理樹の唇
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 そろそろ陽が落ちるのが早くなって、「秋の日はつるべ落とし」ということわざを身を以て知るようになる頃。

 僕、直枝理樹は、リトルバスターズのみんなと野球の練習をしていた。

 僕らの野球生活は、あの時の試合で既に終わったと思ってたのだけれど、どういうわけか恭介がまた運動部部長チームとの試合を取り付けてきたらしく、二週間後の試合に向けてみんな気合いを入れて練習に励んでいた。やっぱりみんなで練習や試合をするのは楽しいし、なによりも今度こそ勝ちたい、という気持ちがあるみたいだ。

 鈴なんかは特に凄くて、前の試合の時は高校生としては"まぁまぁ"という球速だったけど、最近ではプロ野球のスカウトが来てもおかしくないぐらいの球を投げてくる。バッターの僕も、けっこう筋力がついてきたと思ってたけどまだまだみたいだ。

 他のみんなも鈴に勝るとも劣らないくらいに伸びを見せていて、クドや小毬さん、葉留佳さんは先の試合で、練習でカバーできなかった部分でミスをしていたけど、やはりここ数日ではそのミスもめっきり減ってきて、彼女らの能力の高さには驚かされる。

「おい理樹」

「どうしたの、鈴」

 話し掛けてきた鈴に返答すると、鈴はピッチャーマウンドの側にある空のカゴを指差し、

「ボールがもうないぞ」

 どうやら熱中していてボールの補給を忘れていたみたいだ。

 僕はいったんみんなを集めて、ボールの捜索をお願いした。ちなみに、ごくごくたまーにだけど、グラウンドの外の繁みにまで飛ばしちゃうことがあるので、「捜索」という言葉で使っている。・・・・・・普通は使わないんだろうけど。

「鈴、」

 と、一緒に探しに行こうと鈴を呼びかけたところで、クドと小毬さんに連れられて探しに行く鈴が目に入った。

「鈴ちゃ〜ん、一緒に探しに行こー」

「ぼーるさんそうさくたい、出発なのです〜わふ〜」

「う、うん。いくぞ」

 最近は野球のことばっかり気にしていたけど、あの出来事から今日まで、鈴は内面も随分成長してるみたいだ。以前はホント、恭介や僕の後ろに隠れてふるふる震えていたけど、今はちょっと恥ずかしがっているとはいえ無理矢理連れられてるふうでもなく、三人手を繋いで仲良く歩いている。色んな意味で微笑ましい光景だった。

「アイツも、ようやくここまで来たんだな」

「あ、恭介」

 いつの間にか僕の横には恭介が立っていた。その顔はどこか誇らしげだ。

「そうだね・・・・・・それもこれも、恭介たちのおかげだよ」

「いや、そいつぁ違うぜ理樹」

「え?」

 恭介は鈴に向けていた視線を僕へと移し、

「お前たち二人の力だぜ。俺達は、ただ後押しをしただけさ」

「恭介・・・・・・」

 恭介らしいセリフだった。僕は、そんな恭介に笑顔を返す。

「じゃ、俺は校舎裏の方探しに行くぜ」

 そして、最後にそう告げて、振り返ることなく校舎の方へ歩いて行った。

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「相変わらずアイツはカッコ良いねぇ」

「全く、その通りだな」

「真人、謙吾」

 入れ替わるように、真人と謙吾が横に来ていた。その手には既に大量のボールがある。

 どうやら鈴を見てたりしてて完全に出遅れちゃったみたいだ。

「真人も謙吾も凄くいっぱい取ってきたねぇ」

「おぉ、最初はほんの何個かだったんだがな、ふとお互いの手のボールを見るとそれぞれなかなかの数を持っていて」

「でよ、ついコイツより多く取ってやると思ってだな」

「いつも通りって事ね・・・・・・」

 二人の張り合いについ苦笑する。

 謙吾はカゴにボールを入れると、

「さて、俺はもう一度行ってくる」

「あ、うん。いってらっしゃい」

 そう言ってすたすたと来た道を引き返していった。

「よっこらせ」

 謙吾に手を振っていると、真人も自分の持ってきたボールをカゴに入れたようだ。

「さて、と。理樹、一緒にあっちの方探そうぜ」

「うん。いいよ」

 真人が僕の後ろ、恭介が言ったのとは別の方向の校舎側を指差し、僕の方に歩いてきた。と思ったら、

「おぉっ!?」

 カゴに入れる時にこぼしたのか、足元のボールを踏んづけて後ろ向きに滑ってしまう。そしてボールも真人の体重に勝てなかったのか足で踏む力が強かったのかは知らないけど、破裂した。・・・・・・いや、ホントに。

 そしてそのまま倒れるかと思った真人だけど、

「真人くん! あぶなぁーーーーーい!!」

 葉留佳さんが後ろから猛烈なタックルを決め、真人の体が起き上がりこぼしよろしく、僕の方に凄い勢いで倒れかかってきた。

「ってうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 そのまま真人の頭突きが炸裂した・・・・・・と思いきやなんだろう、この唇に何か当たった感触は。なんていうかこう、堅くて生暖かくてぬめっとしてて・・・・・・ちょっと待って、凄く嫌な予感がするんですけど・・・・・・!!

 ボールを集め終わって戻ってきたのだろう、美魚さんの息を呑む気配が伝わる。え、ちょ、ま・・・・・・!! 美魚さんが反応するって事はアレですか、アレなんですか!?

 瞑っていた目を開けると、スローモーションで流れる景色の中、美魚さんの横で唯湖さんが不敵に笑っているのを見た。・・・・・・あぁ、これは完全にアレですね。アレなんですね。

 唐突に痛みが襲ってきて、気絶しそうになる間際、僕が思っていたのはこれがファーストキスじゃなくて良かったということだった。

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 目を覚ますと、鈴と小毬さんとクドが僕の顔をじーっと覗き込んでいた。って近っ。

「起きたか、理樹」

 鈴が心配そうな声音でそう言った。僕はその言葉にうなずきで返して、ここはどこだろうかと確かめる。

「・・・・・・・・・」

 起き上がって見てみると、保健室かと思っていたが、どうやらグランドの木陰のようだ。

「やぁ理樹君、気分はどうだね」

「あ・・・・・・唯湖さん」

 僕の視線の先には、仁王立ちする唯湖さんとなんだか頬を朱くしている美魚さんがいた。そしてその美魚さんが口を開いた。

「あの、理樹さん・・・・・・」

「な、なに?」

 美魚さんは一度大きく深呼吸すると、こう言った。

 

「理樹×真人、いただきました!」

 

 僕の世界が止まった。

「ってええええええええええええええええ!?」

「一体何が起きてああなったのか、是非詳しくお願いします。今度の即売会のネタに使わせて頂きたいので!」

「い、イヤだよ! っていうかなんだかキャラが違うよ美魚さん!」

「そんなことありません! 私はふつうです!」

「いやいやいやいや!!」

「さぁ早く!! ネタは鮮度が命なんです!」

「か、勘弁して〜!!」

 その後彼女を説得し唯湖さんから逃れ、何があったのか追求してくる鈴たちを振り切るのに数時間かかったのは言うまでもない。

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「おい、謙吾。一体真人に何があったんだ?」

「・・・・・・さぁ・・・・・・」

「・・・り、理樹のくち・・・・・・理樹の・・・・・・・・・くちび・・・・・・理樹・・・・・・・・・」

 真人が立ち直るのには更に数日かかったという。

説明
えーっと、TINAMI初投稿(Pixivにもありますが。様子見って事で)。  Twitter診断メーカーで「4分以内に4RTされたら理樹と真人で、キスをした直後、お互い恥ずかしくなっているシーンを描きます。 http://shindanmaker.com/56809 #couplingkaita」と出て、4RTはされなかったんですけどなんとなく書いてみました。
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