鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第三十七話
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〜ウリズン城〜

 

暗闇に包まれた巨大な都市

 

その王都の中に、大きく聳え立つ大きな城が建っていた。

 

城の入り口付近には、二人の兵士が身を構えて立っている。

 

武器を持った兵士は、半分眠気を襲われていたが、かろうじて起きていた。

 

今日も、何も無い。

 

王が、この国を一日国から出ることを禁ずる事を聞いたとき、どういう事かは分からなかったが

 

俺達には関係の無いことだ。

 

そう考えていた。

 

カツン

 

という音と共に、兵士は目を覚ます

 

『!!』

 

誰かの気配を感じた。それが音と共に察した錯覚の可能性があるが

 

そんな事を言う暇など無い。

 

そう考えながら、腰を上げて武器を引き抜く仕草をする。

 

だが、誰も居ない。

 

そのまま耳だけを澄まして、じっとしていても、何の反応も無い。

 

おそらく、ただの空耳なのだろう。

 

『………ふん』

 

そう思って、安堵した兵士はその場で腰を下ろす。

 

瞬間、頭に大きな衝撃が走る

 

棍棒が、頭に振り下ろされたのだ

 

『………!!!』

 

かろうじて後ろを振り向く

 

目に映ったのは、一人の少年だった。

 

黒髪の、どこかで見たことのある

 

『貴様……ウッドロウの……』

 

兵士がそう言い残し、その場で倒れこんでしまった。

 

そしてそのまま、気絶をしてしまった。

 

『どうした!』

 

もう一人の兵士が、倒れた音と共にこちらに走り寄る

 

黒髪の少年は、そいつが仲間を呼ぶ前に始末する為に、そいつの元へと駆け寄った。

 

『なっ…!!』

 

剣の腹が、そいつの頭に直撃し、そいつは吹っ飛ぶ。

 

だが、物音を立てぬよう、気絶して倒れる前に、リオンはそいつの首を持つ。

 

気絶した兵士の首を持つと、確認してそのまま地に置いた

 

『……悪く思うな』

 

リオンはそう言って、その場から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リオンは、出来るだけ身を視線に入らせぬよう、進んでいく

 

『誰だ!』

 

そのような声が聞こえれば、仲間を呼ぶ前に始末する。

 

剣の腹で気絶させるよう、言われているが

 

『ぐあ……!!』

 

殴られた兵士は、大抵気絶をする。

 

一発でしとめる方法を知っていた為、ここで役に立った

 

『………これは少し、面倒のようだな』

 

リオンはそう呟いた後、そのまま上へと向かう。

 

出来るだけ物音を立てずに、誰にも気づかれぬように。

 

目指すは、王の寝室だ。

 

その場所まで向かい、この剣を降り下ろす。

 

そして、真実を探り出すのだ。

 

リオンが上へ上へと上がっていくと、

 

ようやく、その王の寝室らしき場所にたどり着く。

 

部屋の扉の前には、二人の兵士が立っていた。

 

これが少し厄介だ。だが心配は要らない。

 

リオンは、この場所に遠距離形爆弾を設置した。

 

そして、その場から離れて、向こう側の階段を目指した。

 

その階段を使って、さっきまで自分が居た先の反対方向へと向かった。

 

そしてようやく、もう一つの王の寝室行きの場所にたどり着くと、

 

リオンは、懐から一つのスイッチを探る。

 

スイッチを見つけると、その場でスイッチを押した。

 

その音と同時に、向こう側から音が鳴る

 

パチン

 

木の枝を踏む程の音しか鳴らないが、これで十分だ。

 

『誰だ!!』

 

『東の方角からだ。行くぞ!!』

 

そう言って、兵士の二人はリオンとは反対方向へと向かって走り出した。

 

その光景を見て、リオンは呆れた声を出した。

 

『馬鹿が。お前達は永遠に昇進など出来やしない。』

 

そう、本気で哀れむようにそう言った後、

 

王の寝室を開けた。

 

そこは、鍵をかけていなかった。

 

妙な感覚がしたが、それで良い。

 

そのまま部屋に入ると、そこは想像以上に真っ暗だった。

 

しばらく部屋へと前進すると、急に部屋が明るくなる

 

『……!』

 

リオンが振り向くと、後ろにはサレが居た。

 

『おやおやおや。こんな所で何をお探しだい?』

 

サレは、不気味に微笑んでリオンを見つめていた。

 

そして、笑い声混じりで答えた。

 

『まさか、剣を持ってそこまでして泥棒をしようとか、そんな事を考えてるわけじゃぁ無いだろうねぇ。まさか、王を殺そうとか考えて居たのかい?』

 

『……………』

 

サレの言葉に、リオンは黙る

 

『図星か、それとも……言いたくない依頼内容か……か。』

 

サレがそう言うと、振り向いて青い髪の男性に告げた

 

『ヴェイグ。こいつを地下牢に放り込んでやってくれるかい?』

 

サレの言葉に、ヴェイグは承知して頭を下げる

 

『……承知した。』

 

『よぉし。良い子だなぁヴェイグ君は』

 

そう言って、サレはリオンに背を向けて歩き出した

 

『……まぁ、何を企んでるか分からないけど…。勝手にやっててくれれば良いよ。ええと……リコール君だっけ?』

 

『リオンだ』

 

『ああ、そうそうリオン君。まぁ、君の任務がどんな結果になるか、楽しみにしているよ。』

 

そう言って、サレはそのまま部屋から出て行った。

 

『悪いが、今は俺の言う事を聞いてもらう。付いて来い』

 

そう言って、ヴェイグはリオンに手錠をした。

 

手錠をされたリオンは、不愉快そうに舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜地下倉庫〜

 

ウリズン帝国から、地図を頼りに地下の道を錬金術で作り、この地下牢まで辿り着いた。

 

地下倉庫までたどり着いたとき、エドはその床に当たる部分を扉に練成して、そこから出入りしていた。

 

リオンもそこから上へと向かって行ったが、行ったのは二人だけで、残り3人はこの場に居た。

 

『ふぅ。多分、ここらに星晶があるんだと思うんだけどなぁー。』

 

エドがそう言うと、アスベルが頭を掻いて呆れた声を出す

 

『……ほとんど確信を持たずに行動に移ったというのか?』

 

『しょうがねぇじゃ無えかよ。城の内部なんざ誰だって知らねぇんだからよ。』

 

エドがそう言うと、地下倉庫の一つしかない出口に手をかける。

 

だが、当然鍵が掛かっていた。

 

『これは……。どちらにしても鍵が無ければ開かなそうだな。』

 

南京錠を使っていた鍵を見て、エドは溜息を吐く

 

『鍵なんか必要無えだろ。』

 

『え』

 

エドがそう言うと、手を叩いて南京錠を分解した。

 

南京錠を無くした扉は、面白いくらいに簡単に開いた

 

『へぇ……ここは随分使われて無いみたいだな…。』

 

南京錠を分解すると、かなり多くの錆びと埃と砂が落ちた。

 

『他の部屋を探そう』

 

アスベルはそう言って、この部屋から出ていく。

 

『アスベル。エド』

 

ソフィが、そこで呼び止める。

 

『誰か来る』

 

ソフィがそう言うと、エドは耳を澄ました。

 

すると、上から足音が聞こえた。

 

それは、人数からすると、およそ三人辺りだろう。

 

『これは都合が良い』

 

エドはそう言って、この物置から出て行った。

 

『ちょっとそこで待ってろ』

 

エドはそう言って、物置の部屋から音を立てずに出て行った。

 

そして、エドが部屋から出て行くと

 

三つの物音が聞こえた

 

『ぶほっ!!』

 

『ぶげっ!!』

 

『ドゥガ!!』

 

三人の悲鳴が聞こえた後、ゴソゴソという音が聞こえる

 

そしてしばらくして、エドが戻ってきた。

 

『ウリズン帝国の野郎共の鎧だ。これで少しは怪しまれねぇぜ。』

 

笑顔でそう答えるエドに、アスベルは溜息を吐く

 

『………意外と君は、無茶苦茶をするんだな。』

 

そう言いながら。二人は鎧を受け取った。

 

 

 

 

鎧に着替えた三人は、そのまま城の散策を始めた。

 

鎧を着たエドは、ボソリと呟いた。

 

『……なんか、アルの気持ちが分かってきたな。』

 

鎧を着た感想は、壁に当たると硬い感触がして、さらに中が響いているのだ。

 

なんだか、それがエドには気持ち悪かった。

 

ソフィも、なんだか動き難そうだったが、

 

アスベルだけが平然と歩いていた。

 

『エド、ソフィ。そんな動きでは怪しまれるよ』

 

『………分かってんよ』

 

エドはそう反論しながらも、前へ前へと歩いた。

 

そしてそのまま、一つ一つの部屋へと向かっていた。

 

『………エド、この鍵は新しいぞ』

 

アスベルは、一つの南京錠に目を向ける。

 

それを見たエドは、その南京錠に近づいた。

 

『よっしゃ!ちょっとどいてろ!』

 

エドはそう言って、手を叩いて南京錠を錬金術で分解する。

 

『オラァ!!』

 

そして思いっきり扉を開けた。

 

その扉の中は、赤黒く暗い部屋だった。

 

針がビッシリとはりついた椅子、

 

壁に飾られているノコギリ、鞭、鑢

 

更には円錐木馬、アイアンメイデン等もあった。

 

どれもこれも、使われた後があった。

 

アスベルとエドが、その部屋を見て大口を開けて固まった。

 

ソフィが首を傾げて、部屋に入った。

 

『アスベル、これはなんだ?』

 

ソフィが部屋の中にあった円錐木馬に目をつけた。

 

先の方に、生々しく血がついていた。

 

『………頼む、それを僕の視線に入らせないでくれ……』

 

アスベルはそう言って、目を背けた

 

『あー……次だ次!次の部屋を探すぞ!!』

 

エドが次の話題を出して、この部屋を無かった事にするように言葉を発した。

 

だが、アスベルは首を横に振る

 

『いや……駄目だ。』

 

『なんでだ!』

 

アスベルは、どれかこれかを目で見回す

 

『どれも……これも、ほとんど使われていない鍵ばかりだ。それも5年程。唯一その鍵が、一番新しい鍵なんだ。』

 

アスベルの言葉を疑問に感じ、エドは地下全ての部屋を見回した。

 

どれもこれも南京錠が着いていたが、やはりどれも使われた形式は無い。

 

試しに鍵を開けて探してみても、どこにも星晶が置かれている場所など無かった。

 

中には、大量の爆弾が置かれているのが見つかったが、どれもしけっていて使い物にならない

 

『くそっ!』

 

エドがそう悔しがると、ソフィが言葉を出す

 

『エド、大丈夫?』

 

『っ!!近寄るな!!』

 

ソフィは、手に血のついた頭を潰す万力を持って立っていた。

 

その光景に驚き、エドは後ろに退く

 

『それにしても……。この地下では合ってないんじゃないのか?』

 

アスベルがそう言うと、エドはその事で考える。

 

『……いや、多分ここで合ってるはずだ』

 

『だけど、ここまで探しても星晶は見つからない。多分、地下室には存在しないんじゃないかな。』

 

アスベルがそう言った後、エドは普通に答えながら、拷問室へと向かった

 

『星晶は、人々のエネルギー源として使っていると言っていたよな。そんな物がそんな地下室の部屋の中に簡単に置くような馬鹿な事はしねぇはずさ。』

 

エドは、拷問室の壁に手を置いた。

 

そのまま、探るように手を壁に沿って歩いていった。

 

『………?』

 

その様子に、アスベルは疑問を感じると、

 

エドはついに目を閉じた。

 

そのまま壁を沿って歩いていく。

 

アイアンメイデンの近くまで歩み歩いた瞬間、エドの目が開く

 

『ここだ!』

 

エドは手を叩き、その壁を練成で扉に変えた。

 

『エド?』

 

ソフィが疑問を感じた後、エドは扉に手をかける。

 

そして扉を開けると、そこには大量の星晶があった

 

『………!』

 

その光景に、アスベルは驚きを隠せなかった。

 

『おそらく、この城の地下でなく、街のどこかにここが繋がってたんだろうな。』

 

『……こんな大量の星晶………初めて見たぞ。』

 

アスベルは、その大量の星晶に絶句したが、すぐに俯いた。

 

『………だが、それが見つかったとして、押収ができないのが、難だな……。』

 

アスベルの言葉に、エドは少しだけ驚いた。

 

『…意外だな。お前もそんな事考えるのか。』

 

『いや……。やはりこの星晶も他の村から押収された物だ。出来ることなら元の場所に戻してやりたいよ。』

 

その言葉に、エドは同意するように頷くが

 

『だが、んな事すりゃぁ俺達はこいつらと同じだ。こういうのは、少しだけで良いんだよ。』

 

そう言って、エドは一欠けらの星晶を取り出し、

 

バッグの中の鉄くずと銅線を取り出し、練成する

 

そして出来た物は、一つのスイッチだった。

 

『ほい、ちょっとこれ持ってろ』

 

そう言って、エドはアスベルにそのスイッチを渡した。

 

無線機の部品と応用した物で、これ一つで

 

『爆発とか……じゃないよな。』

 

『違う違う。爆弾はそういうのじゃ無くて……』

 

エドが言いかけたとき、上からまた人が降りてくる

 

『!!』

 

幸いな事に、今度は一人の足音しか聞こえなかった。

 

『平常にしていろ』

 

エドがそう言うと、上から人が完全に地下へと降りてくる。

 

そこから、南京錠には全く目に向けない上に、エド達に話しかけてきた。

 

『よぉ!お前らもサボりか』

 

妙に馴れ馴れしく、そいつはエドに近づいてきた

 

その態度に、アスベルは少しだけ遺憾な表情になる。

 

だが、エドはそのアスベルを手で前をさえぎり、絶えるように言った。

 

『冗談だよ冗談。お前らはこの地下の担当だったよな。大変だなぁお前らも。こんなに鍵まで開けてな。』

 

そう言って、その場で座り込むように一服をする。

 

一瞬だけ顔の鎧を外し、煙草を使っていた。

 

『……そんな貴方は、どこ担当なんですか?持ち場を離れても良いんですか。』

 

アスベルがそう言うと、そいつはアスベルの方を向く

 

『ん……?まぁ俺は下の下の兵だからよ。サボっても気にしない程度の人間なのよ。』

 

その様子に、アスベルは言葉が詰まる。

 

だが、言葉が見つかるようにアスベルはしばらくして言葉を出した

 

『………昇進とか、上に立って見返そうとは考えてないんですか…?』

 

アスベルの言葉に、その男は笑い出す。

 

そして、吸っていた煙草を床でもみ消した。

 

『はっは!昇進ねぇ…そりゃぁ出来たら嬉しいだろうよ。でもよぉ、そんなには興味無え。』

 

そう言って、立ち上がり上へと向かった

 

『ま、俺は俺で国を守っていければ、それで十分さ。余計な権力は、世界を変えようと頑張る奴がやれば良い。俺はそいつらの下に居て、手伝いでも出来ればそれだけで存在意義があるってもんだ』

 

そう言って、そいつはこの地下から出て行った。

 

『じゃ、俺はそう言う事だ。幽霊が居てもサボるなよ。かっかっか!』

 

陽気なその男は、そのまま上へと上がって言った。

 

その様子を見ていたアスベルは、そのまま俯いてしまった。

 

そして、エドの方を見た

 

『エド……僕達のやっている事は、本当に正しい事なのだろうか。』

 

その言葉に、エドは答えた。

 

『あういう奴が居るからこそ、俺達のやる事に意味がある。後はあのイラつく騎士が上手くやっていればだけどな』

 

そう言って、エドは拷問室の近くの地下室へと向かう。

 

そこでエドは練成をして、壁に穴を開け、そこから道を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜地下牢〜

 

地下牢に連れてこられたリオンは、ヴェイグに身体を拘束される。

 

剣を持てぬように、手錠をかけられたまま、足に鉄球を付けられ、その場から動けなくなっていた。

 

その様子を確認してから、ヴェイグは立ち上がる。

 

『もうじき、国王が直々にここに来られる。しばし待っていてくれ。』

 

『………暗殺されるはずだった奴にご対面とは、思っていたより随分肝っ玉が大きいようだな。』

 

リオンの言葉に、ヴェイグはただ無表情になるだけだった。

 

そしてリオンの元へと歩み寄り、一つ話をした。

 

『…お前は、暗殺する事が目的じゃないのだろう。だが、』

 

ヴェイグが、そこで言葉が詰まる。

 

そして、かろうじて言葉を発せる。

 

『目的は、おそらく星晶の事だろう。その事は分かっている。星晶問題は我々の責任だ。俺もその問題には解決させるよう、国を動かそうとしている。だから、危険を感じずにここは逃げてくれないだろうか。』

 

『それじゃぁ何年…いや何十年掛かると思っている。』

 

リオンの言葉に、ヴェイグは信用されていないと分かる。

 

そんな自分の国籍に、憎く感じながらも、それを受け止めてさらに答えた

 

『……………。俺が言える事はそれだけだ。』

 

ヴェイグはそう言って、この部屋から出て行った。

 

出て行った後は、そこに沈黙が流れ出す。

 

そのままリオンは、その場でただ時間を待つ

 

『………おい、そこに居るか』

 

リオンが声を出すと、リオンの隣にある木箱の影に、カロルが居た。

 

リオンが出てきたと同時に、カロルが一緒についてきたのだ。

 

付いてきたのは途中だけで、その後からはカロル地下から動かなかった。

 

いや、正しくは動けなかったのが正しい。

 

『……大丈夫?リオン……。』

 

『そう見えるなら、そう言う事にしておけ』

 

リオンがそう言うと、カロルは少しだけ不安そうな顔になる

 

『………でも、やっぱり不安だな…。ヴェイグ様の言っていたあの言葉、なんなんだろう。逃げてくれって……』

 

カロルの言葉に、リオンは大体予想がついた。

 

恐らく、この国の王は相当やばい奴なのだろう。そんな事が頭によぎった。

 

『……この国の王が、相当な奴なのかもな』

 

『えっ!?そんなはず無いよ!だって……王様は僕達国民を絶対に他の国から守るって………』

 

カロルがそう言った後、ある事に気がつく。

 

ユーリとエドが言っていた、僕達国民の洗脳

 

それを考えたら、この”他の国から守る”というのは、もしかすると…

 

嫌な考えがよぎる、

 

今まで信じてた事に裏切られるというのは、とても恐ろしい事なのだと感じさせた。

 

『お前ら国民は、ずっと帝国に騙され続けたんだ。恐怖してもしょうがないだろう』

 

リオンが言い終えた後、地下牢に一人の男性が入ってくる。

 

その顔は、写真や新聞で目を通したことがある。

 

王だ

 

『………お前は、私を殺そうとした張本人というのだな』

 

王がそう言うと、リオンはただ何も言わなかった。

 

『ほう……それとも違う目的があった。というのか?』

 

王がそう言うと、リオンの口が動く

 

『……この国、いや帝国は、どうして星晶を奪い、この国民を騙し続けている』

 

リオンの言葉を聞いたカロルは、そこで表情を変える。

 

そのリオンの話を聞いた王は、突然笑い出す

 

『くっ……はぁーっはっはっは!何だ。ならばわしが殺される事は無かったんだな。』

 

王は、安心したように、さらに言葉を出す

 

『………だが、お前はもう生きては返さないと思え』

 

王は、急に真剣な顔になる。

 

そして、ありのままを話す

 

『……星晶を集めたわけ、それは簡単だ。誰だって国を豊かにしたいと言う考えはあるだろう。その為に、他国の村や街は犠牲にさせてもらっているだけだ。』

 

王の話を聞き、リオンは失望するように答える

 

『やはり、王も人間だった。という事か』

 

『ああ、だが……人間は人間でも、力を持った人間だ。』

 

王は、さらに説明を続けた

 

『星晶が集まり、余分が出てしまうほどの数を作り出すことには意味がある。それは何故か?国民を騙し続けたことに、それは意味がある。』

 

その言葉に、リオンはただ真剣に聞いていた。

 

『貴様ら、ガルバンゾ国を潰すことや、世界をウリズン帝国に染まるには、更なる数の兵が居る。その為には、国民には他国への恐怖を持って貰わなねばならん。』

 

『……………』

 

『見ての通り、国民は死を恐れ、一人一人の力は弱い。だが、数は多い。その者達全員が星晶の組み込まれた武器を持ち、他国が我が国を襲おうとしている。そう言うとどうなるか?恐怖で頭を一つの答えに導かれる。そう、”他国への破壊”だ。』

 

王は、急に大きく笑いながら答えた。

 

『素晴らしいぞ!死を恐れ、死にたくないが故に力を発揮する国民、一致団結して国を滅ぼし、ウリズン大帝国を作り上げる!これが…私たちの狙い!貴様はそれを、天でじっと眺めているが良い!!』

 

王がそう言って、リオンに人差し指を突きつける。

 

その指を見つめ、リオンは一言呟いた

 

『お前がな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ウリズン城 屋上〜

 

エド達は、更にもう一つの無線機を練成で行い。

 

もう一つの大きな星晶で、鉄くずを練成する。

 

それは、巨大なスピーカーだった。

 

『………なぁ、エド』

 

アスベルが、不安そうな声でエドに問う

 

『ん?どうした』

 

『いや……この作戦は、本当に上手く行くのか。リオンの状況を、確認したほうが……。』

 

アスベルの言葉に、エドは溜息を吐く

 

『あーあー、大丈夫だって。早すぎて駄目という事も無いし。見張りも殴った。それにこの作戦は、一度前にも使った事があるんだ。』

 

エドがそう言うと、アスベルはただ頷くことしか出来ない。

 

『よし、さてさて後は……』

 

エドはそう言って、もう一つの星晶を取りだす

 

その星晶と、火薬と鉄殻を練成して、一つの爆弾を作り出した。

 

光と音しか作り出せない、発光手榴弾という代物だが

 

その手榴弾を見て、ソフィは頭を傾げる

 

『エド……。それは何?』

 

『何かは……そぐに分かる…よっと!!』

 

そう言って、エドはその手榴弾の栓を歯で開け、遠くへとぶん投げた。

 

『目を覆え!』

 

遠くへと飛んだ手榴弾は、街の真ん中で発光し、音を出した。

 

その音と光で反応した国民は、光が発光を終えた後、家からぞろぞろと出てきた。

 

『おっしゃ!お次ぃ!』

 

エドがそう言うと、命令されたようにアスベルが動く。

 

無線の巨大スピーカーのスイッチを押し、音量を全開にする。

 

すると、無線の中から人の声がする。

 

《くっ……はぁーっはっはっは!何だ。ならばわしが殺される事は無かったんだな。だが、お前はもう生きては返さないと思え》

 

その声に、国民が驚いた。

 

その声の主は、国王その者だったからだ

 

『…………ウリズン帝国、国王…!?』

 

アスベルが、その声に絶句する。

 

そして。スピーカーの音がまた聞こえ出す

 

《……星晶を集めたわけ、それは簡単だ。誰だって国を豊かにしたいと言う考えはあるだろう。その為に、他国の村や街は犠牲にさせてもらっているだけだ。》

 

国が、ざわざわと騒ぎ始める

 

―――どういう事だ?

 

―――これ……国王の声だよ…なぁ?

 

―――犠牲…?俺達の国は、星晶が少ないんじゃ無かったのか?

 

さらに、スピーカーの中から音が聞こえ出す。

 

《星晶が集まり、余分が出てしまうほどの数を作り出すことには意味がある。それは何故か?国民を騙し続けたことに、それは意味がある。貴様ら、ガルバンゾ国を潰すことや、世界をウリズン帝国に染まるには、更なる数の兵が居る。その為には、国民には他国への恐怖を持って貰わなねばならん。》

 

国王の声に、今度は国民達は沈黙し始めた。

 

まるで、その聞いたことが幻であったかのように、信じられないという顔をしている。

 

さらに、アスベルの顔が、怒りに染まり始める

 

『国王…貴様……!!ガルバンゾ国の同盟が怪しいと思えば…偽証をガルバンゾから捏造し、同盟国の滅亡を企んでいたのか!!』

 

《素晴らしいぞ!死を恐れ、死にたくないが故に力を発揮する国民、一致団結して国を滅ぼし、ウリズン大帝国を作り上げる!これが…私たちの狙い!貴様はそれを、天でじっと眺めているが良い!!》

 

《お前がな》

 

そこで、リオンの声が響いた。

 

すると、ゴソゴソと動く音がする。

 

その中から、国王の小さな悲鳴が聞こえた

 

《なぁ……カロル!!!どうしてここに居るんだ!》

 

国王の叫びの中、カロルは反抗するように言葉を出す

 

《王様!!その事は本当なんですか!僕達は……騙されていたんですか!!》

 

カロルの言葉に、今度は国王の不適な笑みが聞こえた

 

《………ふん!何を言うと思えば……。この話を聞いたからには、お前もどうなるか分かっているな?お前ら二人は処刑!この世から消え失せるが良い!!仲良くなぁ!!!》

 

王のその言葉が決定的になる。

 

国民の心の全てが、真実にようやく辿り着いた。

 

『あーあ…。言っちまった』

 

エドが、面白そうに、または呆れるようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜地下牢〜

 

『………!!』

 

カロルが、全てを裏切られたような顔で、王を見ていた。

 

だが、王はなんでもないように、不適の笑みでカロルとリオンを見ていた。

 

『ふん!貴様一人の命など、どうする事も出来る!この城から逃がさなければいい事だ!行方不明捜索の依頼が来れば、お前のようなクソガキは魔物に食われたと言っておけば良い!ギルドごっこをして、命を落としたって事にすれば良いんだ!!』

 

王の言葉に、カロルは爆発したように怒りの声を出した

 

『ふざけるなぁ!!僕は……僕たちは信じてたんだぞ!!アンタの事をずっと信じてたんだ!!なのに……それなのにアンタは信じていた人を裏切るって言うのかぁ!!!』

 

『裏切る!?何を言っている。私は何も裏切っては居ないよ。ただ、国を守ってきていただけだ!国のプライドの為、国の威厳の為に、お前は粛清されると言っているのだ!』

 

『アンタは……アンタは国王になる器なんかじゃない!!!』

 

カロルと、王の喧嘩にもうリオンは飽き飽きしていた。

 

リオンは、カロルの方に顔を向ける

 

『もう良い』

 

リオンがそう言うと、カロルの動きが止まる

 

『どの道、この子供は処刑される事は無いんだよ。当然僕もね』

 

リオンの言葉に、王は馬鹿が言う事だと思い込み、まだ笑う

 

『はっ!ここは地下だぞ!声が響くことも、声が地上へ漏れることも無いここで、叫んでも無駄だ!助けは来ない!』

 

『そんなものは、必要ない』

 

リオンがそう言うと、カロルはその場でしゃがみこむ。

 

そして、カロルは国王に隠していた無線機を見せた。

 

マイク付きの、スイッチが入っているスイッチを

 

一瞬、王はそれが何かは分からなかった。

 

だが、数秒後、王は理解した

 

『………………っ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ウリズン城 屋上〜

 

《ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!》

 

国王の悲鳴が、スピーカーから響き渡る。

 

かなりうるさかったが、エドはこの叫びが勝利の叫びだと感じた。

 

内心、ざまあみろと喜んでいた。

 

『気づいたようだな』

 

『そのようだ』

 

アスベルとソフィは、その大きな音に驚き、耳を塞いでいた。

 

さらにスピーカーの中から、国王の声が響く

 

《カロルゥ!!!いっ……いつからスイッチを入れていた!いつから!!!》

 

《全部丸聞こえだ!国王!!!!》

 

《ルギュアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!》

 

王の怒りの叫びが、さらに甲高い物へと変わった。

 

その声が耳に触り、エドさえも耳を塞いだ。

 

『あ――……まさに爆弾発言って奴だな』

 

エドが、耳を塞ぎながらそう呟いた。

 

誰もが耳を塞いでいる為、聞こえるわけが無いのだが

 

《こ……この放送は……。全部芝居である!真実ではない!ジョークだ!芸だ!!》

 

《こんな真夜中にか……痛い言い訳だ》

 

《うるさい!!とっとと渡せ!!カロル!!!》

 

バタバタと、今度は乱闘する音声が流れ出した

 

《カロル!!貴様いい加減に》ガシャァ……

 

無線機が壊れる音と共に、スピーカーからは何も聞こえなくなった。

 

おそらく、もう必要は無いからと無線機を壊したのだろう。

 

スピーカーに背を向けて、エドは立ち上がった

 

『……んじゃぁ、こっからが本番だ』

 

エドは、楽しそうな笑顔になって城の中へと入っていく。

 

そのエドの背中を見ながら、アスベルとソフィも続いて城の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜地下牢〜

 

カロルは、奪われる一瞬前に、無線機を床に叩きつけた。

 

それと同時に、無線機は派手な音と共にバラバラに散った。

 

その光景を見た国王は、それを見て大口を開けて固まった

 

『終わりだ。』

 

リオンがそう呟くと、国王の顔は、みるみる赤く変色していた。

 

今にも、殺しに掛かりそうな顔で二人を見つめていた

 

『来るなら来い!!お前だけは…絶対に許さないからな!』

 

カロルは言葉と共に武器を取り出す。

 

刃物のついた武器であり、王もさすがにこれには怯みだした。

 

『王!大変です!!』

 

0人程の複数の兵が、王の居る地下牢へと向かって走って来る

 

『先ほどの放送で、国民が……国民が王を出せと要望し、反乱が起こっています!!』

 

その報告を宣告された王は、今度は顔が真っ青になる。

 

それと同時に、怒りが湧き上がった。

 

『お前達………』

 

王の声が、兵にへと響く。

 

王はズカズカと歩き、兵を横切って地下牢から出て行った。

 

『この……この虫けら共を今ここで処刑しろ!!早く!!!』

 

そう言って。地下牢の扉を閉めた。

 

その後、兵達は全員腰から剣を引き抜く

 

『…悪く思うな。これも王への命令だ。』

 

兵は全員、リオン達を敵へと見ていた。

 

『……あの王を見てからも、まだ仕え続けるというのか。』

 

『当然だ!あんな王であっても、下についていれば、私たちは優遇に対応してくれたのだ!今更、王が変わられた所で困る!!』

 

そう言って、兵達は剣を持ち、リオンの元へと駆け寄る。

 

『ひぃい!!』

 

カロルは、さすがにそれ程の数の人間を倒すのは無理なのだろう。驚き、足がすくんでいた。

 

それを見たリオンは、溜息を吐いて、足を手錠の鎖の上へと乗せる。

 

すると、足の金具の端で手錠の鎖を叩き割り、腕を自由にした

 

『その刃を貸せ』

 

リオンは、カロルの持っていた武器を横取りし、0人の兵の前に立つ。

 

そして、その短い剣を振り、兵達の前へ出た。

 

瞬間、兵達の全員が血を吹き出し、その場で倒れこむ。

 

『10年早い』

 

リオンはそう言って、その兵らを見下すように言った。

 

それを見たカロルは、リオンに恐怖を抱いた。

 

震えているカロルを見たリオンは、吐き捨てるように言った

 

『怯えているのなら、ここで立ち止まっているが良い。殺されたいのならな』

 

リオンのその言葉で、カロルは震えながらも、立ち上がった。

 

そして、リオンの元へと駆け寄る

 

『お……怯えてなんか無い!!』

 

そう言って、カロルは強気のままリオンについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ウリズン城〜

 

とある部屋にまで目指している王は、駆け足で階段を上がる。

 

くそったれが、と何度も呟きながら、駆け足で足を動かしていた。

 

『サレ!ヴェイグ!!どこに居る!!』

 

王がそう叫びながら、部屋を一つ一つ開けていく。

 

だが、どこにも見つからない上に、返事もしない。

 

そのいい加減さに、王はイライラした。

 

『居るなら返事をしろ!!』

 

叫びながら走り、ある場所へと向かった。

 

そこは、屋上よりも高い場所、展望台だった。

 

その場まで登り上がると、月の光が王の体を差した

 

『おやぁ。堕ちた国王がお出迎えだ』

 

その場には、サレが居た。その隣にはヴェイグも居た。

 

その光景を見た王は、静かに微笑む

 

『おお!そこに居たか!!さぁ……この暴動共を鎮圧しろ!!多少死人が出ても許してやろう!!』

 

王のその言葉に、ヴェイグは驚きの表情をする。

 

そして、幻滅した顔で王を見つめた

 

『国王!!先ほどの報道……やはりこの国は、正の道へと向かっていないのだな!』

 

『何を言っているヴェイグ!正義というのは元に存在する物ではない!正義は作り、手に入れる物なのだ!』

 

王は、手を横に振り、二人に必死に声をかける。

 

それはもう、正気の沙汰ではなかった。

 

『どんな手を使おうが、勝つ!どのような物にも勝ち、大きくなることで正義を作り出す権利を持てるのだ!!その正義を作り出すためには、貴様らの助けも必要とする!!それ位は、幹部なら分かる物だろう!!』

 

ヴェイグは、完全に王を失望していた。

 

そして、怒りを超えた表情、無表情で王を睨みつける

 

『………オレは、国を守り、国民を守っていくことが指名で、それが正しいと思っていた。』

 

そして、目を見開き、剣を引き抜く

 

『だが、貴様は正義ではない!!ただの欲望の塊、人間でも無い生物だ!!』

 

そのヴェイグの敵意に、王はおののく。

 

だが、サレはヴェイグの前に手を伸ばし、遮る。

 

『……その手をどけろ、サレ』

 

『いや、こいつを今殺しても、面白いことにはならないよ?』

 

そう言って、サレは展望台の下を見る。

 

その下には、暴動が溜まっていた

 

人が沢山、押し付けようとしていた

 

『こんなに人が居るんだ。もっと有効に使おうとは思わないかい?』

 

サレの言葉に、王は不気味を感じた。

 

隣に居たヴェイグも、考えが読めないほどだった。

 

『それに……正義は作り出すもの。国王の言っている事は正しくないわけじゃあない。むしろ真に迫っていると思わないか?』

 

サレの言葉に、しがみつくように王はにやけながら言葉を発する

 

『そ……そうだ。私が居る限り、この国は安泰と成る。正義なんぞ、いくらでも作り出せる!!だから私に就け!永遠に!!』

 

『そうだねぇ……まずはこの団体を鎮圧させないと…』

 

サレの話の途中で、後ろから人がやってくる

 

『おい、こっから年貢の納め時だぜ。オッサン!』

 

『………!!!』

 

王が、怒りの形相でエドを睨みつける

 

『貴様……。あの剣士の付き添いか!!』

 

『そんな言い方は、なんかムカツクなぁ』

 

エドはそう言って、腕を組んだ。

 

その後ろに、続くようにアスベルとソフィが駆け上がる

 

『国王……!貴方が行った事は許される事ではありません……!!大人しく降伏してください!!』

 

アスベルを見て、王は言葉を発する

 

『黙れ!!ガルバンゾの国の者!!!貴様らがやっている事は……どういう事か分かっているのか!この国、ウリズン帝国を滅ぼそうとしているのだぞ!!そのやり方が、お前らの国のやり方だと言うのか!!』

 

『違う!!これは私個人の行動だ!国は関係無い!』

 

『個人も関係も無い!貴様がガルバンゾの国の者である以上、戦争は免れぬと思うな!!貴様らの国、滅亡まで終戦は無いぞ!!』

 

そう言って、王はサレに指を指した。

 

『サレ!!こいつらを捕まえて、国民にさらしめるぞ!!こいつらが主犯……私の声を使って、国民を騙したて供述させるんだ!!』

 

王の言葉に、アスベルは歯を怒りで食いしばる。

 

『国王、それよりも良い方法が』

 

サレはそう言って、王の元へと歩み寄る。

 

そして、サーベルを王の腹に刺し、串刺しにする

 

『!!!』

 

エド達とヴェイグは、驚きを隠せない顔になっていた

 

『…………!!!』

 

『王様、自分のケツは自分で拭いてくださいな。少しでも正直に生きたほうが、天国に近づけるよ?』

 

そう言って、サレは王を刺したレイピアを浮き上がらせる。

 

宙に浮いた王は、刃がさらに王に食い込み血がドバドバと流れた。

 

そして、展望台の外へとレイピアを出し、顔も出した

 

『おーい!!お前らが欲しがってた国王様だー!!喜んで受け取れー!!』

 

そう言って、サレは身体が展望台の外へと出ている王様に刺さっているレイピアを瞬時に引き抜き

 

王はまだ身体を展望台の外に出ていた為、重力に従い、

 

城の入り口付近の場所まで落ちていく。

 

徐々に早くなる王の身体は、大きな鈍い音と共に

 

大群衆の元へと、落ちてきた。

 

鈍い音がした王の身体は、所々千切れ

 

頭を撃った為、頭が割れて中身が出ていた。

 

大群衆の悲鳴が、ここまで聞こえた。

 

たくさんの人たちが、その場から離れようとしていた。

 

『サレ!!』

 

『はっ!根性の無い奴らだな。こんな国民じゃぁ、国も変わろうとも変わらないねぇ!!』

 

そう言って、サレは振り向いてエドの方を向く

 

『エドワード君……だっけ?君達錬金術師には感謝しているよ』

 

いきなりの感謝の言葉に、エドは疑問を頭によぎる

 

『………は?』

 

『君達錬金術師は、本当に素晴らしい術を教えてくれた。その術で、この国は変わっていくだろうねぇ。』

 

エドは、サレの言っていることが分からなかった。

 

だが、何かある

 

こいつの言葉に、何かが存在するのだ。

 

『………何言ってやがる』

 

『まぁ、僕もつい最近…錬金術をようやく理解したんだ。もう一人の錬金術師のおかげでね』

 

もう一人の錬金術師

 

その言葉に、エドは目を見開いた

 

『……もう一人の……錬金術師だと!?』

 

エドがそう声を上げると、サレは再びにやける顔になる

 

そして、展望台の真ん中に立ち、その場で手を掲げる

 

サレの手には、練成陣らしき物が書かれていた。

 

『そいつが言った。錬金術は、星晶なんか屁でも無いエネルギー源を作れるって。』

 

『………!!!』

 

サレが、今やろうとしている事にエドは感づいた。

 

『サレ……。何を考えている』

 

ヴェイグが、疑問の声でサレに声をかける

 

サレは、目を見開き、限界にまでの笑顔で両手を合わせる

 

『世界は変わる。錬金術でこの世界は、変えられるんだよ!!!!』

 

サレが床に手をつけようとした瞬間、エドは動き出す。

 

サレの行動を、止めようと動いた

 

『止めろぉぉおおおお!!!!』

 

だが、遅かった、

 

サレの手は、地に面した瞬間、城が発光した

 

『!!』

 

その瞬間に、展望台が大きな光につつまれる。

 

その様子を見ていた国民は、上を見上げた瞬間、

 

悶え、苦しみ、心臓が止まっていく

 

『…………!!!』

 

死ぬ、皆どんどんと死んでいく

 

魂が、抜かれていく

 

 

 

 

 

 

一人の少女は、外で城の様子を見ていた。

 

その場で、一人の青年を待っていた。

 

城で国民を守ってきている、一人の青年を

 

その青年は、私たちを守ってきているのだ。

 

ずっと、身が滅ぶ羽目になろうとも、

 

私も、その青年を守っていこうと決めた。

 

だけど、今はとても苦しい。

 

持っていた花が、辺りに散らばる。

 

息が、出来なくなる

 

身体が、吸い込まれるようだ。

 

引っ張られるようだ。

 

助けて

 

そう、叫ぼうとも届かないだろう。

 

少女は、一人呟くように言った。

 

『………ヴェイグ…』

 

そこで、少女の意識は途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙

 

この国が、驚くほど静寂の世界へと包まれた。

 

その静寂の世界に似合わぬように、

 

その場所には赤い光を発する石が存在した。

 

その石を見たエドは、青ざめた顔をし

 

サレは、不気味に嬉しそうに笑顔になっていた。

 

『……………!!!』

 

この光景を見たアスベルが、信じられないようにその石を見ていた。

 

『おい……なんだか王都が静かじゃないか?』

 

ヴェイグがそう言うと、サレが笑い出す。

 

その間に、また二人が展望台へと辿り着いた。

 

『エドワード……。先ほどの光は何だ?』

 

リオンがそう言うと、代弁するようにサレが言った。

 

『下を見てみなよ。』

 

サレは、赤い石を手に取り、

 

そして展望台から国を見下ろす。

 

その下には、多数の人が一人残らず地に倒れていた。

 

倒れた人は、ピクリとも動いていなかった。

 

『…………!!』

 

ヴェイグが、嫌な予感しか感じなかった。

 

『……サレ!!一体お前……何をした!!』

 

『錬金術さ。エドワード君がやった通りのな。』

 

そう言って、サレは手に持った赤い石を皆に見せ付ける

 

『ほら……見ろよ。錬金術はこんな素晴らしいエネルギー源を作り出す……。これ一つで、星晶とは比べ物にはならない。100年はずっと栄え続けられるんだよ?』

 

サレの言葉に、エドは怒りを表情に表し、叫ぶように答えた

 

『ざけんな!国民の命を使って、何がエネルギー源だってんだ!!!』

 

『………!!!!』

 

国民の命

 

その言葉を聴いたヴェイグは、表情を強張らせる。

 

そして、思い切りサレの方を見た。

 

カロルは、何を言っていたのか分からなかった。

 

いや、正しくはその言葉を信じたくなかった。

 

国民の命を使った、そのエネルギー源

 

今、この国民達は……

 

『これこそ……この国が求めて居た物、赤い星晶……と名づけられた、史上最高の星晶だ!!』

 

『サレ!!今すぐこの国を元に戻せ!!』

 

ヴェイグがそう言うと、サレの背中には大きな翼が生える。

 

生えると共に、血が背中から吹き出た

 

『!!!』

 

『錬金術は本当に便利だよねぇ……。蝙蝠を僕の物にすれば、空だって飛べるんだから……』

 

サレの言葉を聴き、エドはさらに驚愕した

 

この国は、もう人体実験をしていたというのか

 

合成獣の錬金術を、教えていたというのか

 

『ふぅーふふふ……はぁーはっはっは!!!ヴェイグ!!見ろ!!俺は人を超えたぞ!!!』

 

サレは、甲高く笑いながら空を飛んだ。

 

そして、国の真ん中へと向かって、羽ばたいた

 

『追うぞ!!』

 

リオンが叫ぶと、リオンが先に階段を降りて行った

 

それに続いて、エド達も下へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ウリズン帝国 王都〜

 

辺りを見渡すと、死体、死体、死体

 

所かしこに、死体が散乱していた

 

『これ……本当に国民の命を使って……?』

 

カロルが、恐怖する声でそう呟く。

 

そして、カロルは別方向へと走り出した

 

『あ……おい!!』

 

エドが叫ぶと、カロルは自分の叫び声で聞こえていないようだった。

 

『ナン!!ナン――!!』

 

『っくそ!!アスベルはカロルを追ってくれ!!』

 

エドの言葉に、アスベルは静かに頷き、カロルを追った。

 

エドは上空を見る、

 

そこに、サレが甲高く笑いながら空を飛んでいた

 

『………逃がすかよ!!!』

 

エドはそう言って、手を叩いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナンー!!ナン!!』

 

カロルが、叫びながら走っていく

 

『カロル君!戻ってくるんだ!』

 

『戻れるか!!だって……こんな…!!!!』

 

カロルが走っていくと、さらにカロルの足が速くなる。

 

ある建物へと曲がると、カロルの姿が消えた

 

『……この中か!』

 

一つの建物の扉が開かれていた。

 

おそらく、その中に入ったのだろう。

 

『カロル君!』

 

アスベルが開けた所、そこにはカロルが立っていた。

 

足元に、一人の女の子の死体を前に

 

その場で、カロルは立ち尽くしていた

 

『………そんな…。』

 

カロルが、呟く

 

そして、カロルは膝から崩れた

 

『どうして………!!!』

 

手を床に置き、その場で涙を流した。

 

その涙は、女の子の頬に落ちた。

 

その女の子は、ずっと目を開いていた。

 

一つの方角、机の上から落ちた一つの写真

 

カロルと、女の子と何人かの仲間が写った。昔の写真があった。

 

女の子は、それをずっと見ていた。死んでいるこの状態で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エドが地を練成すると、槍を作り出した。

 

その槍を、空に投げつける

 

『はっはー!!何をやっているのかな!?』

 

だが、いとも簡単にサレは避けてしまう。

 

そして、空からまた錬金術を発生させた。

 

賢者の石で、空の塵を巨大な物質に変え、刃物を作り出した

 

『!!』

 

『もう君達に興味は無いんだよ……散れぇ!!』

 

その無数の刃物は、エド達を襲った

 

『この…野郎!!』

 

エドは、錬金術で半球形の壁を作り、それらを防いだ

 

『お前が散り失せろ!』

 

リオンは、壁の中で呪文を唱え、

 

唱え終わった後、壁から出て、剣をサレに向けた

 

『ウィンドカッター!!』

 

叫んだ瞬間、空に風の刃がサレを襲おうとした。

 

『無駄だよ!』

 

サレは、錬金術でさらに強力な風を作り、

 

さらにその風の刃を槍に変え、エド達へと向かって放たれた

 

『うぉおお!!』

 

それを見たエドは、さらに壁を作るが、間に合わない

 

舌打ちをしたリオンは、その壁を剣で対応し、防いだ

 

さらにヴェイグは、エドの作った壁を利用して、その上に乗った

 

『サレ!!』

 

ヴェイグが、脚力で壁の上から建物へと飛び移る。

 

そして、高さがサレと同じ高さに達し、サレに近づけた時

 

ヴェイグは剣を振り下ろした

 

サレも、これには避けきれず、まともに喰らってしまった

 

だが

 

『……!!』

 

刺さりもしなければ、食い込んでも無かった。

 

サレの皮膚が、変わっていたのだ。うろこ状に

 

『僕がただのコウモリ人間だとでも思ったのかい?』

 

サレはそう言って、剣を掴み、ヴェイグを投げ落とした。

 

『ぐぅ……!!!』

 

地に落ちた衝撃で、ヴェイグは深いダメージを負った

 

『てめぇ……!!複数の動物を錬金術で合成しやがったな!』

 

エドの言葉に、サレは笑い出す

 

『その通りだよ!!エドワード君!!本当に錬金術というのは素晴らしい物だ!!君達が居て、僕は本当に感謝しているくらいさ!!』

 

サレの言葉に、エドはブチ切れた

 

『ざっっっけんなぁぁああああああ!!てめぇが使っているのは、錬金術を正しく使ってねぇ!!!』

 

『だけど、錬金術は僕のような究極体を作ることも可能だった。そして、さらなる強力な人間を作ることも!!!』

 

サレがそう言った瞬間、地が揺れだした

 

『……地震!?』

 

瞬間、地から一人の魔物が姿を表した

 

その姿は

 

『なっ…!!』

 

エドが前に見た、あの森の中の巨人とそっくりだった。

 

全身が人肌の色、所々に、皮膚が行き届いていなく、筋肉がむき出しになっている所もある。

 

手が無数にあり、足も無数になった。

 

人間の顔らしき物が、所々に吹き出物のように現れている。

 

だが、形は違う。その形は……まるでモグラのようだ

 

『奴隷達をモグラをベースに合成したらね……。立派な動物が作られたよ!!錬金術でね!』

 

『奴隷……!?』

 

ヴェイグが、聞いていないような顔をしている

 

『サレ!!奴隷とはどういう事だ!!』

 

『ああ、ヴェイグは知らないだろうけどね。ウリズン帝国に入ってきた異人は、大抵奴隷にするのさ。まぁ、僕は特に王様に近かったからね。ヴェイグが知らなかった王様の心情も、ちゃんと分かってたんだ。知らないふりをしていただけさ。僕は』

 

その衝撃の真実に、ヴェイグは目をまた見開かせた

 

そして、怒りの混じった声で、敵意の目でサレを見つめた

 

『………サレ!!』

 

『その奴隷を使って、地下に練成陣を作らすのは骨が折れたよ。一匹目は失敗したしね、でもこの巨大モグラは早いね。10時間で終わらせた。所々で、人間の命を流し込む為、このモグラの血を使う羽目になったけどね!』

 

その言葉で、エドは確信した

 

コンフェイト大森林に居た巨人は、こいつが作り出した物

 

あれは、やっぱり元人間だったのだ

 

サレは、エド達に指を指し、命令した

 

『食え!!こいつらを食ってしまえ!!』

 

サレがそう命令すると、モグラを大きな口を開いて叫びだした。

 

それは、男か女か、子供か老人か、全ての人間が声を出したような声だった。

 

だが、どれも異様に低い声だった。

 

巨大なモグラは、エド達に突進して追いかけ、襲い掛かった

 

『こんの……!!!』

 

エドは手を叩き、そのモグラの下に巨大な突起物を練成する

 

『クソ野郎がぁぁあああああああああああああ!!!!』

 

その突起物は、モグラをひっくり返らせた。

 

『今だ!!』

 

そう言って、エド達は手を再び叩く。

 

さらにリオンは、呪文を唱えだす。

 

エドの錬金術で、地中からトゲがのびて、モグラの腹へと向かってきた

 

『イラプション!』

 

リオンの呪文は、モグラへと向かい、

 

モグラは火だるまと化した。

 

『どうだ!』

 

エドがそう叫ぶと、また上から槍が降ってくる

 

『ぬぅおおおおおおおおおお!!』

 

今度は予想をしていなかった為、身体で避けるしかなかった。

 

なんとか、右腕の機械鎧に当たっただけで済んだが、ちょっとした傷が出来てしまった。

 

『はっはっは!そんなモグラばかり気にしてたら、死んじゃうよぉおおお!!!』

 

これは、かなり厄介だった。

 

モグラは、見た限りまだ生きている。

 

いや、簡単には死なないだろう。

 

複数の人間を使っているのだ。ならば複数の心臓や脳がある。

 

それらを全て潰さない限り、こいつらは死にはしない。

 

『この国は、この先大きくなる。この赤い星晶で、必ずしも大きくなるんだからなぁああ!!君達はそれを見ていれば良いよ。天空でな!!』

 

そう言って、サレはまた錬金術を使った。

 

空から、また多くの刃が投げられた。

 

『舐めんな!』

 

エド達は、それを全て避けた。

 

さらにソフィは、そららの刃の一つを手で取り、サレへと投げた。

 

その刃が、サレの翼に辺り、翼に血が流れたが、

 

サレは、なんて事無い顔をしていた

 

『そんな戯言で、この国が成り立つわけが無えし、てめぇもその身体で満足が出来るわけがねぇ!!』

 

エドの言葉に、サレは笑い出す

 

『何を言い出すと思えば』

 

サレは、赤い石を全員に見せつけ、そして叫ぶ

 

『この石は、この世界のどの星晶よりも巨大な力を持っているんだよ!!その力に対応できるほど、今の人類は強くない!!堕落に、欲望に行き続けていた人間が、この新しい技術に打ち勝てるわけが無いのさ!!』

 

サレの言葉に、エドは俯く

 

『違う……。お前はもう……終わってるんだ』

 

エドの言葉を、サレは一瞬理解が出来なかった。

 

だが、さほどサレは気にもしなかった。

 

『ふん……。まぁ良い。もうすぐモグラも動き出すだろうしな』

 

突き刺していた錬金術のトゲが、もうすぐ崩れようとしている。

 

『錬金術を使えば、僕は無敵へと進化する事も出来る。巨大なエネルギーも手に入れられる。それこそ……それこそ僕の求める、究極な欲望だぁ!!!』

 

その瞬間、サレの心臓が急に痛み出す

 

『………?』

 

一瞬、理解は出来なかったが、

 

今度もさほど、気にせずエド達を見下しながら、目を向けた

 

『…………』

 

建物の端に、カロルとアスベルが来る

 

それを見て、サレは微笑む

 

『おやおやぁ、これはこれはアスベル君。ガルバンゾ国の人……だったかな?』

 

サレが、アスベルに向けて微笑む

 

『…………』

 

アスベルは、ただサレの方をじっと見つめていた

 

『まぁ、もうすぐガルバンゾ国も僕の物になるのだから、国籍くらいは覚えておかないとねぇ……』

 

サレの言葉の途中、カロルが口を挟んだ

 

『サレ様……いや…サレ!!!!』

 

カロルの言葉に、サレが目を向ける

 

『これが……これがウリズン帝国のあるべき姿だと言うの!?このまま大きくなって、ウリズン帝国はそれで良いと言うの!?こんな方法で……こんな方法で国が大きくなって、後は何が残ると言うの!?答えろサレ!!』

 

カロルの言葉に、サレはにやけながら答える

 

『これで……良いのさ。正義というのは、強い者が作っていくから意味があるんだ。僕がその強い者になれば、これだって正当化されるんだよ』

 

『ふざけるなぁ!!』

 

カロルは武器を取り出し、サレに向けた

 

『お前は……お前だけは絶対に許さないからな!!』

 

そう言って、カロルはその武器をサレにぶん投げた。

 

だが、武器は当たらなかった。

 

その光景を見て、サレは笑った

 

『はぁーははは!!やっぱりカロル君は面白い!!だけどね……もう興味は無い!!』

 

そう言って、サレは錬金術で再び刃を作り出した。

 

エドは、落ちてきた武器の元へと向かい、

 

武器が落ちてくる前に、その武器を練成した

 

『!?』

 

その武器は、ボウガンだった

 

矢は、物質の量の限界で一本しか無かったが

 

『悪いな、ちょっと使わせてもらうぜ!!』

 

エドは、渾身の一撃をサレに向かって放った。

 

錬金術を使っていたサレは、刃をまだ飛ばしておらず

 

避けきれる事が出来ずに、そのまま矢が足に貫通した

 

『………!!』

 

鱗が、足の鱗が落ちて言った。

 

足の激痛に、サレは俯き、足を押さえた

 

『れ……錬金術師が…!!』

 

サレが正面を向いたときには、エドは目の前に居た

 

エドは、自分の立っていた地を練成し、突起物にしていた。

 

サレがこちらを見なくなった。その瞬間を待っていたのだ。

 

その瞬間に、地を高くしていた

 

『これで終わりだぁああああ!!』

 

そう言って、エドはサレの翼の傷に向かって、

 

その傷にエドの右腕に練成された刃を押し込み、翼を切り落とした

 

『ああああああああああああああああああああああ!!!』

 

バランスを崩し、サレが崩れ落ちるとき

 

『アスベル!!』

 

エドは叫び、アスベルはそこから飛んだ

 

剣を引き抜き、サレの腹に剣を突き刺した。

 

そのまま、突き通された剣は地に刺さり、サレは突き刺しの状態となった

 

『………!!!』

 

さらに、その剣の上にソフィが乗り

 

完全に深く、その剣は地に突き刺さった。

 

これで、もうそこから動く事はできないだろう。

 

 

 

 

 

エドとソフィとアスベルは、

 

サレを見下ろして見つめた。

 

『見るな……!!!』

 

サレが、言葉を発する

 

『僕を……僕をそんな目で見るな!!見下すなぁあああ!!』

 

サレが、憎悪の声で叫びだす。

 

翼を切り落とした瞬間に、サレは赤い石を手から離した。

 

赤い石は、遠くへと落ちて行ったのだ。

 

今、この場所に賢者の石は無い。

 

『………サレ』

 

ヴェイグが、高いところから見下ろすように、哀れむ目でサレを見ていた

 

『ヴェイグ…!!俺は…。結局お前を屈服させられなかったな。』

 

サレは、怒りの目でヴェイグを見ていた

 

その目を見たエドは、エドも同じ様に哀れむ目でサレを見た

 

『………終わりだ。サレ。お前も』

 

『終わり……だと。舐めた事を言うな…!!錬金術師が…!!!』

 

サレが、顔を怒りで強張った顔でエドを睨みつける

 

『僕は……まだ終わりじゃない。終わるわけが無い……!!僕の野望は……まだなぁ……!!』

 

『そうじゃない。本当に終わりなんだ』

 

エドがそう言った瞬間、サレの心臓がさらに痛み出す

 

『……っ!!ぐぅあああ!!!』

 

『っ!!サレ!!』

 

サレは、急に激しく痛みに悶え始めた。

 

心臓を押さえ、口からは多くの緑色の汁が流れ出ていた。

 

『拒絶反応だ。』

 

エドが、哀れみの目でサレにそう言った

 

『それだけ多くの動物を、自身の身体に合成して、魂が定着するわけがない。拒絶反応を起こして、時間と共に、お前は死ぬ』

 

『ふ……ふふ……ふざけんなぁあああああ!!』

 

サレが、大声でエドに向かって叫んだ

 

『僕は……お…オレは……!!死ねるわけが……!!死ぬわけが……!!!』

 

その瞬間、またサレは血を吐き出す

 

『だ……誰か……だれ……』

 

サレの声が、次第に小さくなっていく。

 

それを見て、エドは目を当てられなかった。

 

アスベルも、エドと同じ反応をした。

 

『…………』

 

ヴェイグが、哀れむように、さらには少しだけ悲しそうな顔でサレを見ていた。

 

思えば、サレとヴェイグは同僚だ。

 

少しくらいは、仲が良かったかもしれない。

 

良く、無理やり張り合わされては、屈服するよう強調されそうにもなった。

 

だが、かつては同じ職の人間だった。

 

地位は、サレの方が高かったものの、ヴェイグはサレの命令を無視する権限を持っている事があった。

 

その事で、さらにサレがヴェイグと見比べたりすることが躊躇になった。

 

『……………サレ。すまない』

 

ヴェイグがそう言うと、サレの動きが止まった。

 

だが、まだ死んで居ないのか。

 

口は動いているものの、声が出ない。

 

だが、サレの口はだんだんと笑顔になっていった。

 

その顔は、まるで

 

”ざまぁみろ”

 

と、言っているかのようだった。

 

ヴェイグが発した、謝罪の言葉

 

それは、少なからずとも、自分が下手に出ている。

 

それは、屈服と同じだった。

 

笑顔のまま、サレは動かなくなった

 

『………………』

 

サレの死体を見つめて、エドはそのまま立ち尽くした。

 

『………後は、賢者の石を探すまでだ』

 

エドはそう言って、正面を向いた。

 

すると、目の前のモグラを突き刺していたトゲが完全に崩壊した。

 

モグラは、また再び叫びだした

 

『くそっ!!』

 

エドは、再び戦闘体制に入る。

 

そして、モグラがこちらに向いたとき、エドは右腕を刃に変える

 

瞬間、上から巨大なトゲが降ってくる

 

『………!!』

 

また串刺しになったモグラは、その場で動けなくなっていた。

 

建物の上を見ると、彼らが居た

 

『あらら。ウリズン帝国の右腕は崩壊したか。呆気無かったなぁ』

 

愉快に微笑んだその顔に、エドは再び怒りの顔になった

 

『………エンヴィー!!』

 

『おっと、今回も争うつもりは無いぜ。』

 

エンヴィーがそう言うと、ケタケタと笑い出す

 

『お前らが……お前らがウリズン帝国の奴らを賢者の石にするように仕組んだんだな!!サレを騙して、賢者の石を奪おうと考えていたんだろ!!』

 

エドがそう言うと、エンヴィーはポケットからある物を取り出す

 

サレが使っていた、賢者の石だった

 

『ご名答。おチビさん』

 

石を見たエドは、怒りを更にこみ上げる

 

『エドワード……。こいつらが…?』

 

アスベルが、エドに質問をする

 

すると、エドは静かに頷く

 

『後、答えにしてはもう一つ足りないなぁ。』

 

エンヴィーがそう言うと、エドは辺りを見渡した。

 

そういえば、何かが足りない。

 

そうだ、何かが………

 

『……おいエンヴィー。』

 

エドは、疑問に思っていた事を口に出した

 

『……ゲーデはどこだ』

 

エドの言葉を聴いた瞬間、エンヴィーは笑顔になる。

 

『ご名答!後は考えている通りだよ。』

 

瞬間、地が動いていく音が聞こえた。

 

その音は、エドをさらに青ざめていく

 

『逃げた方が良いよぉ。来るから。また』

 

エドは、アスベルとソフィに告げた

 

『上に行けぇ!!』

 

『!?』

 

エドが叫んだ瞬間、激しく地が揺れる音がした。

 

『ちぃ!!』

 

エドは、地に突起物を練成し、地から離れた。

 

高い場所へと練成したエドと同時に、

 

モグラが、大きな叫び声を上げて暴れだした

 

『やってくれるじゃねえか…』

 

エドがそう呟いた瞬間、モグラがさらに暴れだし、

 

エドの作った柱に、ぶつかった

 

『!!』

 

柱の真ん中がオレ、エド達はバランスを崩す

 

『ああああああああああああああああああ!!』

 

『エドワードォ!!』

 

モグラは、柱にぶつかった瞬間、絶命した。

 

地に落ちれば、確実に命を吸い取られる

 

命の危険を感じたエドは、まずソフィの手を握り、

 

乗っていた柱を蹴り、大丈夫だった柱へと向かう。

 

『アスベル!!』

 

エドが叫ぶと、今度はアスベルがソフィの手を掴む。

 

一瞬、勢いは落ちたが、

 

なんとか、柱にはしがみつくことが出来た

 

『ふんっぬぅぅうううう!!』

 

一番上のエドは、一番踏ん張らなければならなかった。

 

『エド……頑張って……!』

 

ソフィが、エドの手を必死に握り締め、そう呟いた。

 

『エドォ!!』

 

『エドワード!!』

 

カロルとヴェイグが、立っていた柱の端からエドを見つめていた。

 

エドの手は、しっかりと柱を掴んでいた。

 

その点は大丈夫だった。だが

 

ベキ

 

柱が、重みに耐えられなく、落ちそうだった。

 

賢者の石の練成は、まだ続いている

 

落ちたら、確実に命を吸い取られるだろう。

 

ベキベキベキ

 

『ふんのぅううううううううううううううううう!!!』

 

エドが踏ん張り、ソフィがそれを応援する。

 

だが、アスベルはもう諦めが付いていた。

 

いずれ、このままでは落ちてしまうだろう。

 

『ソフィ』

 

アスベルがソフィを呼んだ

 

すると、ソフィがアスベルを見つめる。

 

アスベルの顔は、笑顔だった

 

『ソフィ、僕の手を離してくれ』

 

ソフィは、アスベルの言葉を上手く聞き取れなかった。

 

いや、聞き取りたくなかった。

 

『……………』

 

ソフィは、何も言わなかった。

 

『おいアスベル!!今なんて言った!!』

 

エドが、踏ん張りながら柱にしがみつく。

 

話は聞いていなかったようだ。

 

『離すんだ。ソフィ』

 

『………出来ない』

 

ソフィが、首を横に振る

 

『いや、簡単だ。出来るはずだよ』

 

『………出来ない』

 

『やらなかったら、ソフィも、エドも死ぬんだぞ。』

 

『……大丈夫。死なない。死なせない。』

 

ソフィが、強い眼差しでアスベルを見つめていた。

 

だが、柱の強度は限界に近かった

 

『ぐぅううおおおおおおおおおおお!!!!』

 

もうすぐで、柱が折れる

 

ヒビが、もう真ん中へと近づいていく

 

恐ろしい速さで。

 

だが、ソフィの目は、まっすぐだった。

 

生きる。絶対に生きてみせる

 

この三人と一緒に。

 

その目を見て、アスベルは溜息を吐いた

 

『……その目には弱いな』

 

そう言うと、ソフィは笑顔になった。

 

そして、アスベルは右手で腰からナイフを抜き取り、

 

ソフィの手を差した

 

『!!』

 

とっさの激痛から、ソフィは手を離してしまった。

 

それと同時に、アスベルは地へと引っ張られるように落ちて言った

 

『………!!』

 

エドが下を見たとき、エドは目を疑った。

 

アスベルが、下へと落ちて行っているのだ。

 

まだ、賢者の石の練成が終わっていない時に

 

『生きろ』

 

アスベルは、確かにそう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地に落ちると、もう練成は終わっていた。

 

だが、もう遅かった。

 

ソフィは、アスベルの死体にしがみついている。

 

もう動かない、アスベルの死体の服に、捕まるようにしがみついていた。

 

それを見たエンヴィーは、溜息を吐く

 

『あーあ。やっちゃったねぇ』

 

ソフィの感情を、面白がるように

 

からかうように。エンヴィーはそう言った。

 

その瞬間、ソフィの目が大きく見開き、

 

その目はエンヴィーの方へと向けられた

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

ソフィの叫びと共に、ソフィは拳に魔力を溜め、エンヴィーに向けて発射した。

 

だが、ソフィの拳は建物へとめり込み、その魔力は無駄となってしまった

 

『おーおー。怖い怖い。』

 

エンヴィーは、いつの間にか建物の上に立っていた。

 

ソフィの極限な怒りの顔が、再びエンヴィーの方へと向けられる。

 

ソフィが強く地面を蹴り、エンヴィーの居る建物の屋上へと飛んだ。

 

瞬間、エンヴィーはその攻撃を交わす

 

だが、ソフィは怯まずにまた攻撃を加えた。

 

だが、どれもこれも交わされる。

 

『ほらぁ。こっちだよお嬢さん?』

 

エンヴィーが笑いながらそう言った瞬間、練成の光が成った。

 

『?』

 

エンヴィーの足には、練成で作られた管が巻かれていた。

 

エドが、エンヴィーの動きを捕らえるように練成をしていたのだ。

 

エドの顔も、怒りで歪んでいた。

 

そして、確実にソフィの攻撃が加えられそうになった。

 

その瞬間

 

『………!!!』

 

エンヴィーは、アスベルへと姿を変えた。

 

その瞬間、ソフィの言葉を変えた

 

『ソフィ、また僕を殺す気かい?』

 

エンヴィーがそう言った瞬間、ソフィの顔が強張る。

 

どうしても攻撃が出来ない、そのまま硬直している。

 

その瞬間を、エンヴィーは逃さなかった。

 

足に絡まっている管を脚力で壊し、ソフィの腹を蹴り飛ばし、建物から突き落とした。

 

地に落ちて背中を打ったソフィは、その衝撃で血を吐いた。

 

『………!!』

 

『ソフィ!』

 

エドが叫んだ瞬間、一つの黒い影がエンヴィーの元へと走ってきた。

 

そいつを見て、エンヴィーは笑顔になる

 

『よぉ、賢者の石は出来た?』

 

エンヴィーがそう言うと、ゲーデはもう一つの赤い石をエンヴィーに見せつける。

 

それを見たエンヴィーは、愉快そうに笑う

 

『ははははは!!やっぱり後釜の賢者の石は、小さいなぁ!!まぁ、無いよりはマシかぁ』

 

エンヴィーはそう言うと、もう一つの賢者の石をゲーデに渡した。

 

するとゲーデは二つの賢者の石を口に入れ、そして飲み込んだ

 

『……うるぁああああああああああああああ!!!』

 

エドが錬金術で突起物を作り出し

 

ソフィが人造人間達の所まで歯を食いしばって駆け出し、

 

ヴェイグが、剣を引き抜いて駆け出し、

 

リオンも、呪文を唱えた

 

『ロックブレイク!!』

 

瞬間、ゲーデとエンヴィーの下に、岩の山が突き出し、二人は突き上げられる

 

それを狙い、エドは下の突起物をさらに二人に向け

 

ソフィとヴェイグが二人の元へと駆け寄る。

 

その瞬間、ゲーデが不気味な笑顔になる。

 

ゲーデの下のロックブレイクを練成し、自分の周りに球体を作り出す。

 

ソフィとヴェイグは、その球体に剣をぶつけ、拳をぶつけてしまう。

 

その瞬間、急激に球体の質量が急増し、

 

その衝撃でヴェイグとソフィが吹き飛んでしまう。

 

『ぐぅ!!』

 

『ぬぐ!!』

 

さらに、エドの練成物もその衝撃で崩れてしまった。

 

『くそっ……たれが!!』

 

それでも、ゲーデは涼しい顔で全員を見ていた。

 

その顔を見た全員は、当然面白くない顔をしている。

 

ソフィは、悲しみと怒りの表情で、そいつを睨みつけていた

 

『……アスベルを………アスベルを返して!!』

 

その瞬間、エンヴィーは冷たく言い放った

 

『じゃぁ、交換だ。』

 

その答えに、ソフィの顔が強張る

 

さらに、ゲーデが付け加えるように答えた

 

『等価交換。そうだろ?錬金術師。返して欲しければ、黒い賢者の石を渡せ』

 

『………っざっけんな。』

 

エドは、真っ先に答えを言い放った。

 

黒い賢者の石

 

前に、アルケ村を賢者の石にされたときも言われた。

 

黒い賢者の石、

 

それは精霊であり、大切な仲間であるエミルの命を代償に手に入れる石だ。

 

そんな石を、渡せるわけがなかった。

 

その様子を見て、エンヴィーは溜息を吐く

 

『………まぁ、別に返して欲しくなければ、渡さなくても良いんだけどね。そう。返して欲しくなければね』

 

エンヴィーが、念を押すようにそう答える。

 

だが、言えるはずがない。

 

”そいつらの命を、返さなくても良い”なんて

 

『………クレアは』

 

『あ?』

 

『……クレアは、今どこに居る!!』

 

ヴェイグの言葉に、ゲーデが冷たく答える

 

『知るか』

 

その言葉に、ヴェイグの表情が強張る

 

『ただ……なんだろうな。ヴェイグ……ヴェイグ…と、そんな叫び声が聞こえるな。オレの中で。』

 

その言葉を聴き、ヴェイグの目が見開く

 

『多分。そいつだろうな』

 

ゲーデがそう言った瞬間、飛び移るように他の建物、他の建物へと走って行ってしまった

 

『待ちやがれ!!』

 

『待たないよ。どうせ、居ないんだろ?エミル君』

 

エンヴィーが、興味のなさそうな顔でそう言っていた。

 

『エミルか、黒い賢者の石を持っていた。また会いに来てやるよ。じゃぁな』

 

そう言って、エンヴィーも同じ様に他の建物、他の建物へと走って行ってしまった

 

その場に、沈黙が流れた。

 

 

 

 

ソフィは、アスベルの死体に触った

 

まだ、生きているかのようだった。

 

『……アスベル』

 

だけど、呼んでも返事がない。

 

ゆすっても、一向に起きようとしなかった。

 

『………アスベル……』

 

ソフィは、アスベルの胸に顔をうずくませた。

 

ソフィの身体は、ガタガタと震えていた。

 

泣いているのだろう。

 

身体が、定期的に動いている。

 

『…………』

 

ついに、無口となった

 

何も言わず、ただアスベルの死体にしがみつく

 

もう、動かない死体だけを見つめて

 

『……………』

 

エドは、それを見て考える

 

そうだ。正しくはまだ死んでいない。

『ソフィ。』

 

エドが、ソフィに声をかける

 

『……アスベルの肉体がまだ滅んでいない限り、魂がまだゲーデの身体の中に居る状態。その状態で、ゲーデの中の魂が開放されれば、アスベルは元の身体へと戻っていく。』

 

そして、エドはかがみこんでアスベルの顔を見る

 

『そん時、アスベルは必ず生き返る、必ずだ』

 

エドの言葉に、ソフィの身体の震えは止まった。

 

『……エドワード』

 

ヴェイグの目が、真っ直ぐを向いていた。

 

希望はある。それを確信して

 

エドを信じて、前を見る目をしていた。

 

『……オレは、クレアを元に戻す為に、やる事をやろう』

 

『ああ……。そうだな』

 

ソフィの震えが止まり、ソフィは顔を上げた

 

そして、エドを見た。

 

ソフィの顔は、焔の点いた目

 

決意を固めた目だった。諦めていない目

 

『………アスベルは、まだ死んでいない……』

 

ソフィがそう言うと、エドは頷く

 

そして、エドは前を向いた

 

『………もう時間だ』

 

陽が、昇り始めていた。

 

その陽は、とても明るく、大きく悲しく

 

そして、新しい希望が生まれた。

 

これで、ウリズン帝国の計画は、幕を閉じた

説明
おそらく、シリーズ中一番長い話です。二つに分けなくて、本当に良かったのか問われる話の長さです。
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