（１８１４年・江戸時代の日本・江戸城下町・長屋の影）

ザッザッ

二人は長屋の影に到着した。

レン：ふぅ〜、今回は雨でなくて良かった。さて、この格好ではまずい。異国人姿じゃ行動できないからな

ミク：今回の衣装は何にするんですか？

レン：僕が髷を結わない素浪人（すろうにん）、刀はフェイク品でいいだろう。ミク君は一般的な町娘でいいね

ミク：ミクっ

ごそごそ

レンは鞄に手を突っ込んで何かを探し出した。

レン：このコスプレマシンで一時的に姿を変える事にしよう。それじゃ

パァーーーーーーー

コスプレマシンから光が発生し、二人を包み込んだ。

照射が終わると、レンは素浪人に、ミクは着物を着た町娘の姿になった。

レン：ミク君、なかなか似合っているじゃないか

ミク：レンさんも髪型がマッチしていて、素敵ですよ、ミクミク

レン：あ、ミク君、今回はお腹の方は大丈夫かい？

ミク：ミク！　前のイギリスでしこたま食べたんで大丈夫です！

レン：良かった。さて問題は、神威学歩をどうやって探すかだ。前回のミリアムさんについては偶然もあったしなぁ

長屋の影を出た所で、なにやら町人が集まっていた。

瓦版屋：さぁさ、買った買った！　お江戸を揺るがす大泥棒！　かの“石川五右衛門”も顔負けの女盗人“お燐”がまたもお江戸に参上ってもんだ！　今度の獲物は、百両、いや、千両積んでも渡さないと豪語している、剣道指南役『神威学歩』の宝刀『妖刀村雨』と来たもんだー！　百人斬りの剣客と噂される学歩が勝つのか！？　それとも大泥棒“お燐”の盗人の腕が勝つのか！？　さぁさ、買った買ったあ！！

ガヤガヤガヤガヤ

パラッ

レン達の所に１枚瓦版が落ちてきた。レンは手にとって読んでみた。

レン：うーん、この時代の崩し字は読みにくいな・・・、えっと翻訳マシンっと

レンは風呂敷包みにフェイクした鞄から翻訳マシンを取り出し、瓦版に光を当てて翻訳結果を見ることにした。

ミク：ミクぅ？　どうでした？

レン：ふんふん、なるほど。『お燐』ってのは、もうストレートに怪盗リンのことだろうね。“またも”って言っていた通り、今回が２回目だそうだ。１回目の獲物は、え！？　南町奉行の中村という人物から、『名刀村正』を奪うも、翌日には奉行所入り口に返却されてあって無事だったそうだ。『珍妙な大泥棒』とも書かれているが、“盗むのが困難な物を盗んだ”事で、盗人としての腕は認められているらしいね

ミク：ミクぅ、で、学歩さんはどこにいるって書かれてます？

レン：えーっと、ああ、この長屋の近くの剣道道場で剣道の指南役、つまり今で言う“剣道教室のコーチ”をやっているそうだ。住まいはその剣道道場だからすぐ見つかるな。問題はアポをどうやって取るかだな・・・

ミク：ミクぅ・・・・私がやってみても良いですか？

レン：え！？、どうするつもり？

ミク：一本だけ手合わせを願い出るつもりです。とりあえずその刀を貸して下さい

レン：相手って“百人斬りの剣客”とか言われているんだよ！？

ミク：ミクぅ、まぁ見ていて下さい

（学歩の剣道道場）

ミク：ミクぅ〜！　たのも〜！

道場生：なんだ？　この町娘？

ミク：指南役に１つ手合わせを願いに来た〜、ミクミク

道場生：は？　おまえ大丈夫か？　道場破り云々以前に、町娘が何言ってるんだ？

？？？：面白そうではないか。町娘が剣道とはなかなか良い心構えだ

道場生：学歩先生！

神威学歩：「女は剣の道を進んでは行けない」等と決まり切ったように言う輩がいるが、拙者はそうは思っておらんぞ！　槍術、ナギナタ類で女が活躍している場は多いのだ！　よーし、１つ私が手合わせしてしんぜよう！

横にあった木刀を１本、ミクの所に投げ渡した。ミクは木刀を掴んで、草鞋をぬいで道場に入っていった。

学歩：同じ木刀を使うことにしよう

スタスタスタ

二人は道場中央で向かい合って木刀を構えた。

学歩：手加減無しでいくぞ

ミク：同じく

ミクと学歩の手合わせ一本が始まった。そして二人同時に動いた。

学歩：でりゃーーーーーーーーーーー！！！！！！

ミク：ミクーーーーー！！

ガキーーーーーン！！！！

学歩とミクの立ち位置が真逆になって止まった。二人の木刀は両方とも途中で折れていた。

ザクザク！！！

道場の畳に２本の木刀の半分から上が落ちてきた。

学歩：実に惜しい。町娘にしておくにはあまりに惜しすぎるぞ。男子であれば、私の剣を受け継いで貰うに匹敵する腕前。気に入ったぞ

ミク：至極光栄でござる。そして学歩殿もさすがの腕前、ミク

レン：ミク・・・・・ネギブレード流の剣の達人だったのか・・・・

学歩：道場生全員！　これから私はこの客人と話ながら昼飯を喰うことにする。今日の道場はこれで終わりだ！

道場生全員：はい！

道場生が全員帰った後、学歩は二人の所に来た。

学歩：申し遅れた。私はこの道場の指南役の神威学歩と申す者だ

レン：わ・・・拙者は蓮と申します

ミク：私はみくでーす！

学歩：楽しい客人だな。さぁ奥で飯でも食いながら、話そうではないか！

ミク：ミクぅ！　食べるでござる！

学歩：は！は！は！　実に気に入ったぞ！

（学歩の間）

ミク達と学歩の前には、麦飯と焼き魚とお新香とお茶が用意された。

学歩：昼故、こんなものしか用意できないが、私ら剣術を志す者は、これでも贅沢な食事なのだ

レン：いえいえ、美味しいですよ、これ

ミク：ミクミクミク、ご飯おかわり！

学歩：おお！　よい喰いっぷりだ！　ほれ沢山召し上がれ！

学歩はミクの茶碗に山盛りの飯を盛ってあげた。

ミク：ミクミクミク！

学歩：ところで黄色の髪の客人、この町娘の付き人だとは思うが、本当は何か私に用事でもあったのであろう？。例えばこの・・・

そういうと、学歩は後ろに置いてあった日本刀を持って、レン達に見せた。

学歩：この盗人に目を付けられた『妖刀村雨』とか

レン：はい。私たちは諸処の事情で、学歩殿とその剣を守る役目を受けてます

学歩：なるほど。それはありがたい。剣術では負けない自身があるのだが、わずかながら気がかりな事がないでもないのだ

レン：中村殿の村正の事ですね

学歩：うむ。そうなのだ。南町奉行の中村殿の村正が一時盗まれたことなのだ。拙者の見立てで“剣の達人”と思う中村殿から剣を奪い取る程の盗人であることが、のどの奥に引っかかっているのだ

ミク：のどの奥に引っかかっているなら、ご飯を丸飲みにすれば取れますよ、ミクミク

学歩：みく殿は実に愉快でござるな！　でもこの事がそれで取れれば、どんなにか気楽なのだが、そうはいかんようだ

ブチ

学歩はいつのまにか壁に刺さっていた矢文を抜き取り、文を広げた。

「今夜、貴殿の宝刀、頂きに参上する　　　お燐」

学歩：盗人お燐・・・正体は忍びの者なのか？

レン：（怪盗リンめ、時代に合わせて予告してくるとは・・・・）

ミク：ミク〜、古風な事やりますね〜

学歩：古風？

レン：あ！、いやいや、私どもの所では矢文が廃れて違う方法で連絡しているものでして（ミクのアホ！）

学歩：ははは！　本当に楽しい客人ですな！　さすが“傾奇者”（かぶきもの）は違いますな！

レン：は？

学歩：奥ゆかしさも身につけておられるか！　その黄色と緑の髪の色、傾いた髪型、どれをとっても“傾奇者”で御座ろう！　いや〜今日は愉快愉快！

レン：は・・は・・は・・

学歩：さて、それは良いとして、客人よ、この宝刀と私を守る役目、やはり、やっていただけるで御座ろうか？

レン：！　はい、喜んで！

学歩：それでは、文の通り、今から明日の朝まで、すまぬが私と宝刀の警護、頼みました。私は明日までこの道場を出ることを出来るだけ控え、この宝刀のある部屋にいることにします。客人は客人の方式にて、警備をお頼み申します

レン：承知しました！

こうして、ミクとレンの夜を徹した警備が始まった。