双子物語-4話- |
卒園…。それは園児から小学生に成長するための行事。人間全員にその時期は必ず訪れる。引越しする友達、
別の学校へ通うことになった友達、また一緒に共に学べる友達様々だ。その中で別れを惜しむようにこの行事を
心のそこから楽しんでいるのが彩菜だった。
彩菜「うっうっ、また遊ぼうね…」
男子「な、なにも泣くことないだろう!?」
仲良しの一人一人に涙を見せる彩菜、その一人一人は次の学校では会えないとわかっていての
ことだった。雪乃は少し妬けた。
雪乃「私が彼らと同じ立場だったら彩菜は泣いてくれるかしら」
菜々子「さぁ…。それより雪乃はお別れ言う子いないの?」
雪乃「冗談…いるわけないわ。そんなの」
大地はめでたく彩菜と雪乃と同じ学校へ行くことがわかった時点で雪乃がお別れを言える相手は消失した。
普段から本を読んでいて他の子と遊んだ記憶なんてほとんどなかったのだ。せいぜい、彩菜が誘っておままごと
かなんかをやったことくらいだろう。
少し気分が悪い、ガラにもなくカッときたせいだろうか。雪乃は疑問に思った。なんでカッとなったのだろう。
別に友達なんていらないのに…と。
時間が長く感じる。あまり時間は経っていないのだろうが、特に長く感じた。やがて、挨拶終わって顔ぐしゅぐしゅ
で見れたもんじゃない顔で帰ってきた彩菜は私の顔を見てその涙も止まる。
彩菜「あれ、雪乃…。具合悪い?」
雪乃「ちょっとね、少し気持ち悪いだけ…」
仕草はいつも通りだが、少し青ざめたような顔をしていた。彩菜はまだ幼いが同じ時に生まれた妹の顔を見れば
どういう状態なのか瞬時に判断できた。
彩菜「じゃあ、早く帰ろうよ」
菜々子「もういいの?」
急いで家に帰ろうとする彩菜に菜々子は一声かける。振り返って彩菜が告げた一言。
彩菜「そんなことよりも雪乃が心配だからいいの!」
子供とは残酷なもので、大声で言うものだからせっかく感動の別れをした友達がそんなこと扱いされ
ショックを隠しきれなかった。
雪乃「別にいいのに」
ただ少しの間なのに逆に相手に悪く感じたが、彩菜は構わず歩き出した。途中、走って追いかけてくる
人ひとり。本を一冊抱えてがむしゃらに走っていたら彩菜たちを抜きさって先の道でキョロキョロしていた。
県「あっ」
後ろを見て抜いたことを確認した県は照れ笑いをしながら3人のもとに戻ってきた。
菜々子「どうしたんですか?」
気になって母が声をかけると県は持っていた本を雪乃に手渡すと。
県「いやぁ、面白そうだったんで、借りていたんですけど。すっかりこの時期になって」
すみません、という県の隣で雪乃は気づかず首をかしげる。
雪乃「あっ、貸したの忘れてた」
県「おい、自分の大事なものを貸し借りしたのは覚えとこうよ」
ありがとう、楽しかったよと告げて「またね」と歩いている途中で振り返って言ってから完全に姿を消した。
「またね」という言葉は「また会える」ときに使う言葉だ。
わかっているのだろうか、これが最後の日だということが。と、雪乃は再度首をかしげた。確かに、
どこかでまた偶然すれ違うくらいの確立ではあるかもしれないが、もしかしたら会うということがないかも
しれないじゃないか。そんなことを考えていた。
彩菜「どんな本を貸してたの?」
どんなマンガとか絵本だろうかとワクワクしていた彩菜に、言い辛そうにしていた雪乃は聞こえるか
聞こえないかくらいの音量で伝えた。
彩菜「え…文庫本?」
本をめくりながら彩菜は仰天していた。文字しか羅列していないような本はみたことないのだろう。
途中で挿絵はついているものの、まだ園児が見るようなものではない。
内容はどっちかといえばファンタジーものだ。中世時代の空想された人物と物語の。
雪乃「どうせ、彩菜にはつまんないものだろうから」
はい、と手を出した。彩菜は渋々、雪乃の手元に本を戻した。
彩菜「雪乃は頭良すぎるんじゃない?」
雪乃「どうだろう…私にはこれくらいが普通だから」
だから、あまり子供番組をとかを好んでみることはしない。彩菜が見るから一緒にみているようなそんな感じだ。
某アンパンをモチーフにしたのとかを純粋に真剣に見ることはもう不可能となっていた。
菜々子「ちょっと大人びてるって感じがするなぁ」
そういう会話をしながら帰る。園児最後の日だというのに、いつもの日常と変わらないことが雪乃の
中では何か物足りなかった。
何が物足りないのかと問われればそれは答えられようもない感情的なことだった。
だから何も言うまい。そう、雪乃は思っている。
家につくと、えらくザワザワと賑わっている。中を覗くとそこには菜々子の父親と部下たちが宴会騒ぎを起こしていた。
菜々子「あれ、来てたの?」
すると、彩菜たちの祖父である人物がベロベロに酔って可愛い娘と孫たちのもとへ駆け寄ってきた。
祖父「おおっ、もうすぐ小学生に上がるってんで、色々買ってきたんだよ」
孫の姿を見つけると祖父は彩菜に抱きついた。
祖父「かわいいのぅ、菜々子にそっくりで美人になったな」
彩菜「えへへ、ありがとう」
褒められて嬉しそうに笑顔を振りまく彩菜。そして、いざ雪乃に向かおうとした祖父に対して雪乃が
掌を向けストップの意を示した。そして、一言。
雪乃「お酒…くさい。来ないで…」
祖父「ぬ、ぬおおおっ…!」
もろジェスチャーであからさまに嫌がる仕草をされたおじいちゃんはのた打ち回りながらショックを
受けていた。部下たちも普段見ることのできない光景に驚き、祖父と一緒に悲しんでいる。その様子は
地獄絵図といっても過言ではなかった。
大量の酒瓶が散乱して大の大人が号泣して蹲る。周りには心配をしている部下たちが
「おやぶん!おやぶん!」と慰めている様は子供ではなくとも大人も引くというものだ。
菜々子「もう、お父さん!しっかりしてよ!」
そう、ここで娘の登場だ。ここでこの状況を収めなければいい加減近所迷惑の何者でもなくなって
しまうのだ。もうすぐ旦那が戻る時間。無駄な心配をかけずにすぐさま黙らす方法は…。
祖父「うおおっ菜々子―、菜々子―!」
菜々子「ふんっ…!」
どごっ!
祖父の鳩尾に容赦なく拳を放つとすぐさま部下の一人がビニール袋を祖父の口元に当て、
もう一人は子供たちの前で壁となる。そして、醜い「おえぇ〜!!」という声が木霊した。もう、雪乃は失神寸前である。
胃袋の中をすっきりさせた祖父は水を大量に飲み込み、部下達と深々と頭を床につけた。
これはいわゆる土下座…というものだ。散々、凄惨なものを見せ付けられてすっかり青ざめた雪乃は
力を振り絞って一言祖父に告げた。
雪乃「ご、ごめんなさい…」
倒れそうになったところを、部下の一人のサブが支えた。祖父はまたもやショックを受けて戸惑うが、
ちょくちょく顔を出すサブは既に対応策を知っており、彩菜と共に二階へと上がっていった。
彩菜たちの耳からは一階でたっぷり菜々子に絞られている怒声だけが聞こえていた。
ベッドにそっと寝かすと途切れていた意識が戻ったのか、サブの方へ見て感謝の言葉を伝えると、
サブは照れながら謙虚していた。
サブ「疲れていたんだね。もう少ししたら具合もよくなると思うから寝てな」
顔はいかついが、言葉遣いが丁寧。心は優しい人間なのだ。
雪乃「うん…」
彩菜「ありがとうサブちゃん!」
いかつい笑顔を返すとサブは静かに扉を閉じた。ベッドの近くにスタンドの電灯を灯すと二人の
顔だけに淡い光が当たる。真っ暗の中、二人の顔しか見えない。それだけのことなのに、妙に楽しくて嬉しい。
彩菜「わたし、雪乃と同じ大きさだからサブちゃんみたいに持ち上げられないんだよね」
雪乃「別にそんなこと期待してないよ」
本当に雪乃はそういうことは期待していなかった。それよりもこんなことで体に支障をきたす自分のことを
どうにかしないといけないと真剣に思っていた。
しかし、彩菜はそれを知ってか知らずか、雪乃にこう宣言した。
彩菜「わたし、これから力つけて雪乃を助けるからね」
雪乃「ふふっ、ありがとう」
本気で思ってないと感じたのか雪乃は適当に彩菜の言葉を受け止めた。しかし、彩菜の中ではその
言葉が気持ちをさらに高ぶらせた。いっそう、決意を強くさせたのだ。
やがて、足音が一つ…二つ…三つ。帰ってくる人数にしてはちと多すぎる。一人は父親なのだが、
他にどんな来訪者がやってくるのだろうか。
雪乃は立ち上がり、彩菜と一緒に玄関へと向かう。玄関の扉がゆっくり開くと3人の男女が立っていた。
一人は言わずとしれた双子の父、静雄。両隣には二人は面識のない男女が不思議なものをみたかのように
ジッと二人を見ていた。
静雄「ただいま」
彩菜「おかえりパパ」
雪乃「おかえりなさい」
静雄が後ろで言われるまで待ってる二人に声をかけ家の中に上がらせた。先に歩く双子は初めてみる
来客からの視線を感じまくっていた。
男「いやぁ、ほんとうにいたんですね。娘さん二人!」
女「しかも可愛い!本当に先輩の娘さんですか〜?」
雪乃「あの〜…」
たまらず後ろの二人を上目遣いで見上げると思い出したかのように軽く紹介を始めた。
男「君のお父さんの会社の部下の佐々野隆二。まぁ、滅多に会わないと思うけどよろしく」
さわやかな笑顔を振りまくごつい男こと隆二は雪乃の手を握って大きく振った。
女「雪乃ちゃんだっけ?私はお父さんとは高校生からの付き合いなの。今いくとこがないから雇って
もらってるんだ。櫻田美咲。私の名前。よろしくね」
愛想が良さそうなお姉さんに好感を持てた二人。しかし、体は年相応に育っているのに声はいまだに幼い。
声だけでも幼いと年を実年齢より若く感じるような気がする。
二人も挨拶をして奥にいる祖父と母のもとへ向かった。
菜々子「ああ、おかえりなひゃーい」
少しの間にすっかり菜々子は出来上がっていたようだ。ついでに祖父もあれだけ酷い目にあいながらも
またも娘と一緒にたらふく飲んでいた。というか酒に呑まれていた。
美咲「うおおっ、お酒がいっぱーい!」
酒に目がない美咲は既に周りが見えなくなり一直線に酒が置いてあるテーブルまで走っていく。そして、
大人3人で酔いまくり。なんともみっともない状況になってまさに目が当てられない状態である。
静雄「おい、菜々子。今日は彩菜と雪乃を祝う席だろう。なにをやってるんだ!」
一言、静雄が菜々子に喝を飛ばすと途端に動きが止まる。
菜々子「あ、そうだった…」
我にかえって二人を見た。すっかり置いてきぼりになって二人はきょとんとしている。
祖父「あ…」
美咲「あ…」
ということで、祖父と美咲がサブと隆二に絞られている間に忘れ去られていたパーティーセットを用意した。
二人はしっかりとマンガのような付け髭ととんがったド派手な色使いのいかにもパーティー的な帽子を被らされた。
雪乃「って…私たちがつけてどうするのよ」
彩菜「かわいいよ、雪乃」
うれしくない。と口には出さなかったものの、心の中でツッコミながら鏡をみると悪くはないような気もする。
というかこのヒゲの滑らかさがたまらない。
でも、これつけて芸とかするのは絶対祝ってないと思う。祝う方がやるべきなのだ。そういうのは。
その辺はさすがにわかっているらしく、ちゃんとした食事パーティーだった。それに対して雪乃は
「じゃあこれなんでつけるの?」と菜々子に聞くと「似合うから!」と自信満々に返され困惑気味だったが、
それなりに楽しむことができた雪乃。
せっかくグッズを身に着けているのだからと、ノリの良い彩菜はオリジナルの何も考えていないダンスを
踊っていた。いや、なんかダンスというよりも挙動不審にもみえなくもなかったが、大人たちが爆笑して楽しんで
いるところに水を差すと悪いからと彩菜の踊りを静かに見ていた。
ある程度、落ち着くと両親はパーティーの片付けに。双子の目の前には祖父と父の部下たちが笑顔で
二つの包装されている箱を置いた。箱の上にはそれぞれ、青・赤のリボンがついていた。
彩菜「なにこれ」
祖父「開けてみなさい」
とくに祖父はずっと待っていたかのようにそわそわしていてジッとしていられないようだ。彩菜と雪乃はリボンを
解いて、包装紙を彩菜はビリビリと雪乃は破けないようにゆっくりと開けた。彩菜は雪乃が箱を開けるまで待ち、
二人は同時に箱を開けて中身を取り出した。
雪乃「…」
彩菜「ランドセルだー」
それぞれ反応は違うが表情は今までなかったかのように、二人は嬉しそうに同じ表情を浮かべていた。
二つは同じような綺麗な赤色をしていた。大人たちがつけてみてとすすめるために二人はランドセルを着込んだ。
不思議とそれだけで大人に一つ近づいたような気がする。それだけで姿が小学生へと成長を遂げたように見える。
それに一番感動したのは両親だが、菜々子は片付けしている途中でやられたもので嬉しさと悔しさが半々で笑顔の
中でも眉間にシワがよっていた。
菜々子「おめでとう」
静雄「今度からは小学生になるな」
両親からも祝福の言葉をかけられて二人は微笑む。周りの人間からの言葉も素直に聞ける。次の舞台は
社会性を一から育てる場所へと変化することになる。
シンッと静まり返った夜のこと。大人たちは家に泊まるところがないためタクシーや自家用車で帰って
もらった。それだけで無駄に騒がしかったあの時間が夢や、はたまた長い時間が過ぎたようなそんな錯覚を覚える。
春も近いが夜は寒い。その中で彩菜はゆっくり目蓋を開いた。眠れないわけではないのだが、
なぜか急に眠りから覚めてしまった。隣で愛らしい表情で眠る雪乃の髪をそっと撫でる。頬を触れると
仄かに暖かく、ちゃんと生きている証を確認できた。
雪乃はいつも安らかに眠るものだから時々、ドキッとしてしまう。そのたびに彩菜はこうして確認をとって、
なんともなければ安堵の息を吐くのだ。
それだけ、体が弱いのだ。両親の精神的な苦労がここまで育てたことで少しは報われるのだろう。
重い病気にはかかってはいないが、しょっちゅう貧血で倒れたり、動悸が乱れて呼吸困難になったり、
偏頭痛がひどかったりと日常生活でかなり神経を尖らせていた感がある。
彩菜が一番驚いたのは去年、夜中に雪乃が口から泡を吹きながら痙攣をしていたことだった。
今でもそのことは忘れてはいない。本人はただ眠っていたつもりだったらしいが、周りは大騒ぎ。医者に行っても
原因はわからず、特に異常がないと判断され家に帰ってきたのだ。
彩菜「ん、大丈夫…大丈夫…」
それからは、不思議と大変なことは起きなかった。だから両親はここのところ平和に過ごせている。
それでも、貧血になって倒れかけたりするところは相変わらずだが、暑い夏も寒い冬も人一倍気をつけながら
なんとかやりすごした。
雪乃「ん…」
一つ体をくねらせた後、そっと雪乃の目蓋が開く。そして、視線は彩菜のもとへ動くと彩菜は上半身を
起こしながら雪乃をみていた。
雪乃「…どうしたの?」
彩菜「うん、雪乃の寝顔って可愛いなと思って」
雪乃「?」
寝ぼけた頭でよくわからない雪乃はカーテン越しから漏れる明かりを消すのにカーテンを閉めに
起き上がった。彩菜も慌ててベッドから起き上がり、上着を片手に雪乃の傍により上着をかけてから手を繋いで
一緒にカーテンに向かう。
雪乃「あ…」
閉めようとした途端、風もないのにいきなりカーテンが風が吹いたときのように舞い上がったのだ。
一瞬二人は目を瞑るが次の瞬間には二人の目には驚くほどの美しい星空が空一面に輝いて映っていた。
彩菜「うわー、すごい!」
雪乃「あっ、流れ星…!」
雪乃の指をさした場所が確かに一瞬、光が流れる瞬間があった。彩菜が見れずに悔しそうに同じところ
を見るともう一つ。やがてまた一つ。星が流れていく。
雪乃「ちょ…。今日って流星群の日じゃないよね」
彩菜「きっとわたしたちの小学生になったお祝いをしてるんじゃない?」
楽観的に言う彩菜を見て、プッと思わず噴出す雪乃。
雪乃「彩菜ってロマンチックなのねぇ〜」
彩菜「だってそう思えない?偶然でもさすごい確立だよ〜」
雪乃「まぁね…」
お互い見やった後に視線を戻す。しかも星も最後とばかりに花火のようにいくつも流れ去っていった。
それからいくらみても星が流れることはなかった。
ランドセルを実用する時期がやってきた。桜の花が散り舞っている中で二人はやってきた。綺麗な桜並木
の道を歩くと地面に積もった花びらたちはまるで絨毯みたいに辺りをピンク色に染めている。不安、楽しみ、
緊張、色々な感情が交錯しながら二人は進む。
今日は待ちに待った入学式だ。
彩菜「同じクラスになれるといいね」
雪乃「…うん」
彩菜の笑顔に釣られる。だが、あんまり明るくなれない点が一つ雪乃の中にはあった。
どこかで聞いた話だが、姉妹兄弟で同じクラスにはなれないとテレビか何かで聞いた覚えがあった。
彩菜はそれを見ていないので無邪気に楽しそうにはしゃいでいる。
大地「おはよう」
後ろから駆けてきて横一線に並ぶと大地は挨拶してきた。しかし、顔は強張っているところからやはり
緊張しているのだろう。無理もない、知らない顔が並ぶわけだ。
まだ年を重ねていない3人にはほぼ初めてといえる別れと出会いの連鎖に到着したのだ。緊張するな
というほうが無理だ。この場合二つにタイプが分類される。
雪乃や大地みたいに、緊張が先行するタイプととりあえず何でも楽しむタイプの二つである。
彩菜は後ろの、何でも楽しめるタイプなのだろう。二人は羨ましく感じていた。
親、在校生、新入生が集まる中、校長の長い話をなんとか聞き終えると外にはクラス分けを既にされていて
それを嬉々として見つめる人、人、人の群れ。
彩菜「あっ…」
雪乃の見た情報が正しかったのか、彩菜は肩を大きく落とす。雪乃と大地の方へ戻ったときには
まるで病人か死人かのように青ざめている。
雪乃「ちょっとしっかりしてよ、こんなことでへこたれてたら命いくらあっても足りない」
彩菜「う、うん…」
人がある程度空くと、二人はジッと張られていた紙を見る。どうやら1組が雪乃と大地がいて4組に
彩菜が配置されていた。書かれている場所にとりあえず移動しなくてはいけない。彩菜は途中まで一緒に
ついてくるが、教室の中にも入ろうとするので雪乃は必死に説得をしてなんとか彩菜を4組に行かすことができた。
適当に席を見つけて二人は座ると、ガラガラと扉が開き先生がやってくる。
二人「…え!?」
たくさんいる生徒の中で二人だけが大きく声を上げる。当然二人には視線が集まっていた。
彩菜「うう…。にゅうがくそうそうショックだぁ」
だが、いつまでもこの調子だとまた雪乃に怒られそうなので彩菜はしっかり気をもって努めて笑顔を作ることにした。
空いている席を見つけて隣の女の子に挨拶をする。
彩菜「おはよう、これからよろしくね」
いきなり隣に座った見知らぬ女の子に声をかけられて驚く女の子。
女の子「え、ええ。よろしく」
見た目はどこかのお嬢様なんじゃないかと思えるほどフリフリの服を着ている。どこかキツそうな目つきが
印象的だった。茶色がかっている髪は軽くパーマがかかってるのか髪が波打っているようだ。
どこか遠慮がちなイメージがある。
女の子「わたくし、東海林春花と申します」
彩菜「え?もうします?何?」
春花「ふふ、よろしくお願いしますね」
彩菜「え、あ、う、うん!」
自分の紹介も忘れずに言うと春花は何度かその名前を繰り返し、脳に刻み込むかのように呟いていた。
すると、扉が開いて先生らしい大人が入ってくる。男性教師のようで簡単に自己紹介や今後のこと、
聞きたいことなど適度に済ませると。
教師「今日はこれで終わりだ。勉強は明日から、では解散」
教室の隅にあるイスに座ると教師はそれっきり何も言わなくなった。なぜイスに座ってるかはわからないことを
聞きにくる生徒のために残るらしい。
隣にいた春花は生き生きしながら彩菜に聞いてくる。
春花「澤田さん、わたくし色々この学校のことを調べてきたのですけど」
彩菜「え、ああ。具合悪くなったときにいくとこってどこだろう?」
春花「どうしてですの?」
彩菜「いや、妹が体弱くて。なるべく知っていたほうがいいかなぁと思って」
場所の名前もわからず場所を聞いて理由を話すと春花は感動して花がほころぶみたいに
微笑むと彩菜の手を繋ぎ引っ張っていく。
春花「こっちですわ」
彩菜「え、ええ?」
いきなり積極的になった春花に彩菜は戸惑いを隠せない。なにせ、今まで接したことのないタイプだったのだ。
しかもまだ小学1年で雰囲気からして色々学んでいるようだった。
保育園と比べ物にならないくらい広い校内を歩き回る。一度じゃ覚えきれない彩菜は通る場所場所の
名前を見て回る。少しでも目印にできるように。
数分歩いた先に保健室を見つけた。漢字はほとんど読めない彩菜は首を傾げる。
彩菜「なんて読むの?」
春花「え?」
読めて当たり前だと思った春花は胸を張って今まさに言おうとした直後に春花の背後から声が発していた。
?「保健室…よ」
いつの間に気配が現れたのか気づかずに後ろからする声に驚き振り返る春花。その先には真っ白の肩まで
伸びる髪を下げ、全身が他の子よりも細い弱弱しい女の子がいた。
彩菜「雪乃!」
雪乃「はぁ、これくらい読めるようになろうよ」
大地「やぁ」
クラスで離れ離れになっていた雪乃、大地たちと合流した彩菜は目を輝かせながら雪乃に抱きついた。
それを見て衝撃を受けた春花は握った拳を震わせていた。
雪乃に睨み付けた春花は慌てて笑顔に戻す。だが、その鋭い視線を雪乃は逃しやしなかった。
春花「じゃあ、わたくしはお迎えの時間なので帰りますね」
彩菜「うん、またね」
雪乃から離れ手を振る彩菜。春花はゆっくりと3人から遠ざかっていった。
彼女の嫉妬の眼差しに気づかなかった彩菜と大地は笑いながら話をしていた。
大地「さすがだね、もう友達できたんだ?」
彩菜「そう。いきなりだからわたしもびっくりしたけど」
一通り話しを終えると雪乃たちは保健室の中に入っていった。中には清潔そうな真っ白なベッドと
カーテンがあり、奥にある机のイスにはきれいな女性が座っていた。
教師「あら、可愛い子たちね」
気配に気づき、イスを回転させる。
雪乃「これから通うので需要のありそうな場所を見学していたんです」
教師「これは御丁寧に。あなたが病弱の澤田雪乃さんね。お母さんから直々にお願いにきてたわ」
雪乃「そうですか」
ため息をつく雪乃。母が直々にくるというものはなかなかに恥ずかしいものがある。
美人の保健教師は優しい微笑を雪乃に向ける。初対面の人に馴れ馴れしくされるのは好きではないが、
いきなり相手の機嫌を損ねるわけにはいかない。
雪乃はその好意的な態度に対して同じような作り笑顔で返した。教師は残り二人に視線を向けると大地は
緊張して固まり、彩菜は少し照れながら紹介した。
彩菜「雪乃の姉で澤田彩菜」
大地「あ、の…。友達の植草大地です」
教師「そう。私は保健担当の鈴木尋(ヒロ)というの。よろしくね」
ヒロは楽しそうに言うと、私は勉強の方だとほとんど出て来れないから用があったらここに来てね、と
フレンドリーに雪乃と付き添いの二人にも言った。
ヒロ「それと残念だけど、これから私は忙しくなるからまた今度ということで」
雪乃「はい、御迷惑をかけてすみませんでした」
彩菜「じゃあ帰ろうか」
3人は踵を返して部屋を出て行った。雪乃のポケットから音楽が鳴り片手を突っ込むとそこからは
携帯電話が出てきた。どうやら電話の方ではなくメールらしいが、雪乃はいつの間に練習をしていたのか、
迷わずに届いたメールを読んで二人に伝えた。
雪乃「お母さんたち先に帰ってるから3人で仲良く帰ってね、って」
放っておくと3人とも律儀なので親が来るまで待ってそうだからと、メールを送っていたのだ。
校舎から出ると早速美人の先生の話に入っていた。
先に話しを振ってきたのは今まで緊張して喋れなかった大地だったのだ。というよりも今まで喋れなかった
分を取り返すように話始めたようなものだが。
大地「すごい綺麗だったよねー。あの先生」
彩菜「そうだったねぇ、大地はああいうタイプが好きなんだ?」
何気ない言葉で大地は誰から見てもわかるくらい顔が赤くなっていた。口調もいきなり安定しなくなり、
あからさまに動揺しているのがわかる。
大地「そそそ、そんなことないよぉ」
雪乃「微笑ましいくらいわかりやすいから説得力ないわねぇ…」
二人でからかうと、何をすればいいのかわからなくなってしまった大地は怒りながら二人より先に
早歩きで進んでいくと、冗談冗談と謝りながらついていった。
大地を家まで送っていったときに大地は今思い出したかのように興奮しながら彩菜に伝えた。
大地「そういえば、県先生がいたんだよ!」
彩菜「へっ?なにがどうしたの?」
いきなりの衝撃な言葉についていけない彩菜はもう一回聞きなおしたがイマイチ理解できない。
それはそうだ。つい前まで保育園の先生をやっていた県が小学校にいるはずはないと思っていたのだから。
だが、その隣の雪乃からも同じ言葉を聞く。
雪乃「私もびっくりしたんだけど、あれはどこをどうみても県先生だったわ」
彩菜「え、ええぇ…どうやってそんなすぐに来れたんだろう…」
3人は首を傾げて考えたがちっともわからなかった。わからないものをずっとチンタラ考えていたって
仕方がないので大地は家の中に入り、彩菜たちは家に戻ることにした。
夕方、二人は母親と買い物にでかけると3人の横を胴長の高級車が通っていった。
菜々子「わーおっ、この辺であんな高そうな車見るの初めて」
彩菜「ん、あれ?」
去っていく車を見つめて首を傾げる彩菜。置いていくよと雪乃が声をかけるが、それでも来ないので
母親から離れて彩菜のもとへ向かう。
雪乃「どうしたの?」
彩菜「車の中に乗ってたのって、春花ちゃんかな…」
雪乃「ハルカ?」
保健室で会った子だよ、と彩菜が歩きながら説明をすると雪乃がふーんっとつまらなそうに相槌を打つ。
あの金持ちっぽいお嬢様か、と彩菜に聞こえるように言う。
悪気がない台詞と思った彩菜はうんうんと嬉しそうに頷く。
彩菜「わたし、お嬢様なんてはじめてみたよ」
綺麗な子だよねぇ。だけど堅苦しいとは口には出さなかったが彩菜の表情を見て雪乃は察していた。
話しているうちにスーパーについた3人は特売目指して進んだ。
体力のない雪乃は特売とは関係のない子供用おかし売り場辺りをうろうろしていた。
特に欲しいものはないが、野菜とか見ていても仕方ないので年相応のこの場所でうろうろしている方が
マシだろうというものだ。
雪乃「ん?」
コーナーを過ぎて近場にコピー機が置いてあった。そこには店の品物とは全く無縁だとわかるものが
存在していた。これは彩菜が楽しそうに見ていたマンガというものと同じようなもので、雪乃には興味の無い代物だった。
だが、他の何とも似ない雰囲気をその紙切れから感じ取った雪乃は無意識のうちにその紙を手にとっていた。
ちょうど、物語クライマックス辺りの一番盛り上がるところみたいだ。
雪乃「…」
内容がさっぱりわからなくても、描いている人間の気持ちみたいなのが伝わってくるようだ。雪乃は真剣に
その一枚の用紙に視線を滑らせる。何度も何度も飽きないくらいに。やがて、買い物が終わったと思われる
二人が雪乃を探していたのか心配そうな顔をしていた。
彩菜「なにしてたのー?」
雪乃「あっ…ごめん」
菜々子「あー、重い…。さぁ帰ろうか」
頷いて雪乃はそのマンガの一部を持って店を出た。しばらく歩いていると雪乃たちが歩いている向こう側
から急いで青年二人が走ってきた。
金髪「おいっ!なんで大切な原稿忘れてくるんだよ!」
眼鏡「うるさいな、徹夜してるんだからあんまり騒ぐな」
金髪の男は元気なのに対し、黒髪の眼鏡は明らかに疲れているようだった。目の下にクマができているし。
ちょうどこの先にある店らしい場所は先ほど雪乃たちがいたスーパーくらいしかなかった。もしやと思った雪乃は
通り過ぎる間際に普段あまり声を上げない雪乃らしからぬ大きな声が出た。二人の急いでいる雰囲気に
つられたのだろうか。
雪乃「あの…!」
真っ先に気づいたのは金髪のややロンゲの青年だった。それから眼鏡も気づき雪乃に近づいていく。
金髪「なんだい?」
何か近づきがたい怪しい空気を漂わせる金髪は雪乃に笑顔を浮かべた。寒気がした雪乃は持っていた
紙を金髪に渡すと金髪は眼鏡に渡し、これか?と確認をさせていた。
眼鏡「あ、ああっ…これだ」
情けない顔をしていた眼鏡の青年はそれが探しているものだとわかった直後のさわやかな笑顔を見たとき、
雪乃の胸が鳴った。一瞬のことでよくわからなかったがその後すぐに眼鏡が嬉しそうに雪乃に言う。
眼鏡「ありがとう、君のおかげで助かったよ」
雪乃「そ、そうですか…よかったですね」
眼鏡「ほんとありがとう」
同じ言葉を言うと金髪と眼鏡の二人はさきほど走っていた道を走って戻っていった。
あれをどうやって仕上げるのか、どんな内容のマンガを書いているのか気になってはいたが、
肝心の本人がいなくなってはどうしようもない。
雪乃はその後、菜々子に誉められ彩菜は雪乃が知らない男性の言葉に照れていたのを見て面白くない
のか頬を膨らませていた。
家に戻ると彩菜は真っ先にテレビのある居間へと走っていき、すごい形相でテレビを見つめていた。
とても楽しく見ている顔ではない。
いきなり機嫌を悪くした彩菜を見て気になった雪乃は彩菜に近づいていく。
機嫌直しのプリンを持って彩菜に手渡すが、彩菜はそのプリンを居間の端に投げた。
雪乃「なっ…!」
予想外の行動に雪乃は絶句した。
彩菜「こんなの…いらない…!」
振り返った彩菜の目には涙がうっすら浮かんでいて潤んでいた。そんな姿、滅多に見ることは無い。
いつも元気にはしゃいで笑っている印象しかないからだ。
彩菜は雪乃の服にしがみつき、顔を雪乃の体に押し当てわんわん泣いていた。
彩菜「ゆきのはわたしのなの!だれにもわたさないんだからぁ!」
号泣。こうなると雪乃の手には負えない。ここは彩菜にされるがままにしておこうと思い、
軽くため息をついて彩菜の頭を軽くポンポン叩いた。
正直、何のことでここまで泣くのか。記憶になかった。この出来事であの感動していたマンガのことも
薄らいでいく。夕飯の準備に取り掛かっていた菜々子は雪乃を見てここは任せておくかと、驚きはしたが
安心して見守ることができた。
目を赤くして彩菜はなかなか雪乃に目を合わすことができないでいた。いきなり感情が昂って
雪乃に泣きついてしまったからだ。
雪乃「ねぇ、そろそろ私にも洗わせてよ」
湯船に入りながら雪乃は座りながら壁につけた鏡を見ていた彩菜にガマンできずに言う。
言われて我に帰った彩菜はそそくさと、湯船に入っていく。交代で雪乃は泡を立てて体を洗い始めた。
雪乃「今日どうしたの? 買い物のときいきなりだったよね」
彩菜「言えないよ…。ほら、わたし気分屋だし」
くだらなすぎて言えない。恥ずかしい、という感情が彩菜の中に占めていた。雪乃はスッキリしない
表情で彩菜の方へ向く。視線が合った。目を逸らそうとする彩菜に言葉で刺す。
雪乃「逃げない」
彩菜「うっ」
らしくない小さい声で眼鏡の男にいつもの無愛想な雪乃の表情じゃなかったこととずっと
一緒だったからわかる、嬉しそうな気配を感じ取って、取られそうな気持ちになったことを言うと。
雪乃「…。そうね、確かに悪くなかったかな。不思議と」
否定しない言葉に彩菜は俯きながら聞く。
雪乃「それにね、私は彩菜のものじゃないし」
彩菜「うぅ…そうだけどぉ」
雪乃「…しょうがないなぁ…」
体を洗い終わると泡を流した後、湯船に入り彩菜の額に雪乃は自分の額をコツっと当てるとびっくりして
顔を上げる彩菜。お互い澄んだ目を向かい合わせている。
雪乃「残念ながら私は誰も物でもないの」
彩菜「えっ…」
雪乃「さっき私が取られそうって言ってたけど、それだけ間違いだったね」
それだけ言うと雪乃は先に上がって出て行った。それだけ間違い。その言葉だけが頭の中にぐるぐる
回っていた。すると、またもや雪乃が顔だけを出し。
雪乃「のぼせないように早く出てきなよ〜」
と何もなかったかのように言うと今度は完全に洗面所からの気配を感じなくなった。そこにはいなくなったのだ。
彩菜は考えても仕方ないとすぐに風呂から出て行った。
菜々子「これから大変よねぇ」
二人が寝てから夫と飲み交わしていた菜々子は静雄にポツリと言う。
静雄「小学校のこと?」
菜々子「うん、私はそういうのあまり覚えてないんだ。社交性もないし、教えてあげることも少ないだろうし…」
ビールを一口。風呂上りの一杯がたまらない。静雄が一気にコップを空にするとそこにすかさずビールを
注ぎ込む菜々子は静雄に聞いた。だが静雄の返事も頼りない。
静雄「まぁ、俺も似たようなものだしなぁ。けっこう外れ者だったぜ」
二人とも子供だった当時は協調性が欠けていたらしくどっちの意見も参考にならなかった。
なるようになるさと言ったのは静雄だった。
静雄「わからないときは子供と学ぶ他、方法はないといったところか」
菜々子「余裕だね」
不安そうな菜々子の口にツマミを投げ入れる静雄。途端にフガフガと言葉にならなくなる菜々子に静雄は笑っていた。
静雄「俺だって不安だよ。だけど、雪乃は一人じゃないだろう?」
菜々子「まぁ、彩菜もいるし。近くには大地くんもいるしね」
みんなでがんばれば大丈夫だよと、柄にもなく妻を励ます夫。この後、相談していたのが一転。
ただのイチャイチャになるバカップルである。
これからの社交性人間性を育むための場所に通うのだ。一筋縄ではいかないだろう。
子供には色々なタイプがいるのだ。幼稚園や保育園の比ではない。
それらを子供は子供、大人は大人、それぞれ考えながら夜が更けていった。
続
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昔の作品のままで修正していません>< 読みにくさ注意。微シリアスとほのぼので目指しています。まだ二人とも小さい時なので・・・百合分はのちのち(ぉ | ||
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