双子物語2話
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  近くに住む大地の家に見舞いと遊びを兼ねて行った彩菜と雪乃の二人は少し考えていた。大地の部屋へと踏み入れたときの大地の緊張の度合いが半端ではなかったからだ。

  夕焼けの色が幼い二人の女児の体に当たる。昼間は少し暑かったが今は心地よい涼風が吹いていた。

 

彩菜「大地君ってさ」

雪乃「うん…」

 

彩菜「無口だよね?」

雪乃「というよりは…人と話すのが苦手なだけじゃ」

 

  同じ年でこうも態度が違うと子供なりに不思議に思うものである。よくよく考えると挨拶もあんまりしないし、できたとしてもすごく小声だったりして。他の子供もあんまり相手にしなかった。そんな風景を二人は思い出した。

 

彩菜「可哀想だよね?」

雪乃「同情だったらやめてよね」

 

彩菜「どうじょうって?」

雪乃「ちょっとした考えで付き合うなってことよ」

 

  言うと、少し足早に彩菜は歩き、雪乃の前に立ちはだかる。

 

彩菜「本気で友達になるっていう気持ちだったらいいんだ?」

 

  赤い色の影となる黒との色合いは雪乃にはとても美しく見えた。彩菜のまぶしいくらいの笑顔がまた夕焼け色との相性がよかった。

 

雪乃「…そういうことかな…?」

彩菜「私、大地くんとはこれから先も仲良くできる気がするんだ」

雪乃「ふーん…根拠のない自信ありがとう」

 

  雪乃は言うが早いか、彩菜の横をスッと抜けて家の中に入っていった。気づけばもう玄関とは目の前にいた二人で。彩菜も後に続き中へと入っていった。

 

菜々子「おかえりー」

二人『ただいまー』

 

 

大地「びっくりしたなぁ」

  カーテンの隙間から見える夜空を眺めながら大地は数時間前のことを思い出していた。

 

  

数日前に風邪をひいて熱を出していたがその日はとても調子がよくて薬を飲んでいればゲームをやっていても大丈夫だろうと、評判のシューティングをやっていた。スコアの成績も好調で、この分なら一ヶ月ほど更新できなかった記録も抜けそうだ。

もう少しでエンディングというところで扉を叩く音がした。どうせ母親だろうと思い適当に返事をかえした。

大地「はーい、どうぞー」

 

  バンッ

 

彩菜「具合はどですかー!」

雪乃「お見舞い…」

大地「へっ…?」

 

  ぱっきゅーん……

 

  家の中では聞かない声に驚き、手が止まる。後ろを向くといつも保育園で会うあの似ない二人組みを目の当たりにした。固まっているうちにゲームの残り自機が0になってゲームオーバーの曲が部屋中に流れていた。

 

彩菜「あっ、ゲームやってたんだ?」

大地「へ?…あ、うん」

 

  二人は部屋を見回す。すると、家庭用ゲーム機だけではないのがわかる。

 

彩菜「すごーい、機械だらけー」

雪乃「ふーん…大地君ってお金もちなんだね」

 

  彩菜はよくわかっていなかったが、雪乃はその物が何なのか、わかるみたいだった。

 最新型パソコン、最新型音楽鑑賞器具、その手の場所でしか買えないようなデータ改造機器など。どれも園児が持つには値が張るものばかりだった。

 

大地「べ、べつに…」

 

  雪乃の表情が常に無表情なので大地の心の中では何を言われるのかと冷や冷やしているが、特に雪乃にとっては何を言うわけでもなく、その高い物に対しても興味が一切ないのだ。彩菜はデモが流れてるゲーム画面を見て楽しそうに笑っていた。相変わらず雪乃とは正反対の反応。

 

大地「や、やる?」

彩菜「えー、いいの?ありがとう」

 

  説明書も読まずにプレイ。初めてやるゲームなので長持ちはしないだろう。

 

雪乃「体の具合は?」

大地「う、うん…今日は調子がいいほうで。そういえばなんでウチにきたの?」

雪乃「あー…うん。先生が様子見に行って来いって」

 

  他の児童よりも、彩菜たちとの方が接触しているらしいことを二人に告げて行かせたらしいことを大地に言う。大地の方も面識が全くない子よりはいいかなと納得していたが、彩菜たちともそんなに仲が良いってわけでもないよなと感じていた。

 

大地「ありがとう…」

  パッキューン。チャララッチャッチャッ♪

 

  始めてから少し経ってゲームオーバーの曲が流れた。大地は長持ちはしないだろうなあと思っていたら実に1面後半で終わってしまった。それでも彩菜は嬉しそうに笑っている。

 

彩菜「あははー、やられちゃったよー。むずいね、これ」

大地「特にそれは難しい部類のソフトだから何度かやればなれるよ」

 

  言って、何度もやれるような時間も間柄もないことを気づいた大地は複雑な気持ちで見ていた。大地の様子を見ていた雪乃は部屋の壁にかけてある時計を見て呟いた。

 

雪乃「…そろそろ帰ろうか」

彩菜「うん、そうだね。大地君、また来週〜」

 

  彩菜は立ち上がって手を振りながら出ようとした瞬間、何かを思い出したかのように大地のもとに戻って

 手を握った。

 

彩菜「そうだ、明日。私たちと外で遊ぼうよ」

大地「えっ」

 

  いきなりのことで、驚いた大地は気の抜けた声を出した。良い提案とばかりにニコニコしていた彩菜は

 少し首を傾げる。

 

彩菜「嫌だった?」

大地「い、嫌じゃあ…ないけど」

彩菜「そっ、よかった。じゃあ、指きりしよう」

 

  ゆびきりげんまん〜と、歌いながら小指を絡めてブンブン振り続ける。

 

彩菜「ゆびきったっ…!!」

 

  最後に勢いよく振って小指を離す。勢いよすぎて大地は少し痛がっていたが…。不思議と嫌そうではなかった。

 

彩菜「約束やぶったらはりせんぼん〜♪」

 

  そう言って雪乃の手を握って部屋から飛び出した。残された大地は唐突に突きつけられた約束を思い出しながら自分の手を見つめる。まともに同い年の子供と触れたのは初めてだ。緊張とは少し違った興奮にも似た胸のドキドキが今の大地には心地よかった。

 

  家でテレビを見ていた彩菜に雪乃は何気なく聞いてみた。

 

雪乃「どうして大地くんと遊びの約束したの?」

彩菜「仲良くなれる気がしてって言ったじゃん」

 

雪乃「それだけの理由じゃない気がする」

 

  怪しいと言いながらソファーの上で移動して彩菜の上に乗っかるような形で再び問いかける。観念した彩菜は雪乃に微笑みながら口を開けた。

 

彩菜「私ね、雪乃と友達と一緒に遊びたいんだ。雪乃には今友達らしい友達はいないし、今の私の友達じゃあ、体を動  かす遊びしかしないもん。だから不可能でしょ?」

雪乃「私のためだっていうの?」

 

彩菜「それもあるけど、私がしたかったの。これが私の一つの夢」

雪乃「ちっぽけね」

 

  雪乃がつまらなそうに頬を膨らませ、元の位置に戻る。そんな反応に困ったがそれとは逆に可愛らしい態度の雪乃に思わず笑ってしまう。多分この後、何をするのかすら考えてもいないだろうに。彩菜は行き当たりばったりなのを雪乃はよくわかっていた。

 

次の日。

 

彩菜「おっしゃー、日曜だー、休みだー!」

雪乃「で、せっかくの休みに外に出るのね」

 

彩菜「ゆきのぅ…子供らしくない発言やめてよ」

 

  そして、これから何をするのか質問を投げかけると案の定笑顔で首を横に振ってきた。

 雪乃は思った。ああ、彩菜は悩みが無さそうで良いなと。結局家から取り出してきたのはグローブ

 3つとボール数個。キャッチボールでもするらしい。

 

彩菜「これが単純ながら面白いのよ」

雪乃「そうね、シンプル・イズ・ベストってやつかしら」

 

彩菜「神父留・伊豆・部巣戸って?」

雪乃「器用な間違え方ね」

 

  そんな彩菜を放っておいて、先に歩いていく。やがて慌てて後ろから彩菜が追いかけてきた。雪乃は彩菜が両手で持っているグローブを一つ受け取りながら言う。

 

雪乃「でも、これだと私はできなくない?」

彩菜「大丈夫だよ、遠くに飛んでったら私が取りにいくから」

 

  それに、と彩菜は言葉を付け加えた。

 

彩菜「無理しない程度にね。体動かさないともっと弱っちゃうよ」

雪乃「すぐにバテるかもしれないわよ」

 

彩菜「いいよ。みんなでやることがいいんだもん」

 

  いつまでも真っ直ぐな瞳を見ると雪乃は思わず笑ってしまう。

 

彩菜「な、なんかおかしいこと言った?」

雪乃「べつに〜」

 

  いつも捻くれている自分と比べたらなんて、つまらないことを考えてしまう。どうやっても雪乃は彩菜にはなれないことはわかっているが、雪乃にはその素直さが羨ましかった。

 

ピンポーン

 

  彩菜が飛び上がってインターホンに手を伸ばして押してから大きな声を上げた。

 

彩菜「だいちくん、あ〜そ〜ぼ〜」

 

  それから数分後くらいに、複雑な表情の大地が二人の前に現れた。その大地に彩菜はグローブを軽く大地に向かって投げた。いきなりのことで驚き、慌ててその宙に浮いたグローブを受け取ると首を傾げる。

 

彩菜「キャッチボールやるよー!」

 

 

  大人の足ではすぐそこでも、子供の足では土手まではそれなりの距離を要した。

 3人は辿りついたが、雪乃のためにも上には行かずに一つ段を上ったところで始めた。

 

彩菜「ようしっ、私はひろう方になるから遠慮なく投げてー」

大地「うん…」

 

  ガチガチに固まっている大地が雪乃にめがけて投げる。雪乃は構えるが届かずに、ちょうど中間辺りに情けなく落ちていた。瞬時に彩菜はそのボールを取り上げ、すぐに雪乃に軽く投げる。

 

雪乃「…いくよ」

 

  これが何のためになるのだろうか、と少し疑問にも思ったが。やっているとそんなに負担がかからないことに気づいた。投げるのは自分のペースで進められるし、当てられることもない。そして、ママゴトと違い、体も動かすことができる。

  彩菜が勧めたことに関して雪乃は理解できそうだった。だが、大地には果たしてどういう理由で有効なのか。それだけはいまだ真意がつかめずにいた。

 

雪乃「ふぅふぅ…交代」

 

  10分ほどで雪乃はダウン。少し離れたところに座り、代わりに入った彩菜と大地を見守る立場に雪乃はなった。

  雪乃ではまともに互いにグローブの中に入らなかったが、彩菜に交代したとなったはそうはいかなくなる。園児の中ではずば抜けて運動神経が良いのだ。

 

彩菜「いくよぉ!」

 

  ブンッ ポスン

 

  大地めがけて投げたボールは怖がりながらも構えていた大地のグローブの中に可愛らしい音と共に入っていた。

 

大地「す、すごい…」

彩菜「ほらっ、思い切って投げてごらんよ。それともさっきので精一杯?」

 

大地「むっ…。ようし…やってやる」

 

  ポスン。

 

彩菜「ナイスボール!いっくよー!」

 

  命中率は大地の方はイマイチだったが、投げていくうちに徐々にボールの力は強まり、硬い表情も徐々に柔らかくなっていた。その変化に一番驚いたのが眺めていた雪乃であった。今まで生き生きしながら遊ぶ姿を一度も見たことがなかったからだ。

 

  やがて、二人も体力を使いきって3人並んで土手の斜面に横になっていた。運動の後、芝の上で空を見上げ、

 風でなびく雑草たちの音が耳に心地よい。

  しばらくそうして、疲れた体を休めるために家に帰ることにした。彩菜には物足りないが、普段からあまり体を

 動かしていない二人には疲れが見えていた。

  大地の家まで来ると、大地は我にかえり、表情を崩しながら遊んでたことに少し恥ずかしさを感じていたが、

 じっくり考えさせる暇なく、彩菜が強く大地の肩を叩いた。

 

彩菜「楽しかったよ」

大地「えっ」

 

彩菜「口で何も言わなくたって、こうやってボールを投げるだけっていうのも私は好きだな」

 

  彩菜の笑顔につられて大地も笑顔になっていた。大地は二人に小さい声ながら、さようならと、またあした。

 という言葉が自然と出ていた。

 

雪乃「…ばいばい」

彩菜「またほいくえんで会おうね」

大地「うん…」

 

  彩菜が元気に手を振りながら歩いていくのを大地も玄関から姿が見えなくなるまで小さく手を振っていた。

 家の中へと入り自分の部屋に戻ると、ベッドの上に横になり疲労した体を休めていた。が、その後、感じたこと

 もない爽快感が大地の中に残っていた。

  夜になりその日、いつもは部屋で食事をしていた大地が珍しく家族と食事を取りながら会話も弾んだという。

 両親とも驚きながらもその光景に心底喜んでいた。

 

  バシャァッ!

 

  髪についた泡を流すために彩菜は頭からお湯を被った。運動して汗をかき、それを風呂で流すのが気持ちよい。 菜々子と洗い終わった彩菜は体を洗い始める雪乃をじっと見ていた。

 

雪乃「ちょっとぉ、じろじろ見ないで…」

 

  視線に気づき、湯船の中で満面の笑みを浮かべる二人に赤面しながら小声で言う雪乃。

 

二人「だって可愛いんだも〜ん」

 

  二人同時に同じ言葉を雪乃に投げかけるが、聞こえない振りをして再び体を柔らかい布の生地で泡を立てる。

  見ながらそういえば、と彩菜が母の菜々子に質問を投げかけた。

 

彩菜「そういえば、みんな洗い始める場所って違うよね。おかあさんは?」

菜々子「私、そうだなぁ。頭からかなぁ」

 

彩菜「私は最後だよ。最初に足の指の間辺りからやるんだ。なんだかその後、すっきりした気分になれるから」

菜々子「へぇ〜、じゃあ今度から私もやってみようかな」

 

彩菜「うん、オススメ〜」

 

  やや短めの髪の毛が濡れて光に反射している中の笑顔は似合っていて可愛いなぁと、

 娘を溺愛している菜々子はそう思いながら見つめていた。最後に菜々子が体を綺麗に

 する番なのだが、スラッとして体に二人は見とれてしまっていた。

 

彩菜「なんかおっきいよね」

雪乃「うん…」

菜々子「ん、何が?」

 

  何の話だかわからない菜々子は二人の方に視線を移しながら聞く。

 

彩菜「おっぱい!」

菜々子「い、いきなり何を!?」

 

  彩菜の直球の言葉に少し驚いた菜々子は改めて自分の胸を眺めた。

 

菜々子「そ、そんなに大きい?」

雪乃「まぁ、平均以上ではあるよね…。多分」

 

菜々子「そっかぁ、気にしたことなかったなぁ。ってあんたら園児でオヤジかい」

 

  風呂場は洗面所の奥で、髭を剃っていた父・静雄があらゆるところから出血していた。

 

静雄「痛っ…」

 

  鏡に映る自分の姿はどこか変態じみていた。だが、惚れてる女の想像したのでは無理もないが。動揺して切った頬を手で押さえながら鼻血が出ている自分の姿にため息をついた。

 

静雄「子供まで生んで今更…だよなぁ」

 

  心底、妻に惚れている静雄であった。

 

菜々子「二人ともおやすみ〜」

二人「おやすみなさい」

 

菜々子「愛してるわっ、CHU♪」

二人「はいはい〜」

 

  二つ目の愛の言葉は仲良くスルーして2階へ上がっていった。部屋の中は明るく、いつでも自由に消せるように、 長い紐を結んでいた。先端には可愛いヒヨコタマゴがついている。二人は小さなベッドに入り込んでいつものように

 見合う。

 

雪乃「今更だけど、いつも私の顔見てるよね」

彩菜「そうだね」

 

  電気を消しても見ている気配を雪乃は察していたが、自分は早々に仰向きになって目を瞑っていた。

 

彩菜「わたし…おねえちゃんっぽくないよねぇ…」

 

  脈絡もない言葉が耳に聞こえた雪乃は彩菜の方に向き直るが、彩菜は静かな寝息を立てて眠っていた。寝言か

 夢か、どちらかは雪乃にはわからなかったが、ばかばかしいと呟いて目を瞑った。一度は寝付けなかったが

 その後のはすんなりと眠ることができた。

 

 

彩菜「おっはよう!」

大地「ううわっ!?」

 

  いつものようにゆっくりと一人で歩く大地の姿をとらえた彩菜は思い切り走っていって大地の肩にももたれかかるように抱きついた。いきなりの出来事に驚き咄嗟に抱きついてきた彩菜を拳で頭を殴っていた。

 

彩菜「いったーい!!」

大地「えっ、ご、ごめん」

 

  頭を抱えてしゃがんでいる彩菜の後ろから静かに歩く、白髪の少女が呆れたように痛がっている彩菜に対してきつい言葉をかけた。

 

雪乃「まったく…自業自得でしょうに…」

 

  相変わらず無表情で、きついイメージが離れない、優しいということはわかっていてもそうそう慣れるもの

 でもない。そう、大地は思っていた。

  彩菜から視線を上げると雪乃と大地は互いに視線を合わせる。いつもは目を逸らしていたけど。

 

大地「お、おは…よう」

雪乃「ん…。おはよう」

  表情が明らかに変化…とまではいかないが、わずかに微笑んでいるのがわかった。そのわずかな変化が大地の

 中でまた別の緊張感が生まれそうになっていた。

 

  道徳の勉強の後、県が園児を集めて遊びを始めるいつもの出来事。その中で彩菜が大地の腕を引っ張り輪の

 中へと進んでいく。あからさまに嫌な顔をする男子達に向かって睨みつけ、県に提案をする。

 

彩菜「せんせー、今日はかくれんぼなんて、どう?」

県「おっ、いいねぇ。それじゃあ、他の子たちや先生たちに迷惑にならない程度に範囲を広げよう」

 

  それから、毎日のように大地を誘って仲間に加えさせることを繰り返しているうちに大地も自ら輪の中に

 入っていき。やがて、彩菜が手を貸さなくても仲間たちと遊べるようになっていた。

  いつも遊びの中心にいる彩菜がこっそり抜け出して一人で絵本を読んでいる雪乃の隣にちょこんと座った。

 雪乃は本を閉じて、彩菜に視線を向けた。

 

雪乃「遊ばなくていいの?」

彩菜「いいの、今は雪乃のそばにいたいから」

 

雪乃「ふ〜ん」

彩菜「ふぅ」

 

  県と園児が遊んでいる場所を眺めながら軽くため息をついた彩菜に視線を戻した。

 表情が晴れやかで、顔を向けている先には今まで、誰とも遊べる相手がいなかった大地が今では屈強な男子たちと

 渡り合えているくらいたくましくなっていた。

 

彩菜「さみしくなっちゃった?」

雪乃「べつに、なれていますもの」

 

  冗談まじりにお嬢様言葉を笑顔で彩菜に伝えると、おもむろに雪乃は立ち上がる。

 

彩菜「どこいくの?」

雪乃「トイレット」

 

彩菜「…行ってらっしゃい」

 

  前まで似たもの同士にも見えていた雪乃と大地だったが、決定的に違っていたものが彩菜にはわかっていた。

 

彩菜「雪乃って…友達いらないっぽいよなぁ…」

 

  大地は友達を作りたくても根っからの人見知りで常に緊張がまとわりついてできなかった、ただそれだけ

 だったから彩菜にも時間をかければ何とかできたのだが。

  雪乃は最初から人と接したいという気持ちというのを感じなかった。試しに家で聞いたこともあるが、乾いた

 笑いだけをもらって終わってしまった。

 

男子「おい、さっさと戻ってこいよ。別の遊びしようぜ」

 

  ぼんやり座っていると、いつも遊んでいる男子に声をかけられた。

 

雪乃「行ってらっしゃい」

 

  背後からハンカチで手を拭きながら戻ってきた雪乃が一言告げる。彩菜はこの時間を惜しみながらも、遊ぶことに 集中するために気持ちを切り替える。

 

彩菜「じゃあ、また後でね」

 

  親たちが迎えに来る時間となった。大地の親が迎えに来たとき、大地が彩菜の元へと走ってきた。

 

大地「一緒に帰ろう?」

彩菜「んー、でもまだウチのお母さんが来てないし」

 

大地「そっかぁ、じゃあまた明日ね」

彩菜「うん」

 

  母親と手を繋ぎながら帰っていた大地は今度は恥ずかしそうに少し距離を開けて歩いていた。その光景に

 安心してみていることができる。

 

彩菜「どうして、友達欲しくないの?」

雪乃「どうしてって、別に…彩菜もいるし」

 

  その一言でいつもはぐらかされるが、今回はもっと深く聞こうと彩菜は聞きなおす。

 

彩菜「友達がいると楽しいよ」

雪乃「はぁ…」

 

  そのため息で急に場の空気が冷えたような気がした。彩菜は息を呑んで言葉を振り絞ろうとしたが、雪乃が先に

 放った言葉に消された。

 

雪乃「私が相手じゃ逆に相手に悪いよ…」

 

  あまり見たことのない冷たい瞳で見られた彩菜は、それ以上何も言えなくてただ俯くことしかできなかった。

 調子が悪いとすぐに貧血になったり、体を動かすこともままならないために、ほとんどの遊びに参加できず、

 いつも輪から外されている。

 

雪乃「ママが来たよ。帰ろう」

彩菜「あっ…」

 

雪乃「他に何か?」

 

  振り返らずに聞き返す雪乃。彩菜はあまり深く突っ込んで嫌われたくなかったから、渋々諦めることにした。

 切り替えて前に視線を向けると雪乃の言葉通り、母の菜々子が邪念が一切ない笑顔を振りまいて走っていた。

 

菜々子「おまたー」

 

  園長に挨拶をしてから二人に手を差し出す。が、恥ずかしいから嫌と言われ断られるとショックを受けて

 とぼとぼと歩き出した。二人は情けない母の姿を見て苦笑し、走って母の手を片方ずつ握った。

 

彩菜「今日だけだかんね!」

菜々子「おう!」

 

  手繋ぎに気づいて大喜びの母は思い切り両手を上げて喜んだ。繋いでいた彩菜と雪乃は引っ張られるように

 持ち上げられ怖がりながら家まで帰った。バカ力な菜々子であった。家に入った頃には既にいつもの雪乃に

 戻っていたことに彩菜はホッと胸を撫で下ろし、雪乃に近づいた。

 

彩菜「ねぇ」

雪乃「何?」

 

  綺麗な瞳に彩菜の顔が映し出されている。この大切な妹のために彩菜はずっと護り続けようと改めて思っていた。

 

彩菜「なんでもなーい」

 

  よくわからずに首を傾げる雪乃に、彩菜は本の話やテレビの話を振って会話を続けた。

 もうすぐ夕食の用意する時間が始まる。母・菜々子が包丁で手を切った悲鳴と共に…。

 

続く

説明
この話を書いていた時点でここまで長く付き合うとは自分自身思ってなかったり。徐々に友達との付き合いができていきます。ともあれ、彼女ら、ちょっと幼児としては出来すぎてる可能性もありますが^^;*数年以上前の作品のまま投稿*
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