ピースプログラム1-9/36 |
「おーい。田北。どうした?」
オペレーションルームからコクピットの個室のドアを叩く。
コクピットの内側に開くドアにもたれかかっているのだろう、宮川が押しても開かない。
「この扉つけ方逆だよな……発作か?」
「先生呼んできましょうか」
「……駄目だ」
中から雄二の声が返ってくる。
「おう。生きてるか」
「ふー……」
扉が内側に開き、雄二が右腕を抱えるようにして出てくる。
「なんだ、どんな怪物みたいな手をしてるかと思ったら、いたって普通なのな」
「……昨日からな」
支えようとした宮川と雨岸を手で制し、テーブルの脇の椅子に腰を下ろすと、据え付けてあるタオルで脂汗を拭う。
「こいつたまにこんな感じで発作起こすんだわ。学校では初めてだけどな」
「そうなんですか……」
雨岸は雄二が極力目を合わせようとしないのを感じ取る。
右手に変に視線を引き寄せられる。いつもポケットに入っているからだろう、日焼けしていない白い手。
「ん……普通。だよな……あれ?」
「……」
雄二はぎこちない動きで右手をポケットに入れる。
「……ヒトハ。最後焦っただろ」
「んあ?ああ。確かに飛び込むのがちょっと早かった。二人ともやられたのは俺のせいだな」
レフトハンドで威力による足止めをかけ、砲撃と奇襲を同時にかける予定だったのだ。
「……松ヶ瀬が思ったより固かった。ミサイルを削って本来の使い方をしてたな」
「プレートマンは戦艦主砲の着弾で貫通されない装甲ですからね……」
「まぁ。パイロットはもたねぇし、思いっきり凹むけどな。で、それをぶち抜いたのは誰だ」
宮川は頬杖をついて呆れ顔で雨岸を見る。
「耳が早いだけのレールガンです。もう調べれば情報は出回ってると思いますよ」
「あー。アサキかぁ。うちには情報屋はいないもんなぁ」
雨岸が開きかけた口を小さく動いた雄二の左手が制止する。
「田北。レフトハンドの右腕はどうした?右手で使ってたわけじゃないんだろ?」
「澄川にオートメーション作らせた」
どうやら本当に左手一本で立型戦車を扱っているらしい。雨岸は呆れのため息をつく。
「ゆうじ先輩!」
バタンとドアが開いてオペレーションルームに秋吉が飛び込んでくる。
「……どうした。反省会は?」
「あれ?ゆうじ先輩、なんともなかったんですか?」
宮川は雨岸に目配せをする。
「あんだ秋吉。思わぬところで撃破できたからって心配しすぎだぜ」
「……問題ない。反省会に戻れ」
「は、はい」
宮川が秋吉を外に出して扉を閉める。
「やれやれだ」
「……悪いね」
「あの……発作を知ってるのは?」
雨岸は恐る恐る問い掛ける。
「……うちの班と、秋吉のおやじさん。ダンナにヒトハと…」
「俺の班の内田も知ってる。それくらいか、んであと雨岸さんな。おやじさんを信じるなら秋吉はしらねぇ」
雄二は左手を口元に当て、何事か呟く。雨岸には聞き取れなかった。
口にせずには、いや行動にしないと気がすまない性質なのだろう。でも知られたくないから隠す、変な子だと雨岸は思う。
あるいは知って欲しいと願う自分を否定しているのか。
「プログラム?」
「多分な。プログラムより前に発作を起こしたって話は俺は知らねぇ」
「……勝手に喋るなよ」
雄二は肩を竦めながら言う。あまり強い言葉ではない。
「あ、聞きすぎでしたかね」
「いいんでないかい。こいつは機嫌損ねたら何も言わずに出てくからさ」
雄二は左腕の肘をテーブルについて手のひらで顔を覆う。
「……反省会。終りでいいか」
「あ。私は雄二さんのセンサーに頼りすぎでした。機体の構造から上が死角になっている事をもっと意識するべきでした」
「やっぱり上は死角なんだな……そうそう突けるもんでもねぇが…こんなもんでいいんじゃねぇか?全員全力で動けたわけじゃねぇし」
宮川が苦笑し、雄二が肩を竦める。
「じゃ、終りで」
「雨岸さん。うち……こねぇよな」
「もう弱み握られてますし、握ってますから、遠慮します」
宮川は肩を竦め立ち上がる。
「ま、なかなかいい収穫もあったし。いいかね。俺上の授業に戻るわ。いいだろ田北?」
「……俺に聞くのか」
「へっ」
悪態のようなものをついて宮川はオペレーションルームを出て行く。
雄二が親しさのようなものを示しているし、宮川にも気遣いが見て取れる。でも違う班で…雨岸の目には不思議な関係に映る。
「……ヒトハはプログラム前からの馴染み……色々と、な……聞くな」
「はい」
雄二は伏目がちにポツリポツリと呟く。
「……なんか借りがいっぱいだ」
「あはは。私も借りがありますから、まっさらでいいじゃないですか」
雄二は雨岸に微かな笑顔を向け、雨岸は満面の笑顔を返す。
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小説というよりは随筆とか、駄文とか、原案とか言うのが正しいもの。 2000年ごろに書きはじめたものを直しつつ投稿中。 | ||
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