対魔征伐係.33「プール開きA」 |
「さて・・・どうするか・・・」
郁の粋な計らいで今年最初の水泳の授業は自由時間となったクラスメイトたちは思い思いの過ごし方でプールを満喫していた。
そんな様子をプールサイドから眺めている真司。
先ほどまで隣で準備運動をしていた凌空はテキパキと運動を完了させ、郁先生の下へ走り去っていった。
(お・・・?アレは・・・)
クラスメイトたちが泳ぎ、遊んでいるプールの隅に良く知った顔が見えた。
特にすることも無かったのでプールサイドを歩いて近づいていく。
「よぅ、こんな隅で一人何してるんだ?」
「ひ、日比谷クン!?」
プールに浸かって何やら考え事をしていた綾音に話し掛ける。
「・・・練習よ、水泳の授業なんだから。当然でしょ?」
そう答える表情は何故か不機嫌そうだった。
「あー・・・そういえば委員長は泳げないんだったか?」
「・・・だから練習しているんじゃない・・・」
去年の水泳の授業を思い出す。
運動神経抜群の綾音がカナヅチだったと知って驚いた記憶があった。
「まぁ、そうだな」
「・・・ふん」
いつものように笑顔で話す真司に馬鹿にされたと思ったのか、その場を離れようとする綾音。
「いや、委員長らしいなと」
「どういうことよ・・?」
その場に留まってくれたのを確認し、真司もプールサイドに腰を下ろす。
「何人かカナヅチのヤツに出会ってきたけど、大体は泳げないまま適当に授業受けてなぁなぁで終わりにしていたもんだ」
「・・・そう、なの?」
「だから苦手な水泳に頑張って挑む姿勢が委員長らしいなと思っただけさ」
「別に・・・」
妙に気恥ずかしくなりその先の言葉は続かなかった。
「しかし、それなら何で友達に教えてもらわないんだ?」
口煩く、性格も厳しい綾音だが、男女共々人気はある。
少なくともこのクラスの中では綾音が頼めば決して無下には断るようなことをする輩はいないだろう。
ならば今こうして一人で練習している理由がイマイチ理解できなかった。
「せっかくの解禁日で自由時間なのよ?わざわざ付き合わせることなんて出来るわけ無いじゃない」
断言されてしまった。
「じゃ、俺が教えてやるよ」
言いつつ真司もプールの中へ飛び込む。
「い、いいわよ!一人で十分だから!」
「そんな調子で他のヤツの誘いも断ってきたんだな・・・」
その光景が眼に浮かぶようだ。
がしっ
「それで、どれくらい泳げるんだ?」
「ちょ、は、離してよ!」
とりあえず綾音が逃げないように腕を掴んでおく。
「あまり騒ぐと目立つぞ?」
「う・・・じ、十・・・メートルくらい・・・」
目立ちたくないからこそこんな隅で練習していた綾音に取っては十分な効果を持つ脅迫文だった。
「・・・本当か・・・?」
「・・・上手く行ったときは・・・」
妙にそわそわしつつの応答だったので突っ込んでみると案の定だった。
「で、でも、昔は水に顔も付けられなかったんだから!!」
真司のやっぱりな。的な顔を見て思わずフォローする綾音。
「威張って言うことでもないがな」
「うぅ・・・そ、そうだけど・・・」
弱点を突かれると人間はこうも変わるものなのか。
いつもの強気は何処へやら。何処にでも居る可愛い少女になっていた。
「ま、いいとして・・・引っ張ってやるからバタ足でとりあえず慣れるとこからか」
「わ、分かった・・・」
あれほど嫌だ嫌だと言っていた綾音だったが、真司の強引な誘いに気がつけば負けていた。
それからはしばらく二人で特訓に励んでいた。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
・・・・・・
「しぃーんじぃー!!」
綾音と二人、泳ぎの特訓をしている最中、真司の背後から戦慄の明るい声が聞こえてきた。
「・・・嫌な予感がするぜ・・・」
とりあえず予測は出来たので綾音の腕を離し、多少距離を取らせる。
「・・・?」
いきなり腕を離された綾音は状況を理解できていない。
だきっ
「せっかくの自由時間なんだしー、水遊びしようよ〜♪」
「・・・友達はどうした・・・」
例によって腕にしっかりと抱きつきながら甘えるような声で誘ってくる雪菜。
雪菜は先ほどまで友達数人と遊んでいたのを確認していた。
「そのみんなが真司と綾音がいい雰囲気だねって教えてくれたんだから」
「「いい雰囲気・・・?」」
ご機嫌斜め顔でチクリを報告する雪菜。
そして第三者から見た雰囲気に自覚症状の無い当事者たち。
「そんなんじゃなくてだな・・・俺は今、委員長に泳ぎ方を教えているから忙しいんだ」
勘違いをとりあえず正しておき、理由を伝える。
「えぇ〜!?そんな教えるのなんてほかの人に任せておけばいいじゃない〜」
更に不服そうな顔でぐいぐいと引っ張ってくる雪菜。
「危ないからそんな引っ張るなって」
力強く引っ張られるたびに二の腕付近に心地よい感触が伝わる。
決して大きくはないが形の良い雪菜の胸がしっかりと当たっていた。
(・・・これはこれで・・・じゃなくて)
思わず現状を維持したくなる下心を吐き捨て、説得に当たる。
ぐいっ
「ちょっと・・・日比谷クンは今私に教えてくれているんだから雪菜さんこそ他のお友達と遊んできたらどう?」
「お・・・」
雪菜に抱き疲れていた腕とは逆の腕を同じように綾音に引っ張られる。
「何言ってるの?練習なんて一人でも出来るじゃない」
「泳ぐことも一人で出来るわよね?」
(・・・天国と地獄は紙一重か・・・)
目の前で繰り広げられるプチ修羅場。
そして両腕に確かに感じる幸せな感触。
まさに天国と地獄が一体化していた。
「・・・じゃあこうしよう。雪菜が綾音に泳ぎを教える。そして終わったら俺と遊ぶ」
流石に目の前の修羅場に耐え切れなくなった真司は打開策を講じた。
「「え・・・?」」
突然の提案に驚きを隠せない二人。
「じゃ、そういうことで・・・頼んだぜ、雪菜!」
「え?ちょ、しんじぃ!」
言いつつそそくさとその場を離れる真司。
「委員長も仲良く頑張ってなー」
「ひ、日比谷クン?」
綾音に聞こえたということだけ確認すると泳いですぐさまその場を離れた。
(・・・修羅場から開放され、二人は仲良くなって・・・一石二鳥じゃないか)
とりあえず自分に都合の良い様に解釈をして二人から離れつつ自由時間を満喫することにした真司だった。
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