博麗の終  その1
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【会合と言う名の宣告】

 

 

 八雲紫による説明が終わると、にわかに会合の場がざわめき始めた。

 

 人間の里から博麗神社へと向かう道半ばに建てられた公会堂には、幻想郷の主だった者やその代理、名だたる人物や妖怪たちが集っている。

 

 長く生きた妖怪もいれば、神々もいる。人の里からも代表らが集まっているから、幻想郷にいるほぼ全ての種族が集っていると言ってもいい。

 

 それはつまり、ここでは幻想郷の未来の判断を下せる場ということだ。誰に憚ることもなく、ここで何かが決定されるならば、幻想郷はそのように動くことになるのだろう。

 

 しかし……

 

「今、この場で話されている全ての対策や過程はすでに却下済みよ。念のため言っておくけれどこの私、八雲紫。加えて四季映姫、西行寺幽々子、八意永琳が集って、知と経験と、本来隠しておくべき自らの技の全てを語った上で、可能と思しき策や方式などを検討した結果が『博麗』なの。次代が呼べない限り、もはや全てが効果の薄い延命処置にしかならないわ。いくらでも確認してくれていいけれど、きっと貴方達がどれだけ考えても私達はすぐにその案の不可能性を指摘できる。残念ながらね」

 

 

「もちろん私達にない発想が出来ることもあるでしょう。ですから何かを思いついた人は、この四人の誰でもよいので話に来てください。ただ私は普段、地獄にいます。他にも冥界や竹林の奥、果ては辿り付けない場所などそう簡単には行けないところばかり。ですから連絡が取れない時は天狗に話をつけてありますので、妖怪の山へお願いすれば私達に連絡を取ってくれます。よろしくお願いします」

 

 

「私達の誰もが全ての案件だけではなくて、会話の端々に至るまでの何もかもを覚えているわ。正攻法から突拍子の無いものまで、それはもう悪逆非道の行いまでも検討し尽くしたつもりよ。詰まらないお話でもまあ聞きはするのだけれど、一応各自でしっかりと検討してから私たちのところへ持ってくるよう心からお願いするわ。打てる手は全て打ち尽くす手筈を整えなくてはいけないから。亡霊の私が言うと滑稽だけれど、今は時間が惜しいのよ」

 

 

「ありがちなものはここで潰しておきましょうか。まず私どもの持つ月の技術込みで考えましたから、技術系の進歩では絶対に追いつけません。考慮外としてください。それから能力による霊夢の延命。これは霊夢の延命即ち幻想郷の延命ではないと結論しています。それが出来るなら、究極的には『博麗は不要』という理論が成り立つからです。もちろん出来うる限りの延命も行いますが、博麗の命だけでは要素として不十分であることを前提としてください。最も、他の要素を聞かれても答えることなど誰にも出来ないのでしょうが」

 

 

 識者が一人、また一人と語るにつれて騒々しさが失せていく。そこにいる名もない妖怪の衣服が、滴り落ちる冷や汗で色を変えていくように。

 

 

「それから。次代の博麗を探す方法なんて無いから注意してね。どれだけ歴史を紐解いても、特別な調査をしたとしても、確実に時間の無駄になるだけよ。他の方法を探すことをお勧めするわ」

 

 

 「何故だ?」とか「それが一番じゃないか?」とか、あの八雲紫の発言に反する声が飛ぶ。それは普段なら異常事態だが、この場においてはそれすらもよしとする空気がある。

 

 識者たちはむしろ、それを求めている。態度こそ、いつもの自然で超然で悠然とした風ではあるけれど、内心はきっかけを欲するあまりに藁をつかもうとする溺れ人なのだ。

 

 だからその声に答える八雲紫は、普段ならきっと『躾』を行うであろうこの時に、誠心誠意を込めるように己の恥ともいえるであろう理由を告げる。

 

 

「博麗システムは、私が博麗を知った時からずっと調査しているものよ。それはきっとあなた方が思ってるよりもずっと長い期間、本気で全てを解き明かそうとして未だに不明な点のほうが多いという状態にあるわ。だからそれを知った上で、博麗システムの一端である『博麗の世代交代』と解き明かせる可能性があると思うならば、どうぞおやりなさいな。もし何かわかることがあるのなら頭を下げましょう。対価を欲するならば私の全てを差し上げることすら厭いません。私は自らあなたの家の門を叩き、教えを受けるために請い願うことでしょう」

 

 

 事実上の不可能宣言。

 

 あの大妖怪が長い時間をかけても不明なものを、他の者が短期間で結論出来得るわけが無い。

 ここにいるほとんどの者は、その式の調査・解析能力にすら絶望的に届かぬことを理解している。ましてや八雲紫である。何よりも可能性が無いと考えて然るべきだろう。

 

「考えてもごらんなさいな。もし博麗でなくても出来るのならば、私が結界の全てを掌握しているはずでしょう。なのに私は、管理と修復のみに尽力している。『人と妖怪のバランスのため』と嘯いてみるのも面白いのだけれど」

 

 くすくす――と、あくまで軽く笑いながら。

 いつもの傘を手にとって、すっと立ち上がった。

 

 

「このように。今ならどんな疑問質問にも答えるつもりよ。普段ならばちょっと怖い思いをしてもらうような失礼なものでも。それが私なりの罪滅ぼし。この事態を回避できる可能性を唯一持っていながらも、愚かな判断でその機会を永遠に失してしまった妖怪への罰。私に出来ることは全てやらせてもらうし、可能な限りで幻想郷の一人一人分け隔てなく力を貸すわ」

 

 

 だから時間が惜しいの。

 

 と、そっと呟いて――八雲紫は場を去っていった。

説明
今までに起こったことです。

注) 第一話は『その−2(http://www.tinami.com/view/259846 )』です。よろしくお願いします。
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四季映姫 西行寺幽々子 八意永琳 八雲紫 東方Project 東方 

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