ピースプログラム1-10/36 |
「宮川先輩」
「ん?」
オペレーションルームを出た直後、宮川に声がかけれられる。
「秋吉か。どうしたよ?」
「その……」
秋吉はなんと言葉にしていいかわからないという風に考え込んでしまう。
「……あー……そうなー」
宮川は腕を組んで目を伏せる。
「多分答えは、俺に聞かれても困る。だと思うぜ。でも多分、そうかなぁ」
「そう……ですか……」
宮川は肩をすくめる。
「何のことだか訳わかんねぇな。ただ、まだあいつに触れるのはお前だけだしよ。な?」
「……はい!ありがとうございます」
秋吉は頷く。
「あ、そうだ。次のステージいつでどこ?」
「え!?……ええっと?何のことですか?」
宮川は薄く開けた目で動揺する秋吉を見る。
「ん。ならいいや。じゃまたな」
宮川は軽く手を振って電算室の外に向かって歩き出す。
「ばれてる……かな」
「先輩達は地獄耳なり。で、なにが?」
秋吉のすぐ隣に三林が立っていた。
「んん!?なんでもないよ」
「う・か・つ。ってやつなりね。深く聞かないからちょっとうちの奥村みてやってくんない?」
秋吉は怪訝な顔をする。
「さっきの戦闘中に変なデータ拾ったんだけど、どうにも俺だとわからない領域の話なり。多分お前か澄川か、でなきゃ吉野の領域かな。グレアーノが一番適任だが」
「あたしと澄川君としぃちゃん?脈絡無くない?いくけどさ」
秋吉はコンピュータをつなぐケーブルや床に積まれたハードディスクポータブルラックで雑然としている電算室の中をすり抜け、三林のブースに向かう。
「あ。あきちゃーん、たすけてー」
二つ向こうのブースから同級生が頭を出して声をかけてくる。
「渡会はー?」
「弾道計測頼んだらスタックしてまーす」
別のところから声が返ってくる。
「澄川くーん。悪いけどちょっと渡会と代わってー」
澄川がさらに別のブースで立ち上がり、頷いてみせる。
「こら、遊んでんじゃないの!」
「へいへーい」
通りすがりにコンピューターで遊んでいた生徒を注意し、やっと目的のブースにたどり着く。
「奥村」
「助かりス。これみてください」
太り気味の生徒がかぶっていたディスプレイをとり、そのまま秋吉に差し出す。
「ん」
秋吉は差し出されたディスプレイをかぶり、サイズを小さく調整する。
「何この音?」
「それがわかんなくて困ってス」
定期的に揺らぐエンジン音のような音が雨岸には聞こえていた。
紫がかった映像、ふらふらと視界がゆれたかと思うと、遠くに見える時計塔に注目し、拡大する。時計塔の上、戦車のフォルムにかすかに緑色の揺らぎが見えた。
緑色の揺らぎにカメラが拡大すると、音の揺らぎも大きくなる。
「ビンゴなり。俺はその音聞こえないんだよ。田北先輩と雨岸先輩がシェアしてた映像なんだけど、その緑は俺のレイチェ。音探に何かフィルターかけたのと思ったけど、なんかちょっと変だろ?」
「音探にしては位置がおかしいわね」
秋吉はディスプレイをはずす。
「電磁探知出来ないくらいには妨害電磁を出してたなり。電子位相ならレーダー翼がフォルムに映ってないのが変だ。かといって他に思いつくものも無し……」
「車体と銃器にあってレーダー翼に無いもの……?」
三林は板状の簡易ディスプレイに自分のレイチェを表示させ、秋吉に手渡す。
「……ファルファデのレーダーなんてつかってるのね」
「知らなかったなり?軽いし燃費もいいから昔っから使ってるよ」
秋吉は簡易ディスプレイをトントンと叩く。
「澄川君は伝送系、しぃちゃんは探査系、アルフ君はシミュレータ系……あたしを呼んだのはカン?」
「カンなり。ただ、総合力もあるし、お前と田北先輩と奥村とに共通点がある」
秋吉は視線を三林とあわせる。
「やけにカンがいいなり。なんつうの?気配感じるとか、そんな感じ?」
「あたしは足音とか衣擦れとか聞いてるだけよ」
「自分もス」
三林は肩をすくめて見せる。
「納得できないなり」
「……でも……奥村君、破響音に色つけてこの配置再現してみてくれない?」
「うス」
奥村はディスプレイをかぶり、三台並んだコンピュータに同時にデータを入力し始める。
「破響音って……装甲振動させて強度上げるってあれなり?」
「攻撃力が絶対に上回る法則を打ち破った技術。実用化されてから10年以上経つけど、まだ非接触探知は出来てないはずよ。ファルファデの製品にはいくらかこれを使わないことで軽量省エネを実現してるのがあるはず……」
すいとディスプレイが差し出される。
「田北先輩の機体はコクピットもそスけど、センサーコーンもプロテクトかかってス」
秋吉はディスプレイをかぶる、元の映像と奥村が作った映像、そして重ね合わせた映像が映し出されている。
奥村の作ったものがいくらか鮮明だが、瓜二つといっていいものだ。
「間違いなさそうね」
「って事は……どういうことなり?」
秋吉は首をひねる。
「あたしとゆうじ先輩、奥村君にしか聞こえない音の情報を使ってこの映像を構築している?……そんな技術が実用化できれば戦闘は一変するし……」
「または田北先輩がシミュレータのバグを使ってズルしてるなり?」
秋吉はかぶったままのディスプレイ越しに三林を見つめる。
「考えたくないかもしれないなりが、そういう可能性も捨てらんないだろ?」
「……そうね……先生のところならプロテクト関係なしで全部のデータが見れるんだけど……」
「なんじゃい?」
いつの間にかすぐ後ろに扇谷が立っていた。
「……先生。これを」
「うむ?……あー。あやつめしくじりおったな」
扇谷は秋吉がさしだしたディスプレイをかぶってすぐにため息をつく。
「御存知なんですか?」
「この映像見たものは?」
三人だけが手を上げる。
扇谷はうんうんと頷いて、三人を近くに寄せる。
「上方工場の新型センサーじゃ。あやつが上方工場の研修生になっておるのはしっておるな?あやつが中核のチームでな。難点はあるが、実用化といって差し支えないので許可しとおる」
「そうだったんですね」
秋吉はほっと胸をなでおろす。
「君等ならいいじゃろ。飛行戦車の噂はきいとるな?」
「信濃先輩の戦車の発展系ですよね?」
扇谷は頷く。
「左様。あれの発表に合わせて発表する予定なんじゃよ。だからそれまで秘密。でも稼動データがほしいから、あやつだけ使っておる。君らも秘密は守ってくれるな?」
「先輩には世話になってるなり」
三人は頷く。
「善哉善哉」
扇谷は手にした扇子を開き、はたつかせながら歩み去る。
「奥村君。このデータ、シールできる?」
「やってス」
奥村はすさまじい勢いでいくつものキーボードを叩き、シミュレーションデータを部分的に暗号化していく。
「……なんでコマンドラインインターフェースなの?」
「マウスもアイポインタも遅すぎス。ブレインコントロールインターフェースがほしス」
三林は肩をすくめる。
「こいつはこういう変人なり」
「……なんで三林の機体に余裕があるのか少しわかった気がする。足りないのは運ね」
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小説というよりは随筆とか、駄文とか、原案とか言うのが正しいもの。 2000年ごろに書きはじめたものを直しつつ投稿中。 | ||
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