真・恋姫無双another 風ストーリーその27 |
蜀の皆さんと和解をして、私達はすぐに襄陽に戻りました。
蜀との間にあった真実を伝え、いらぬ争いを起こさないためです。
けれど、これは遅すぎたのかもしれません。
私が策を仕掛けた人間なら、間に合わないように策を仕掛けます。
案の定、私の思ったとおりの事態になっていました。
蜀との国境線から戻ってきた私達を待っていたのは、思っていたのとは違う人でした。
「おや一刀さん、ずいぶんと早いお戻りでしたわね」
「アニキおかえり〜。もっとゆっくりしてくればよかったのに」
「文ちゃん、ご主人様は遊びに行っていたんじゃないんだから……」
こういったやり取りを久々に聞いた気がします。
玉座で待っていたのは、麗羽さんと猪々子さん、そして斗詩さんです。
そこにいるはずの白蓮さんの姿がありません。
一体どうしたのでしょうか。
ここは麗羽さんに聞くしかありません。
「麗羽さん〜、白蓮さんはどこに行ったのですか〜?」
「風さん。伯珪さんなら皆さんが出た後に、出ていきましたわよ」
「出ていった?」
「はい。呉軍から侵略があったという報告があったので、事態の収拾に向かいましたよ」
麗羽さんではなく、斗詩さんからの言葉で事態が分かりました。
「麗羽!! そういうのは伝達兵を出して教えてくれないと……」
「あら、伝達兵なら送りましたわよ。伯珪さんからの指示で」
「そんな兵来てないぞ」
「それはおかしいなぁ。斗詩、ちゃんと送ったよな?」
「もちろん」
猪々子さんと斗詩さんが、首を傾げます。
麗羽さんはともかく、このお二人が責任を持って出したというのであれば間違いはないでしょう。
という事は、この事態をお兄さんや私に知らせたくない何者かに……という事になります。
それは間違いなく、この計略を仕掛けた人物でしょう。
それが誰かという事を追求するまえに、いち早く白蓮さんを追いかけて止めるしかありません。
その前に、ここにいる皆さんに蜀軍との間にあった真実を伝えないといけません。
私は、蜀軍との間にあった事を伝えました。
私の言葉を聞いて、皆さんは一様に驚いていました。
そして、察しのいい人は今白蓮さんが置かれている状況に気付きました。
「ご主人様、白蓮様を追いかけないといけないのでは?」
「そうだな。すぐにでも追いかけよう」
「では、一刀さんが留守中の代理はこの袁本初が務めますわ」
そう言って、麗羽さんが胸を張ります。
普段から自主的に仕事をするような人ではないのですが、やっぱり自分が一番になるような位置だと積極的になるようです。
そして、ここにはそういう考えを持っている人がもう一人います。
「主様の代わりは妾がするのじゃ!!」
そう、美羽さんです。
麗羽さんに対抗するかのように、名乗り出ました。
「美羽さん!! ここは大人しく袁家の当主である私に譲りなさい!!」
「麗羽姉さまこそ、袁家の当主である妾に譲るのじゃ!!」
「何を言ってますの!! 袁家の当主は私ですわ!!」
「妾じゃ!!」
ここから二人で、袁家当主は自分だという言い争いが始まってしまいました。
正直どちらが当主でも構わない気もしますが、このままでは収拾が付きません。
猪々子さん、斗詩さん、七乃さんに言って収めてもらおうとしましたが、その必要はありませんでした。
「二人とも必要ないわ。一刀の代わりは私が務めるから」
「!?」
唐突に代わり宣言をする声。
その正体は意外な人物でした。
玉座の間の入り口から中に入ってきたその人物は、ここにいるはずのない人物でした。
「華琳……」
そこにいたのは、魏王の曹操さんです。
お兄さんが呼んだのでしょうか?
「一刀、来たわよ」
「悪いな、華琳」
「謝る必要はないわ。あの時に私は一刀に全てを捧げた。呼ばれれば来る。それは当然のこと……」
「……そうだったな」
「なぜ、華琳さんが来る必要がありますの?」
「一刀が麗羽では不安だと思っているからではないのかしら?」
曹操さんが嫌みったらしく言います。
正直、私も麗羽さんより曹操さんが居てくれると安心します。
「一刀さん!! どういう事ですの!?」
「い……いやあ……」
お兄さんは答えづらそうです。
正直、麗羽さんの存在を忘れていたのではないかと思います。
助け船を出す必要がありそうです。
「お兄さん、そんな事より早く白蓮さんの元へ……」
「そうだったな。すまない、麗羽。華琳に協力してやってくれ。美羽は大丈夫だよね?」
「なぜ、私が華琳さんなんかに……」
「主様よ、妾は曹操に協力するのじゃ」
「ありがとう……。やっぱり袁家の当主は物分かりのいい美羽かな」
「そうじゃろ!!」
そう言って、美羽さんが小さい胸を張ります。
それを聞いて、麗羽さんも従わざるおえないようです。
「し……仕方ありませんわね。ここは華琳さんの言うことに従いますわ」
「麗羽もありがとう。それじゃ、華琳頼むね」
「また無理難題を……。この代償は高いわよ」
「事が済んだらね」
お兄さんの言葉を聞いて、なぜか頬を赤くする曹操さん。
このやり取りで何となく想像出来てしまいましたが、深く追求する時間もないのでここは流しておきます。
ですが、いつか聞かなければと心に留めておきましょう。
こうして、幾ばくかの不安を残しつつ、私達は白蓮さんが出陣したという東方の地へ向かいました。
道中は非常に穏やかでした。
これもやはり街道整備の賜です。
灌漑、治水対策も上手くいっているようで、そういった障害になりそうな事は一切起こらず予定通りの日数で目的地に到着しました。
しかし、時既に遅しといったところです。
戦はほぼ終結しかけていました。
孫策軍が主力でなかったというのもあるのでしょうが、こちらの武将が星ちゃんと恋さんでは並大抵の部隊では歯が立たないでしょう。
そして、孫策軍の大将が捕らえられて北郷軍の陣に連れてこられた時に、私達が到着しました。
「北郷に風か……。どうしたんだ?」
「白蓮……、戦は?」
「見ての通りだ。我が軍の圧勝だよ。やっぱり星と恋にはさすがの孫策軍も形無しだな」
これを聞いて、お兄さんは頭を抱えました。
「おや、主殿どうされた? 敵の大将ならほれこの通り捕まえてあるよ」
「ちょっと、変なところ触らないでよね!!」
そこに捕らえられていたのは、非常に小柄な女性。
不思議な縛り方をされています。
「これは、蜀の厳顔と黄忠と酒の席で一緒になった時に教わったのだ。なかなか拘束力のある縛り方であろう?」
星ちゃんが誇らしげに語っています。
これを見て、お兄さんが顔を赤くしています。
これは怒りと言うより恥ずかしさでしょうか。
お兄さんは、この縛り方を知っているのでしょうか。
「いや……、これは……」
「なんだ、主殿はこれをご存じか」
「知っていると言えば知っているけど……」
歯切れの悪いお兄さん。
そんなやり取りに痺れをきらして、捕らえられていたその女性が話しだしました。
「そんな事いいから普通の縛り方にしてよ!! これ股のところが痛いのよ!!」
確かに、これは痛そうです。
「そうだった。星、解いてあげて」
「主殿の命令なら仕方ないが、どうするのだ?」
「解いた後に話す事があるから」
お兄さんの命令で女性を捕らえていた紐がほどけました。
このまま逃げ出すかと思いましたが、その場に留まります。
一応、大将として出陣するだけの事はあります。
お兄さんが、紐が解かれたその女性に近づいて聞きました。
「色々とすまない。俺は北郷一刀。君は?」
「私は雪蓮姉さまの末妹、孫尚香よ」
「そうか……。ごめん」
そう言ってお兄さんは頭を下げました。
これには、白蓮さんや星ちゃん、それに孫尚香さんも驚いています。
「こんな戦いする必要はなかったんだよ」
「それは……どういう……」
「風が説明します〜」
私は、蜀軍との間で起こった事を話しました。
それを聞いて、皆さん一様に驚いています。
特にこの戦いを指示していた白蓮さんの驚きようは言葉に表せません。
「つまり、北郷軍は私達が攻めてきたからここに来たって言うの?」
「そうなるね」
「シャオは北郷軍が攻めてきたという報告を受けたから、ここに来たのよ」
「蜀軍の時と全く一緒だ……」
しばしの沈黙。
それはそうでしょう。
どちらにも攻める意図はないのに、結局戦わされてそれによって双方とも痛みを受けたわけです。
なかなか言葉を発しにくい状況でしたが、お兄さんが言いました。
「俺が直接、雪蓮の元に行って謝ってくるよ」
お兄さんの言葉に驚きましたが、それは避けるべきでしょう。
「いえ、お兄さんが行くのはまずいかなと……」
「どうして?」
「呉王の孫策さんに会うのであれば、それなりの手続きを踏まないと〜。友達感覚というわけには〜」
「そうか……、そうだよな、やっぱり」
「会うというのであれば改めて使者を立てた上で、会うのがいいかと〜」
「分かった。そうするよ」
お兄さんは納得してくれました。
次は孫尚香さんの説得ですが、それは必要なかったようです。
孫尚香さんは、立ち上がると胸を張って言いました。
「雪蓮姉さまには私から言うわ。だから一刀が来る必要なし」
「そう?」
「それに、シャオ。一刀の事気に入っちゃった」
孫尚香さんの言葉に、皆が驚きます。
お兄さんは、彼女に対して何かしたわけではありません。
にも関わらずどうしてなのでしょう。
「さすが、主殿。英雄色を好むとはまさに主殿のための言葉」
「星……」
「北郷……。さすがに場所をわきまえてくれなくてはな」
「白蓮まで……。俺は何もしていないし」
「……恋もご主人様が好き」
「恋殿!! 何を言っているのです!!」
どさくさ紛れに恋さんもとんでもない事を言い出します。
「みんな、面白いね。それじゃ、一刀またね」
そう言って、孫尚香さんはお兄さんの頬に口づけをしていきました。
「なっ!?」
この行動も驚きです。
先ほどまで間違いだったとはいえ敵対していた相手です。
その総大将に対する行動ではないでしょう。
そのまま孫尚香さんは自陣へ帰っていきました。
誤りだと気付いたのですから、押さえつけておく必要はありません。
お兄さんは、孫尚香さんに口づけされた頬を手で押さえながら、惚けています。
「北郷!! 今のは何だ!!」
「今のって言われても……」
「そうだ、白蓮殿。英雄色を好むとはいえ、自重できないようでは困る。主殿を少し鍛え直す必要があるかもな」
「……恋も鍛える」
「ちょっと、勘弁してくれ!!」
皆さんの一斉攻撃が始まりました。
このような事で騒げるのであれば、今は平和なのかもしれません。
ただ、この後最悪の事態が待ち受けているとは私も思いもしませんでした。
あとがき
風ストーリーの27話になります。
前話の続きという事で、今度は孫呉との戦い。
これは、無印恋姫であったと同じ、小蓮が大将で戦うという事にしました。
といっても、一刀達が到着した時点で決着はついていましたが。
麗羽と華琳の絡み。
実はもっと色々書きたいと思っていたのです。
ですが、風の視点という事になると、それよりもいち早く白蓮を追いかけるという事になって書けません。
まあ、小さい頃からの幼馴染みですから、それなりにうまくやっているのではないかと思います。
美羽は、華琳を恐れてという事態も考えましたが、それではあんまりだったので素直な感じにしてみました。
萌将伝では、結構そんな風に描かれていたような気がしましたが、どうでしたっけ。
たまには、ゲームしないとダメですね。
次が最後……になりそうです。
最後までお付き合いいただけると嬉しいかな。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真恋姫無双の二次小説です。 風の視点で物語が進行していきます。 前回の続きと言うことで、今回は孫呉が相手になります。 ですが、戦いの要素はほとんどありません。 結構あっさり終わらせてしまいました。 少し物足りないかもしれませんが、感想などいただけると嬉しいです。 |
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