真・恋姫†無双異伝 天魔の章 第二章 黒の猟兵団 第三話 |
二章 第三話 武人対魔人
今日は朝から天気が良かった。
雲一つなく、穏やかな風が吹く絶好の二度寝日和。
そんなある日の朝早く、天水城の中庭には人垣が出来ており、その中心には三人の男女が立っていた。
霞「うひひッええなぁ、恋や華雄以外に本気で行けそうな相手は久しぶりや!」
華雄「私もだ。本気で仕合えそうな男はお前が初めてだよ」
一刀「・・・なんでこうなった?」
心底楽しそうな霞と華雄とは裏腹に、一刀は心底嫌そうな気分を隠そうともせずにそう呟いた。
事の起こりは、数刻前まで遡る。
今朝の天水城の上には、思わず吸い込まれそうなほどに澄み渡った青空が広がっている。
その天水城の中庭では、一刀と信三がそれぞれ双剣と棒術具を構えて睨み合っている。
一刀「・・・」
信三「・・・」
互いに武器を構えて微動だにしない。
信三「・・・ッ!!」
しばらく睨み合った末、先に動いたのは信三であった。
間合いの長さを活かした棒術で、一刀に超高速の突きを連続して送り込む。
一刀「・・・ふッ!!」
しかし一刀はそれをすべて見切り、あるものは躱し、またあるものは双剣で弾くか流すかしてすべてしのぐ。
もともと、参謀長とはいえ彼も御万騎衆叩き上げの存在。しかも魔人衆に次ぐ能力と権限を持つ『羅刹』の階級保有者だ。もっとも、中級羅刹だから彼よりさらに上がいるわけだが。
信三がひたすら突っ込む。一刀はそれをひたすら捌く。
本人達にしてみればただそれだけのことだが、その姿はまるで舞を舞っているかのように優雅で、美しくもある、不思議なものであった。
しかし、いかに羅刹とは言え魔人には敵わない。そもそも魔人衆は、“地上最強の兵士”をコンセプトに育て上げられた白兵戦のエキスパートである。勿論、10人それぞれが様々な特性を持つ武器を使い分けているが、基本は全員拳法家であり、さらに言えば全員が氣功術の達人でもある。余程の事情がない限り、同格以上の存在でなければ敗北するなどあり得ないのだ。
しばらく二人の間で際どい攻防戦が続いていたが、信三の攻めが緩くなった一瞬の隙を突いて、一刀は一気に踏み込み、左手の剣を逆手に持ち替えて信三の首に宛がう。右は順手持ちのままで信三の左腕に宛がい、棒術具の動きを封じている。
一刀「・・・」
信三「・・・参りました」
そう言うと信三は棒術具を投げ出し、両手を上にあげた。それを見た一刀も、ゆっくりと構えを解き、双剣を腰に収める。
信三「いやはや、やはり指揮官は強いですな」
一刀「そうでもないさ。これでも魔人としては中間ぐらいだからな。だが、やはり体を動かすのは悪くない」
棒術具を回収しながら多少疲れた声でそう話す信三に、一刀は満更でもなさそうにしながらそう答える。
何故二人が鍛錬をしているかと言うと、単純な話、暇だったからである。
猟兵団員は全員、董卓軍の兵士や文官らを育成するため、相変わらず城内や城下に散っており、あるいは周辺諸地域への諜報工作任務に出兵しており、また宗平を始めとした猟兵団幹部らも、一部の例外を除いてそれらの統括や指揮を執っているため、この場にはいない。
そんな中、優秀な部下達に仕事を任せ切った一刀は、自室で二日間の瞑想を行った後、今朝から中庭に出て自主鍛錬を行っていたのだ。
そこで、任務の合間の休憩をしていたという信三と遭遇。互いに鍛錬をしに来たということで、こうして組手を行っていたわけである。
信三「しかし指揮官、先日私と宗平と三人で街に出た後から何やらお悩みの様子ですが、そろそろ何を悩んでおられるのかお話しいただけませんか?」
一刀「おろ?話してなかったっけ?」
練習用武具を片付けた後、二人は近くの東屋に移動した。
そこに腰を落ち着けた直後、信三はそういって一刀に詰め寄った。
しかし、詰め寄られた一刀は驚いたようにそう聞き返した。
信三「話していただいておりません!!」
一刀「あ〜、そか。んじゃ今から言うぞ」
信三「はい、聞かせていただきます」
そう言って信三は佇まいを正すと、続きの言葉を待った。
一刀「実はな、近々城下で屋台を開こうと思っている」
信三「・・・申し訳ありません。どうやら自分の耳がおかしくなっているみたいなので、もう一度言っていただけませんか?」
一刀「いいよ。俺近いうちに城下で屋台をやろうかと思うんだ」
信三「・・・はぁ〜〜〜ッッ!!?」
しかし、帰って来た答えのあまりの突拍子のなさに、普段平静を崩さない信三が珍しく大きな悲鳴を上げた。
一刀「うわッととと・・・ど〜したのさいきなりそんな大声出して」
信三「そぉら大声も出ますよッ!!なんですかいきなり屋台を開くだなんて!?一体あなたは何を考えてるんですかッ!?」
一刀「いや〜、この間の食堂で飯食った時に、味の割に随分値が高いなぁと思ってさ。だったら、徹底的に無駄を省いて、安く美味しく、お客様にも満足していただける美味しい料理を提供しようかなぁなんて思ったんだ」
信三「なんですかその軽い理由はッ!?大体あなた料理できるんですかッ!?あなたが厨房に立ってる姿見たことないんですけどッ!?」
一刀「馬鹿野郎ッ!今ここで腕振るわなんだら、訓練生時代に綾崎少将や鳴海大佐に4年間付きっ切りで叩き込まれた俺の烹炊術は一体いつ日の目を見るんだよッ!?」
信三「知りませんよそんなことッ!!てかあんたいったい訓練生時代に何やらかしたんですかッ!?」
ゼェゼェハァハァと肩で息をしつつ、二人はそのまましばらくにらみ合いを続けた。
一刀「・・・不毛だな」
信三「・・・ですな」
そして、やがてどちらともなくため息をつくと、再び席に着き直して話を再開した。
信三
「しかし指揮官。やはり突然屋台を開くなど無謀では?第一、屋台を開こうにも、設備も資材も食材も無くてはどうしようもありますまい」
一刀「そこは心配いらない。一応、軍隊版英才教育プログラムを受けてるから、今ここで顧問団やってる給金を元手に、城下の有力商人達から必要物資の買い付け交渉をする。特殊工作員訓練の過程で、商人やネゴシエーターなんかの講習もみっちり受けてるから心配はない」
改めて問題点を指摘してくる信三に、一刀は冷静にそう答えた。
信三「しかし、それは現代日本での話でしょう?その技術がこちらの世界でも通用するんですかね?」
一刀「その点も、こないだ恋の食事の時の値切り交渉ですでに確認済みだ。怠りはない」
もっともな信三の疑問だが、一刀はしれっとそう答えた。
信三「開店許可が・・・」
一刀「この間副長に取りに行かせた」
信三「開店場所が・・・」
一刀「当てはある。心配ない」
信三「店員の雇用が・・・」
一刀「あんま大規模じゃないから一人でやることにしてる。気にすることはない」
なんとか無謀な計画を止めようとする信三だったが、一刀はことごとく先回りしてそれらをことごとく潰していく。
とうとう反論のネタが尽き、信三は黙り込んだ。
一刀「そう心配するな。屋台なんだから移動出来るんだし、ここを出た後、傭兵として仕官出来なかった時には貴重な収入源にもなる」
そう言って一刀はからからと笑いながら信三の肩をばしばし叩いた。
そこまでは良かったのだが。
霞「お〜い、一刀〜〜!!」
そこへ霞が、彼女の愛刀『飛龍偃月刀』を手に駆け寄ってきた。
言ってなかったが、猟兵団幹部と董卓軍幹部はすでに真名の交換を済ませており、時折両者は東屋で歓談したり、中庭で組手をしたりもしている。
その影響か、近頃猟兵団と董卓軍はだいぶ打ち解け、今では固い絆で結ばれていると言っても過言ではないほどに両者の結束は固まりつつあった。
・・・正確には、友情を深めたと言うよりも、董卓軍将兵の気質が猟兵団の者達に感化されて来ているのだ。
一刀「おお、霞か。どうした?」
霞「見ればわかるやろ?一丁やろうや!」
それを聞いた瞬間、一刀の顔が歪んだ。
一刀「嫌だよ。さっきうちの参謀長と一戦やりあってすぐなんだからさ。大体いきなりどうしたんだよ」
霞「いや〜、さっき物陰から華雄と一緒に二人の組手見よったんやけどな、あんな見事な組手見せられたのは初めてや!そら武人の血が騒ぐのは当たり前やないかい!」
一刀「いやそんなの知らんよ・・・」
霞「そ〜言わんとほら!あんたも武人なら、武人からの挑戦は受けて立つのが筋ってもんやで!」
一刀「いや俺そもそも武人じゃなくて隠密だし・・・」
霞「なんやとぉ?一刀、あんたうちの言うことが聞けんのかぃ!?」
一刀「聞いて堪るかッ!!俺はお前と違って平和な日常を大切に過ごしたいんだよッ!!」
だんだんと苛立ちが募ったのか、歯を剥き出してじりじり詰め寄ってくる霞に、一刀は悲痛な叫びを上げながらジリジリ後退することを余儀なくされていった。
しかし、一刀が後退する先には、実はもう一人敵がいた。それも、意欲だけで言うなら誰劣るところなき猛獣である。
華雄「捕まえたぞ北郷」
一刀「・・・・・・え」
背後から突然聞こえた声に振り向くも、すでに遅い。
哀れ一刀は、そのまま二人に両手を引かれ、練兵場へ連行されていった。その時彼のその姿を見た者達は、口を揃えてこう言った。
それは、売られていく仔牛のようだった、と。
・・・とまぁ、こんな感じで半ば拉致されるように練兵場に連れて来られたところで、冒頭に戻るわけだ。
一刀「・・・厄日だ」
天を仰ぎながら彼はそう言って嘆息した。
華雄「そういうな。おかげで私達は最高に気分がいいぞ」
霞「せやせや!やけん、一刀も本気で来てぇや!」
そんな彼の嘆きを笑い飛ばすのは、彼をここへ引っ張ってきた張本人達である。
華雄は金剛爆斧、霞は飛龍偃月刀と言う相棒の模造刀を手に、彼の前に立っている。周囲には、どこからか話を聞きつけたのであろう、董卓軍の兵士達がわらわらと集まって彼らを見物している。
一刀「はぁ・・・ここまで大事になっちゃあ、今更遁面こくのも無理そうだな」
それを見てとうとう諦めたらしい一刀は、先程までとは打って変わって、飄々としているが隙のない立ち姿に姿勢を変え、二人に向き直った。
一刀「さて、ここまで来たからには是非もない。どちらからくる?」
華雄「ではまず私から行かせてもらおう」
そう言うと華雄は、模擬金剛爆斧を肩に担ぎながら一歩前に進み出た。
霞「よっしゃ。なら審判はウチがしたろかい!」
そう言うと霞は、二人の中間に立ち、模擬飛龍偃月刀を刃を上にして垂直に立て、左手を宙に掲げた。
華雄「本気でかかってきてくれ」
一刀「いいだろう」
霞「両者、構えッ!!」
短いやり取りの後、霞の合図に従って二人は獲物を構えた。
霞「・・・始めッ!!」
叫ぶと同時に霞は一飛びで場外に退避した。
先に動いたのは華雄だった。
華雄「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
裂帛の気合いと共に金剛爆斧を一気に振り下ろす。
ダイナマイトの爆発音にも匹敵しそうな轟音を立てて、模擬金剛爆斧は地面に巨大なクレーターを穿つ。模造品とは言え、その強度と破壊力は驚異の一言に尽きる。
だが、一刀はその一撃をバックステップで軽々回避すると、クレーターを見た。
一刀「うへぇ、なんじゃこりゃ」
あまりに出鱈目な威力に、呆れたように呟きながら彼は爆心地に向き直った。
すると次の瞬間、もうもうと立ち込める土煙の中から華雄が飛び出してきた。
華雄「せいッ!でやぁッ!」
突進しながら金剛爆斧を振り回し、一刀に向かって突っ込んでくる。
その度に、ある時は風圧で地面が削れ、またある時は直撃を受けた地面に巨大なクレーターが生じる。
気が付けば、試合場は一面が濃密な土煙に覆われ、視界が利かない状態となっていた。
一刀「ふむ。思ったより威力は高いが・・・」
それを見ながら一刀は、華雄の攻撃力の出鱈目さに感心したように呟く。
が。
一刀「ただそれだけ、だな」
そう言うと一刀は、左の腰に携えた倭軍刀(勿論模造刀)を抜き。
一刀「倭刀術・・・『旋破(せんは)刀勢』!!」
右足を軸にして瞬時に一回転。生じた衝撃波で周囲の土煙を吹き飛ばし、素早く視界を確保した。
華雄「ほぅ、そんなことが出来るのか。てっきり逃げ回るだけの臆病者かと思っていたが」
そう言いながら砂塵の中から姿を現したのは華雄だ。金剛爆斧を構え直し、一刀が切り開いた空間に向けて再び突進する体制を整えている。一刀が何かしたのには気づいていないようだ。
華雄「軍事顧問団の長が、そんな逃げ腰では話にならんぞ?それとも、まさか怖気づいたのではあるまいな?男ならもっと気合を入れてかかって来ぬかッ!」
せせら嗤うような表情を浮かべながら、華雄はそう怒鳴った。
そんなあまりにもあからさまな挑発に、一刀が乗るはずもなかったが、さすがにこのままでは後々面倒くさい事態になりそうだと感じ、少し真面目に相手をすることにした。
一刀「はぁ・・・しょうがないな全く。んじゃ、ちょっくら行ってみますか、ねッ!!」
ヒュゴウッ!!
見かけの細さからは想像もできない風切り音が鳴り、倭刀が逆袈裟に振り下ろされた。
しかも、ただ振り下ろされただけではない。
その一撃もまた、真空の衝撃波を発生させ、斬撃を華雄のすぐ脇に飛ばして見せたのである。
華雄「何ッ!?」
いかに歴戦の剛将と言えど、目に見えない攻撃には対処の仕様がなかった。
辛うじて攻撃は逸れたが、今のような攻撃を連続で放たれれば逃げ切れる自信はない。
華雄「・・・おい、北郷。今のは一体なんだ?」
呆然とした面持ちで華雄はそう問うた。
一刀「倭刀術『衝空刀勢』。大気の中に真空の刃を走らせる。神威流武闘術における中距離攻撃の基本技を発展させたものだ」
そう回答した一刀は、ヒュンヒュンと軽やかに倭刀を振り回すと、やがて右肩に峰を当て、右足を半歩退いて半身になり、気楽そうに見える構えを取った。
一刀「では、どうやら貴婦人は熱い戦いをご所望のようなので、今度はこちらから攻めさせてもらうとしようか・・・」
そう言って獰猛な笑みを浮かべると、一刀はグッと一瞬身をかがめて足に力を溜め、裂帛の気合いと共に一気に飛び出した。
一刀「行くぞ華雄ッ!」
華雄「なッぬぉおおッ!!」
目にも留まらぬ速さで突っ込んできた一刀を、咄嗟に戦斧を前に構えることで押し止めるが、その一刀から勢いに乗って放たれた斬撃は、倭刀の細長い外観からは想像出来ないほど力強いものだった。
火花を散らして両者の武器が鍔迫り合う。
一刀「ほぉ、世界最高峰の切れ味を誇る倭刀と鍔迫り合うとは、なかなかやるじゃないか」
華雄「うッくぅぅッ!?」
余裕綽々の態度を崩さずに、軽い口調で囃し立てる一刀とは対照的に、全身に冷や汗を吹き出し、歯を食いしばってなんとか武器破壊を防いでいる華雄の表情は、憔悴しきっていた。
どうやら両者とも、興奮のあまり自分の武器が模造刀であることを忘れているようだ。
一刀「そらそらッ!このままじゃ俺に押し切られるぞ!」
華雄「くぅ・・・ぬぅああああッ!!」
一刀「うおっとッ!」
そのまま一刀が体重をかけてきて、華雄の金剛爆斧に皹が入り始めたとき、華雄が力任せに斧を振るい、一刀ごと倭刀を弾き飛ばした。
若干驚きを含んだ声と共に飛ばされた一刀は、そのまま空中でバク宙を披露し、爪先で踏ん張りながら着地。そのまま距離をとった。
一刀「成程。少しは出来るらしい」
感心したようにそう呟くが。
一刀「なら、これでどうだ!」
倭刀の切っ先を下にして両手で構え、一刀は華雄に突撃をかける。
華雄「させんッ!」
それを見た華雄は、すぐさま戦斧を上段から振り下ろし、倭刀を叩き折らんと一撃を繰り出す。
一刀「倭刀術ッ!!」
しかし、そこで一刀は倭刀の柄から左手を離した。
一刀「『蹴撃刀勢(しゅうげきとうせい)』ッ!!」
その代わりに右蹴足を倭刀の峰にぶつけ、金剛爆斧と正対させた。
華雄「なにぃッ!?」
その全く予想しなかった攻撃方法に、華雄は大きく目を見開いて全身を一瞬硬直させてしまった。
この一瞬が勝負を決めた。
接触寸前で戦斧を引き下げたため、危ういところで手を負傷することは避けられたが、甲高い金属音と共に金剛爆斧はものの見事に破砕された。砕け散った武器の破片が、きらきらと陽光を浴びて瞬きながら飛び散ってゆく。
華雄「なっ!?私の武器がッ!?」
それを見た華雄が驚いて声を上げるが、直後に彼女の首に倭刀の切っ先が突き付けられたため、それ以上動けなくなった。
一刀「勝負あり、だな。華雄?」
不敵に笑いながら、一刀はそう告げた。
華雄「・・・くぅッ」
悔しそうに呻き、華雄は武器を放り捨てた。
一刀「さて、こういう時判定はどうなるのかな?」
霞「・・・はッ!しょっ勝者、魔人 ムゥ !!」
ウオオオオォォォォォォッ!!
あまりの出来事に呆気にとられていた霞達だったが、一刀の一声で正気に戻り、観客達は一斉に鬨の声を上げた。
一刀はその歓声に、倭刀を天高く掲げることで応え、それによってさらに試合会場は熱気に包まれることとなった。
やがて、歓声が収まってから、一刀は霞に声をかけた。
一刀「さて、次は霞の番だけど、どうする?」
そう言いながら、一刀は鞘に納めた倭刀の柄を軽く鳴らした。
霞「・・・ええな。ゾクゾクするわ」
そう言って彼女は、飛龍偃月刀を構えると、華雄に代わって一刀の前に立った。
一刀「ふむ。あれを見て尚退き下がらぬか。その意気やよし」
対する一刀も、柔和な笑みを浮かべて霞と正対する。
華雄「・・・では、今度は私が審判を務めよう」
まだ武器を破壊されたショックから完全に立ち直ってはいないが、華雄はそう言って審判を買って出た。
構えろと言われる前から、すでに互いに武器を構えて睨み合う、霞と一刀。
やがて、華雄の「はじめッ!」と言う号令と共に、両者は同時に飛び出した。
霞「うらあああああッ!!!」
一刀「・・・・・・疾ッ!!」
片や勇ましく、片や力強い声を上げながら互いの武器を重ね合わせる。
金属の擦れ合う音と共に火花が散り、両者の興奮をさらに高めていく。
霞「くぅ〜ッ!やるなぁ自分ッ!」
一刀「霞こそッ!まさか俺の腕力と拮抗するとは思ってもみなかったッ!!」
互いに力を込めて相手を武器ごとはじき、互いに距離をとった。
一刀「行くぞッ!」
先に動き出したのは一刀の方だ。
一刀「倭刀術ッ!」
走りながら一刀は、刀の背に左手を添えた。
霞「来るかッ!?」
一刀の掛け声を聞いて、霞は咄嗟に身構えた。
先程の華雄との対決の折、一刀が何か技を発動するときには必ず流派の名前を叫んでいたのを、たった二つの技の発動ですでに見抜いていたのである。
そして、繰り出されるその技のこと如くが、自分達の想像もつかぬようなものばかりであることも感じ取っていた。このあたり、さすがは天性の武人と言うしかない。
だが、そんな彼女でも。
一刀「『掌破刀勢』ッ!!」
こんな一撃は予想だにしなかったに違いない。
何故なら。
袈裟斬りに振られた倭刀を左手が跳ね上げ、通常のおよそ1・5倍にまで剣速を加速させたのである。
霞「ぐうぅッ」
予想を超えた一撃に、霞は思わず防御することしか出来なかった。
只でさえ剣速の早い倭刀の一撃がさらに速くなったのである。いかに神速を標榜する霞であっても、感覚は追いついても体が追い付かないのではどうしようもなかった。
一刀「へぇ・・・意外とやるね」
一刀の攻撃を凌ぎきった霞に、楽しそうに笑いながら一刀はそう言った。
一刀「まさか掌破刀勢が止められるとはね」
霞「くッ!(なんや今のは?ウチが、この神速の張遼が反応でけへん速さの攻撃やと?あんさん、どんだけウチを楽しませてくれんねん、一刀ッ!!)」
余裕綽々の一刀に対し、霞は今の一撃だけで体力の五分の一が削られたような気がした。しかし、彼女は内心で、これ以上ないくらい歓喜に震えていた。
それからは、二人の試合は徐々にヒートアップしていった。
一刀が斬りかかれば、霞はそれを最小限の動きで躱して蹴りを送り込み、それを一刀は勢いに任せて転がることで回避する。
逆に、霞が突っ込めば、一刀はその勢いを逆手にとって懐に引き込み、肘打ちを叩きつけようとする。それに、霞は膝蹴りで対応し、一刀はそれを攻撃のために繰り出した肘打ちをぶつけて相殺す
る。
他にも、霞が間合い外から攻撃を繰り返し、その状況を打破するために一刀が衝空刀勢を繰り出して反撃する。
などなど、しゃべりだしたらきりがないくらい、両者は白熱した戦闘を繰り広げた。
場外で見守っている観衆も、その中に混ざって試合を見ている華雄も、両者の洗練された動きと、自身の武との格差を思い知らされたような気がしながら試合を見つめている。
詠「ちょっと!一体何事なのッ!?」
仕合がいよいよ佳境に差しかかろうとしていたころ、ようやく騒ぎに気付いた詠が、恋と月を伴って現れた。
華雄「ん?おぉ詠に恋ッ!董卓様も!」
詠「華雄ッ!?ちょっと、これ一体何の騒ぎって・・・」
月「凄い・・・」
二人に気付いた華雄は彼女らに声をかけた。そこで、華雄に気付いた詠が彼女に駆け寄って騒動の原因を問い詰めようとして、彼女の背後で繰り広げられている一刀と霞の試合に気づき、二人は言葉を失った。
霞「そりゃあッ!」
一刀「はああああッ!」
ガイイィィンッッ!!
もう何度目だろう。
数え切れないくらい交わった二人の刃が、再び火花を散らして互いに弾きあい、二人は距離をとった。
霞は獣のように息を荒げ、睨み付けるようにして一刀を上目で見ている。
霞「ゼェ・・・ハァ・・・化け物やなまったく・・・」
一刀「褒め言葉と受け取っておくよ・・フゥ」
一方の一刀はと言えば、多少息は乱れているようだが、傍目には対して疲労は蓄積していないように見えた。
一刀「・・・なぁ、霞?」
霞「ゼェ・・・なんやぁ?」
不意に、一刀が霞に話しかけた。
一刀「お互い疲れたしさ、もぅ次で終わらせようよ」
霞「ゼハァ・・・そやな。フゥゥ・・・ウチもうバテバテやさかい、そうしよ」
そして、一刀の提案に霞は賛成し、疲労を押して構えを正した。切っ先を一刀に向けて、震える足でなんとか立っている。
一方の一刀は、そんな彼女の姿を見て、今まで浮かべていた微笑を、他の表情共々一瞬で消し去った。
そして、倭刀を左手に持ち替え、逆手に持って切っ先を上に向けると言う、独特の構えを取った。
一刀「フゥ・・・」
霞「ハァ・・・ハァ・・・」
両者の気迫に圧されるように、周囲を静寂が支配した。
数拍の間を置いて、両者は同時に動き出す。
一刀「・・・倭刀術、絶技ッ!!」
霞「うっしゃおらあああッ!!」
一刀の叫びと、霞の咆哮が重なる。
勢いのまま、持ちうるすべての力を一点に集約して、霞は飛龍偃月刀を横一線に薙ぎ払った。
一刀「『虎伏絶刀勢』ッ!!」
それを一刀は、先の不可思議な構えのまま、右足を二歩分ほどすり足で踏み込みながら一気にしゃがみこみ、霞との間合いを詰めながら彼女の一撃をやり過ごす。
そして。
霞「なんのぉッ!!」
一刀「覇ああああッ!!!」
すぐさま繰り出された互いの二撃目が、今回最大規模の火花を散らしながら交差した。
霞「いやぁ〜、完敗やったわぁ」
一刀「いやいや、あれは霞の勝ちでしょ。石突とは言え俺の眉間に一撃入れかけてたんだし」
互いの模造武器の残骸を片付け、一刀と霞は互いに練兵場の試合場から降りた。
霞「い〜や、あれはウチの負けやッ!」
一刀「いやいや、霞の勝ちだ」
どっちが勝った負けたと言い争いながら、二人は華雄の下まで行くと、そこには華雄以外に、呆然とした表情で立ち尽くしている詠と月の姿があった。
霞「あれ?月と賈駆っちやん。どないしたん?」
二人が口を半開きにして自分達を見ているのに気付いた霞は、首を傾げながらそう聞いた。しかし、二人からの返事はなく、代わりに答えたのは華雄だった。
華雄「董卓様と詠は、お前たちの試合のあまりの異常さに、度肝を抜かれておいでなのさ」
霞「あり?うちらそんな凄い仕合しとったっけ?」
華雄の言葉に、自覚のない霞はまた首を傾げる。
華雄「馬鹿を言え。あれほど激烈な仕合を繰り広げたのだ。お前と度々やりあっている私でさえ、あそこまでお前の力を引き出せたことなどない。まして私は、そんなお前と引き分けた北郷に、情けないくらいあっさりと武器を破壊されて敗けたしな」
そう言って華雄は、自嘲気味に嗤った。
あの試合は、結局一刀と霞、双方の武器が同時に破損し、武器としての用を成さなくなったために、引き分けの判定が下された。
最後の攻撃の時、一撃目を躱されたことを悟った霞は、瞬時に石突を突出して二撃目を繰り出したが、それより一瞬早く、一刀は地面に胸を叩き付け、その反動を利用して凄まじい速さで起き上がりながら倭刀を振り上げていた。
そして、一刀の倭刀が霞の胸を袈裟に斬り上げる直前、霞の飛龍偃月刀の石突が一刀の胸中央に向かって伸びてきて、倭刀の軌道と交叉。倭刀に弾かれた飛龍偃月刀は、度重なる衝撃によって損傷が激しく、そのまま粉砕。霞の手を離れたそれは、そのまま彼女の後方に突き刺さった。一方の倭刀の方も、弾いた衝撃で刀身に亀裂が入りそのまま粉砕。根元の部分を残して完全に破壊された。折れた刀身は彼の背後にやはり突き立った。
華雄と戦ってあっさり勝ちを収めた一刀と、そんな彼相手に危ういところとは言え引き分けに持ち込んだ霞の二人を見て、観衆は沸きに沸いた。華雄の存在は、すでに脇に追いやられつつあった。彼女が自嘲気味に嗤ったのはそのせいだったのだろう。
ともあれ、董卓軍の二将軍と、軍事顧問団長の模擬試合は、大盛況の内に幕を下ろしたのであった。
あとがき
というわけで最新話、武人対魔人、お届けしました。
どうだったでしょうか?
正直、戦闘シーンが長すぎて読みにくい文章になった気がしないでもないのですが、精いっぱい頑張ってみました。
今、自分は大学が試験期間間近なので、更新はまた遅れることになると思います。
これからも精進してまいりますので応援、ご支援のほど、よろしくお願いします。
では、今日はこの辺で
追伸:これまで投稿した話も、一部文章に不審な点などがあったので修正しました。
説明 | ||
みなさんお久しぶりです。 約1月ぶりの投稿となりました。 今回はいつもより長めの内容となっております。 誤字脱字等ございましたら、ご一報くださると幸いです。 では、黒の猟兵団編、第三話、ご覧ください。 |
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コメント | ||
面白かったです、これからも頑張ってください(サンレッド) >たこきむちさん その通りですww個人的に剣心よりもこっちの方が好きなものでwww(海平?) 縁かww(たこきむち@ちぇりおの伝道師) ありがとうございます!これからも頑張ります!(海平?) 楽しかったです。(readman ) |
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