさりと。その流動する肉体も、無意味なんだよね」
「得意顔になっても可愛くないよ。それに、そんな手がいつまでも通用するわけないよ」
「見せてみてよ、その実力を」
シュゥゥゥゥゥ
「おおっ」
水の身体から湯気が上がる天使さん。身体の中で大きな変化が起こっているみたいだ。
「流れが変わってる?」
「属性変更(ヘルガッコジア・マガナライジャム)、王雷水地(サビゴフェゴリズマーテラー)」
バリバリバリバリィィィ
「電気なの?水の肉体に電気が廻ってる。こんなの普通の契約じゃないよ・・・」
驚く蜜柑。水属性のみの契約に、他の属性が混じることはあり得ない。しかし、天使さんはそれをやっているのだ。
「あと一分で6に移れる。そしたら牡丹を解禁する」
《おいおい正気か?》
『わしらは肉体補助には回れんぞ』
「構わない。三人同時に纏う。そうしないと勝てない相手・・・」
【あのロリ女の使う武術はおそらく無音無術(むおんむじゅつ)、絶対武術の完成形だよ。長引くとまずいね】
「おねーさんにわたしの武術を破れるかな?祓手戦美(はらいてせんび)」
スススッ
パァァァァン
「両手が?」
一瞬消える蜜柑の右手。その次の瞬間には天使さんの両腕が外側に弾きだされていた。
「電気なんて纏っても無意味だよ。烈禅刃弩(れつぜんばど)」
ドドドドドドドッッ
ブシュゥゥゥゥゥ
「電気も水も機能してるのに・・・」
がら空きになった天使さんの身体に無数の攻撃が当たる。両腕が消える蜜柑だが、攻撃の残像すら目視不可能な音速レベルの攻撃だ。天使さんの水の身体が簡単に侵略されていく。
「わたしは素手のほうが強いんだよ、おねーさん。でも、これだけ一方的じゃつまんないよ」
「懺苑鬼辺留煉獄(ざんえんきべるえんごく)」
ゾクゾクゾクゾクッ
「悪魔の砦!?水の属性じゃない・・・」
200mにも及ぶ巨大な檻が、天使さんと蜜柑ごと、フィールド全体をすっぽりと覆った。
ゴゴゴゴゴゴゴッ
檻の中に巨大な祭壇が現れる。最上級悪魔召喚時に用いられる古式幽咏(こしきゆうえい)だ。
【防御が全く駄目なら僕が出ないとね】
『肉体が持たないぞ天使さん』
《どっちにしろこのままじゃ7まで持たない》
「水の神契約フェード6、閃堵崩呪水智(ヴェドマールド・ラ・デスタロイ)、地獄悪魔契約フェード6、古贖玄罵丈麩(デーグバナカリッタザーゼフ・アバロデルタロシア)、水の悪魔契約フェード6、奮魔岱水鬼死(ヤーゴベルザリック・シャォシー)」
「フェード6でこの力!?全試合のフェード7の比にならないよ・・・」
禍々しく黒い気を放つ天使さんの身体は、もはや人間とは呼べないほど変化していた。身体からは獣のような角が生え、黒い煙が絶え間なく出ている。
「思ったよりきつくない」
『悪魔の二重装填とは・・・』
【攻撃に二人もいりますかねぇ?】
《それよりお譲は動けんのか?》
「(ry」
全省略っww
「急がないと手の打ちようが無くなるね・・・」
2
二人の距離は未だにゼロ距離。今思えば、始めて攻撃態勢をとる天使さん。蜜柑も同じく攻撃態勢だ・・・
「悪魔の豊麗霧(デイモン・サバロステスター)」
「鹿島十文(かじまじゅうもん)」
ギュギュゥゥゥン
ゴシャァァァァァッ
「ううっ。霧に実体があるの?」
打ち負けたのは蜜柑のほうだ。十字に飛ぶ蹴りをあっさりと押し返されてしまう。さらに、飛んできた霧が、蜜柑の周りで爆散して漂い始める。
「えげつない能力だね、牡丹霧隠し・・・」
【その霧は生命力を奪い尽くす悪魔の霧。実体を持つ分周りも早い】
「壱千尾独断(ぜんびどくだん)」
バシュゥゥゥ
「霧が消えた?」
「魔月玉(まがつたま)、石見杉常(いしみすぎつね)」
ゥゥゥゥゥンンン
ドシュゥゥゥゥ
「攻撃が見えない。手の動きが早すぎる」
蜜柑の右手が一瞬光ったかと思えば、天使さんが斬られていた。一撃でボロボロになる天使さん。
蜜柑の攻撃は終わらない。
ヒュッ・・・ギラァァァァァッッ
「公死王忠(こうしおうちゅう)」
ドゥン
「ううっ、重い・・・」
強力な衝撃波を下腹に受ける天使さん。体勢が崩れ出す。
「万事千強(ばんじせんごう)」
ゴシャァァァァァァッ
ガシャァァァァァン
見えない蹴りが天使さんを吹き飛ばす。フィールドの端まで吹き飛んで、檻に直撃する。
しかし、天使さんはあっさりと立ち上がった。
「武術の作りは静の気質だね。完全に消せてるわけではないみたい」
『肉体が参ってしまうのじゃ。そろそろ反撃じゃのぅ』
【さんざんやってくれたみたいで・・・】
《特殊よりも物理のごり押しが有効だな。あれは特殊は効かんな》
「効いてないのおねーさん?あれだけまともに受けて・・・」
シャッ
ビクンッ
「効いたよ、ちょっと・・・
水仙崋山(ブルーナム・マースレシカ)・・・」
ガッ
シュゥゥゥゥ
瞬動で一瞬のうちに蜜柑の背後をとった天使さん。どす黒い蹴りを出すが、後ろを向いたままの蜜柑の挙げた右腕にあっさり止められてしまう。
攻撃を押し殺した蜜柑は、180度回転するとひざ蹴りを放ってくる。
「功葉系首(こうばけいしゅ)」
「柄天咲円髄(フェゴリマ・ザーミカエリフル)」
ガキィィィン
ガガガガガガガッッ
「物理技!?しかもわたしと同系統の?」
「貫水(ミードネル・サイヴォ)」
ドシュゥゥゥ
「あああああああああああああああああああっ。水の槍?攻撃して体勢を崩れたあの体勢から?でもたいした威力はないね・・・」
「目的はそこじゃない。水魔侵入(ヒュベルゴナズ・バーギニアス)」
「水が、傷口から入ってくる!?ああああああああああああああああああああああああああああっ」
「終わり。あなたの身体は内部から水圧で粉々になる。水圧死内撃(ベーゴルドフェニアン・アージラスデドロイ)」
バシャァァァァァッ
「ゴフゥゥゥ」
ボタボタボタッ
口から水と共に大量の血を噴き出す蜜柑。強烈な水圧で、臓器はほとんど動かないはずだ。
「生成救護器官(せいせいきゅうごきかん)・・・」
ドクン、ドクン、ドクン・・・
「ん?気が溢れてる?動けるはずないのに・・・」
蜜柑は急激に血液の流れを早め、臓器を半分以上修復させた。驚異的な再生能力だ。
「武術の真の強さは倒れない精神と肉体の頑丈さ。わたしの肉体はその程度じゃ壊せないよ・・・
そして、ここからが最強とまで謳われ、使うことを禁止された最強の武術、“民不倒”の真の姿。
快楽天へと誘いますよ、おねーさん」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「気が溢れてる。あれだけやられて・・・」
『民不倒じゃと!?天使さん、早く次に移るのじゃ。真の民不倒なら“フェード6”程度じゃ勝負にもならん』
《おいおい、やべぇぞ。もつのかいお譲?》
【来るよ】
「遅いよおねーさん、黒閃掌(こくせんしょう)」
ヒュッ・・・・
ゴシャァァァァァ
「わたしの勝ちだね、おねーさん・・・」
放たれた右ストレートで、天使さんは一瞬にして地に身体を伏せることになった・・・
3
ドンッ
「ゲホゲホッ、ま、まだおわってないよ」
左手を着き立ち上がろうとする天使さん。今の一撃で周りの檻を貫通してフィールドの端の壁に埋まっている。壁から抜け出し再び立ち上がる。
「おねーさん、今ので憑いてた方々がぶっ飛んじゃったね♪もう戦えないんじゃない?“生身”じゃ・・・
それとも、このわたしに勝てる秘策があるのかな?」
「地獄悪魔契約フェード“9”、地獄からの来訪者(ヴィヴァンチェ・ゴルナフェルディマー・カドレード・ジェブーク)」
ピキィィィィィン
シュゥゥゥゥゥゥ
「きゅ、九?正気なのおねーさん?わたしにやられる前に死んじゃうよ・・・」
「その前に君が倒れる、倒す。悪魔の右腕(デイモン・デクストラー)」
ゴゴゴゴゴ
「右腕が・・・
九まで進行すれば何が来てももうおかしくない。こっちは怪物を落とせばいい。覇烈屈擢(はれつくってき)」
「修羅罪漸(しゅらざいぜん)・・・」
ゴシャァァァァッ
「完全にわたしが押し負けてる。でも勝てないわけじゃない。瞬弧杜刀(しゅんこととう)、演戯!!」
「無駄・・・」
ビッ
ピタァァァァッ
「ゆ、指一本でわたしの攻撃を?たった3段階上がっただけなのに、一つだけしか発動してないのに、実力差が天と地以上になってる・・・」
「ぐっ。まだ倒れるわけには・・・」
天使さんは一気に力を上げたせいで反動が来ている。膝がガクガクいっている。
「スキありね。力の使い過ぎで身体が持たないんじゃない?十字円比中(じゅうじえんひなか)」
ゴキィィィィン
天使さんの一瞬のスキを見逃さなかった蜜柑は、両腕をクロスさせ首を挟みこむ。そのまま円柱状に回転し地面にたたき落とした。蜜柑の攻撃で、フィールド全体が粉々になった。
天使さんは地中深くに埋まってしまい出てこない。
ブゥゥゥゥン
「光源の力よ、右腕に宿りて敵を殲滅せよ・・・」
力を右腕に貯め出す蜜柑。今のでは倒しきれなかったと確信し力を貯め出す。
ギラッ
ガラガラガラ
地面から出てくる天使さんの目の前には、すでに蜜柑の拳があった。
「崩臥天応愚死(ほうかてんのうぐし)、堕悪魔(ちあくま)!!」
ガシィィィィッ
「つ、攫まれた?まだこんな力が・・・」
「・・・・・・・ボソボソッ」
ゾクゾクゾクゾクッ
ドサァッッ
な、何が起こったんだろう。いきなり蜜柑が倒れてしまう。天使さんは何をしたんだ?
「ゲホゲホッ。お、おねーさん、あなた、どれほどの力を秘めていたというの?“三桃源の鬼神”なんてもの・・・
ふ、フェード10なんてふ、普通じゃないよ・・・」
「あなたが強すぎるのがいけない。本来人間レベルなら三重のフェード5も行けば最強クラス。それを数段階も上回ったあなたがいけない。わたしもかなり、無理をしすぎた・・・」
「しょ、勝者、湖都海天使」
「あーあ、二人戦闘不能だよ・・・」
【僕も死にそうww】
4
続いての第二回戦第七試合目は、孔雀院舞華(流水1)VS神道木蓮(冷門1)の試合である。
神道木蓮。見かけは160cmくらいの小柄な男だ。服装は喪服姿、腰に刀を二本挿している。
オールバックに整えられた髪は、黒ぶち眼鏡と素晴らしいシンメトリーを築き上げている。
「やっとウチの試合か。長かったでほんま・・・」
コキコキ肩をならす舞華ちゃん。相手が見かけ剣士であることに対抗心は燃やしていないのだろうか。随分といつも通りである。
「さて、お譲さん。僕と一手、交えましょう・・・キラッ」
「・・・・」
「フフフ。僕の勝ちだ・・・」
「随分気持ち悪い奴やな。歩き方とかから見て只者ではないんやけど・・・」
お互いにフィールドに立った二人。いよいよ試合が始まる。
「第七試合目、始めっ」
今回の試合フィールドは江戸の城下町だ。風情のある街並みが、秋の紅葉や川のせせらぎに揺れている。
「えっらいええ所やないか。すごく綺麗やで・・・」
すすっ
「二刀流居合、合魔斬炎空(ごうまざんえんくう)」
キキン
「フフフ。周りの風景などに現(うつつ)を抜かし、誠に見るべき相手を見てなかったのが、キミの敗因さ、キラッ」
シュゥゥゥゥ
「あららー。あんさん誰に向かって敗者ゆうてますのんか?」
「今のを?剣術使いか・・・」
ジャキッ
「ボンクラが鈍しょって来ても、正直ゆうて怖くないで・・・」
「ほほう、言うねぇ。じゃあこの剣戯、受けきれるかな?二刀流奥義、」
「一刀、華銅鑼(かどら)・・・」
ズバァッッ
ドサァ
「しょ、勝者、孔雀院舞華」
「動きに無駄がありすぎんで、三下のポンコツ剣士さん・・・」
5
舞華ちゃんがあっさり決めて、次は俺の試合だ。
第二回戦第八試合、渡邊彰文(流水1)VS天上天馬(中尊寺1)。
試合フィールドから下りてきた舞華ちゃんが話しかけてくる。
「1分以上掛ったらアイスやで、会長♪」
「ああ、40秒で支度しな」
天馬、いやいや3mあるぞこいつww
白いスーツに身を纏う天馬。すっげえでけぇww
「さあ、天を駆けるのだよーん」
「う、うぜぇww」
「第八試合、始め」