恋姫無双 〜決別と誓い〜 第六話 |
私は亞莎がまとめてくれた資料にもう一度目を通す。
彼女が私の指示道理に的確に動いてくれていたかが、この資料を見てわかる。
「私が退くのもそう遠くない未来かもしれんな・・・」
もう癖となってしまった独り言を私はまた口にする。
私は日々成長する教え子たちを頼もしく思つつ、教える事が無くなってきていることに少し寂しさを覚えた。
この感じは子供が親から離れていく時に感じる親の心情に近いのかもしれない・・・。
といっても、私は子を産んだこともないし育てたこともないからわからないのだが・・・。
「さて、いくか」
私は資料の入った書簡を手に取り、執務室の扉を閉める。
謁見の間に向かう途中、一人の見知った男が鍛錬をしているのを見かけたため、
声をかけることにした。
「調子はどうだ?北郷」
私の親友である北郷一刀は私の声に気づくと振り返り、笑い返してくれた。
以前の死人の様に生気のない顔つきとは違い、今は顔色もよくなり幾分元気を取り戻したかのように見える。
だがその瞳は死んでおり、今までの生き生きとした雰囲気はすでになくなっていた。
「周瑜。お早う。今日は早いな 」
「ああ。今日はちょっと野暮用があってな・・・」
私は彼に呉の今後の方針を知らせていなかった。
天の御使いという身分でない以上北郷にはこれを知る資格がなかったのが原因の一つだった。
やはり私の予想通り、彼はあの地位に甘んじる男ではなかった。
今の北郷は天の御使いの象徴であったあの白い輝く服を着ていない。
現在北郷は小蓮様と共に祭殿の指導の下、厳しい訓練を受けている。
また彼は軍師を辞め、今酒場で働いているらしく、彼を目にすることはあまりというかほとんどなかった。
私が北郷の面倒を頼もうとしたのだが祭殿は北郷の件を事前に知っていたようで祭殿自らが願い出たのであった。
「そうか・・・。大変だな」
私は北郷の素気ない返事に顔をチラリと目にやるが、表情から北郷の感情を読み取ることはできない。
北郷は見かけによらず鋭いところがある。
私が動いていることに、何か感ずいていないかと思ったのだがどうやら取り越し苦労だったようだ。
私は北郷の関心をそらすため話題をそらす。
「動きを見させてもらったがなかなか様になってきたな。
やはり祭殿の目に狂いはなかったということか」
「いや、俺なんかまだまだだよ」
「心外だな北郷。私がお世辞を云うほど器用な性格をしているとでも思っているのか?
自分に自信を持て。自分を卑下するのはお前の悪い癖だな」
彼は照れたのか、顔を赤らめて苦笑する。
褒められたことを素直に喜んでいるようである。
「それと知らせるのは早いがお前は軍への入隊が決まった。
厳しい入隊訓練があるが今のお前なら耐えられるはずだ」
国民の負担を減らすために祭殿と思春が提案(北郷がここを去る前に助言、進言したのだろう)した草案---常備軍の設営---が採用されることとなった。
入隊した者には厳しい訓練期間が課せられ、それに耐えた者は軍人として部隊に配属されることになっている。
部隊を精鋭化させるため、今まで国民の義務であった兵役を廃止し、職業化することにより効率を向上させるのがこの制度の狙いだ。
よって常備軍に入ると当然給与も与えれらるし、食事もつく。
軍そのものを職業とすることにより失業者や行き場をなくした浪人達を救済するという狙いもある。
今までは国民は税の名のもとに強制的に徴兵を受けていた。
しかし、農村で最大の労働力である成人の男性を徴兵するのは農村の生産性を低下させる結果となった。
また強制的に徴兵された国民たちは国家への税金として軍で働いているため訓練等の際、食糧や賃金等が彼らに支給されることはなかった。
つまりタダ働きの状態だ。
その結果兵士自身が練兵に意欲をなくし、王朝の兵士の質の低下を招き弱体化してしまっていた。
確かに徴兵制度は一度に大量の兵を投入できるのが長所だが、国民が兵隊になる分、錬度も低くまた数が増えることにより部隊の運営に支障をきたしがちだ。
数が多いだけでは強い軍とは云えない。幾ら武器装備が整っていてもそれを使いこなす知識を持った人間がいなければそれは宝の持ち腐れとなる。
数・錬度・装備すべてがそろって初めて強力な軍ができる。
それが我々が乱世を生き抜いてなかでごく自然に導かれた結論であった。
よって軍の徴兵そのものを廃止し、強制ではなく自主性を尊重するために身分に関係なく軍に入れる今までにない独自の志願制を打ち出した。
また国防を担う以上兵士のための衣食住を確保し、賃金を呉の平均所得よりも多く支払う、そして実力があればどんな人間でも昇進ができる等待遇の改善がなされた。
それに呉の国難打開を謳う若者たちの我々政府の不満をうまいこと逸らせたらという狙いもある。
つまり口で言うなら自分でやってみろとそうゆうことだ。
結果としてこの改革はうまくいき、この国難を打開しようと意気込む若者たちが多く軍に志願してきたのであった。
北郷はその記念すべき第一期訓練生として軍に入ることとなったのだ。
「ああ。すまないな周瑜」
「ふっ・・・。それを云うな。困ったときはお互い様だろう?」
「ああ。そうだな・・・」
「あとはお前がやるだけだ。
待ってるぞ北郷」
「ああ!!有難う周瑜」
北郷は私に礼をすると、再び鍛錬へと戻っていく。
また私も彼の邪魔にならないよう踵を返し目的地へと急ぐことにした。
私は謁見の間へと向かいながら先月にあった祭殿からの報告を顧みていた。
祭殿に北郷のことで何かあったら知らせてほしいと頼んでいたのだが、祭殿の報告はまたしても私の
予想を遥かに超えた内容であった。
「北郷はもうこの国の正規兵に匹敵する力を持っておる。
あやつの成長の速さは凄まじいの一言に尽きる。
・・・近いうちに儂、いやあの思春さえも超える力をあの小僧はつけるかもしれんの」
祭は珍しく思案顔を覗かせてそう報告してきた。
「・・・・本当ですか?」
「儂は嘘などつかんぞ。
それにまだ負け越してはおるが小蓮様との組み合いで何度か勝っておるのを儂はこの目で見ておる」
「あの小蓮様に・・・・?」
私は驚きを隠せなかった。
小蓮様はまだ幼さと実戦での経験が浅いため武術に関しては呉の将と比べると見劣りするところがある。
しかし小蓮様は先代の王孫堅の血を継いでいるだけありここ最近の成長は著しく、今では一般兵を凌ぐ実力を持ち始めていた。
以前北郷が天の御使いの時に小蓮様と手合せをしたことがあったがまったく歯が立たなかったのは記憶に新しい。
だが今少なからず勝利しているとなると、北郷の成長は小蓮様それをを凌駕しているということになる。
彼がこのような凄まじい速度で成長するのを誰が予測できたであろうか?
私は思わず頬を緩めた。
あの虫さえ殺せないような優男だった彼が将来を渇望される人物になりつつあることに私は驚きを超え、嬉しさを感じていたのだ。
「ふふっ・・・。彼にはいつも驚かされてばかりですね」
「うむ。
ここまで儂の期待を良い意味で裏切った男は初めてじゃな」
「もっともです」
二人はそう云うと互いに声を出して笑ったが私の胸の奥には懸念というか不安というか何かモヤモヤした蟠りが胸に残る。
急激な成長、変化に彼は本当についていけてるのだろうか?と。
雪蓮が死んでまだ心の傷が癒されてないのに人を殺すという精神に負担がかかる行為をするわけだ。
彼の心の芯の強さはもちろん知ってはいるが、幾重の戦場を駆け抜けた英傑たちのその末路は必ずしも輝かしいものではない。
雪蓮も人を殺すことに快感を覚える自分とそれを嫌悪する自分とで挟み撃ちにあっていた。
それを誰かと体を重ねることで解消する自分にも吐き気がすると言っていたのだ。
彼は本当に大丈夫なのだろうか?
だが暫く笑いの後、それらの懸念を言うはずもなく私は彼の進退ついてへと話題を移した。
私はそれが間違っていると思っていても彼の行為をできる限り支援していきたい。
彼が雪蓮の生き様と死に様を見たとき何を学んだかを私が見届ける権利がある。
「ところで彼はどうします?」
「来月にも軍に入れようかと思っておるが
それで良いか?」
「・・・・ええ。構いませんよ。一兵卒の兵士の人事は私が口を出すところではないので・・・。
彼を宜しく頼みます」
「おう!!
任せておけ!!儂が立派な将に育て上げてみせるぞ」
そう云った彼女は子供のような無邪気な笑顔をみせ嬉しそうだった。
子供がいない彼女は北郷を自分の息子の様に見ているのであろう。
もっとも、そんなことは本人には口に出して云えないが・・・・。
「はい。期待してます」
私は快く彼女に相槌をうった。
だが・・・・こうして振り返ると北郷は私に大きな影響を与えたと思う。
------切磋琢磨------
北郷との関係はこの一言に尽きた。
さっきのような北郷の話を聞くと私も負けていられない気持ちになるし、またそう云った気持ちで仕事に臨めることにより私自身も充実感で満たされるのである。
彼の成長は結果としては私を大いに奮い立たせ、私が以前抱いた懸念などもはやない。
私は一人苦笑しながら呟く。
「・・・・ふっ。これじゃどっちが強いか判らんな・・・・」
そうやってあれこれと回想しているうちに何時も間にか謁見の間へとたどり着いていた。
今日は何時になく豪華な装飾品が幾つも飾られており、いつもとは違った雰囲気を醸し出している。
理由は当然、魏の慰問団が来るためだ。
ふと辺りを見回すと、あたふたとした言動が目立ち見るからに緊張しているのがわかる女性がいた。
私はその女性に声をかけてみる。
「お早う。亞莎」
「!!」
私の声に亞莎は気が付くと彼女は絡繰り人形のようなぎこちない動きで振り返り、私に礼をする。
「お、お早うございます。冥琳様」
「そんなに緊張するな。
お前が交渉に立つわけではないのだろ?」
「仰る通りです。ですがもし私が作成した資料に不備があったらと考えたら・・・・」
そう云う彼女の顔は蒼白で緊張は最高潮に達しているように思えた。
無理はない。
彼女の背中には呉の命運という大きな荷物が重くのしかかっているのだから・・・・・。
「ここじゃなんだ。
すこし話そう」
「は、はい」
私は残った者に指示をだし亞莎を外へと連れて行った。
外の出るとからくり人形と化している亞莎に優しく語りかける。
「・・・・実はな亞莎。
お前をこの任務に就かせるよう蓮華様に推薦したのは私だ」
「冥琳様がですか?」
亞莎は心底驚いたようで、驚きのあまり片眼鏡がずれ落ちている。
「どうして私なのですか?」
「お前が以前いたのは部隊は何処だ?」
「・・・第一六独立部隊ですが?」
私がいきなり的外れな質問を投げかけたからか、亞莎は訝しげに答えたが私は亞莎に構わず話を続ける。
「そうだ。お前は元々は思春が指揮する特殊部隊の一人だった。
そこが今回私が推薦した理由だ。
我々軍師は武官ではない。
我々が出来ると思って出す指示が、彼らにとって果てしなく達成困難な任務であるというのが多々ある。
参謀と現地のその時の現状の認識に大きな隔たりが発生してしまうのだ。
それは私でも例外ではない。
現にお前も軍議の際、私と祭殿が言い争っているのを幾度となく見ているだろう?」
「はい」
「我々も現状を把握して作戦を立案しているがそれでもその大きな隔たりが無くなることはない。
しかしお前は違う。
お前は武官の仕事の本質を理解している数少ない軍師だ。
今回の間諜の指示は諜報活動を理解しているに者しか出来ない。
なぜなら今回の諜報活動はいつもより細かい指示や助言が必要となるからだ。
お前は私の思った通り的確な指示、助言を間諜に与え結果として相手にとって致命的となる情報を私にもたらしてくれた」
「・・・・・・・冥琳様」
「最後は私が責任をもってこれを使わせてもらう。
よくやった。
後は任せろ」
「はい!」
元気のよい反応が返ってくる。
亞莎の目尻に光るものが見えたがそれを指摘するのは野暮というものだろう。
「さあ、話は終わりだ。
明命と思春に慰問団の護衛部隊を編成するように伝えてくれ」
「はい。
数は如何しますか?」
「できるだけ少なく頼む」
「わかりました。
では失礼します」
亞莎は私に一礼しパタパタと走って去っていくのを私は見届けると、私も準備のため踵を返した。
どうもコックです。
長らくお待たせしてすみませんでした。
大学のテスト等で多忙を極めておりまして(-_-;)
さて、第六話どうでしたか?
私自身内容が薄くなってしまったなぁ〜と反省しております。
すみません。
私の力不足です。
しばらくは冥琳視点が続きます。
ご了承ください。
実はこの物語の主人公実は冥琳なのかも(^^ゞ
ひ〇ぐらしの梨花ちゃんみたいなかんじで・・・・。
この話が一息ついたら北郷さんがまたメインになりますので。
次は早めに出したい・・・・ので読んでくれたら幸いです。
でわでわ(^o^)/
説明 | ||
遅くなりすみません。 誤字脱字等指摘おねがいします。 |
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コメント | ||
天の御使いとう身分でない⇒天の御使いという身分でない(黄金拍車) ご指摘ありがとうございます。 編集し直しましたのでご安心ください。(コック) あれ?ラスト、ページが分かれてない…(nakatak) |
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北郷一刀 蓮華 呉 冥琳 蜀 | ||
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