鶴の恩返し−A
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昨日は疲れていたし、御坂を休ませなきゃいけねえから気が回らなかったが……

「一つ屋根の下に男女二人ってマズくないか……」

上条は美琴より先に起きてベタベタする汗をシャワーで流したわけだが……

今更になって冷静になった上条は現状を判断しそういった結論になる。

 

しかも、一昨日から今日に至るまでに美琴を可愛いし、気になる存在という位置に置いてしまっている為に意識してしまうと結構緊張してしまう。

 

美琴は昨日疲れてお風呂に入っていなかった為、シャワーを借りた訳だが……

風呂場から出てきて上条の呟きを聞いた。

「それはそうだけどさ、私としてはアンタが迷惑じゃなければこっちの方が気が楽なんだけど……」

そう言って美琴は意識しだしたのか少し頬を染めながらもそう答える

 

そんないつもとは違う、しおらしい美琴を見て実はドキドキしている上条ではあったが冷静を装いつつ

「まあ、見えてない奴とずっと一緒ってのも辛いだろうからな、そこら辺は俺が理性を保っていればいい話だしな」

と、あながち間違いではないフォローを入れつつ上条はそう言った。後半は自分への確認だ。

 

「にしても、縁田の言う通りになっちまったが……まさか御坂と同居する事になるとは考えもしなかったな」

そう上条が言った瞬間、美琴は「ちょっと待って……」と、そう言って昨日のことを思い出そうとする。

 

『困ったことがあれば上条さんを頼ってくださいね……余計な事を起こすので………』

 

「そういえば、私も昨日縁田さんに会ったんだけど……去り際にこんな事言われたわ」

そう、おかしいのだ彼は読心能力者であって、予知能力者ではないから未来の事が分かるわけがないのだ。

しかも、聞き間違いでなければ彼は、事を起すと言っているのだ。

 

「なら話は早い、俺が縁田を問い詰めれば原因だけでもわかるんじゃないのか?」

と上条は言うが

「縁田が犯人だとして、もし逃げていて学校にしばらく来ないなら一日拘束される学校は都合が悪いじゃない」

と美琴に言われた。

「うーん……確かに縁田が犯人なら学校に行かないし、この状況で御坂と別行動は得策じゃないか……」

そういう事になり、結論としては上条も休むことになるので小萌先生に事情を説明できるんだろうか?

と思いつつも電話をかけてみた。

 

〜♪〜〜♪〜〜〜♪カチャ

『もしもし、上条ちゃんですか〜?』

朝早かったので出てくれるか心配はあったものの意外と早く出てくれた事に感謝する。

 

「小萌先生、実は新学期早々またいつものやつに巻き込まれましてですね……」

そう言うと電話越しにも聞こえる大きな溜息を向こうでつかれた、というかこの説明で通じるのも嫌だな……

『まあ、いつもの事だから驚きはしないですが、でもそろそろいい加減回避して欲しいとも思うのですよ〜』

ハァ……とまた大きな溜息が聞こえた。

 

「それは、そうなんですけど……小萌先生、今回は俺じゃなくて実害があるのが大事な人なんです、だから話だけでも聞いてはもらえませんか?」

上条から大事な人と言われた美琴は嬉しさ、恥ずかしさ共にマックス状態と言ったところで顔を真っ赤にしながらニヤニヤ、モジモジしながらうつむいていた。

『それも含めて回避してくれると助かるんですけどねー、それでは上条ちゃん? 内容を聞くのですよ』

どうやら聞いてくれるようなので一息吐くと上条は話始める。

 

「それじゃ話しますよ、能力が発動しなくなったあと、友人に電話したり、知り合いに会ったりしたんですが俺以外の人に認識されなくなってるってことになってるんですが……それで………」

一応美琴の名前は出さず、要点だけの説明だったので説明し終えるまで5分はかからなかった。

『うーん、でも上条ちゃん、先生はその様な現象や能力は聞いたことがないんですよー、上条ちゃんはウソを言うような子じゃないのはわかってはいるのですけどね……』

そう困ったような口調で言う、最後の方はホントに申し訳なさそうだ。

 

「そうですか……もし時間があったら取っ掛かりでも小さなことでも調べてくれると助かるんですが……」

と上条はお願いし「俺は誰にも認識されない奴を放ってはおけないんで解決できるまでしばらく休みます」と言って電話越しに頭を下げた。

 

『ま、それも上条ちゃんらしいといいますか……とにかくですよ、こちらでも分かったら知らせるので携帯は壊さないことですよ』

と忠告を受け上条は電話を切った。

 

「ふうっ……って御坂さん、何故アナタは茹でダコの様に真っ赤のグデグデになってるんでせうか?」

美琴は大事な人宣言にニヤニヤ、モジモジから大幅に超えたグデグデ状態になっていたようです。

「いや、アンタが……恥ずかしくなるようなことを言うからでしょうが………」

アンタが……以降は声が小さく出ているのかも分からないくらい小さな呟きだった。

 

時計を見たが学生が起きるには早すぎる時間だったため

「ん? まあいいか、白井に電話するにももう少し後がいいみたいだし先に飯でも食うか」

そう言って上条はキッチンに向かっていく、それを止めるかのように美琴が前を塞ぎ

「泊めてもらうんだからご飯をくらい私が作るわよ」

そう言って上条を押し留める。

 

「いや……でもなんか悪いなって」

「いーのよ、私が好きでやるんだからアンタは気にしなくても」

そう言って美琴は上条にやさしく微笑む。

そんな風に微笑まれたら誰だって断れないんじゃないかと思う上条だった。

 

「ハア、わかったよ、美琴さんの美味しい手料理を楽しみに待っていますよ」

そう言って上条は茶化しつつ自分の言ってることで顔を赤くするのであった。

「よ、よし……待ってなさい」

楽しみという言葉から美琴はやる気を奮い立たせるのであった。

あれ、アイツ今私の事名前で呼んだわよね?

ポンッと作る前に小爆発する美琴だった。

 

・・・・・・・・・

 

「えーっと……御坂さん、これは本当に上条さん家の冷蔵庫の中身から作ったものでせうか?」

美琴が作った朝食を前に上条は唖然としている。

 

「卵とか余ってたひき肉とかは使わせてもらったけど……ちゃんと冷蔵庫の中身を使ったわよ?」

簡単に言ってのけた美琴だったが上条からすれば自分の作った朝食よりも2ランク以上も上の料理に見えるのである。

 

「いただきます……ムグムグ、ムグ」

そう言って上条は朝食に手を付け……泣いた。

「御坂さん……上条さんと、しては…女の子の手料理を食べるだけでも幸せなのですが……グスッ

あまりにも美味過ぎて涙が止まらないんですよ」

そう言い、泣いて喜びながら食べている上条を見た美琴は

 

「そんな大げさなリアクション取らなくても、し、しばらくは私が作ってあげるんだから……楽しみにしてなさい」

内心ガッツポーズで大喜びな美琴であるが悟られないように強がってみた。

「……楽しみにします」

上条はそう素直に言って恥ずかしさを隠す為に朝食にがっついた。

「うん、任せなさい……」

美琴はそんな子供っぽい上条を見て静かに微笑んでいた。

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

そう言って美琴は片付けようとするが上条に止められた。

「いいって、作ってくれたんだから片付けくらいは俺がするよ」

そう言って二人分の食器を重ねキッチンに向かう。

 

そうこうしているうちにいい時間になった為美琴の携帯を借りて白井に連絡をとることにする。

「この連絡が一番嫌な予感はするんだけどな……」

二人は同じことを感じつつも上条が口に出して言う。

 

〜〜♪カチャ

『お、お姉様!いまどちらにいらっしゃるですの!お姉様!』

開口初っ端から爆音で耳が痛くなるほどの叫び声……

「あ、あのー白井……御坂が今大変なことになっててな……」

そういった瞬間

『お、お姉様の携帯から何故、上条さんの声が聞こえますの? …………』

白井さん、後半の無言が怖いのですが……

『上条さん? お姉様は一緒にいらっしゃいますの?』

背中に嫌な汗がツーっと一筋流れる程の冷たい声

「あ、ああ昨日は電話で御坂が喋っても白井が反応しなかったから今は俺が掛けてるんだが……」

どういうことですの? と先程と同じ冷たい声……

 

「あー、今から説明する……結局信じてもらえるかは白井次第なんだが……まあ、聞いてくれ」

そう言って御坂のことを知っている白井には恥ずかしいこと以外はすべて話し、無言が返ってくる……

 

「正直信じられませんが、上条さんの真剣な声は伝わりましたのでしばらくはお姉様をよろしく頼みますの……

ただし、お姉様を傷物にするようなことがありましたらその時は……わかっていらっしゃいますよね?」

しかたないといった声で返答されたが、明らかに最後の一言だけ殺意がこもっていた。

「わかった、絶対御坂を守ると約束する」と上条は間髪いれずに答えたため

白井は呆れたのか「ハァ……これだからお姉様は惚れ……」とかブツブツ言いつつも

納得したのかお願いいたしますわと言って白井は電話を切った。

 

そうして、美琴が能力を失った二日目が始まる。

 

□ □ □

 

昨晩に時間は戻る

 

縁田汰鶴は今、似合いもしない派手なドレスを着せられ、どこかのホテルの一室の鏡の前に立たされている。

「ねえ、鶴? 今日はどんなカツラがいいかな?」

縁田に声をかけてきたのは見た目15、6歳ほどのかわいらしい白いゴスロリファッションの少女。

髪はクルクルとお姫様みたいにカールのかかっている比較的手間のかかる髪型で色は薄いピンク、瞳は淡いブルーで見た目にしては落ち着いた表情をしている。

 

「ミリ様、あまりはしゃぎますとまた転びますよ?」

縁田はその少女をミリ様と呼んだ。

「へへーん、そんな事言ってもさっき転んだばかりなんだから転ぶわけがないんだよ、あとミリ様じゃなくてあたしは……ってわわっ!」

ドンッ

自分のスカートのすそを踏んで盛大にこける。

 

「ハァ……一応、私はミリ様の彼氏兼補佐なんですからもう少ししっかりしてください、統括理事長の血縁者さん」

そう彼女は統括理事長アレイスター=クロウリーの血縁者らしい……

と言っても別段権力を与えられてるわけでもなく邪魔ならいつでも切られる存在である……

アレイスター本人からでさえも……ただ、能力が特殊な為少し自由を貰っている微妙な立ち位置の少女なのである。

縁田はそんな少女をまあ理由は別にあるとしても守りたいと思えた初めての人物

その為なら女装などの恥辱でも耐えようと思ってはいるのだが未だに若干抵抗がある……

 

「その統括理事長の血縁者とか言うのはやめなさい……あたしはそんなくだらないレッテルは要らないのです」

じゃ、気を取り直して……と金髪セミロングのカツラを被せてくる少女を鏡越しに見ていた。

少女の表情はなにを思い出したか髪にカツラをなじませながら少しずつ曇っていく。

 

「それにしても、恩人を泣かせてよかったの? 二度も」

少女は悲しそうな表情をしているがそれは彼女の知らない恩人に対してではなく縁田に向けた心配からだ。

 

「……怨まれても良いですよ、ただあの二人には幸せな一時、たとえ厳しい幻想でも、二人きりの時には幸せな幻想になるような時間が……いつもより長く、そう少しでも長く……」

恩人を悲しませた結果、どんなに怨まれようともあの二人が結果として幸せになるなら私は蔑まれよともかまわない

その様な決意を読み取った少女は

「大丈夫、どんなに人が鶴のそばを離れて行ってもあたしは鶴のそばにいてあげるよ……」

そう言って笑ってくれた……

 

実はこの少女の能力で力を貸してもらっている為この少女も蔑まれる可能性は否定できないが守ると決めた以上守り通すことは必死である。

「今、あたしのことを心配したでしょ?」

この少女には舌を巻く……なにせ、人の心から情報を得る自分の心を読んだようなことを言うのだから

 

「まぁ、否定はしませんが……」

「鶴は心配しなくてもあたしの能力は書庫にも載ってないから何も心配することはないんだよ」

そう言って縁田にメイクを施していく少女はヒマワリの様に笑う。

「分かりました……ミリ様」

この少女の優しさに包まれこの少女だけはなにがあっても守ろうと思う縁田だった。

「ミリ様じゃなくてちゃんと本名で呼んでよ、むぅ〜」

可愛く頬を膨らます少女。

 

「この件で恩返しが無事に終れば考えましょうかね」

そう言って縁田ははぐらかす

「やったあ」そう言って今度はゴソゴソと宝石箱を漁っている。

 

その漁ってる音を聞きながらこの少女と出合った時の事を思い出す。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

数年前、外国の裏路地にて

 

縁田はうつむき裏路地にたたずんでいた……

「ねえ、そこの人、なんでそんな辛そうな顔してるの?」

目の前には雨の中白いフリルの傘を差す一人の少女

「君には関係ないだろ……」

そう言って突き放すのは土砂降りでも傘を差さずにずぶ濡れになっている縁田。

 

そうだ、人なんて信用できるか……あいつらは私に表面上では対等に付き合ってるつもりでいたかも知れないが、心の中では化け物などと恐れていたじゃないか

そう、この男……縁田汰鶴は読心能力が高い為に激しい人間不信に陥ってしまっていた。

この能力は幼少の頃からのもので、未だに能力のON、OFFが自由に出来ないでいるのも人間不信の原因である。

 

「関係なくても放っておく理由にはならないよ?」

そう言って雨でビショビショになっている縁田を抱きしめてくれた。

 

「私は人の心を読む能力があるのですよ……君だってそんな人間は嫌でしょう?」

自分で言っていて涙が溢れてくる……これでこの少女も私を嫌うだろう。

 

「……人の心を読むのって辛かったでしょ? 大丈夫、あたしは気持ちと心を一緒にしておくから」

少女はそう言って縁田の手を優しく握ってくれた。

 

「このままだと風邪引いちゃうよ?」

そう言ってこの少女は自分の住んでいる近くの教会まで自分の手を引いて走って行く。

教会……か、人の心を読む化け物じみた私にもまだ、神様は目を向けてくれるんだろうか……

そう思い少女に引かれながら考えるのであった。

 

そして縁田は少女を通じて魔術という世界に足を入れることになる。

 

この心優しい少女も人に蔑まれて生きてきたことを知るのはもう少し後になってからであり、

それを知り日本の学園都市に正式に入る事で魔術を捨てる事を望み、一昨年二人でやってきたのだ……

 

・・・・・・・・・・

 

「……と、………の、…ーい」

縁田は思い出からこちらに引き戻される。

 

「ちょっと、鶴? 聞いてるの、おーい」

目と鼻の先に少女の顔があった。

 

「ねえ、鶴ってば人の話聞いてるの?」

縁田がゴメン、ゴメンと謝ったのを機に少女は身を離した。

 

「でもさ、鶴の能力って相手の声に反応するんだよね? 確か質問に声で返すと複数人でも心読めるんでしょ?」

そう言って縁田にネックレスやらを付けては外しで色々試行錯誤している。

 

「うーん、最初は私もそう思ってたんですが心を読むというよりは情報がこっちに漏れてくるような感覚が一番近いかもしれないですね、えーと、ほらルーンの魔術みたいに媒介を通して発動する感覚かな? 私の媒介は質問に答えた声って言う極めて狭いものですが、まあ読もうと思えば強制的に読めますけど……それは君への裏切りになるから絶対しませんよ」

と後半は少女が睨んできたからしっかりと宣言しておく。

 

「ま、ミリ様の能力に比べたら物珍しさとかはないですね」

とアクセサリーを付け終わった自分を鏡で確認しながら答える。

 

「私の能力って使い勝手悪いよ? 2,3人位にしか同時に使えないと思うし、今回だって御坂美琴さんの能力の『発現

の拒絶』と周囲の『認識の拒絶』の二つでほとんど半分以上能力使ってるもの」

そう、この少女に頼み2つの拒絶の能力を発動させてもらっている。

少女の能力は『拒絶貼印』で特定のものを拒絶させる能力であり、身体測定(システムスキャン)では測定不能のLv0と判定、能力的には十分Lv4以上はあるはずである。Lv5になれそうではあるが生い立ちのせいで書庫からも排斥。

ちなみに縁田の能力はLv3と言っていたが全力を出せばLv4はあると思われる。

 

「で……ミリ様、この格好で準備はいいってことでしょうけど……この後どうするんですか?」

と女装も完璧で、もはや似合わない中性的な男の姿はない……

縁田はこの後のいやーな予感を感じつつ聞いてみた。

 

「え? 裏路地のスキルアウトさん達に売りとば「やめてください、せめてミリ様の嗜好品程度にとどめて欲しいのですが……」嫌、それだけだとつまらないもの」

そうですか……嫌なんですか、しかもつまらないとか言い切りやがりますか

 

「じゃ、さっさと裏路地へ行こー」

超ゴキゲンな少女に引きずられ、裏路地へ捨てられに行く縁田がそこにいた……

 

□ □ □

 

「で……どうする御坂? お互い学校には行けそうにないし外出しても人ごみに行けばお前は辛いだろうし……」

そう上条はこの後の行動の相談を美琴に持ちかける。

美琴は周囲に見えないのだからへたに人ごみに行けばもみくちゃにされてしまうだろうし、学校に行っても欠席扱いは確実だ。

 

「うーん、なら人の少ないところでも散歩しない? さすがに部屋にこもってるだけっていうのも疲れるでしょ?」

と美琴は言ってきた。

 

「まあ、そうだな、確かにこもってるだけってのも身体に悪いしな」

そう上条が言い、じゃあいつもの公園にでも行ってみるかという事になった。

 

・・・・・・・・・・・・

 

公園についてみると流石に平日の学校のある時間なので人は誰一人いない。

「まあ静かだし、人もいないから俺らが話してても別段変な目では見られねえだろ」

そう、上条は見えているが美琴は見えないので人が傍から見ると上条が楽しそうに独り言を言ってる様に見える訳で……つまり通報されてもおかしくないほど変人に見えるわけである。

 

「そうね、あ、私飲み物買ってくるわね」

と美琴はベンチの横の例のお金を飲み込む自販に小銭を入れて普通に買う、蹴りを入れないのは少し上条を意識してだ。

 

つか、あの自販、小銭は飲みこまねえのかよ……不幸だ

夏休みのあの自販の思い出を思い出し、上条はブルーになる。

 

「アンタの分も買ったわよ? はい、ヤシの実サイダー」

サンキューと言って上条は美琴からヤシの実サイダーを受け取り、ベンチに腰掛ける。

美琴は少し勇気を出して上条の横(結構近く)に座る。

 

「それにしても御坂、お前ってヤシの実サイダー好きだよな?」

というか失敗しない限りこれを飲んでる気がするので上条は聞いた。

 

「まあね、学園都市って変わった飲み物が多いからあまり気に入るものがないのよねー」

と学園都市ならではの会話を広げる。その後も最近のことについて話し出すがしばらくしてふと美琴は考えてしまった。

今は上条がいるから美琴は落ち着いて話していられる、でも、もし上条にも見えなくなれば……と嫌な事が頭を過ぎった。

 

「おい、今もし俺にも見えなくなったらどうしよう……とか思ったんじゃねえだろうな?」

心配そうに美琴の顔を覗き込む上条が横にいた。

「大丈夫だ、俺にはこの右手『幻想殺し』がある……そんなお前が思う様な嫌な幻想は俺がぶち殺してやるよ」

と手を美琴の頭に置いてクシャクシャと雑に頭を撫でてくる。

 

「ちょ、ちょっと髪が乱れるでしょ」

と撫でられたことに対して顔を赤くするが上条は気付かない。

「ん? ああ悪ぃ悪ぃ、なんか電撃飛ばしてこない御坂ってなんか可愛くってさ…頭撫でたくなっちまったんだよな」

と後半尻すぼみになったが上条はちょっと本音を漏らしてみた。

 

「うー、子ども扱いなのか微妙なラインな気がしないでもないわ……」

美琴はこれが子ども扱いなのか可愛いからなのかがよくわからなく微妙な表情をする。

 

「それにしても、もし、これが縁田の仕業だとして、それでもやりたいことがイマイチよく分からないんだよな……

確かあいつの目標は俺に恩返しで彼女を作ること、それに対して今回起こったことは御坂が能力を失って、周囲から認識されなくなったことで……いったいなんの関係性があるんだ?」

今ここに縁田がいれば大いに嘆くだろう、上条のあまりの鈍感ぶりに

 

アンタん家に泊まってるんだから私のことを知れって意味じゃないのかと私は思うんだけど……違うのかな

美琴自身もよくはわかってはいない。しかし、もし縁田が原因で次に会うことあったら能力が戻り次第、超電磁砲でもぶっ放してやろうと思う。

 

「まっ、よくはわかんねえけど能力が戻るまでは俺が一緒にいてやるから心配すんな」

そう言って上条はニカッと笑った。

それを見て美琴はふと弾みで言ってしまった。

 

「ね、ねえ、アンタのこときょ、今日からと、ととと、当麻って呼んでいい?」

と上目遣いでウルウルと瞳を潤ませて

 

な、なんかホントに最近の御坂は可愛いというか……ってそんな瞳されたら断れないじゃないですか!

「い、いいけどよ、そんなら俺もお前のこと、み、美琴って呼ぶわ」

そうしてしばしの無言が入り……

 

「な、なあ、美琴そろそろ昼にしないか? 時間もそろそろいい頃合だし」

そう、なんだかんだで話したりしているうちに時間はお昼を回っていた。

 

「う、うーん、そうね時間も時間だしお昼にしないとね……あ、そうだ朝食を作ってる合間とか残りとかでお弁当コッソリ作ってたんだけど………食べたい?」

と頬を染めて聞いてくる美琴。

 

「そりゃすげーな、朝食であんなに美味かったんだから弁当にも期待したい上条さんです」

そう言って上条は目をキラキラさせていてまるで子供である。

 

「ま、あんまり期待されても困るんだけど……はいっこれ、と、当麻の分は少し大きめのやつにいれてきたよ」

と上条家にあったお弁当箱(何故か二つあった)の大きい方を上条に差し出した。

「おぉ、すげーじゃん美琴、これ朝の合間に作ったってすごくね?! 俺は出来ねーぞこんなの」

そう言って美琴と弁当を交互に見比べる、美琴は少しむず痒かったので軽く微笑んでみる。

 

「それじゃ、美琴センセーのありがたーいお弁当、「いただきまーす」」

いただきますだけ合わせてお弁当を食べ始める。

上条は食べながらも朝のメニューとこのお弁当のメニューの作り方などを聞きながら美琴と一緒に弁当を食べていく

 

「ごちそうさまでしたー、なんかもうこんな美味しい女の子の手作り弁当が食べられたり、朝食を戴けただけで上条

さんは幸せの涙が出てくるのですよ」

そう言って実際に涙を流すのだから美琴は苦笑いをするしかない。

 

「えっと、明日とか晩御飯とか能力治るまで作ってあげるわよ、って朝もそんなこと言わなかったかしら……」

そう美琴は言った、上条としては自分以上に美味しいものを作る、もとい女の子の手料理という嬉いイベントに嬉々としながら……あれ?俺ってこんな幸せキャラだっけとかなり不安になるのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

それから二人は河原の土手を散歩して、そのまま帰り道スーパーで夕飯の買い物をして上条の寮に戻ってきた。

傍から見れば二人はれっきとしたカップルに見えただろうが今は美琴が見えないため上条が一人寂しく土手を散歩したり寂しい食卓の材料を買ったりしてるようにしか見えないのである。

 

そして、午後7時キッチンには約束通り美琴が立っている。

 

「そういえば美琴、明日にでも白井と一回合流した方がよくないか?」

と上条が食器を出しながら聞いてくる。

 

「うーん、確かにそうね、新しい情報が入ってるかもしれないし……」

と美琴はそろそろ情報が欲しいといったように言うのだが無神経な上条が一言。

「まあ、それもあるんだが……年頃の女の子が毎日同じ下着とか服とかっていうのもどうかと……グヘッ」

途中で美琴は気付いたのか言葉が出る前に手が出ていた、今まさに使おうとしていたフライパンで一撃。

 

カァァンと鉄の打つ音が聞こえた。

 

「○☆△□@:*“#$?!!」

声にならない叫びを上げて転げまわる上条

「あ、ゴメン……い、痛かった?」

ちょっと顔を真っ青にした美琴が上条に尋ねる。

 

「い、痛て―に決まってんだろーがぁっ!……ってみ、美琴さん……えっと…なんで泣いているのでせうか?」

後半歯切れが悪くなったのは、美琴が泣いているからであり、本心としては泣きたいのは俺ですと言いながらも泣かせてしまったことに後悔して歯切れが悪くなったのである。

 

「いや、と、当麻がわ、悪いんじゃないの……グスッ、心配して言ってもらったのに自分勝手なことばっかで迷惑かけて……今もこれで思いっきり殴っちゃったし…嫌われちゃうのかなっって思ったら涙が………」

そう言って泣き続ける美琴

 

ハァ、なんていうか……ホントどうしちまったんだろうか、俺、美琴のこと好きになっちまったかも……

「なあ、美琴…俺はお前のこと嫌いになんかならねえよ、お前はお前なりに必死に今頑張ってるんだから……まあ今のはやり過ぎっちゃやり過ぎだけど、俺の言い方も配慮が足りなかったわけだしさ」

そう言って美琴の頭を撫でる、今度はクシャクシャとではなく優しく優しくフワフワと撫でるように

 

「さ、しんみりした話はお終いだ、飯にしよーぜ飯に!」

そう言って上条は美琴に背を向けた、上条の顔は真っ赤になり美琴には見せられそうになかったから

 

「うん……グスッ、ありがと」

そう言って涙を拭いた美琴はキッチンに行き夕食の準備に再び取り掛かった。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

夕食後お約束通り上条が食器を洗っている。

美琴はお風呂へ入っているので今は水の音が2つ響いている。

 

カチャカチャ……チャプン…カチャカチャ……

シャー、シャー…ザプン…ふー……

 

「……気が気じゃねえ………」

たまに風呂場から聞こえる鼻歌や溜息一つにも敏感になっておりどうも緊張してしまう上条……

しかも、先程の一件で美琴を好きになりつつある、しかし、認めたくない理由は美琴が中学生だから

「なんていうか……恋とかってやっぱ理屈じゃないんだな」

そう呟いた瞬間

 

ガチャッ

「上がったわよー」

と美琴がお風呂から上がったようだ。

 

ビクゥゥッと上条は固まり

「あ、ああわかった、今入っちまうな」

と言い上条は、洗い終わった最後の皿をカゴに入れ水を止める。

「テレビでも見ててくれ」そう言って風呂の支度をしささっと風呂場に入って行く。

 

ハァ……インデックスが住んでたときとは大違いだ………

今はイギリスで療養している暴食シスターを思い出しフフッと小さく笑う……どっちが大変だったんだろうかと

「ま、実際はどっちも楽しいんだろうけどさ……」

そう言ってお風呂に入った……

 

湯船に浸かって5分

「ん?そういえば……この湯船って美琴が入った後の残り湯……てっ!!」

そう口に出すや否や顔を真っ赤にした純情少年・上条当麻は速攻で身体など洗い手早く風呂場を出た。

 

「あれ……当麻?なんか上がるの早かったわね」

と不思議そうに上条を見る美琴がテレビを見てくつろいでいた。

 

少しは気にしないのかこのお嬢様は……

と声にならない溜息もついたがこのお嬢様は気付くわけもなく

 

「一応、黒子にメールはしてみたんだけど……どうやら明日非番みたいだから合流できるみたいよ?」

と言っても学校が終ってからなんだけどね、と美琴は言う。

 

それからまた漫画や雑誌、お互いに係わらなかった事件などを話したりして夜の11時頃には寝るかという事になり寝ることにした。

 

「それじゃ、おやすみ」

と上条が電気を消し

「うん、おやすみ当麻」

と美琴がベッドに潜ったのを見届けて上条は風呂場の浴槽ベッドに向かう。

 

こうして美琴との共同生活2日目が終った。

 

 

説明
禁書の二次創作。上琴メインのダラダラ長く書いた話のそのA。原作20巻より分岐した感じです。

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