触れる魔法
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 好きって本当?

 

 俺の気を引こうとしてたって本当?

 

 どこまでが本当でどこからが嘘?

 

 どうして俺を側においてくれてるの?

 

 ……わからないことだらけだ。

 

 そもそもセフィロスさんのことをわかろうとするのは無茶な話で、俺が考えるよりもずっとずっと深いことを考えてるのだと思う。

 

「だんなと喧嘩した?」

 

 食堂の隅っこで、ぼんやりしていた俺に声をかけて来たのはザックスだ。

 面倒見がよくって、一般兵の俺なんかを気にかけてくれてる。何だか気があって、一緒に行動することが多い。

 

「……してないよ。する状態になりえない」

 

 セフィロスさんは俺に本当によくしてくれてて、俺が文句を言うことなどもないので、喧嘩にならない。

 

「んじゃ、その浮かない顔はなんだよ」

「……セフィロスさん、もう俺のことは好きじゃないのかも……」

「何で?」

「好きって言われたけど、それっきり何もないし」

「え? あれ? とっくに喰われたと思ってた!」

「ザ、ザックス!」

 

 なんてことを言うんだよ。しかもさらりと言うような内容じゃないよ!

 

「そうか、まだだったかあ」

 

 ザックスはそう言った後、いや、だんなは不器用だからなぁと勝手に一人で納得している。

 

「だんなに直接聞くのが一番。悪いがこればかりは協力してやれねぇぜ」

「……うん……、聞くのが早いのはわかってるんだけどな……」

 

 かと言って、どうやって切り出せばいいのだろう。

 好きじゃないって言われたら、俺、どうしたらいいのかなあ。

 

「聞かずに今の状態を続けるっていう選択肢もあるが、その状態は嫌なんだろ?」

「……うん……」

 

 ザックスは俺の向かいに座って大盛りのカレーをわしっわしっと食べている。

 多分、この後、うどん食べたりするんだろうな。

 いつものことだけど、胃袋はどうなっているんだろう。

 

「だんながもっと素直だったらなぁ……」

「俺がどうかしたのか?」

 

 ザックスはその声に即座に反応して、振り返った。ザックスの後ろに立っていたのはセフィロスさんだった。食堂に来ることはほとんどなくて、セフィロスさんと食堂でバッタリあった記憶はないな。

 

「だんな!? 珍しい!」

「ザックスにいい知らせがあってな」

「俺?」

 

 セフィロスさんは封筒を一つテーブルに置いた。

 

「出張、一週間だ」

「マジで! 身体、なまってたんだよなぁ」

「俺も一緒だがな」

「だんなも……、かぁ……」

 

 ザックスは喜びのあまり、万歳していた腕をゆっくりと下ろした。

 感情を素直に外に出せるその性格が羨ましい。

 素直に好きっていう感情がアピールできたらなぁと思うけど、難しいんだよなぁ。

 

「お前を一人で行かせると危ないんでな」

 

 ザックスはしょんぼりと肩を落としていた。

 

「……はいはい。いつから?」

「明後日だ。準備しておけ」

 

 ラジャ、とザックスは軽く手をあげるとまたカレーを食べ始めた。大盛りカレーはほぼなくなっている。

 セフィロスさんはそれ以上何も言わず、その場を立ち去った。

 

「気をつけて」

「あれ? クラウドは一緒じゃないのか?」

「多分、何も言われなかったから……」

 

 もちろん、俺がセフィロスさんや、ザックスについて連れて行ってもらったとしても、足でまといになることはわかってる。

 自分の身を守るので精一杯では、お話にならない。

 自分の身を守りつつ、かつ、それ以上の成果を残さなければならない。

 そういうソルジャーになれる日が……、そう、セフィロスさんのようなソルジャーになれる日が来るのかな……。

 

「そうか。後で言われるかもな」

「……それならいいな……」

 

 俺は爪の先ほどもない可能性を思って、息を吐き出した。

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 結局、何も言われないまま一日過ぎて、明日はセフィロスさんもザックスも出張に行ってしまう。

 

「準備するものはこれだけですか?」

 

 セフィロスさんに指示された物を鞄に積め終えたので、声をかける。

ソファーに座って書類に目を通していたセフィロスさんは、俺の横にやってきて、鞄の中を覗きこんだ。

 中を確認して、書類をチェックしている。

 

「……そうだな……。これぐらい……だな」

 

 セフィロスさんは俺の頭をポンと叩くと、残念だ、と言った。

 

「残念?」

「リストにお前の名前はなかった」

「お、俺……?」

「出張には連れて行けないんでな。だから、リストにあれば持って行ったのにな」

 

 セフィロスさんはソファーに座り直すとまた書類を読み始めた。

 それは俺を連れて行きたかったってこと?

 俺を側に置いてくれるってこと?

 

「ああ、クラウド」

「は、はい」

 

 セフィロスさんに近寄ったけど、さっきの言葉の真意がわからないから、ドキドキしてしまう。

 

「一週間留守にするから、くれぐれも気をつけるように」

「は、はい。戸締まりなどは忘れず行います」

 

 セフィロスさんは不意に俺の顔を見ると、くくっと笑いだした。

 何で笑われているのかわからない俺としては、どう反応したらいいのかわからない。

 俺は防犯のことについて言われてると思ったから、そう答えたのにな。

 

「ここのセキュリティは強固でな、お前が戸締まりをし忘れたとしても、勝手にロックされる」

「……そう……なんですか……?」

 

 俺、セフィロスさんの側にいるようになってから結構経つけど、知らなかったな。

 確かにソルジャーの宿舎のセキュリティが脆弱では、機密情報が余りにもあっさり漏れてしまうかも知れない。

 ただ、セフィロスさんが言うセキュリティの強固さはそういった情報を守るためのものであって、身の安全のためのものではない気がする。

 そう伝えると、セフィロスさんはその通りだ、と先程まで目を通していた資料を揃えた。

 

「ソルジャーの身の安全など考える必要はないだろう? ソルジャーを名乗ってるのは伊達じゃないはずだ」

 

 確かにソルジャーが自分の身一つ守れないようじゃ、ソルジャーの名が廃るだろうし、ソルジャーとは見なされなくなるだろうな。

 

「まあ、そう言うことだから、お前が戸締まりのことを意識する必要はない」

「……では、どうして、大丈夫か、などとお聞きになるんですか?」

 

 勝手に戸締まりしてくれるなら心配することなんてない。

 一人でご飯も食べられるし、一人で仕事ができないわけじゃない。自分の身を守るぐらいのことはできる。

 一人で寂しくないかと問われれば、寂しい、と答えるかも知れないけど、ただ、それは一人でいることの寂しさじゃなくて、いて欲しい人がいないという寂しさだ。

 

「……狙われてるからな」

 

 ぽつっと呟いたセフィロスさんの言葉が誰に向けられたものだったのか、俺にはわからなかった。

 

「……誰がですか?」

 

 こう聞き返した俺の顔をセフィロスさんはじっと見つめてきた。

 目が合ったまま、俺は目が反らせない。

 この碧い瞳も好きだ、と胸がずきんとする。

 

「クラウドが、だ」

「お、俺、狙われるような危ない橋を渡った記憶はありませんよ!」

「命のことではない」

「命……じゃない……?」

 

 余計にわからない。

 じゃあ、俺の何を狙われていると言うのだろう。

 財産なんてないし、俺の身の回りには高価なものなんてない。

 セフィロスさんは俺から目を反らすと、俯いて足元を見つめた。

 

「あ、あの……」

「お前自身が狙われているんだ。命ではなく、その……」

 

 言葉を濁して、セフィロスさんはソファーから立ち上がった。

 そのまま俺の前に立って、俺を見下ろしている。

 

「……他の奴らのものに……だけは……」

 

 凄く小さな声だった。

 ようやく聞き取れるほどの声。

 辛そうなその声に俺は言葉が出なかった。

 他の奴らのものにだけは、どうしたくないのだろう。

 何をどうしたくないのだろう。

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 セフィロスさんはすっと手を伸ばして、俺の頬の辺りまで指先を近付けてきた。

 その長い指先は俺の頬に触れる寸前で、俺の視界から消えた。

 

「……他の奴らには……」

 

 セフィロスさんの手はきつく握りしめられていて、しかも少し震えてるように見えた。

 

「……セフィロスさん!」

 

 俺は思わずセフィロスさんの手を握っていた。

 

「クラウド……?」

 

 驚いたようなセフィロスさんの声に俺は慌てて手を離した。

 

「ごめんなさいっ!」

 

 俺が触ったところでどうにかなるものでもないのに。

 セフィロスさんの考えなんて分かるわけないし、気持ちなんて読み取れるわけもない。

 でも、何故か触れずにはいられなかった。

 その力のこもった手を解いてあげたかった。

 俺にその力がなかったとしても。

 

「謝ることはない。さあ、もう休むといい。俺もそろそろ……」

「どうして!」

 

 俺はセフィロスさんの言葉を遮った。

 

「どうして……?」

「はっきり言ってくれないんですか? 俺、セフィロスさんみたいに頭良くないですし、鋭くないです」

「それは……」

 

 また、セフィロスさんは言葉を飲み込む。

 俺に言いたくないのか、俺に言っても無駄だと思っているのか、もう……。

 

「俺のことなんて、どうでもいいんですか?」

 

 前から思っていたこと。

 好きだと言われたけど、それきり何も言われなかった今日までの期間、俺は日に日にその思いが強くなっていた。

 セフィロスさんは大きく息を吐き出してから、俺の手を掴んだ。

 少しヒヤッとした指先に俺は身体を揺らしたが、セフィロスさんは強く掴んだままだ。

 俺、こんなに強くセフィロスさんに触れられたの初めてだな、と気付いてしまって、俺の鼓動は急加速している。

 

「勘違いするのは勝手だがな、俺の思いと正反対に勘違いされては困る」

「反対……?」

「俺はクラウドのことをどうでもいいなどと思ったことはない」

「……だったら、どうして!」

 

 全部言ってくれないのか。

 俺に伝えるのに、何か問題があるのだろうか。

 

「……全部言わないとダメらしいな……」

 

 セフィロスさんははぁと大きく息を吐き出してから、そうだな……、と何か考えているようで、足元を見つめている。いつもより、まばたきの回数が多いみたい。

 もしかして……照れ……てる?

 い、いや、セフィロスさんが照れるなんてあり得ない、あり得ない。

 ましてや、俺に物を言うだけなのに。

 

「お前自身が狙われてる、っていう意味はわかったか?」

 

 セフィロスさんは俺に視線を戻して、尋ねてきた。

 俺は首を横に振って、分かってないことを示す。

 俺自身が狙われてて、命のことじゃない、となると何が残ってるんだ?

 

「……喰われるかもしれんと言い換えたら、わかるか?」

 

 ……喰われる……?

 そういえば、ザックスも同じようなこと言ってたっけ……。確か、俺がセフィロスさんに喰われてるとかどうとか……。

 

「えーっ!」

 

 俺はセフィロスさんの言わんとしてたことに思い至って、声を上げてしまった。

 

「お、俺、そんな標的に……?」

「間違いなく狙われてる。だから、気をつけろ、と言ったんだ」

 

 気をつけろって言われても、何をどう気をつけたらいいのか……。

 怪しい奴についていかないとか?

 子供じゃあるまいし。

 

「俺やザックスの名前を持ち出されてもついて行くなよ」

 

 あ、その手があったか……。

 セフィロスさんの言葉に俺は俯いた。

 今の俺だったら、セフィロスさんが重傷とか言われたらついて行きかねないもんな……。

 

「クラウド……」

 

 先ほど触れそうで触れなかったセフィロスさんの指先が俺の頬に触れた。

 その瞬間、俺は全身が硬直した。

 それは一瞬で解けない魔法にかかったようで、まばたきさえも出来ないほど。

 前にも頬に触れられたりしたことはあったけど、俺の目を見つめるセフィロスさんの瞳が今まで以上に真剣で、その瞳にも魔法を強める威力があるようだった。

 動けない身体とはうらはらに、心臓が思い切り跳ねて、凄くドキドキ言ってる。

 この音、聞こえてないよなぁ……。

 

「……お前を、他の奴らのものにはしたくない……」

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 そ、それって……。

 

 俺のこと?

 

 聞き返す言葉も出てこない。

 

「どうでもいいわけがない。俺はクラウドにはまってる……。クラウドが必要なんだ……」

 

 ど、どうしよう……!

 言葉が出ないよ!

 何を言えばいいんだろう!

 好きです、とかじゃ何だか軽すぎる気がするし……。

 頭の中がぐちゃぐちゃだよ〜。

 

「だから、俺のいない間、気をつけてくれ……。他の奴のものになるようなことだけは……」

 

 セフィロスさんは俺が見たこともない悲痛な表情をしてた。

 俺はセフィロスさんと一緒にいるようになってから、セフィロスさんのものだと思ってたけど、セフィロスさんはそうは思ってなかったってこと?

 

「……あ、あの、俺……、もう、セフィロスさんのものだと……」

「……まだ、全部が俺のものになったわけではないからな……」

 

 セフィロスさんは俺の頬から手を離して、その手をじっと眺めている。

 

「俺は……クラウドに触れるのが怖かった……」

「は?」

「触れてしまうと、クラウドを壊してしまいそうだったからな……」

 

 俺を壊す……?

 

「俺は自分を抑えきる自信がなかった……」

 

 俺は必死で頭を回転させた。

 

「……えーっと、あの、そういう理由でセフィロスさんは今まで俺に何も……」

 

 セフィロスさんは軽く笑うと、まあ、そういうことだ、と言った。

 

「お前の全てを欲しがっていたのに、どうしても触れることはできなかった。辛い思いをするのはお前だとわかっていたしな。俺の思いだけを優先させることはできないだろう?」

 

 セフィロスさんにものすごいこと言われてるのに、俺は、好きでいてくれたっていうことに安心して、気が抜けてしまった。

 へたへたと床に座り込む。

 

「……よかった、どうでもよくなってるんじゃなくて……」

「だから、どうでもよくなどなっていない、と言ってるだろう。お前を傷つけて、お前を失うことになるのが怖かった……。単に臆病だっただけだ」

 

 セフィロスさんは俺の横に屈んで、俺の頭を軽く叩いた。

 

「悪かったな。もっと早く、俺が行動に出ていればよかったか……」

 

 俺は首を横に振った。

 まさか、セフィロスさんがそんな思いでいたなんて思ってもいなかったし、セフィロスさんでさえも怖くなることがあるんだ、っていうことに驚いた。しかも、相手はこの俺だというんだから、気が遠くなりそうだ。

 でも、セフィロスさんのその思いのせいで、出張の間、セフィロスさんは安心できないんだよなぁ……。

 

「俺は一週間、大丈夫ですよ。でも……」

「でも……?」

 

 首を傾けているセフィロスさんに向かって、笑みを見せる。

 

「一週間離れるのは、寂しいです。全部セフィロスさんのものになってたらよかったのに……」

「……クラウド……」

 

 セフィロスさんはくく…っと笑うと、いきなり俺をぎゅーっと抱きしめてきた。

 こんなに至近距離にセフィロスさんがいる状況に、俺はどうしていいかわからなかった。

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「まさか、クラウドに誘われるとはな。そうだな、俺のものにしておけばよかったな。クラウドがそんな気持ちでいたんだったら」

「…い、いや、あ、あの…、えっと……」

 

 自分の発言を頭の中で思い返して、さらに恥ずかしくなる。ドラムロールのように早くなる鼓動の音はセフィロスさんに伝わってるだろう。

 

「クラウド、ちょっと目を閉じてろ」

「…あ、え? は、はい……」

 

 言われるままに、目を閉じる。

 その直後に、唇にやわらかい感覚が触れた。

 それは一瞬で、驚いて開いた俺の目には、セフィロスさんの碧い瞳が飛び込んできた。

 

「セ、セ、セ……」

 

 うわ、名前さえ呼べない……!

 

「クラウドの『大丈夫』という言葉を信じて、今日は唇だけもらっておく。後は、出張から帰ってきて、だな」

 

 唇だけ…もらっておく……?

 

 ちょ、ちょ、ちょっと、俺、今……。

 

 俺、セフィロスさんにキス……された……?

 

 えーーーーっ!

 

 俺、いきなり夢見てるのかもしれない。でないと、セフィロスさんが俺に、俺に……。

 

「……じゃあな、クラウド。一週間、留守を頼むぞ」

 

 俺に向かって軽く笑うと、セフィロスさんはすっと立ち上がった。

 

「えっと、あの、セフィロスさん!」

 

 思わず呼び止めてしまったけど、何聞くつもりだ、俺。

 

「何だ?」

 

 夢ですか、とか聞いたらバカだよな……。

 うわー、どうしよう。

 

 俺は必死に頭を振って考えてみたが、ショートした機械みたいに、脳が働かない。思考回路を一瞬で壊滅させられるなんて、もう、魔法以外の何者でもないよ。

 

 魔法……?

 そうだ、魔法だ!

 

 俺はすぐさま立ち上がると、セフィロスさんの腕にしがみついた。

 

「クラウド!?」

 

 セフィロスさんは驚いたようで、どうした、何かあったのか?と俺に問いかけてくる。

 俺はごくりとつばを飲み込むと、大きく背伸びをした。

 そして、セフィロスさんの頬に唇で触れる。本当にかすった程度ぐらいだけど、それは今の俺に出来る精一杯のことだった。

 

「……クラウド……?」

「あ、あの、俺、セフィロスさんの魔法にかけられてますけど、セフィロスさんに俺の魔法かかってなかったら、あの、その……」

 

 何が言いたいのかわからなくなってきた。

 言葉が続けられなくて、余計に恥ずかしくなってしまった俺は、うつむいて唇をかみ締めるしかなかった。

 

「クラウド…」

 

 頭の上から降ってくる優しい柔らかな声にも反応できずに、俺は肩をすくめて固まるしかできない。

 もう、俺、何やってんだろう、セフィロスさん、明日から出張で大変なのに。

 俺のバカ!

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「クラウド。顔を上げろ」

「……」

「クラウド」

 

 これ以上困らせるわけにはいかないと思った俺は、恐る恐る顔を上げた。

 セフィロスさんと目があって、俺は息が詰まる。

 

「とっくに魔法にかかってるんだぞ、俺は」

 

 そう言って俺の頭を撫でてきたセフィロスさんの手は大きくて、暖かくて、ほっとするような感じで、心地よかった。

 それでも、俺のドキドキはおさまらないままなんだけど。

 

「これのおかげできっと魔法は解けないだろうな」

 

 セフィロスさんは自分の頬を軽く指先でつついた。

 

「で、でも、俺に、そんな……効力は……ないと……思います……」

 

 セフィロスさんが俺のことを好きでいてくれるようなそんな都合のいいこと、願っても叶うわけないし、そもそも願うのが間違いだよな、と徐々に思い始めてる。

 

「俺はクラウドの魔法の効力は絶大だと思ってるんだが?」

「え?」

「俺はクラウドを見てから今まで魔法が切れてないんだぞ。切れるどころか、魔法の効力が強まっていて、今じゃどうしようもないぐらいだというのに」

「……ご、ご冗談を……!」

 

 俺は右手を顔の前でぶんぶんと振った。

 確かに俺の存在が人に魔法をかけてしまうとか、それらしいことをセフィロスさんは言ってたけど、セフィロスさんがそんな魔法にかかってるなんて、俺には信じがたい。

 そんなことを考えてしまった俺は、きっと怪訝な顔をしていたのだろう。

 

「何なら証明してやろうか?」

 

 セフィロスさんは口元に笑みを浮かべて、俺の頬に触れてきた。

 

「し、証明……!?」

 

 大きく身体をこわばらせた俺を見て、セフィロスさんは低い笑い声を漏らす。

 

「ま、それは出張から戻ってきてからだな。一週間後を楽しみにしていよう」

 

 セフィロスさんは俺の頭をくしゃくしゃっとしてから、俺に背を向けた。

 出張、いってらっしゃいとか、お気をつけてとか、色々言いたいことがあったのに、何も言えてないよ……。

 セフィロスさん、と声をかけようとしたときだった。

 足を止めたセフィロスさんは言い忘れていた、と俺の方に振り返った。

 

「はい?」

「好きだ」

 

 …………!

 こ、この人、俺の思考回路だけじゃなくて、何もかもを破壊する気ですか!

 心臓止まるかと思ったよ、もう!

 

「クラウドは?」

 

 質問の意図が読み取れずに、じっとセフィロスさんの顔を見ている俺に、再度質問が投げられる。

 

 

「クラウドは、俺のことをどう思っている?」

 

 

 

 もちろん、決まってる。

 俺だって解けない魔法をかけられてしまって、もう、逃げられない。

 そんな思いを全部言葉に出来るほど冷静じゃなかったから、たった一言だけしか言えなかった。

 

 「……好き……です……」

 

 

<終>

 

説明
FF7 セフィクラ 神羅時代。 セフィロスが好きなクラウドのお話。 (「香りの魔法」の続きとなっています)。これで魔法シリーズのお話は最後となります。
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FF7 セフィクラ 腐向け セフィロス クラウド 

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