織斑一夏の無限の可能性21
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Episode21:ヴァルキリー・トランス・システム

 

 

 

 

 

 

 

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【???side】

 

 

ある施設にてディスプレイに映る映像を眺める二人の男女。

 

そのディスプレイに映るのは、IS学園で決闘を行っているセシリアとラウラの姿であった。

 

 

「へぇ〜、BT兵器というのもなかなか馬鹿にはできないわね」

 

 

女は感心していた。セシリアのブルー・ティアーズはBT兵器の実働データをサンプリングすることを目的とした試用機である事は知っていたが、試作段階であるため、まだ実用化できるレベルでもなかった。

 

しかし、ディスプレイに映るセシリアの三次元攻撃は敵を仕留めるのに実に効果的な攻撃方法である。現に対するラウラは為す術もなく、その攻撃を受けるだけである。

 

 

「ねぇ、あなたならあの攻撃に対処できる?」

 

 

「ふん、当たり前だろ」

 

 

女の問いかけに男はさも当然であるかのように吐き捨てる。

 

 

「だが、俺の目的はあの女じゃない。織斑一夏だ」

 

 

「ふふふ、そうね......。ただ、あなた、この前、抹殺対象《ターゲット》に会いに行ったでしょう? ダメよ、勝手な事しちゃ」

 

 

「別にいいだろ? 何もしていないさ。それに一度見ておきたかったからな」

 

 

この男は前に織斑一夏に会いに行った。もちろん、遠くから眺めるだけだったが、溢れ出る殺気を抑えられなかった。

 

 

「まだ時期じゃないわ。それに―――」

 

 

「それに?」

 

 

「あなたの専用ISの開発もまだ済んでないわ」

 

 

新たにディスプレイに展開されたウィンドウに表示される、名を黒耀《こくよう》と表示されたISのデータ。

 

男はそれを一瞥するだけに留める。まだ完成していないのだから、データだけを見ても仕方ないと思ったのだろう。女もその様子を見て、先ほどまでの決闘を映すウィンドウをフルスクリーンに切り替え、表示する。

 

 

「まぁ、今はこの決闘の観戦を楽しむだけにしましょう」

 

 

「......仕掛けたのか?」

 

 

「もちろん」

 

 

女が仕掛けたギミック―――それはディスプレイに映るラウラの専用IS、シュヴァルツェア・レーゲンにあった。ドイツの研究所に研究員として忍び込み、開発されたヴァルキリー・トランス・システムをシュヴァルツェア・レーゲンに密かに設定・欺瞞した。機体の損害と操縦者の負の感情と最大限に達した時に発動するように。

 

 

「しかし......、何だ、あれ? ヴァルキリー・トレース・システムのようで、違うような......?」

 

 

「あら、よく気が付いたわね。そうよ、あれはヴァルキリー・トレース・システムじゃない。―――ヴァルキリー・トランス・システム―――」

 

 

「ヴァルキリー・トランス・システム?」

 

 

「そうよ、ヴァルキリー・トレース・システムが過去のモンド・グロッソの戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムで、国際条約違反になるシロモノだというのは知ってるでしょ?」

 

 

男は黙って首を縦に振り、肯定する。早く説明しろ、と目で物語りながら。

 

 

「ふふ、焦らないの。ヴァルキリー・トランス・システム―――これは再現・実行するシステムではなく、過去のモンド・グロッソの戦闘方法だけでなく、自身が経験した戦闘データまでをもデータ化し、操縦者に最も適したデータを最も適した形として提供するもの。だから、複写《トレース》じゃなく変形《トランス》」

 

 

「ふーん......」

 

 

男はよく理解できなかったのか首を傾げる。女はそんな男の様子に笑みを浮かべ、ディスプレイに視線を映す。

 

 

「まぁ、聞くよりも見た方が理解できると思うわ」

 

 

女の言葉を受け、男も視線をディスプレイに向けた。

 

 

 

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*◇*◇*◇*◇*◇*◇*

 

 

 

 

 

【千冬side】

 

 

「ああああああっ!!!」

 

 

リアルタイムモニターからラウラの身を裂かんばかりの絶叫が響き渡る。

 

そしてラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの装甲をかたどっていた線は全てぐにゃりと溶け、どろどろのものになって、ラウラの全身を包んでいく。

 

ISはその原則として、変形はしない。厳密にはできなかった筈なのだ。

 

私の知識でISが形状を変えるのは、『初期操縦者適応《スタートアップ・フィッテング》』と『形態移行《フォーム・シフト》』の二つだけだ。

 

パッケージ装備による多少の部分変化はあっても、基礎の形状が変化する事はまずないのだ。

 

しかし、モニターに映るラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンはその形状を変えようとしている。

 

ラウラの全身を包み込んだアレは、徐々にその形を露わにしていく。

 

再度、姿を露わにしたラウラは既に表情は虚ろであり、眼帯に隠れていた越界の瞳《ヴォーダン・オージェ》も露わになっている。

 

その視線も既に色はなく、感情のない人形のようにも見える。

 

装甲は黒い重騎士の鎧といった感じに装甲は重々しいものに変わっており、右肩に装備されていた大型レールカノンは背部に位置を変え、肩部は両肩共に肥大化している。スラスターも腰部・脚部共に肥大化を果たしており、出力が上がっているのが目視でも分かる位だ。

 

何だ? 何なのだ、アレは?

 

見た事もない現状に私は思考を巡らせるものの答えが見つからない。そう、知らないから答えは当然、見付かる筈もない。

 

しかし、考えを放棄する訳にはいかない。

 

先ずはこの場の対処が先決だ。

 

 

「山田先生! 非常事態発令だ! 状況をレベルDと認定、今すぐアリーナ観客席にいる生徒を避難させ、遮断シールドをレベル4に設定! 直ちに教員による鎮圧部隊を編成、鎮圧に向かわせるんだ!」

 

 

「わ、わ、わ、わかりましたっ!」

 

 

山田先生も目の前の現状に困惑していたのだろうが、直ぐに行動を起こす。

 

うむ、さすが山田先生、普段は頼りないものの、こういう緊急時に直ぐに対処できるという所が優秀であるが所以だ。

 

頼りになる相棒《パートナー》でもある。

 

 

「織斑先生!」

 

 

「何だ? 今はお前に構っている暇はないのだが」

 

 

忙しなく状況の対応を指示していた私に声を掛けてきたのは、一夏だった。

 

 

「―――俺に行かせてくれ」

 

 

「却下だ」

 

 

一夏の申し出を一言で断ち切る。前回のゴーレム出撃の際はあの場にいた一夏に対処させたが、今あの場に一夏はいない。

 

どんな状況下も把握しきれていない、危険な場所に唯一の肉親である、大事な一夏を放り込むような真似はできない。

 

 

「分かっている筈だ。このまま鎮圧したら、アイツに、ラウラに本当の強さを教えてやれない」

 

 

「お前なら出来るというのか?」

 

 

「ああ」

 

 

「自惚れか?」

 

 

分かってくれ、一夏。お前を危険な場所に行かせたくないという姉である、私の気持ちを。しかし、一夏の視線は動じる事無く、強い意志を持って私を射抜く。

 

 

「自惚れなんかじゃない。それにセシリアもあの場にいる。セシリアを、大事な存在を守るのは男として当然だろ? もし、あそこにいるのが千冬姉でも箒でも鈴でもシャルロッ、......シャルルでも俺は何が何でも行動する。大事な存在を守る為に」

 

 

あの一夏に”大事な存在”といわしめるか......。私以外の女を大事な存在という一夏の言葉が私の胸を刺す。

 

篠ノ之、凰、デュノアは顔を赤くしながら私達の会話を見守っている。奴らは奴らで一夏の気持ちが嬉しいのだろう。まぁ、まだやるつもりはないがな。

 

確かに一夏は強い。特にIS学園に来てからの成長も著しい。それが前世の記憶と経験を継承しているといっても、だ。”現在《いま》”の一夏自身も成長しているのは姉であるから分かる。

 

 

「俺が無理だと思ったら鎮圧部隊を送り込んでくれてもいい。俺に少しだけ時間をくれないか?」

 

 

「............」

 

 

「頼む、俺に行かせてくれ」

 

 

考え込む私に一夏は強い視線を送る。考えてる時間はない。

 

 

「―――無理だと判断したら即座に鎮圧部隊を送る。いいな?」

 

 

私はこの場を仕切る責任者として間違った判断をしているのだろう。しかし、目の前の一夏を、弟である一夏を、私にとって一番大事な存在の一夏を、信じる事にした。

 

 

「ああ! 構わないさ。じゃあ、いってくる」

 

 

 

 

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【一夏side】

 

 

千冬姉の許可を取った俺は直ぐに管制室から出ようと走り出す瞬間、箒に鈴にシャルロットと視線が合う。

 

 

「一夏っ! あたしも行くわ」

 

 

「僕も専用機があるから、きっと役に立てると思う」

 

 

箒は箒で専用機がないため、悔しそうに顔を俯かせていたが、専用機持ちの鈴やシャルルは自分も連れて行ってくれ、と志願してくる。でも、二人を危険な場所に行かせたくない。

 

 

「俺の我儘かもしれないけどさ、お前達を危険な目に合わせたくないし、千冬姉の教え子のラウラの目を覚まさせてやるのは、アイツが憧れた千冬姉の弟である俺の役目だと思うんだ。傲慢な考えかもしれない、けどさ。アイツの目を覚ましてやるのは俺の役目だと思うんだ。だから俺に任せてくれないか? それとも俺が信じられないか?」

 

 

「〜〜〜っ! そんな事、言われたら......信じる、に決まってる、じゃない」

 

 

「ありがとな、鈴。信じてくれて」

 

 

途切れ途切れの言葉だったが、俺の事を信じてくれる鈴。

 

 

「ズルいよ、一夏。そんな事言われたら......。だったら、約束して。絶対に勝ってくるって」

 

 

「もちろんだ。ここで勝つのが男だろ?」

 

 

確かにズルい言い方だったかもしれない。でもそんな俺でも信じてくれるシャルロット。

 

 

「............」

 

 

無言で俺を見つめる箒。その目には不安の色しかなかった。だからそんな箒を少しでも安心させてやるかのように、頭を撫でる。

 

 

「あっ......」

 

 

「俺を信じてくれ、箒。絶対に勝ってくるさ、な」

 

 

「分かった......。絶対に死ぬな」

 

 

「当たり前だろ」

 

 

箒の不安を少しでもなくしてやるために俺は笑顔で答える。箒の頭を撫でる様を見つめる鈴とシャルルの視線が物凄く痛いが......。

 

さて、早く行かなきゃな。

 

セシリアのもとに―――。

 

セシリア、無事でいてくれよ―――。

 

 

 

 

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§あとがき§

 

 

実は今回のヴァルキリー・トランス・システムですが、誤字でした。(笑)

 

前話の最後の表記が、TraceなのにTranceって書いちゃって。小説家になろうの方の感想で指摘され見直してみたら間違えてる事に気付いて、直そうと思ったのですが、このまま話を書き直した方が面白いかなと思って、そのままにしました。

 

変形。本来ならトランスフォームなのですが、当作品のヴァルキリー・トランス・システムは複写ではなく、過去の戦闘データを基にISを変形させるシステムです。

 

過去の戦闘データなので、過去のモンド・グロッソの戦闘だけでなく、自身の戦闘データ、つまりシュヴァルツェア・レーゲンでの戦闘データをも取り込み、変形となります。

 

だから原作やアニメのような全身装甲ではなく、ISの形を変え、ラウラの姿も露出しています。

 

さて、本来であれば、対ラウラ戦は二話で終わらせるつもりでしたが、誤字から始まったプロット変更に伴い、三話にまたがる事になりました。

 

なので真面目な話が後一話続きます。(笑)

 

説明
第21話です。

今回、いつもより短いのですが、視点変更が多かったため、区切りのいい所で一旦、話を切りました。

尚、今回はあとがきがあるのでよかったら見て下さい。
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タグ
インフィニット・ストラトス 織斑一夏の無限の可能性 織斑一夏 織斑千冬 ラウラ・ボーデヴィッヒ 

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