フラワーショッピング |
女性と買い物というのは、正直、初めてだった。
そんなことを言うと、周りに『山田くんモテそうなのに』と言われるか、妬みや嫉妬が渦巻く目で見られるだろう。
「別に気にしないけど」
ダニエルの話によれば、女性という生き物は男性という生き物に対して、荷物を押し付ける生物であるらしい。だが、目の前を歩く少女にそんな様子はなかった。
電車で二駅先に新しくできたデパートの三階。押し込まれた店舗はすべて女性用の服が売られている。それも上から下までコーディネートしてくれと言わんばかりの専門店揃いだ。
階段から向かって右は下着売り場、左はアクセサリー店だ。『順路よく辿れば完全装備!』と書かれた看板の胡散臭さにげんなりした山田と対照的に、彼女はとても楽しそうだ。
てっきり、ベンチで待っているよう言われるかと思えば、手招きされた。断れるわけがない。
「けど、僕が下着売り場なんていていいの? ミカエル」
天使と同じ名前の少女は、大人しいというより活発だ。何をどう間違ったか、ダニエルが好きだというのだから、山田としては男を見る目はないのかなと思っている。当たり前だが口に出しはしない。
変な男に騙されることはないだろうが、そうなるのに比べたら、まだダニエルの方が目に届く分、マシなのかもしれなかった。
「いいのよ。誰も疑わないわ」
いつもは浮いてしまう炎のような赤髪も、同じ色や黒の並ぶ売り場では違和感がないように見える。
「……疑わない」
何をと考えるまでもなく、見回せば年齢に差はあれ、女性しかいない。つまりはそういうことだ。
「可愛いっていうなら否定はしないんだけど、それってどうなの?」
「好都合ってこと。悪魔くんはどっちがいいと思う?」
そう言って、シンプルな赤いブラジャーと同じ色のレースを掲げるミカエルは、至って真面目な顔をしている。
男を捨てたつもりはないんだけどな、と内心でため息をついた。
けれども、ミカエルにとっては山田のそんな事情よりダニエルが大事ということだろう。
本当、勿体ない。
「白がいいかな」
「質問の答えじゃないわ」
唇を尖らせつつも考え込む様を見るに、真剣に検討してくれているようである。
「派手なのもいいけど、相手はへたれだから耐えられないと思うよ」
そもそも下着でこれだけ迷うと言う事は、近いうちに脱ぐつもりなのだろうかと一抹の不安がよぎった。
外国人よりの二人のことだから、こういうのが普通の速度なのかもしれないが、日本人はもっと順序にこだわるイメージである。
「そうね。悪魔くんの言う通りだわ」
場所を移動する後ろをついて行きながら、ワゴンの中を見ては回る。それ単体に対して心臓が高鳴るほど、自分は純情ではないなと思った。
ダニエルなら顔を真っ赤にするに違いない。一人で来るならまだしも、目の前にミカエルがいるのだ。
「そのままでも十分、可愛いと思うんだけど」
本人を前に口にするのは間違いだったかなと思いながらつぶやけば、彼女が首だけ振り返る。
「ありがとう。悪魔くんにそう言ってもらえると嬉しいわ」
そうやって微笑む顔は社交辞令ではないと知っている。なんだか照れてしまったが、どうせ顔には出ていないだろうから気にしない。
「けれど、呑気に構えているわけにはいかないの」
再び、前方に目を向けたミカエルは、その手を強く握りしめた。
「ライバルは徹底的に潰さないと」
「そんな相手いたかな?」
思い返してみるが、あの糸目軍服に想いを寄せそうな相手は浮かばない。もちろん、ミカエルは別である。彼女は最初からこうだった。
「悪魔くんが気づいてないだけよ」
そう言った表情は、悲しみを奥に隠しているように見えたから、笑えもしないのに笑ってみせたくなった。
おかしいからではなく、安心させてみたいと願った。
「心配しなくてもダニエルは簡単に攻略できないよ」
正確には、させてやらない。
「悪魔くんは優しいわ」
そうやって微笑まれるのなら何だってやってやろうというのが、男ってものなのかもしれない。
「ダニエルは優しくないよ」
「うふふ。彼はお馬鹿さんなだけよ」
そこが好きなんだろうなんて、定番な言葉を飲み込む。帰ったら、ダニエルを困らせようとだけ決めて、再び陳列棚に視線を向けるミカエルについて行く。
「悪魔くんもお馬鹿さんよね」
そう言われて、考え込んでいた顔をあげれば、頬にキスされた。
「好きよ」
女って本当、わからない。
説明 | ||
普段は彼らが〜とか言っていますが、ノーマルも好きです。特にミカエル関係が好きです。さらに、ダニエルと山田くんがいれば、私は幸せです。 | ||
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悪魔くん | ||
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