リヴストライブ:第1話「囲われた世界の中で」part2 |
リヴストライブ
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第1話「囲われた世界の中で」part3
ほぼ同時刻、同じくプレハブの中の一室に集められた者たちがいた。
その内訳は青年一人と少女が二人である。
内装に関してはソファと観賞植物が申し訳程度に置かれ、レクリエーションルームの体裁をとっているようだ。しかし、まだまだ出来合いの感が否めない。
空調が効いているようで、やけにひんやりとしている。まるで、生まれた赤子が人肌を欲っするように、新築のプレハブは人の熱気を欲していた。
彼らは今日までに昭和と個別に面談を済ませていたが、顔を合わせるのは初めてであった。
そんな中、茶髪の小ざっぱりとした青年がふと見遣った先には、ソファーに腰掛ける少女がいた。凛として屈強な面持ち。悠々とした少女の様は、一見ふてぶてしいのに、どこか気品が感じられた。
そんな少女に青年はぶしつけに声を掛ける。
「お前、宮御前(みやごぜん)のとこのお嬢様だろ。中央地区の名門貴族様が何でこんなところにいるんだよ」
彼の名前は晴海(はるみ)鉄平。防衛学校の第五学年である。
一方、彼の言動に呼応するようにして、同学年の西堀霞(かすみ)が鉄平を弱々しく咎めた。どうやら彼女はこういう状況に弱いようだ。
「ちょっと鉄平君……」
宮御前と言われた少女は、これといって気にする素振も見せずに立ち上がり、コツコツと鉄平に迫る。お家柄というものなのか、足の運び方からして何かが違う。
彼女はなじるような目で、鉄平の人となりを一通り品定めすると、彼の顎先から睨みつけた。
鉄平は、そのゾクっとするような美しい容姿に、一瞬、怯むように困惑した。だらっと垂れた髪から覗く、エキゾチックな眼光に気圧されたのだ。
「な、なんだよ」
「………………」
少女は黙して語らず、傍目から見れば力関係は圧倒的に少女の方が上のように見える。
「あ、あの……」
霞も鉄平を咎めるより、彼をジロリと睨みつける少女の動向に、そわそわしてしまった。まるで蛇に睨まれた蛙のように。そして、目つきの鋭い少女がようやく口を開けたと思えば。
「口が悪いな」
少女は、まるで出来た姉が弟に注意でもするかのように彼に言い放った。 少女は続ける。
「服装もだらしないし、何より目上の人に対する態度がなってない」
「そ、そんなこと、てめーにとやかく言われる筋合いはねーよ」
彼女がどんな人間なのか分からないので鉄平は雲をかき分けるように、半ば当てずっぽで喧嘩腰の態度を見せつけた。しかし、少女はやれやれといった表情でまともに取り合わない。
「お前は、今まで礼儀作法というものを学んで来なかったのかい。年上に呼び捨ては感心しないよ。まったく、これからこれの相手を私がすることになるとはね……」
「ああん? 何だと、コラ! 何の話だ」
そのとき、ガチャリ、と扉が開いて栄児とリィが入ってきた。
「どうやらお取り込み中――だったようですね、栄児さん」
リィが栄児を見上げて呟く。
のっけから面倒ごとか、と眉間に皺を寄せつつ「ああ」と栄児は相槌を打った。
「誰だよ、あんた」
鉄平は、栄児に怒りの矛先を向けると、彼はそれを意に介さず、メンバーの顔を一通り見回し、一息ついてこう切り出した。
「今日から隊長として、この隊を率いることになった、防衛学校第六学年の台場栄児だ。至らぬところがあるかと思うが精一杯頑張るのでよろしく頼む」
「そうか、君が台場栄児……。私は宮御前紋匁(あやめ)だ。以後よろしく」
「ああ、もしかして、あの宮御前家の――」
宮御前の家は、海上都市では名の知れた資産家であり、古き家門なのだ。 だが、彼女はそのことをあまり良くは思っていないようで、少し顔をしかめて言う。
「そういう色眼鏡で見るのだけは止めてくれないか。気分を害すよ。まあいい、そういう君もいわゆる有名人だからね。ただの優等生君ではないんだろ?」
どうやら栄児の印象は、先日の一件によってガラッと変わってしまっていたようだ。先ほどの教官同様、あることをきっかけに見方が変わってしまうことは比較的多々あるらしい。
そして、成り行きで会話から外されてしまった鉄平は声を上げる。
「俺をシカトするなー!」
紋匁は、再度やれやれと言った表情で鉄平を見遣やるなり、面倒くさそうに言った。
「む。なんだ、うるさい奴だな。お前も、とっとと名を名乗ったらどうなんだ」
「お、おう。そうだな…………じゃなくて! あーもういいや! 俺は晴海鉄平。んでこっちが――」
鉄平は霞に親指を向けた。彼のその仕草から見て、どうやら彼らは初対面というわけではないようだ。駆け合いの中に親しみが感じられる。
「西堀霞です、鉄平君とは同じ大山商店街で育った幼馴染みというか、なんというか……。鉄平君の家がお好み焼屋で、私の家がその向かいの魚屋で――」
「霞、余計なこと言うなよ」
「え、でもだって……」
改まってよろしくお願いします、と霞はかしこまって丁寧に頭を下げた。その勢いでくせ毛が垂れ下がり、彼女は鬱陶しそうに髪を分ける。そして、クリクリとした瞳でリィを見つめた。
「それであのー……、さっきから気になっていたんだけど、あなたはだあれ?」
霞は流れでリィに聞いてみた。どうやら彼女の関心事は、この小柄な少女にあるようだ。
「どうも。汐留リィです。わたしも、みなさんと共にリヴスと戦う部隊の一員ですので以後よろしくお願いします」
一同が打ち合わせしていけでもなく、「え?」と揃って声を上げた。
思わず栄児が問いただす。
「今なんて言ったんだ? リィ、お前、田和さんの、お使い係じゃなかったのか?」
「誰がいつそんなことを言ったんですか、栄児さん。そもそもお使い係って……。そんな子供じゃあるまいし……」
「間違いなく子供だよな」
栄児が一言付け加えるもリィは、ただただ不思議そうに首を傾けている。
そこで鉄平があざけるように声を上げて笑った。
「何? ちびすけ、お前も俺たちと戦うってか。冗談だろ。こりゃあとんだ笑い物だね」
一方で、霞はリィのことを本気で心配しているようで幼児でも諭すようにたしなめようとした。リィの体格等々から見て、リヴスとの戦闘なんてまるで想像できない。一言で言うなら幼いのだ。
「あのね、リィちゃんだったよね。リィちゃん、私が言うのもなんだけど、これはとっても危険な任務だと思うのよ。もしリィちゃんが戦うにしても、もう少し大きくなってからの方が……」
そう言って霞がリィの身を案ずると、リィがメンバーの成績をつらつらと並べ立てた。イカサマをするディーラーがトランプを配るように。
「前回の防衛学校での模擬戦闘試験及び筆記試験による総合得点、百点ベースに換算すると、台場栄児、九八点。宮御前紋匁、八八点。西堀霞、七七点。晴海鉄平、六九点。汐留リィ、百点」
「えっ、まんてん?」と、やたらと手を広げて驚く霞。
紋匁も同様に驚いたようで、思わず口を挟んでしまった。
「ちょっと待て! お前は私より成績がいいというのか? しかも満点って……。そもそも、まだ模擬戦闘試験をやる学年じゃないだろうに。学校じゃ見かけない顔だが……」
実際問題、模擬戦闘試験には年齢制限があるのでリィに点数が付くこと自体がありえないことなのだ。
「そうですね。わたしは中央地区の施設で育てられましたので学校には行っていません。ですが、大学までの教育課程は施設で一通り終えています。模擬戦闘にしても、わたしは比較的幼い頃から実戦訓練を積まされてきたので、この点数結果も有り得ないことではないんですよ」
リィはケロリと言い放つ。
「何か言いたげな顔をしていますね、鉄平さん」
「な、何でもねえよ」
「まあ、そういうことなので、どうぞみなさんよろしくお願いします」
「わー、凄いんだねリィちゃんって。尊敬しちゃうよー。私なんて射撃ぐらいしか取り得がないのに、なんでここにいるんだろうって、ちょっとだけ思っちゃったりして」
このときの彼女の顔は、ささくれを剥いたあとのような少し切ない顔をしていた。まるで私には合ってないのになあ、とでも言いたげに。しかし、それでも鉄平とは対称的に、霞はやや自分を卑下しながらもリィの成績に素直に感心した。
「でも、ちっちゃくって可愛いね。これから仲良くしてくれるかな、リィちゃん」
「キュー」
「キュー?」
「あ、こら……」
と、リィが気付いた頃には彼女のワンピースの胸元から小動物が飛び出してきた。小動物はササッとリィの右肩まで駆け上がると、ころりと首をかしげた。見慣れない動物。
「おい。それは何だ、リィ」
栄児がリィを除いたメンバーの胸中を代弁する。
「あ、この際ですから、ついでに紹介しておきましょう。わたしの友達のキュー太君です。どうやらイタチ科らしいのですが、何分サイズが小さいのでよくリスに間違われてしまいます」
それを聞いて霞の目がきらきらと輝いている。可愛いものには目がないようだ。若干、鼻息が上がってるような気がする。
「へー、そうなんだあ。うんうん、キュー太君もとっても可愛いいね!」
「おいおい、何勝手に盛り上がってるんだよ、霞。そもそもコイツは――」
鉄平が何か言いかけたところで、キュー太君が鉄平に飛びかかった。
「うわ! 何すんだコイツ!」
鉄平の振り払う手を先読みするかのように、彼の身体を駆け巡るキュー太君。
「こら、てめぇ!」
「どうやら嫌われてはいないようですね」
どこまでもリィは涼しげな顔だ。
「動物に好かれる奴に悪い奴はいないというが、この男の場合はどうなんだろうな」
ふと紋匁はそんなことを素っ気なく口づいたみた。
冷えた室内は、人口密度と人の活気で段々に温もりを帯びてきたようだ。そんな空気を感じ取り、とりあえず人間関係は初対面同士にしては上々かもしれない、と栄児が思ったときである。
がちゃりとまた扉が開く。メンバーがそれに反応して顔をそっちへ向けると、彼らを集めた張本人がそこにいた。薄味な顔のその人だ。
「お、やってるな」
昭和が顔を覗かせた。
「田和さん」
と栄児が顔を上げると昭和が部屋へ足を踏み入れ、栄児らは彼の側へと寄った。
五人を見渡すと昭和は「うーん……」と何かを納得するように唸っている。 困っているというより、これはなかなか壮観だと言わんばかりの表情だ。まるで自分の集めたコレクションを遠巻きに眺めるように。栄児らが彼の仕草を不思議に思っていると、
「なかなか良いじゃないか」
彼は勝手気ままな口調で言った。
「何がですか?」
栄児がおもむろに聞き返す。この人のことだから、そこにあまり意味がなさそうだな、ということは何となく分かっていたのだが。
「あーいや、何でもない。こっちの話だ」
昭和はそう言って軽く手を振った。思わせぶりなそぶりがいちいち気にかかる人である。何を考えているのやら、と気にしても仕様がないので、栄児は核心に踏みこむことにした。
「それよりも田和さん、俺はまだ新型の武器等々で何も聞かされてませんよ。この場で説明してもらえますか」
「おう、そうだな。そこから話すか。もう既にここにいる何名かは重複してしまうことだが、確認程度に聞いていてくれ」
顔つきからして、宮御前やリィ辺りはその何名かに該当しているようだな、と栄児は察した。
「まずお前たちには、リヴスとの白兵戦をやり合ってもらうことになる」
「白兵戦?」
「新種のリヴス相手に防壁からの銃撃だけではいささか、機動力に欠けるからな」
「ちょ、ちょっと待ってください。機動力に欠けると言っても、リヴスとの白兵戦なんてどうすればいいんですか?」
「海の上だ。防壁からではなく、その外で奴らを迎撃してもらう。そのための新型武器、そのための武装だ」
「船でも出すつもりですか」
頭が堅いねえ、と言いたげに昭和が苦笑した。
「おいおい、まさかな。そんなもの奴らにかかれば、あっと言う間に木端微塵だよ。そうじゃない、お前たちがそれぞれ海の上を走り回って奴らと戦うのさ」
「海を……走る……?」
昭和の言葉に、リィと紋匁を除いたメンバーはあからさまに当惑した。その時点では、彼が何を言っているのか全くわからなかったのだ。
つづく
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リヴストライブというタイトル、オリジナル作品です。 地球上でただ一つ孤立した居住区、海上都市アクアフロンティア。 そこで展開される海獣リヴスと迎撃部隊の攻防と青春を描く小説です。 青年、少女の葛藤と自立を是非是非ご覧ください。 リヴストライブはアニメ、マンガ、小説等々のメディアミックスコンテンツですが、主に小説を軸にして展開していく予定なので、ついてきてもらえたら幸いです。 公式サイトにおいて毎週金曜日に更新で、チナミには一週遅れで投下していこうと思います。 公式サイト→http://levstolive.com |
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