ヴァリサナ(サモクラ) |
何もかもがシナリオ通りに上手くいくとは限らない。
特に、恋愛が絡む事は一層わからない。
小説みたいに好きな人が自分を好きだとは分からない。
初恋は実らないものだ。
例外として、親友のプラティのように初恋が実る事もありえるのだが、それは特別な事だ。
稀な人がいると、自分も「そう」ではないかと勘違いする。
だが、確実に、私と私の好きな人は「そうではない」部類に当てはまるのだ。
そう思っていた。
ずっと…
その日はたまたま宴会だった。祝い事が重なっており、結構盛大に行われたので若年の自分たちにも酒が振る舞われた。
リィンバウムの勇者がワイスタアンに着いた夜───。
酒といえども、特別強い酒ではなかった。
だが、酒は何人からにも薦められ、酔いにもまかせて、何種類ものアルコールをチャンポンをしていた。
私たちは、酔っていた。
祝いの雰囲気に巻き込まれて、過ぎてしまった酒量は、私の記憶のほとんどを奪っていたが、彼は、私以上に酔っていたのだ。
小さく声を上げた瞬間、ヴァリラの腕が背中に回されてサナレの身体が踊るようにふわりと動いた。
気がつくと工城の壁とヴァリラに挟まれるようにして身動きがとれなかった。
手首が痛い。
つかまれたヴァリラの手の力が、ぎりりと動いて、サナレは僅かにうめき声を発した。
「ちょっと! な、何するのよ、急に…っ」
抗議しかけた途端、何を思ったのか、サナレはすぐにヴァリラの唇で口をふさがれて、それ以上何も言えなくなってしまった。
頭の中が真白になる。
目を閉じる事をせず、ただ理由を探しては、信じられないと心で叫んだ。
少し遠慮がちで優しかった唇の動き。
唇を開くや、すぐに飢えたような貪欲なものに変って、熱がこもる。
サナレは目を明けたままヴァリラのキスをただ受けるだけだ。
間近にするヴァリラの顔をまじまじと見ることなんてなかったので、思わず観察してしまう。唇の柔らかさとか、髪の毛が思ったより柔らかかった事とか、キスの味なんて、さっき食べたもので違ってくるんだとか…サナレの頭の中はすべてが混同して身体まで意のままにできることはなかった。
ただ、押さえつけられた身体の痛みをどこかで感じて、正気にかえる。
こんなふうに、酔った勢いで喧嘩ばかりしている女の子とキスするなんて、ふざけているとしか思えない。
サナレは必死に身をもがくと、勢い余って手に力を込めた。
甲高い音が二人の間に聞こえる。
いつまでも熱をもつ筈だった唇には、ヴァリラのそれは感じられない。
サナレは唇をふるわせていた。
─── ヴァリラの好きな人は、あの子なのに…
銀の髪の可愛い親友。最初はお互いを高める為のライバルだと思っていた。
鍛聖の身内をもつ私達はどこか少し似通っていた。
けれど、彼女の屈託ない態度と頼ってくるあどけない笑顔と、一生懸命さがいつの間にか憧れていたのだ。
そして、ヴァリラは自分と同じだった。
プラティの一生懸命さに惹かれているのかもしれない。
だから、私は諦めたのだ。
彼女なら仕方がない。
彼女にはもう「大切な人」がいたとしても、彼には彼女こそが「大切な人」であり、自分は絶対にその位置を替わることができないのだ。
そう思っていたのだ。なのに ───
「どうして…」
目の前にいる彼は、複雑そうな顔をしている。
ちらちらとついては消える街灯が、時折彼の頬を照らしては隠す。
頬には手の方がついている。
私が付けた手形だった。
「…痛いな」
ヴァリラはむすっとしながらそう言った。
視界が緩む。
ああ、こんなときに、こんな場所で、どうしてこんなことができるのだろう。
雨宿りしているはずなのに、何故か顔が濡れている気がする。
視界がぼやけて、近くにいるヴァリラの顔さえみえなくなりそうだ。
「信じられない」
すっかり酔いも忘れているサナレは、肩までふるわせている。
寒いのではない。怒りでもない。
だた、情けなかった。哀しかった。だって、はじめてだったのだ。
はじめて唇に触れたのが、ヴァリラだなんて考えられなかった。
「どうして、キスなんかするの?」
掴まれていた手首が今更痛みを思い出して、サナレそっと手を添えながら、そう言った。
雨はかすれた声をかき消そうと、激しく地面に打ち付ける。
ヴァリラは心配そうにサナレを見た。少し戸惑って、手を伸ばすのをためらって、もどかしそうに、哀しそうに眉尻を少し下げると、髪をくしゃりとかき上げながら、 「悪かった」と言った。
思えば、彼のそんな情けない姿は見た事がなかった。
いつも高慢不遜を絵に描いたようなヴァリラである。彼の立場がそうさせているとわかっていても、サナレがはじめに彼に対して突っかかりをみせたのもこの部分だった。
だか、今のヴァリラは今まで聞いたことがないくらい情けない。
顔にはサナレの手形がついている。
髪をかきあげて困った表情をしているのも、優しい声を出して謝ったのも…
「…そんなこと訊いているんじゃないわ」
「怖かったか?」
怖かった。けれど頷くことができなかった。
首を横に振ることも、それ以上言い訳を求める事もできない。
訊けば必ず後悔する、とサナレは思った。
(私は確かにヴァリラが好きなのに、ヴァリラは私を好きじゃないんだもの…)
顔が会えば嫌味か喧嘩をしている自分たちだ。こんな甘いことをする間柄ではない。今までの自分たち思い出しながら、胸を傷める。
キスを求めたわけではないし、これは勢いでされたことだ。好きな人にここまでされても、どこまでも哀しい自分が情けなくて、涙を流す目を閉じた。
「すまない」
いつの間にか涙が流れて濡れほぞっていた私の頬に、ヴァリラの両手が触れた。
ひくりと息を呑んで、サナレは目を開ける。
あくまでもそっと彼女の頬に触れているだけのヴァリラはとても優しい。
まだ酔っているのかもしれない。
固まったまま、何の反応もない両手の中のサナレに、ヴァリラが困ったように笑った。
「おまえは…」
「な、なに?」
「…いや。お前は、結構気が強いと思っていた。
実際、平手打ちを食らうと思わなかったから、やはり強かったが…」
「可愛気がなくて悪かったわね」
「誰もそんなことを言ってない。キスをして泣く奴があるか」
「分かっててしないでよ。こんなの卑怯じゃない」
「どうして?」
「だって、酔ってるでしょ?」
「酔ってたら、いけないのか?酔ってなければ、キスしていいのか?」
「ふざけないで。いいわけないでしょ?誤解されちゃうわ」
「誤解されたくないのか?嫌なら言え」
サナレは困った。
どうやら、ヴァリラは酔っている。
酔っているからこそ、こんな甘い台詞がでるのだろう。
それでも怪訝そうな顔をして、サナレを覗き込んでいる彼は難しい顔をしている。泣いているのはこっちなのに、どうして怒られているような気になるのだろう。
無言の圧力が答えを促して、サナレは目をそらした。
そして、ゆっくり首を振ると顔を真っ赤にしながら、
「嫌じゃないわ」
そう言った。
いつの間にか、サナレの涙は止まっている。
ヴァリラは少し嬉しそうに両の親指で頬の涙の跡を拭った。
照れたような、本当に、普段で見る彼からは思いもよらない仕種に、サナレの中のどこかが切なくなった。
(まさか、こんなことになると思わなかった)
真夜中の工城の表玄関の前で、二人は雨宿りしていたのだ。
宴会で酔った自分たちの帰り道が、たまたま一緒の方向だっただけ。
その帰り道、どしゃぶりの雨にみまわれた。
そして、サナレは初めてのキスをした。
たとえ、酔っていた勢いでされた不真面目なキスだとしても、相手は自分の好きな人で、叶わない相手だったのだ。
「ヴァリラ」
「…なんだ?」
「お願いがあるの」
絡み付く湿気よりも、頬にある手のぬくもりで目眩がしそうだ。
恥ずかしさと身体の中に残るほんの少しのアルコールにまかせて、サナレは一生に一度であろうお願いを言ってみせる。
「あと一度でいいから…キスして」
どしゃぶりの雨はまだ止まない。
ヴァリサナ初挑戦〜
2007.06.27
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サモンナイト?クラフトソード物語、マイナーCPのヴァリラ×サナレ | ||
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