two in one ハンターズムーン6「放課後」
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   6 放課後

 

 双葉と茉莉絵は放課後の校内を歩いていた。別に目的があるわけではなく、教室から逃げてきたというのが正しい。

 転校初日は、双葉にとって過酷な一日であった。今までの学校より、男子生徒達が積極的で、人見知りをする双葉にとっては緊張の連続だった。見かねた一葉が半分以上ホストを替わってくれたのだが、それでも双葉は疲れ果ててしまっている。

 お祭りみたいな状況が休み時間毎に続き、それが放課後まで続くとさすがの一葉でもいい加減疲れてしまう。と言うより呆れていた。

 そんな状況を何度となく茉莉絵が助けてくれたのだが、放課後まで双葉に群がる男子生徒を蹴散らし逃げるように教室から連れ出してくれたのだった。

「双葉ちゃん。すっごい人気だね」

「そんなに珍しいんですか。転校生って?」

 双葉が美少女だと言うこともあるが、ここまで来ると転校生が珍しいと言った方がいいような気がする。

「確かに転校生なんて一度も来たことがないからね。それにここって結構閉鎖的でさ。街に遊びに行くのも親がうるさくって外の情報が入ってこないんだよね。だから、外から来た人が珍しいのは確だよ。でも、双葉ちゃんが可愛いのが一番かな」

「そんなことないですよ。宮上さんの方がステキです」

「ありがとう。それと茉莉絵でいいよ。私も『双葉ちゃん』って呼んでるんだから、もっと気軽に呼んでよ」

「はい。なるべくそうします」

 双葉は小さな笑みを作って頷いた。なんだか今日初めて会ったような気がしない。きっと茉莉絵の人なつっこさが、そうさせているのだろうが、初日からこんなに話せるなど双葉には珍しいことだった。

「それより、双葉ちゃん前の学校で、なにかクラブに入ってたの?」

「えっと……空手部と剣道部に……」

「えっ、意外! 双葉ちゃんが格闘技やってたなんて……言っちゃ悪いけど咲耶達みたいなタイプかと思ってた。運動神経いいんだ」

「そんなことないですけど……」

 当然、双葉がやっていたわけではない。元々剣道をやっていたのだが、格闘技イベントをテレビで見て、一葉がどうしても空手をやりたいと言ったので渋々同意しただけだ。そんな双葉の行動は、前の学校でも「七不思議」と言われる程の出来事になっている。

 そんなこととは知らない茉莉絵は、珍しい物を見るような視線を双葉に向けた。

「そうかぁ、人は見かけによらないって言う言葉は、双葉ちゃんのためにある言葉なのかもしれないね。明日あたり男連中に教えてあげよ。すっご?く強いってことにしてさ。きっとみんな驚くよ」

「そ、そんな……やめて下さいよ。宮上さん」

「茉莉絵!」

「あっ……えっと、茉莉……絵さん」

「『さん』もナシ、そんな言い方されたことないから、気持ち悪いよ」

「じゃ、じゃあ、茉莉絵ちゃん……」

「まぁ、それでいいでしょ。でも、ホント格闘技なんかやってるように見えないよ。もしかして、自分を強くしようと思ってやってたの?」

 普通に考えればそこにたどり着く、こんなにおどおどした双葉の態度からはどうしても格闘技をやっているようには見えない。やっていたと言っても、たいしたことはないだろうと勝手な判断をするのも当然だ。

 しかし、やっているのは運動神経抜群の一葉なのだから、空手をやり始めて一ヶ月あまりで、黒帯程度の力量まで上がってしまっていることを茉莉絵が知るよしもない。

「でも、強いってことにしておけば、うるさい男共を追っ払えるじゃない。あっ、双葉ちゃんもしかしてチヤホヤされるの好きだったりして」

「そんなことない。恥ずかしくて死んじゃいそう!」

「わっ」

 意外なほど素早い反応に、茉莉絵の方が驚いてしまった。心底嫌がっているのがわかる。本当にこうしていると守ってあげたくなるタイプだ。

「驚いたぁ……冗談だよ。双葉ちゃんがそう言うので喜ぶタイプじゃないのは大体わかるよ。だって、今の双葉ちゃんは、咲耶達みたいだからね。でもホントそんなんで、格闘技やってるなんて信じられないよ。まぁ、せっかく逃げ出してきたことだし、クラブでも案内してあげるよ。結構この学校はクラブ活動が盛んなんだ。みんなどっかしらのクラブに入ってるんだから。っていっても、クラブの他なにもやることがないって言った方がいいんだけどね」

 確かに小さい町なので娯楽が少ない。血気盛んな若者としては、有り余るエネルギーをクラブ活動で発散しなくては爆発してしまうのだろう。

 こうして茉莉絵は、双葉の手を引くと色々なクラブを案内してくれた。取りあえず文系から体育会系のクラブまで一通り見て回る。小さな学校なので、転校生の噂はみんな知っているらしく、双葉が顔を出すとみんな勧誘に躍起になっていた。殆どの生徒がクラブを掛け持ちしているのだが、団体競技をやっているクラブは常に部員不足に悩まされているので、その勧誘はすさまじかった。途中から部員が増えることがないのだからわからないでもない。

 それらの勧誘を「今日は見学だけ」と茉莉絵がうまくかわし、なんとか色々見て回ることができた。そして、最後に体育館横にある剣道場へ向かう。

「さぁ、最後は、双葉ちゃん待望の剣道部かな。うちの学校、全国大会なんかには出てなけど剣道部はきっと全国でもトップクラスだと思うよ」

「そんなに強いんですか」

 こんな山間の学校に、剣道の強者達がいようとは思っても見なかった。その言葉を聞いた途端、双葉はともかく一葉が胸をワクワクさせている。その影響が双葉の顔にも出ているらしく、茉莉絵は少し意外そうな顔をしていた。双葉が剣道をやっていたことを信用していなかったらしい。

「本当に、剣道やってたんだね。なんだか凄く嬉しそうな顔してるよ。でも、ちょっと言葉が足りなかったかな。剣道部が強いんじゃなくて剣道部の部長が強いだけなんだ」

「そんなに部長さんって凄いんですか」

「そりゃもう。あれは人間の強さじゃないって感じ。その部長って、咲耶達のお兄さんなんだよ。それに、この土地に昔からある月神神社の次の宮司なの。そんでもって、チョ?格好良くって生徒会長と来れば、そりゃもうモテるのは当然! ファンクラブまであるんだから」

 まるで、ドラマやマンガに出てくるような人物だ。そんな凄い人物が本当にいるのだろうか、格好いいというのは別にして、人間以上の強さを持った人物に、一葉は興味を持ち始めている。

〈早く行こう。ねっねっ〉

《もう、一葉ちゃんったら、慌てないでよ》

 茉莉絵の手前もある。ここで突然走り出したら変な女の子に思われてしまうので、一葉の意見を却下した。

 それに道場は直ぐ目の前だ。慌てる必要もない。

「ここが、剣道部の道場だよ」

 開け放たれた扉から、中を覗くと生徒数が少ないわりに、道場は埋まっていた。女生徒もかなり多く見受けられるが、それはきっと部長目当てで入部したに違いないことは、着慣れていない道着を見ればわかる。

 だが、多くの部員がいるにもかかわらず、道場内は静まりかえっていた。練習試合をやっているらしいのだが、その様子がどうもおかしい。片方の生徒は防具に身を包んでいるというのに、もう一人は白い道着を着ているだけで防具など着けていない。しかも、竹刀もちゃんと構えていないではないか。それなのに防具を付けている生徒は打ち込んでいくことができずにいる。

 ただ立っているだけに見えるが、隙なく佇む姿に動けないでいるのだ。

 まさに、現代に甦る剣士と言った感じである。これが咲耶と知流の兄、神無月((高彦|たかひこ))であることは、殺気を感じ取ることのできない双葉にもわかった。素人が見てもただ者ではないのは一目瞭然だ。

 高彦は、スポーツとしての剣道ではなく、剣術を極めている感じだった。その眼光は鋭く、少し面長の顔立ちがまさに美剣士と言うに相応しい。

 一点を見据えたまま長い髪を風になびかせている姿は、まるで一枚の絵を見ているように美しかった。だが、吹き込むそよ風とは対照的に、道場内の空気はピンと張りつめている。みな緊張して、僅かな動きも見逃すまいと必死になっている様子だ。

 硬直状態が続く。高彦が一歩踏み込めば、防具を着けた生徒が一歩引き、右に回れば同じように右に回る。決して相手が先に動くことはない。見えない壁があるように一定の間合いを詰められないでいる。

 するとおもむろに高彦が瞳を閉じた。わざと隙を見せているのだ。高彦の意外な行動を見逃さず相手が動いた。ほんの僅かな隙であるが、この隙を見逃したら、もう動くこともできないだろう。一か八かで飛び込んでいったのは誰の目にもわかる。しかし、その勇気は賞賛に値する。

「面っ!」

 竹刀を鋭く振り下ろす。その太刀筋から、防具を付けている生徒もかなりの腕前であることが伺える。だが、竹刀が高彦に届くことはなかった。まさに、竹刀が額を捕らえようとした瞬間に、瞳を開くとバックステップをして鼻筋数ミリのところで竹刀をかわす。しかも、いつの間にか開かれた瞳は鋭い剣筋にも瞬き一つせず剣先を見据えている。そして、振り上げられた竹刀が、一瞬にして相手の面を捕らえていた。

「面っ!」

 まさに神業であった。バックステップと同時に振り上げられた腕を見ることができた人間が何人いただろうか、その一瞬の出来事に道場内にいた殆どの生徒達はなにが起こったのかわからないでいる。いや、審判をしている教師ですら動こうとしない。

 沈黙が続く……

「いっ、一本!」

 やっと我に返った教師が、高彦を勝者とみなしたと同時に歓声が上がった。こんな美しい剣技を見られたことに皆が喜んでいる。

 それは、一葉も同じであった。一葉はまさに防具を付けた生徒が踏み込んだ瞬間に、双葉をスポットから追い出し、自らの目でその美技を見つめていた。それはまさに流れるような美しい打ち込みであった。一部始終を目で追えたのは、ここにいる一葉のダークブルーの瞳だけだっただろう。

「凄い……」

 興奮冷めやらぬ一葉であったが、直ぐにホストを双葉へと返す。横にいる茉莉絵の気配に気付いたからだ。

「どう、凄かったでしょう。私なんか、なにやったのかさえわからなかった」

「うん。私もわからなかった。こんな凄いことできる人がいるんだね」

 本当に二人には高彦がなにをやったのかわからなかった。防具を着けた生徒が踏み込んだと思ったら、一瞬で決まってしまったのだ。

 それでも凄いことだけはわかる。二人は、そんな余韻を味わいながら道場を離れるのだった。

「それで、どうするの? やっぱり、剣道部に入る?」

「うん。後で相談してから決める」

 「相談して」そんな、不思議な答えを茉莉絵は疑問に思っている様子はなかった。きっと両親に相談すると思ったのだろう。

「そっか、その方がいいよ。それじゃあ私、一度生徒会室に寄っていかなくちゃならないから、先に帰ってて」

「うん。今日は本当にありがとう。宮……茉莉絵ちゃん」

 「宮上」と呼んでしまいそうになると茉莉絵の少し怒った可愛らしい視線に気付き、直ぐに言い直す。

 それに満足したのか茉莉絵は優しい笑顔を双葉に向けてくれた。

「それでよし。それじゃあまた明日ね」

 元気のいい茉莉絵は、走って校舎の中へ消えていった。一人残された双葉も、一度道場へ視線を移してから教室へ向かう。

《剣道部に入りたくなっちゃったんでしょ》

〈やっぱりわかる。だって、咲耶達の兄貴、凄かったじゃん。あんなに早く動けるなんて、目で追うのがやっとだったよ〉

 あの素早い動きを目で捕らえていただけでも凄いと双葉は思った。同じ瞳を通して見ているはずなのに、双葉にはなにが起こったのかさえわからなかったのだから。

《本当に一葉ちゃんは体動かすの好きだよね……いいよ。剣道部入ろうよ》

〈ホント。また変な目で見られちゃうけど双葉耐えられる〉

《もう慣れたよ。どっちにしろ体育の時間は、一葉ちゃんにお願いするんだからさ。また、運動も勉強もできる『双葉』で行こうよ》

〈そうだね。そうしよう〉

 なんだか一葉の声が嬉しそうだった。これほど強い相手を見たことがないので、興奮しているのだろう。一葉の高ぶった気持ちが双葉にも影響を及ぼしているようで、双葉もワクワクしてきてしまう。

 そんな高ぶった気持ちのまま、双葉は鞄を取りに教室へ向かった。一瞬まだ男子生徒達が残っているかとも思ったが、さすがにこの時間になると教室には誰もおらず、無事鞄を持ち出すことができた。

 玄関を出ると日がかなり傾き、校舎を赤く染めている。男子生徒から逃げるように教室を出て、いつの間にかクラブを見ることとなったので5時を回っている。これでは、制服のまま買い物に行かなくてはならない。

《もうこんな時間なんだ。早く帰ろ》

 双葉が一歩踏み出した瞬間、一葉が、すまなそうに話しかけてきた。

〈双葉……もう帰っちゃうの?〉

 一葉が、こんなしゃべり方をした時は、なにか言いたいことがあるのだ。でも、今回は双葉にもなにが言いたいのかわかる。

《道場にもう一度寄りたいんでしょ。わかったもう少し見ていこう》

〈さすが双葉、ボクの考えてることちゃんとわかってるね〉

 一緒の体を共有しているのだ。全てではないがある程度ならなにを考えているかわかる。でも、今のような言い方をされれば誰だってわかるような気がした。

 子供のようにはしゃぐ一葉を見ていると双葉は少しおかしくなってきた。

《フフフッ。一葉ちゃん子供みたい、すっごく可愛いよ》

〈あっ、双葉にそんなこと言われたくないな。今日だって、双葉が可愛いからみんな寄ってきたんだぞ〉

《もう、同じ体なんだからどっちがホストにいる時でも変わらないでしょ》

〈違うね。この顔には、双葉の性格が合ってるんだよ。ボクが使ったら変な子に見られちゃうだけなの〉

 なんだか凄く一葉は楽しそうにしている。剣の達人と一緒に竹刀を合わせられると思うと嬉しくて仕方がないらしい。しかし、道場へ近づくと一葉の期待をよそに、道場は静かになっていた。

《もう終わっちゃったのかな……》

〈とにかく行ってみよ。誰か残ってたら入部するって言いたいから〉

 こうと決めたら直ぐに実行する。これも一葉の性格だからしょうがないが、そんな行動的な一葉の性格を双葉はいつも羨ましいと思っていた。同じ姉妹なのに、こうも性格が違うものなのかと自分のことながら呆れてしまう。

「誰もいないね」

 窓から覗き込むと道場は静まりかえっていた。きっと、高彦達の試合で練習が終わってしまったのだろう。

 その時だった……

〈双葉、ちょっとゴメン〉

 一葉が双葉からホストを奪い取ると突然走り出した。

《えっ、一葉ちゃんどうしたの?》

 いきなりスポットを追い出され何事かとビックリしたが、一葉はなにも答えずそのまま走っていく。

 すると校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下の方から声が聞こえてきた。体育館の影になっているので声しか聞こえてこなかったが、角を曲がるとそこには咲耶と知流そして先程試合を行っていた高彦の姿が飛び込んできた。

 三人はなにやら言い争いをしている。いや、一方的に高彦が咲耶と知流を怒鳴りつけていた。そして、高彦が立ち去ろうとした時、咲耶が引き留めようと腕を掴むと高彦は腕を払いのけた。その乱暴な行為に、咲耶は勢い余って地面に叩き付けられてしまう。

《ヒドイ》

 叩き付けられた咲耶に知流が駈け寄る。そんな二人の姿を見ても高彦は、悪ぶれた様子もなく手をさしのべようともしない。それどころか手にした竹刀を二人に突き付けるのだった。

「何度も同じことを言わせるな! 私の邪魔をすることだけは許さん。貴様達は黙って指示に従っていればいいのだ」

 到底、妹にかける言葉ではない。まるで、部下に命令する軍人のようだ。

 そんな、高彦の言いぐさに腹を立てた一葉は、スピードを上げ咲耶達と高彦の間に割って入った。

「ちょっと、女の子になんてことするんだ」

 突然の一葉の登場に、咲耶と知流は驚いている様子だったが、高彦は眉一つ動かそうとしない。

 一葉は、真っ直ぐに睨み付け高彦の鋭い視線とぶつかり合う。その鋭い瞳で見られたら大人でも視線をそらしてしまいそうだが、一葉はけっしてそらさなかった。ここで、そらすことは負けを認めることに他ならない。

 その時、スポットの影から見ていた双葉はあることに気が付いた。高彦の瞳が左右色の違うオッドアイだったのだ。右目がダークブルーで左目がダークグリーンになっている。双葉達同様、見た目では殆どわからないが確かに左右の瞳の色が違っていた。

「誰だお前は、見ない顔だが……そうか今日転校してきたという本城双葉だな」

 名前を呼ばれたことに少し驚いたが、高彦は生徒会長をやっている。生徒数の少ない学校だ。全生徒の顔を把握していても不思議ではない。

「そんなことは関係ない。あんた咲耶達の兄貴なんだろ。なんでこんなヒドイことするんだ。もっと優しくしてあげろよ」

 双葉なら、絶対に口にしない台詞だ。高彦も双葉の可愛らしいイメージから、このような言葉が出てくるとは思っていなかったらしく感心している。

 しかし、一葉の言葉に敏感に反応したのは咲耶と知流であった。

「ほ、本城さん。やめて下さい。なんでもありませんから」

「なんでもないわけないじゃん。突き飛ばされたんだよ」

 一葉の怒りと裏腹に、咲耶と知流は必死に止めに入った。その態度にも、一葉は苛立ちを強めていく。

「本城双葉、君には関係ないことだ。口を挟まないで貰おう。一つの体で産まれてくることもできなかった出来損ないが。二度と足を引っ張ることは許さん」

「なんて言い方するんだ。謝れ!」

「止めて下さい本城さん。本当に、いいですから」

 掴みかかろうとする一葉を咲耶と知流は身を挺して止めた。そんな一葉達に冷たい視線を向けると高彦はなにも言わず立ち去るのだった。

「こら、逃げるのか。待て、ろくでなしぃ」

 無情にも一葉の声だけが木霊する。このどうしようもない怒りを何処に向ければいいのだろう。一葉は地団駄を踏んで悔しがった。

「はあぁ……もういいよ。離して……追っかけたりしないから」

 いつまでも一葉に抱きついている二人に、離すよう言うと咲耶と知流は少し不安に思いながらも手を離した。

「スミマセン……」

 二人は同じ仕草で俯いてしまう。先程一葉を止めた元気は何処に行ってしまったのだろう。

「もう、神無月さんもなんか言ってやればいいじゃん。兄妹なんでしょ」

 いつまでもオドオドしている姿を見ていると余計イライラしてくる。このままでは怒りを咲耶と知流にぶつけてしまいそうだ。

「いいんです。兄様が言っていたことは本当のことなのです。私達は一つで産まれてくることすらできなかった出来損ないなんですから……」

 知流の声は、今にも消えてしまいそうな小さな声だった。しかし、「一つに産まれる」と言われても一葉にはなんのことだかわからない。ただ、一葉はこの二人と話していると怒鳴りつけてしまいそうだったので、早々に引っ込むことにした。

〈双葉。ボク、こういうタイプダメだ。イライラしちゃって……選手交代〉

《ちょっと、一葉ちゃん……》

 勝手に、ホストを替わっておいて、対処できなくなると逃げ出してしまうとは、一葉らしいと言えば一葉らしいが、この状況で双葉に替わってもなんの進展も期待できないだろう。元々、双葉と咲耶達はどことなく似たようなところがあるので、お互いに黙り込んで終わりになるのは目に見えている。

 しかし、一葉から双葉へパーソンチェンジした時、咲耶と知流は目を丸くして双葉を見つめるのだった。そう、咲耶と知流は双葉の瞳がダークブルーからダークグリーンへ変化していくのを目撃したのだ。

「ほ、本城さん。その瞳……」

「えっ……あっ、これは……」

 まさか気付かれるとは思わなかった。今まで気付かれたことなどないのに、どうして気付いたのだろう。

《一葉ちゃんどうしよう。なにか気が付かれちゃったよ》

〈だ、大丈夫だよ。気のせいって言えばごまかせる。頑張れ双葉〉

 こうなったらなんとか双葉に頑張って貰うしかない。

 しかし、咲耶と知流は、瞳の色の変化に驚いたのではなく、変化させられる人物を見つけたことに興奮している様子であった。

説明
大騒ぎの教室から逃げるように飛び出してきた双葉と茉莉絵は、そのまま部活動を見学していく。そしてどこからともなく聞こえてくる罵声に双葉は駆け出すのだった。
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