対魔征伐係.30「仕事の現場@」 |
「中村さん」
「お、わざわざ遠いところご苦労様」
陽が沈みかける頃。
真司は雪菜、恵理佳と共に郊外の緑豊かな田園風景が広がる森林にまで足を伸ばしていた。
周りには民家もまばらでそのほとんどが農作業や家畜飼育で生計を立てている。
そんな数少ない民家の中の一軒の家に中村をはじめ、警官たちが集まっている。
「・・・今回はまだ・・・?」
周りを見回してみると、いつもと現場の雰囲気は少し異なり、警官たちが辺りの森林を捜索している。
どうやらまだ災忌は見つかっていないようだった。
「あぁ、まだなんだよねぇ・・・今井」
やれやれとため息を吐くと共に横に居た今井に話を振る。
「はい。経緯を軽く説明すると・・・ここの主人が自分の家畜が襲われる被害に度々あっていてね。
見張りをしていたある日・・・コレがつい数時間前のこと。家畜の鳴き声で慌てて現場へ行くと災忌に遭遇」
今井はメモを片手に事情を説明する。
古い平屋の奥には大きな小屋がある。
鶏の鳴き声からすると、どうやら鶏舎になっているようだ。
「・・・それでその主人は・・・?」
「高嶺の人に連れられて屋敷へ向かったよ。相手は家畜だけ取ってスグに森の中へ消えていったそうだ」
「・・・なるほど。大体の経緯は分かりました。俺らも捜索に参加します」
主人の無事を確認すると、真司たちも森の中へ入ることにした。
「おや・・・?そちらのお嬢さんは確か・・・」
「あぁ、従兄弟の高嶺恵理佳です」
中村と今井にはまだ紹介が住んでいなかった恵理佳を紹介する。
雪菜とは既に何度か面識はある。
その時は同じく係の者と紹介しておいた。
「はじめまして、いつも兄がお世話になっています」
丁寧に挨拶をすると二人に対して軽く会釈をする。
「なるほど。やはり高嶺のお嬢さんでしたか」
中村は物珍しそうに恵理佳を観察する。
中村たちが所属する課は警察の中でも特異な部類だ。
主に真司たち係のサポート、援助を目的とする。
それ故に高嶺家との関わりも一般市民や他の警察部署よりも繋がりが深い。
初めて生で見る高嶺の一人娘に興味が湧くのも無理は無かった。
「じゃ、俺たちは向こう探してきます」
「ん、頼んだよ。コッチで見つけたらスグに知らせるから」
真司や雪菜も軽く挨拶だけ交わし、警官たちが探している方向とは逆の森の中へと捜索しに行く。
「・・・多分、ここら辺だね〜」
「マジか?」
しばらく夕暮れの森の中を歩いていると、雪菜が立ち止まり、辺りを見回す。
今までも何度か共に仕事をこなしているが、いずれも雪菜の災忌を感知する能力は外れたことが無い。
人間よりも近しい存在だから分かるのか、理由は定かではなかったが、真司にとっては貴重な情報だ。
「・・・よし、恵理佳はそこで動かずに居ろよ?」
「ん・・・」
ある程度視界の効く広い場所に出たところで恵理佳を待たせ、雪菜と二人、辺りを捜索する。
幾ら高嶺家の者だとしても、修行もしておらず、ましてや実戦など初めての恵理佳は素人同然だ。
がさっ
葉が揺れる音がした。
その微かな音に反応し、二人は臨戦態勢を取る。
「・・・観念して出て来いよ」
真司に声を掛けられ、見つかったのが分かったのか、茂みの中から人ではないモノが現れた。
全長二メートル程の巨体であり、その風貌は狼男と似ている。
所々に甲殻質なパーツがあり、要所に手触りの悪そうな毛も生えている。
その獣のような大きな口の周りには家畜のモノと思われる赤黒い血がべっとりと付着していた。
「雪菜」
「おっけー」
既に刀を抜き、戦闘態勢は整っていた真司。
後ろで控える雪菜に一言確認をした後、大地を蹴る。
真っ直ぐ向かうのではなく、斜め前方へと走り、相手との距離を詰める。
当然のように災忌は真司の方へ首を向ける。
瞬間。
ぱちんっ
雪菜の鳴らした指の音と共に、災忌は足元から見る見る凍り付いていく。
その勢いは凄まじく、まさに瞬間冷凍という言葉が適切だった。
対象を凍らせるのではなく、空間の座標を決め、特定の場所を凍らせることが出来る能力。
指を鳴らす必要性は皆無だが、本人曰く、ノリが重要とのコトだった。
「鶏の無念を晴らしに来たぜ!」
丁度相手に近づく頃には頭の先まで凍りついていた災忌へと斬りかかる真司。
既に心身ともに氷の彫刻と化していた相手は成す術も無く綺麗に真っ二つにされていった。
「・・・仕事終わりーっと・・・中村さんに報告だな」
雪菜が加わってからと言うもの、このパターンで何匹かの災忌を退治してきた。
封印が解けたあの日に巨大百足を凍らせた実力はほんの触り程度だと、雪菜と共闘を重ねるたびに実感させられた。
郁の言っていた雪菜の実力は想像以上のものだった。
そんな強力な仲間である雪菜の存在があったからこそ恵理佳も連れて来られたという気持ちもあった。
恵理佳は二人からは多少離れた位置にいる。
おかげで災忌の砕け散るところまでは見えなかったはずだ。
虫一匹すらも殺すのに躊躇する性格、なるべくならば見せたくは無かった。
「よし、雪菜。帰るぞー」
「はーい」
刀に付いた水分を払い、鞘へと収める。
雪菜と二人戻ろうとしたその時だった。
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