対魔征伐係.32「プール開き@」 |
満開だった桜も散り、木々が青々と染まり行く季節。
日差しはより強くなり、日没の時間は遅くなる。
いよいよ夏がやってきた、そんなある日。
「遂に・・・遂にこの日が来たなぁ、おい!!」
「・・・テンションたけぇな・・・」
夏の日差しが照りつける屋外で太陽に向かって両手を翳し、叫ぶ凌空。
隣では呆れ顔の真司がだらけて座っていた。
「しかし・・・今年はてっきり楽しみにはしていないと思っていたんだがな」
「何言ってるんだ。確かに俺も最初は今年はどうだっていいと思っていたさ・・・だがな・・・」
凌空はぐっと腹に言葉と力を溜める。
「今年は郁先生がいるじゃないかーッ!!!」
「・・・なるほど・・・」
今日は鎮守高校のプール開きの日だった。
去年までの凌空は上級生のスク水姿が拝めるとプールのある日はハイテンションだった。
だが、今年は自分たちが最上級生になってしまったため、どうなるのかと思っていた真司だったが・・・
どうやら目標が変わったらしい。
そして、相変わらず同級生は眼中にないようだ。
「何だ何だ、テンション低いなぁ?郁先生の話になると妙に盛り下がる気がするのは気のせいか・・・?」
「・・・いや、まぁ・・・ほら、凌空と違って俺には気になるヤツも居ないからさ」
正直に師弟関係を言えるはずも無く、口からでまかせを言う。
二人がそんなくだらない話をしている最中もプールサイドにはクラスメイトたちがどんどん集まってくる。
皆、一年ぶりの学校のプールでそれぞれがいつもよりテンションが高い気がする。
「何言ってんだよ、真司には雪菜ちゃんが居るだろ?」
「・・・いやー・・・ないなぁ・・・多分」
凌空に言われて周りを見てみるが雪菜の姿は無い。
初めての水着で手間取っているのだろう。
(・・・雪女が水着・・・シュールだな・・・)
雪菜がプールに入ると水温が下がるんじゃないか。そんなくだらないことが頭に過ぎった。
「んじゃぁ・・・恵理佳ちゃんはどうだ?」
「もっとないな・・・そもそも妹だしな」
また凌空に言われて恵理佳の水着姿を想像する。
去年と同じくまた胸を気にしている様が手に取るように分かった。
「何だ何だ・・・じゃあ俺と同じで年上しか興味ないとかか?」
「馬鹿言うな、俺は同級生だってバッチリ守備範囲だ」
言いつつ普段とは違い、肌を露にしているクラスの女子たちを観察する真司。
凌空もまったりと観察に参加する。
「「・・・・・・」」
照り付ける日差しの下、ぼーっと女子の水着姿を眺めていた。
「・・・二人とも、もうすぐ始業の時間なんだからそんな所に座ってないでちゃんと並んでなさい」
気がつけば目の前に綾音が仁王立ちしていた。
相変わらずハリネズミのようなトゲトゲしい口調だった。
「了解ー」
小言を言われるのを嫌がってか凌空はそそくさと立ち上がりクラスメイトたちが集まっている方へと小走りで駆け寄っていった。
「ほら、日比谷クンも」
「・・・」
座ったまま、ボケッと綾音を見上げている真司。
「・・・?何、どうしたの?」
「いや、まぁ・・・そういえばなーと・・・」
以前に一緒に風呂に入った時に見た綾音の裸体はキッチリ記憶していた。
「ッ・・・!?」
見る見る紅潮して行く綾音。
そして・・・
・・・・・・・・・
「・・・真司・・・またセクハラ発言でもしたのか?」
「・・・馬鹿言うな・・・んなわけないだろ」
「・・・そんな顔で言われても説得力は無いぜ?」
「・・・」
先生が来るまで整列し、座って待つのが体育前の決まりごとだ。
プールのときも例外ではなく、プールサイドにきちっと並んで待機していた。
待機中の真司の頬には季節外れの紅葉が咲いていた。
「待たせたわね」
入り口の方から郁先生が入って来た。
同時に・・・
「うぉー!郁せんせぇーいぃー!!」
凌空を始め、男子たちが一斉に騒ぎ出す。
(・・・まぁ、分からんでもないが・・・)
普段から露出の少ない服装しか見せたことのない郁の水着姿の効果は絶大だった。
見慣れない露出の多い郁は流石の真司もついつい見入ってしまうほどだ。
「えー、それで・・・今日の授業なんだけど」
郁が話し始めると先ほどまでの騒ぎが嘘のように静かになる。
どれほど浮かれていても郁の恐怖は忘れることはないのだ。
「本来ならば、泳ぎの練習をする時間なんだけどー・・・」
少しだけ考え込むような仕草を取る。
そして・・・
「せっかくのプール開きだし、今回は自由時間にしましょうか」
笑顔で自由時間を宣言する郁。
同時にクラスメイトたちが一斉に歓喜の声をあげる。
「ただし、キチンと準備運動はしてからよ」
最後に教師らしい注意だけすると郁は羽織っていたジャンバーを脱ぎ、運動をする準備を始める。
(・・・単純に師匠が遊びたかっただけなんじゃ・・・)
クラスメイトたちがぱっぱと準備運動をする中、一人冷静に突っ込みを入れていた真司だった。
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