真・恋姫無双〜君を忘れない〜 四十五話
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麗羽視点

 

「左翼、前進ですの!」

 

「遅いわ! そんなんじゃ、相手の騎馬隊に中央突破される!」

 

「も、申し訳ありませんの」

 

「謝っている暇があったら、すぐに指揮をしなさい! 戦では一瞬が勝負を分けるのよ!」

 

「は、はい! 中央を騎馬隊で分断! 然る後に両翼で各個撃破ですの!」

 

「甘いわ! 両翼で包み込んでから、騎馬隊を反転させて、さらに歩兵で殲滅させなさい!」

 

「……っ!」

 

 現在、わたくしは詠さん――師匠と模擬戦の指揮をしています。基本的に各部隊を動かすのはわたくしの役目なのですが、師匠からは厳しい言葉が投げられますの。

 

「麗羽、戦では決して後手に回らないこと。あんたの一瞬の躊躇が何千もの兵士の命を危険に晒すってことを忘れないで!」

 

 模擬戦の後で、師匠はわたくしにそう言い放ちました。まだまだわたくしの腕では、一軍を指揮することすら儘なりません。自分の力不足が腹立たしくてなりませんわ。

 

 わたくしは袁家という家柄があったからこそ、総大将として戦に立つことが出来ましたが、自分の力だけでは部隊をろくに動かすことも出来ませんでしたの。

 

 わたくしはあのとき偶然永安に逗留していただけ――実際に兵士を指揮して戦ったのは斗詩と猪々子ですもの、本来であったら、わたくしは一刀さんに仕えることもありませんでしたの。

 

 しかし、永安に迎えられたわたくしは何故か永安の危機を救った英雄のように扱われておりました。そのような名誉、わたくしは受けるに値しない人間であるというのに、人々はわたくしを誉め讃えました。

 

 そんな折、師匠から声をかけられましたの。軍師として、自分の許で学ぶ気はないかと。あの人だけは、わたくしを一人の人間として見て下さいました。袁家の当主でもなく、永安の救世主でもなく、わたくしをわたくしとして扱って下さいましたの。

 

 嬉しかったですわ。

 

 個人として扱われ、個人として評価される――それはありのままのわたくしを見てくれているということ。師匠はそれを当然のようにして下さいました。

 

 わたくしは人の役に立ちたかったのですわ。本来、わたくしは決して許されることのない人間。自分が愚かであったせいで、多くの人間を死に追いやってしまいましたの。

 

 そして、その師匠――董卓陣営に属していた月さんと詠さんは、常識で考えれば、わたくしのことを憎んでしかるべき人間でした。

 

「はぁ? あんた何を言ってるのよ? そりゃ、あの戦でボクたちは大変な目に遭ってしまったけれど、それはもう過去の話でしょ。そんな些細なことに拘ってなんかないわよ」

 

「さ、些細なことって……」

 

「あんたたちのことは許したの! それで文句ないでしょ! それに少なくともボク自身はあんたのこと、多少なりとも評価しているし、それなりにも信頼を置いているのよ。それなのに、あんたはボクのこと信用出来ないの?」

 

 ある日、思いきって、師匠に反董卓連合のことを訊きましたわ。そのとき、師匠はわたくしのことを評価している、信頼している、と仰って下さいましたの。逆にわたくしの方が叱責を受けてしまいましたわ。

 

 これまで斗詩や猪々子しかわたくしのことを信頼してくれると言ってくれた人はいませんでしたわ。だから、師匠のその想いがとても嬉しかった。他人に信頼されることがこんなにも素晴らしいことだと思いませんでしたの。

 

 だから、わたくしは決して諦めません。軍師として――戦術に関する才能も知識も、わたくしにはありませんでしたわ。しかし、わたくしを認めて下さった師匠のため、永安を必死に守る一刀さんのため、そして、何よりも永安の民のために、わたくしは自分で出来る精一杯の努力を致しますわ。

 

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斗詩視点

 

「んぅ……ん?」

 

 夜半過ぎというとき、私は用を足したくなって目が覚めてしまった。厠に行って、戻ろうとすると、麗羽様の部屋の灯りがまだ点いていることに気付いた。

 

「……麗羽様?」

 

 不信に思って徐に扉を開けてみると、麗羽様はこんな時刻だというのに、机に向かって書物を読んでいた。それに熱中しているあまり、私が部屋に入ってきたことにすら分からなかったみたい。

 

「麗羽様」

 

「あら……? 斗詩、どうしたの、こんな時間に?」

 

「それはこっちの台詞ですよ。何を読んでいるんですか?」

 

「孫氏ですわ。知識だけでも得なくては、一人前の軍師になれませんもの」

 

「はぁ……私にはちんぷんかんぷんですよ」

 

「フフフ……、わたくしもここに来るまではこんなもの見たこともありませんでしたわ」

 

「孫氏もいいですけど、無理はなさらないでくださいよ。身体を壊してしまったら、意味がないんですからね」

 

「分かっていますわ。もう少し……もう少しだけ読んだら、わたくしも休みますわ」

 

「はい、それではお休みなさい」

 

「お休みですわ」

 

 私はそのまま自室に戻り、再び床についた。

 

 翌朝、麗羽様がなかなか起きて来ないので、起こしに部屋まで向かうと、麗羽様は昨晩の状態のまま――机の上で眠っていた。

 

「斗詩ー、どうしたー?」

 

 私の後ろで文ちゃんが声を上げたので、しぃっと静かにするように制すと、麗羽様を起こさないように、音を立てないように部屋に入り、麗羽様の身体に布団を被せてあげました。

 

「どうして姫、あんなところで寝てんだ?」

 

「昨晩、かなり遅くまで軍学を学んでいたみたいだよ。全く、早く寝て下さいって言ったのに」

 

 口ではそんなことを言っていたが、心ではこんなに直向きに努力する麗羽様を見たことなかったから、心配と同時に頑張って欲しいという想いがあった。

 

「そっか、姫も頑張ってんだな。へへへ……」

 

 文ちゃんもそれを聞いて嬉しくなったのか、照れたような笑いを浮かべながら、しっかりと麗羽様の身体に布団をかけ直して上げた。

 

「文ちゃん、何か私たちに出来ることないかな?」

 

「アタイたちに? うーん、勉強なんてアタイは出来ないしなー」

 

「私もそんなの分かんないから、別に、麗羽様を喜ばせる方法を考えようよ」

 

「だけど、斗詩、お前知力34だろ? そんな頭で何か考え浮かぶのか?」

 

「こんなことに知力なんて関係ないよ……っていうか、私の知力は36だよ!」

 

「どっちも変わんないだろう?」

 

「もぉ! 文ちゃんの馬鹿! そんなことより何か良い考え、ないの?」

 

「うがー、とりあえず、アニキの許にでも行ってみるか?」

 

「御主人様のところ? そうだね!」

 

 麗羽様を喜ばせる方法を考えるために、私と文ちゃんは御主人様のところへと向かうのでした。

 

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麗羽視点

 

「……ん?」

 

 朝目覚めてみると、わたくしは机に突っ伏した状態でした。どうやら昨晩、あのまま寝てしまったようですわ。

 

 身体に布団がかけられていたので、きっと斗詩と猪々子がわたくしに気を使って、起こさずにいてくれたのですわね。昨日、斗詩に釘を刺されたばかりだというのに、きっと怒られてしまいますわ。

 

 手早く身支度を済ませて、登城して文官から上げられる政務を普段通りにこなしましたの。特に今日は何の問題もなく、仕事を片付けられたので、夕暮れ時には帰り支度を始めることが出来ましたわ。

 

 そんな折、予期せぬ訪問者が現れましたの。

 

「麗羽さん、少し時間いいですか?」

 

「あら、一刀さんではありませんの? どうかなさったんですの?」

 

「ん? いや、特に用ってほどでも……」

 

 一刀さんは視線を宙に漂わせながら逡巡して、私の質問にお茶を濁しました。特にこれといって用事がないのでしたら、どうしてわざわざ私を訪ねたのでしょう?

 

「あ、そうそう。詠から聞いているんですけど、最近、すごく頑張っているみたいですね」

 

 一刀さんはまるで思いついたことをそのまま口にしたかのような、軽い口調のまま言葉を並べました。

 

「ええ。師匠からも厳しいお言葉を頂戴しているので、もっと努力しなくてはなりませんわ」

 

「そうですか、でもあんまり無理しては駄目ですよ?」

 

「いいえ、多少無理をしなくては皆様に追いつくことすら出来ませんわ」

 

「そうかなぁ。麗羽さんは立派に軍師やっていると思うけどなぁ」

 

「そんなことありませんわ。師匠も――」

 

「詠も麗羽さんのことを認めているから厳しいことを言うんですよ」

 

「え?」

 

「俺だって、詠からしょっちゅう叱られていますけど、詠って理不尽に怒ったりはしないんですよ」

 

「…………」

 

「詠は麗羽さんに自信を持って欲しいって思っているんじゃないですか?」

 

「そんな……」

 

「以前、俺も麗羽さんの調練を紫苑さんと視察したことあるんですけど、そのとき、紫苑さんが、麗羽さんの指揮は兵士を信用していないものだって言っていました。麗羽さんは兵士のことを気遣い過ぎている、だから判断が一歩遅れるんだって」

 

「それは……」

 

「麗羽さんは自分に自信がない。でも、詠は誉めて自信を付けさせることなんて出来ないし、あんな性格していますから、ああやって厳しい言い方になってしまうんですよ」

 

 一刀さんの言葉に反論することが出来ませんでしたわ。自分に自信がない――それは無意識的に思っていたことでもありますわ。自分の過去に拘り過ぎて、自分は誇るものが何もないと思っていましたの。

 

 それは謙遜を通り越して、もはや自己否定にも等しいですわ。兵を指揮する際、自分の選択が果たして正しいのか、それが誤っていれば、多くの兵士を危地へ送り込むことになってしまう。

 

 そんな考えがわたくしの判断を鈍らせている――躊躇してしまっている。それは師匠にも指摘されたことでした。

 

「だから、麗羽さんはもっと自信を持って下さい。俺たちは麗羽さんのことを信頼していますから。もっと俺たちを、兵士たちを信頼して下さい」

 

 わたくしの頭の上にぽんと掌を乗せてそう仰る一刀さん。満面の笑みを浮かべながら、当然の如くに、この方もまた最初からわたくしのことを信じていると仰って下さいましたの。

 

「あ、そろそろいいかな。それじゃ、麗羽さん」

 

 一刀さんはそのまま何事もなかったかのようにその場を後にしました。全く、人の精神を的確に揺さぶって動揺を誘い、直後に本陣への特攻、だなんて、一刀さんこそ軍師に相応しいんじゃありませんの。

 

 思わぬ言葉に――わたくしの内面に土足で踏み込むような真似ではありましたが、不快感は一切ありませんの。それどころか、あの人は他人の内側を丸裸にしながら、それを包み込むような温かみがありますの。

 

 益州の将があの人に魅かれる理由も何となく分かるような気がしますわね。あの人はわたくしたちと真正面から向き合い、率直な言葉を吐きだすからこそ、不純な部分も見えないのでしょう。

 

「全く、一体あの人は何をしに来たのでしょう?」

 

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 それからわたくしは斗詩と猪々子の待つ屋敷へと戻りましたわ。さすがに昨晩の件もあるので、今夜は早めに休まないと本気で叱られてしまいますものね。

 

「斗詩、猪々子、ただいま戻りましたわ」

 

「斗詩! 姫がもう帰ってきたぞ! アニキの奴、もっと時間稼いでくれよ!」

 

「ど、どうしよう、文ちゃん! まだ完成してないよ!」

 

 わたくしの帰宅に気付いたのか、台所の方で斗詩と猪々子が何やら焦ったような声を出して、ばたばたと忙しく動き回る音が聞こえましたわ。

 

「斗詩? 猪々子? 何をやってらっしゃるの?」

 

「れ、麗羽様! 今、夕食を作っていますので、先にお風呂に入ってきたらどうでしょう? 今日は麗羽様のために沸かしておりますので」

 

「……そうですわね。では、先に入って参りますわ」

 

 まるでわたくしを台所に入れまいとするように、わたくしの前に立ち塞いだ斗詩の行動を不信に思いながらも、とりあえず言う通りに先にお風呂に入らせて頂くことにしましたわ。

 

 昨日、机で寝てしまったせいか、今日は身体に疲れが溜まっていたようで、お湯の温もりが身体に沁み込み、とても心地良く、少し長湯をしてから出ましたわ。

 

「斗詩、猪々子、準備は出来ましたの?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 風呂から戻ると、夕食の準備は終わっていたようで、斗詩はわたくしを出迎えてくれましたわ。しかし、食卓に並んでいる料理の中で、一品だけわたくしの知らないものがありましたの。

 

「これは……?」

 

「これは天の国で『けーき』って呼ばれるお菓子です。御主人様に頼んで作り方を教えてもらったんですよ。麗羽様が頑張り過ぎて疲れているだろうから、甘いものが良いだろうって」

 

「姫! アタイも手伝ったんだぜ! でも、時間がかかるだろうから、アニキに姫の足止めをお願いしていたんだけど、予想以上に早く帰って来ちゃうんだもんな」

 

「麗羽様、私たちは麗羽様を応援しますよ。ですけど、偶には私たちにも手伝わせてくださいね。私たちはずっと麗羽様の味方なんですから」

 

 その『けーき』の上には、少々汚かったのですが、『麗羽様、頑張れ』という文字が、白い線で書かれていましたの。二人はお世辞にも学がある方ではありませんから、きっと必死に綺麗に文字を書こうとしていたのですわね。

 

「貴女たち……」

 

「絶対美味しいから、たくさん食べて元気になった姫を見せてくださいよ! アタイたちももっと強くなれるように頑張るりますから!」

 

「そうですよ、麗羽様。私たちはどこまで一緒ですからね。益州に住む皆さんのために頑張りましょう!」

 

「分かっていますわ。二人は一生わたくしの側で尽くしてもらわないといけませんもの。二人ともわたくしからは逃げられませんのよ」

 

「はい!」

 

 元気よく頷く二人と『けーき』を食べてみた。天の国の料理とはいえ、やはり見たこともないものを食べるのは多少の勇気が必要でしたが、いざそれを口の中に入れると、何とも言えない甘みが一杯に広がる、とても美味しいものでした。

 

「うわ! これは美味しいな、斗詩! 今度アタイにもたくさん作ってくれよ!」

 

「文ちゃん、これ作るの本当に大変だったんだよ。人の苦労も知らずに、もう。でも、本当に美味しいですね、麗羽様」

 

「…………」

 

「麗羽様? お口に合いませんでしたか?」

 

「いえ、本当に美味しいですわ」

 

 この『けーき』が美味しいのは事実ですが、それ以上に、二人が一生懸命わたくしのために作ってくれたことを思うと、優しさが直接伝わってきたかのように、身体が温もりに包まれますの。

 

「姫? どうして泣いてるんですか?」

 

「え?」

 

 気付いたときには、頬を一筋の涙が伝わっておりましたの。

 

「ふふふ……これがあまりにも美味しかったからですわ」

 

 少し意地を張ってそんなことを言いましたが、横にいる二人をそっと抱き寄せました。感謝の言葉を述べると、二人とも照れ笑いを浮かべていましたが、わたくしがこれを気に入ったことに満足しているようですわ。

 

 他人の温もり――他人から信じられるということがこんなに心地良いものだなんて、ここに来るまでは知りませんでしたの。わたくしはきっと他人に対して知らない内に恐怖心を抱いていたのかもしれませんわ。

 

 他人が傷つくことを恐れ、そしてそれで自分が傷つくことを恐れた――それがきっとわたくしの指揮において、判断が遅れてしまう理由に違いないですわ。

 

 でも、軍師とは本来、味方の損害を減らす――傷つけないために智を絞る者。でしたら、わたくしが皆さんを信じないでどうしますの。自分の判断が絶対的だなんて思えませんけれど、誤っている先入観を持つのもいけませんわ。

 

 斗詩と猪々子――二人がわたくしを信じるように、わたくしが二人を信じるように、兵士の皆さんをもっと信じましょう。わたくしの采配が勝利に導くと、わたくし自身を信じましょう。

 

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一刀視点

 

 昨晩は斗詩も猪々子もケーキを上手に作れたようで、今朝早く二人して俺に感謝を言いに来た。俺自身、ケーキなんて作れるかどうか不安だったけど、上手くいって安心した。

 

 それから、今日は麗羽さんから模擬戦の視察に来て欲しいというお願いがあり、俺は城壁の上から詠と二人でその模様を観察している。

 

 麗羽さんは斗詩と猪々子の率いる部隊の総指揮をして、相手――桔梗さん率いる歩兵のみで構成された部隊を崩すことを想定した調練だ。いくら相手が歩兵だからとはいえ、桔梗さんが率いているし、何よりも兵力差がある。

 

 麗羽さんが率いている部隊が六千に対して、桔梗さんが率いるのは一万。兵力差はおよそ二倍という状態だから、素早く桔梗さんの部隊を崩さないと、包み込まれてしまったらそこで終わりである。

 

 調練が開始し、最初に動いたのは麗羽さんだった。素早く斗詩と猪々子の二千の騎馬隊を旋回させて、右翼を崩しにかかる。

 

 桔梗さんは部隊を小さく纏めながら、騎馬隊の威力を殺ぎ、隙をついては弓で応戦している。さすがに益州で一軍を率いていただけあって、桔梗さんは数の利を最大限に活かしている。

 

「詠、どう見る?」

 

「そうね……今は双方、様子見ってところかしら? それでも麗羽は相手の動きをよく見ているわ」

 

 詠の言う通り、両軍とも牽制のし合い、大した損害もないまま対峙が続けられた。

 

 勝負に出たのは桔梗さんの方だった。部隊を二分して、片方を騎馬隊の足止めをし、自らが先頭に立って、麗羽さんのいる四千の本陣へ吶喊を仕掛けた。

 

「桔梗のやつ、痺れを切らしたわね。さて、麗羽、あんたはどう動くのかしら?」

 

 おそらくここが勝負どころなのだろう。詠は食い入るように戦場を見つめていた。

 

 同じ歩兵同士のぶつかり合い――麗羽さんが四千、桔梗さんが五千、兵力だけで見れば桔梗さんの有利であった。

 

 麗羽さんは部隊を小さく纏め、一方、対照的に桔梗さんは部隊を広く展開して、麗羽さんの部隊を包み込むように動いた。

 

「麗羽のやつ……どう動く気かしら?」

 

 詠も麗羽の指揮が心配なのだろうか、しきりにその動きを気にしていた。

 

 麗羽さんの部隊包み込まれると、さすがに兵力の差もあり、徐々に押される形になっていった。詠はそれを見て、舌打ちをして、調練を終わらせる合図を出そうとした。

 

 そのときであった。

 

 背後から騎馬隊が突っ込んできて、桔梗さんの本陣が大きく乱れた。

 

 合図のために上げられた詠の手がすぐに降ろされた。

 

 騎馬隊はおよそ五百騎程度であったが、おそらく猪々子が率いているのであろう。その勢いが凄まじく、さすがの桔梗さんもすぐに反転しようと動いたが、その隙を狙って、麗羽さんが大きく軍を前進させた。

 

 そこで詠の手が動いて、調練の終了が告げられた。

 

 桔梗さん、麗羽さん、斗詩、猪々子がこちらに来た。

 

「全く、してやられた。まさかあそこで騎馬隊が向かってくるとは思わなかった」

 

「あれは麗羽の指示だったの?」

 

「はい。桔梗さんは必ず軍を二分させるから、それと同時に文ちゃんが五百騎を率いて、相手の背後から急襲するようにと」

 

 詠の質問に斗詩が答えた。なるほど、斗詩だったら、千五百の部隊で、五千の歩兵を翻弄出来ると踏んだのだろう。

 

「儂が騎馬隊の足止めするために軍を二分したのが、逆にもう一方の部隊が足止めされることになるとはの」

 

 苦笑しながらそう告げる桔梗さん。麗羽さんは、桔梗さんの性格を考慮した上で、相手が痺れを切らして動くのを冷静に待っていたわけだ。

 

 それ以上に、麗羽さんは斗詩が必ず騎馬隊で相手の動きを封じることを信じていたのだろう。千五百で五千の部隊を止めるのは、決して容易なことではないもんな。

 

「麗羽」

 

「はい」

 

 ある程度、模擬戦の状況の報告を終えた時点で、詠が麗羽さんに声をかけた。

 

「相手の動きを冷静に分析したことまでは見事だったわ。でも、それは相手を知っている状況でしか通用しない。それに、騎馬隊千五百を最初に動かした段階で、歩兵もそれに呼応させるように動かさないと、相手がもっと智に長けた人物なら罠だと悟られてしまうわ」

 

 詠の言葉はやはり厳しいものだった。模擬戦自体には勝利することが出来たが、それでも戦略としては通用しないのだと断言されているのだから。

 

 麗羽さんもその言葉に落ち込んだように、はい、と小さいを返事をするだけだった。

 

「でも、まぁ、これまでに比べたら判断も甘さがなかったし……。後手に回らなかったのだから……その、誉めてあげるわ」

 

 詠は恥ずかしそうにそう告げた。誉めるんだったら、もっと言い方があるだろうに、と苦笑してしますが、それでもこれが詠の精一杯の誉めなのだろう。

 

「師匠!」

 

 その言葉に麗羽さんも感激したらしく、思わず詠に抱きついていた。その豊かな胸に、詠の顔面が完全に埋もれてしまい、もがいているが、麗羽さんはそんなことお構いなしに、詠を抱きしめている。

 

 自信を持つってことは、そんな簡単なことじゃない。特に麗羽さんみたいな、過去を背負っている人間は、自分のことを卑下してしまう傾向が著しく高い。

 

 だけど、少しずつでもいいから、麗羽さんも自信を持てるようになるだろう。今回の模擬戦を見て、それを強く感じることが出来たし、何よりも自信家の詠の許で勉強しているんだから、きっと大丈夫だ。

 

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あとがき

 

 第四十五話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、今回は麗羽様にスポットを当ててみたのですが。正直に言って、上手く纏められた自信がありません。

 

 麗羽様が軍師になったことは、これまでの話でも触れているので、彼女がどのように軍師になり、そこで如何に努力をし続けているかという部分に焦点を当てる一方、二枚看板はそんな彼女のために何かをしてあげようと思い立つ。

 

 一刀くんにケーキの作り方を教えてもらい、それで三人の絆を再確認すると同時に、スランプに陥っていた麗羽様が一皮剥ける。

 

 そんな感じに物語を綴りたかったのですが、書けば書くほど泥沼に嵌まり、何を書きたかったのか分からなくなる始末。

 

 途中で、麗羽様が一刀くんを誘惑するような描写が浮かんだり、それに斗詩と猪々子が嫉妬を感じて、張り合うところまで書いてしまい、テーマが完全に潰えてしまったので、何度も書き直す羽目に……。

 

 麗羽様の話は書けるって最初は自信満々だったのですが、執筆してから翌日には心が折れてしまいました。

 

 そんな駄作を投稿するのは如何なものかなと思いつつ、せっかく最後まで書き切ったのだから、非難を承知で投稿してしまえと、やや自暴自棄的ですが、ご容赦ください。

 

 今回は、麗羽様を応援したい! 麗羽様の活躍に期待! と思って頂ければ成功かなと。

 

 さてさて、次回は詠にスポットを当ててみましょう。

 

 御存知の方もいらっしゃるとは思いますが、作者はツンデレが苦手です。詠を上手く書ける自信がこれっぽっちもありません。

 

 しかし、頑張って書いてみますので、温かく見守って頂けると幸いです。

相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 

説明
第四十五話の投稿です。
過去に傷を負った麗羽。彼女は己の存在を否定的に思いつつも、自分を信頼する仲間のために軍師として新しき道を歩む。そのために必要なのを、彼女はやっと手にすることが出来たのだ。
さて、今回は駄作であると断言します。それでも構わないという方は御覧ください。では、どうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。
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コメント
オレンジぺぺ様 麗羽様の才能の開花のときですね。華琳様も今の麗羽様を見れば、認めざるを得ないことでしょう。二人の邂逅がいつになるのかはまだ未定です。(マスター)
Sinブンロク様 シリアスな麗羽様ならではのお話ですね。自身の実力のなさに嘆きながらも、斗詩と猪々子に支えられて、着実に力をつけていきます。それが大陸に轟くのはいつになるのやら。(マスター)
シグシグ様 演義における袁紹も曹操に比べてたら見劣りしますが、才覚自体はある程度備わっていましたし、本来はもっとも天下に近い存在でした。原作の麗羽様は完全にボケ狙いですからね。こんな麗羽様もありかなと。(マスター)
山県阿波守景勝様 麗羽はそれなりに活躍させる予定ですよ。皆様からも愛されているようで、作者としてとても嬉しく思います。(マスター)
麗羽は袁家の出で私塾では華琳を抑えて私塾で1番だったから、本来は優秀なはずなのに袁家という枠にはめられて色々と窮屈な思いをしていたと思います。もし、麗羽が袁家を掌握していたらと思うと官渡の戦いの勝敗は逆転していたかもしれませんね。ここで麗羽が幸せそうでよかったです。(シグシグ)
成長していきますね。果たしてどこまで成長できるのか、楽しみです。(山県阿波守景勝)
shirou様 ちなみに消してしまった本文では 麗羽「一刀さん、わたくしに自信を下さりませんか?」って台詞で迫っていました(笑)(マスター)
pinnhiro様 原作とは真逆なキャラになってしまいましたからね。今回は作者の中で今いち納得がいかなかったのですよ。麗羽様の描写にしても、二枚看板との絡みにしても、中途半端ではなかったかなと。(マスター)
麗羽は原石のまま祀り上げられてしまった感ありますしねぇ、でも麗羽なら「私に自信を・・・・・・女の自信をつけさせてください」って迫りそうだなぁ。見たいなぁ。(shirou)
麗羽が軍師をするとは本家の麗羽を見てると信じられませんねw、あと駄作なんかではないでしょこれ!(pinnhiro)
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