鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第四十三話
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〜ユーリとエステルの部屋〜

 

水35?、炭素20kg、アンモニア4?、石灰1.5Kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、

硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、珪素3g、その他少量の15の元素

 

それらを全て練成陣の中に置き、エステルはそれを見下ろしている。

 

これが、一人の人間を作る為の材料となる。

 

そこで、手を合わせれば人間が生き返ってくれる。

 

エステルは、本気でそう思っていた。

 

『見ていてください。師匠……。きっと皆、幸せな笑顔になってくれます』

 

そう言って、恐る恐ると手を合わせた。

 

今、自分がやろうとしているのは、誰も成功したことの無い錬金術だ。

 

多分、あの師匠でさえしようとしなかった。

 

どうして、師匠はこの錬金術を使わなかったのか。

 

エステルは、良いように解釈した。

 

『きっと、師匠も怖かったんですね。失敗したら……リバウンドが起こるかもしれないです。』

 

そして、手がちょうど合わさったとき、エステルの顔は安らかになる。

 

何故だろうか、不思議と恐怖は無かった。

 

人を作ること、それは考えれば物凄いことなのだ。

 

だけど、エステルは何も感じず、ただある物を求めるかのように、笑顔を創造した。

 

『絶対に……絶対に成功させますから。』

 

エステルの手が、地に下ろされた。

 

そして、手が練成陣と重なった。

 

その瞬間、大きな光がエステルを襲った。

 

その光は、希望の光、その光だと思っていた。

 

この光の向こうには、ルカが生き返って、皆が笑顔になって。

 

私も、立派な錬金術師になって、助からないと思われた人たちを救う事も出来る。

 

この錬金術が成功したら、これを機にさらに錬金術を磨こうと考えた。

 

そして、医術、魔術、錬金術を組み合わせた、皆が求める物が出来上がるのだ。

 

そうすれば、さらに皆が幸せになれる。皆が優しい笑顔につつまれる。

 

エステルは、本気でそう思っていた。

 

だが、手を合わせてから時間が経つのに、人が出来上がらない。

 

『………?』

 

目の前を見ても。どこも人間らしき物が出来上がっていない。

 

バランスを崩し、エステルは倒れた。

 

『痛っ!!』

 

バランスを崩した理由は、手だった。

 

『……!!!』

 

右腕が、光に包まれて無くなっていたのだ。

 

そして徐々に、手が蝕むように体を消滅させていく

 

『うぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!あああああああああ!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!ああああああああああああああああああ!!!!』

 

力の限り叫んだ。

 

だが、それは蝕むのを止めなかった。

 

そして、次に左足が消滅していった。

 

『ああああああああああああああ!!!あああ!!!助けて!!ユーリ!!ユーリィイ!!』

 

叫んでも、誰も来ない。

 

ユーリも、どこにも居ない。

 

この倉庫の中、この悲鳴を聞いても、ここまで来るのには時間が掛かるだろう。

 

その時には、もうエステルは消えて無くなっている

 

『あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

エステルは、力の限り叫んだ。だが、消滅は身体を蝕むのを止めない。

 

ついに、首から下が無くなった。

 

口を覆われ、声が出なくなった。

 

最後の時間に、目を狂ったように瞳孔を動かした。

 

光が、黒く鈍く光っていた。

 

そして、エステルの目を見る大きな目が、多数エステルを見つめていた。

 

目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、目、

 

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

気づけば、エステルは白い空間の中に居た。

 

その中に、一つの大きな扉。

 

『ここは………どこです…?』

 

辺りをキョロキョロ見渡しても、それはどこかが分からなかった。

 

いや、こんな場所、現実に考えても考えられない場所だ。

 

そして、どうしても扉の方に目が行ってしまう。

 

此処はどこなのだろうか。

 

果てしなく続く白い空間の中、

 

一つの響くような声が聞こえた。

 

≪よぉ≫

 

声のする方向に目を向く。

 

その方向には、何も居なかった。

 

だが、確かにそこに存在する。

 

まるで、透明人間のように

 

『貴方は……誰です?』

 

エステルがそう言うと、そいつは笑った。

 

正しくは目に見えない。だけどそいつは笑っていた。

 

≪……俺か?俺は……ある人は世界、ある人は神、ある人は真理、ある人は神、ある人は人、ある人は無、ある人は全、ある人は一≫

 

そして、次の言葉が大きく、エステルに押しかかった。

 

≪そして、俺はおまえだ。≫

 

その言葉は、端から見ればわけが分からない。

 

だが、それをエステルは恐怖を感じた。

 

エステルは、次に言葉を述べた

 

『……どうして、私はここに居るのですか……?』

 

その言葉で、そいつは顔を上げて、まともにエステルの顔を見た

 

『私は……人を生き返らせようとしました。皆の笑顔が見たくて……皆の笑顔を、もう一度出して欲しくて……』

 

エステルの言葉に、そいつは馬鹿にするように答えた

 

≪馬鹿かお前は。死んだ人間が生き返る?何をやってるんだ。≫

 

そしてそいつは立ち上がり、扉の前に立った。

 

≪まぁ、前にもそんな馬鹿は居たけどな≫

 

瞬間、扉が大きな音を立てながら開いていった。

 

その音は、扉を大きく開ける音

 

それだけの音では無かった。まるで、得体の知れない何かが開く音

 

完全に開いた瞬間、扉の向こうは真っ暗な闇だった。

 

何も見えないはずの空間から、巨大な目が現れる

 

その目には、エステルの知らない”何か”が映し出されていた。

 

そして、扉からは一つ一つの手が無数にエステルに伸びていく。

 

恐怖を感じたエステルは、逃げるように足を動かし、扉から離れていく

 

≪どうして逃げる?俺はお前に親切にしてるんだぞ?≫

 

だが、その言葉がどうしても受け入れられず、エステルは逃げ出した。

 

『嫌……嫌………!!!』

 

そして、ついに足首に手を掴まれる。

 

瞬間、バランスを崩し、エステルは引きづられるように扉に吸い込まれていった。

 

その間にも、無数の手がエステルを掴み、引っ張る力が強くなる。

 

『嫌!!嫌ぁあああああああああああああ!!』

 

そして、エステルはついに力に逆らえず、扉の向こうへと連れて行かれる。

 

扉の近くに居たそいつは、笑いながら答えた

 

≪答えを教えてやるよ。この世の全ての、全部の答えをよ≫

 

扉の内側に全身が入ったとき、

 

巨大な扉は大きな音を立てて閉まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜真理〜

 

手と共に引っ張られた空間の中に、多くの映像のような物が映し出された。

 

その映像が、全てエステルの頭に入っていくように、目に入った情報が、頭の中に入っていった。

 

脳みそが出てる人間の周りに、人間が木の棒を刺している。

 

女の子が、チョコレートを床に落とし、泣いている

 

戦争で、足を失った人達がゴミ捨て場に捨てられている。

 

首の長い人間が、泣きながら自分の首を斬っている。

 

一升瓶の中に、得体の知れない肉が、眼球と共に詰まっている。

 

天空の城ヴェラトローパに、人間の出来損ないが足を引きずりながら行動している

 

得体の知れない生き物が、ウサギと人間を食べている。

 

眼球のあるべき所に、足が生えている

 

巨人が、自分の首をノコギリにし、人間が建てた城を斬ろうとしている。

 

『止めてください!!』

 

大声で叫んでも。さらに情報が頭に入ってくる。

 

まるで、頭が割れるようだ。また、エステルの頭に情報が入っていく。

 

ピンクの髪の女の子と、金髪の男の子が、一緒に遊んでいる。

 

ピンクの髪の女の子が、泣いている

 

ピンクの髪の女の子が、金髪の男の子の上に立っている。

 

ピンクの髪の女の子が、血まみれだ

 

ピンクの髪の女の子が、笑っている。

 

ピンクの髪の女の子が、種を植えた。

 

ピンクの髪の女の子が、叫んで泣いている。

 

赤ん坊が、急激の速さで成長し、最後には老人になっていく。

 

魂が、ある一つの方向へと向かって一つになっていく。

 

その一つの方向に、エステルは吸い込まれて行った。

 

『ルカくん!!』

 

エステルは手を伸ばした。

 

大きな樹の下で、ルカらしき人物が手を伸ばしていたのだ。

 

エステルの手と、ルカの手がもうすぐで引き合う。

 

もう少しで触れ合う。もう少しで連れて帰れる。

 

ルカらしき人物の手に触れた瞬間、手が通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

気づけば、エステルは扉の前に居た。

 

手は伸ばしたままだった。

 

目の前には、ルカは居なかった。

 

≪どうだった?≫

 

そいつは、座りながらそう言っていた。

 

そこで、エステルは悟っていた。

 

もう少し、もう少しで真実が分かってきたかもしれない。

 

この扉の向こうの情報が、頭に入ってきた瞬間、

 

何かが分かりそうだったのだ。

 

『………もう少しでした』

 

エステルは、そう呟いた。

 

そして、もう一度扉の方を見た。

 

『もう少しで……。ルカくんに触れられそうでした。』

 

その目は、真っ直ぐとした目をしていた。

 

そして扉に手を置いて、そいつに声をかけた

 

『お願いします。』

 

そして、深々と頭を下げた。

 

『私は……間違っていました。でも、もう少しで、もう少しでその間違いが分かりそうになったのです。ですから……お願いします!もう一度見せて下さい!この扉の向こうの……世界という物を!』

 

エステルがそう言うと、そいつは笑い出した

 

≪あー……良いよ。良いけど、じゃぁ次は誰を生き返らせる?≫

 

真理の言葉に、エステルは疑問を感じた。

 

『…生き返るという事は……?』

 

≪あー、駄目だ。駄目だわ。こんだけの通行料じゃ、もう一度開けるのは不可能だね≫

 

通行料

 

その言葉が、エステルは一瞬理解が出来なかった。

 

そしてその後、そいつの右半分、目から耳にかけてが現れた。

 

人間の顔だった。右の目から耳にかけてしかなかったが、それは紛れも無く人間の皮膚をしていた。

 

その顔には、見覚えがある

 

≪等価交換。錬金術習ってるんならそれを教わらなかったか?≫

 

そうだ。その顔は見たことがある。

 

≪なぁそうだろう……?エステリーゼ王女様?≫

 

私の顔、右目から右耳にかけてが、そいつに奪われていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ユーリとエステルの部屋〜

 

『キャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

さらに、エステルは叫んだ。

 

今度は、信じられない程の痛みだ。

 

熱い

 

熱い

 

熱い

 

右目から右耳にかけて、皮膚が無い。

 

目が無い。耳が無い。

 

耳の器官がゴッソリと奪われて、耳には穴が開いていた

 

『熱い!!熱い!!熱い!!目が……耳が………!!!』

 

エステルは、その激痛にのたうち回っていた。

 

右の目が、完全に失明し、

 

右の耳が、完全に断聴していた。

 

『誰か……!!師匠……!!ユーリィ…!!…助けて………!!』

 

右の神経が、完全に断たれたように

 

右の頭の自由が、失われつつあった。

 

練成陣の中に、手が見えた。

 

見間違いかと思われたが、そこに確実に手が存在したのだ。

 

『………!』

 

左目で見た光景に、うっすらと伸びる白い手。

 

ルカの手で間違い無かった。

 

エステルは、不意に左目から涙が流れた。

 

『……ルカくん………!』

 

そして、その手を握ったとき、

 

その瞬間、違和感を感じた。

 

腕が、異常に長いのだ。

 

そして、その腕の向こう側に

 

『…!!!!』

 

巨大な頭、そして以上にまで大きい右目

 

鼻は、唇の下に存在し、

 

口は、酷く肥大化している。

 

頭には、全身の血管がそこにあるかのように、無数に張り巡らされ、突起しているように露出していた。

 

顎の方には、酷く肥大化した心臓が脈を打っていた。

 

その心臓に、全く意味を成さない足が生えていた。

 

その足の先から、少しずつ血が流れ出ていた。

 

『あ………あああ……!!!』

 

エステルはすぐに手を離し、壁の方まで這うように移動した。

 

『こんな……!!こんな事って………!!!』

 

エステルは、大粒の涙を流し、目の前の物体を必死に否定した

 

『違う!!こんなの……こんなの違う!!!助けて!!誰か助けてぇえええええええ!!!』

 

両手で髪を握り、必死に頭を狂う様に振った。

 

その間、階段を下る音が聞こえた。それは複数の人間だった。

 

この部屋の扉の前まで人が来ると、この部屋の入り口が開けられた。

 

『エステル!!どうしたの!?』

 

リタの声が聞こえた。

 

さらにそこには、師匠と師匠の弟君、そしてイリアが居た。

 

そして全員が、目の前の物体に驚愕した。

 

『あああああああああああああ!!ああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

その物体に、急激に恐怖して絶叫したのはリタだった。

 

その物体を視界に入れた瞬間、狂ったように部屋から出て、部屋に背を向けて向こう側の壁に手を置いた。

 

『おい!大丈夫か!!』

 

エドがリタを心配して駆け寄ると、その瞬間にリタはガタガタ震えた

 

『うっ………!!!』

 

その瞬間、リタはその場で屈み、口からドロドロの朝食を吐き出した。

 

嘔吐したリタを見て、エドは再び物体の方に目を向けた。

 

そして再び部屋の中に入った時、その物体をマジマジと見つめた。

 

『兄さん……これ……』

 

アルが、悲しそうな声で、俯いた表情でそう言った。

 

そのアルの言葉に、エドは返事をしなかった。

 

瞬間、その物体は目から、口から、鼻から大量の血を吹き出し、

 

さらに異形の形の内臓を口から吐き出した。

 

『…………』

 

エステルは、その光景を呆然と見ていた。

 

そしてその物体は、次第に動きを鈍らせ、ピクリピクリと微動に動いた。

 

時間が経つと共に動きが遅くなり、

 

そしてついに動かなくなった。

 

『…………………』

 

エドは、エステルの方を見た。

 

エステルの右目から右耳にかけて無くなっているのを見ても、何も言わなかった。

 

『……………師匠。』

 

エステルの目は、ほとんど生気を感じなかった。

 

だが、何かにすがりつくように、その目は見開いたまま、エドの方を見ていた。

 

感情が上手くコントロール出来ていないのか、口元は笑っていた。

 

だが、左目から大量の涙が流れ、声もほとんど涙声だった。

 

そして、エドの服にしがみつくように握り、泣きながら言葉を出した

 

『……違いますよね?』

 

エステルの顔が、エドの顔を見るように上へと向かった。

 

『……違いますよね?これは……これはルカくんなんかじゃないですよね………?』

 

エステルがそう言った瞬間、イリアの目が完全に見開いた。

 

そして強く足を踏み込み、エステルの方へと駆け寄る。

 

『うわぁああああああああああああ!!!!』

 

そして、イリアは思い切り全力でエステルの頬を殴り、

 

向こうの壁側までぶっ飛ばした。

 

大きな音を立てて、エステルは叩きつけられた。

 

殴った瞬間、イリアは固まった。

 

表情が、ほとんど固まってしまっていた。

 

そして腕をダランと下に垂らして、膝から崩れ落ちた。

 

『……うわ……あ……ああ…………あああああ…』

 

それを見たエステルが、泣いた。

 

子供のように、泣きじゃくるように泣いてしまっていた。

 

エドは、もうエステルの方を見ていなかった。

 

そしてエドは、ある方向へと目を向けていた。

 

すでに遺体となった、異形の形をしたルカだ

 

『……もう、見たくねえと思ってたのによ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜医務室〜

 

この状況を知ったアニーは、急いでエステルの治療に入り、その治療は1時間にも渡った。

 

治療を終えた後、エステルはあさっての方向に顔を向けていた。

 

精神的ショックが大きかったせいか、目が死んでいる。

 

隣には、ユーリとリタ、そしてレイヴンが付いていた。

 

心配して、エステルの隣に居たのだ。

 

『……それにしても、錬金術で人を生き返らせるなんて……すごい事するわねぇ。』

 

レイヴンが、冗談を言うように言った。

 

その態度が気に入らなかったリタは、思い切りレイヴンの足を踏んだ

 

『ふぎゃ!!』

 

レイヴンは、痛がるように足を持ち上げ、息を吹きかける。

 

その光景があっても、エステルは決して視線を逸らさなかった。

 

『……エステル』

 

ユーリが、エステルに言葉を向ける。

 

だが、エステルは何も答えず、首も動かさなかった。

 

『……………』

 

無言の時間が、ただただ過ぎ去って行く。

 

しばらくして、エステルの口が開いた。

 

『私は……ただ、救いたかっただけなんです』

 

その言葉を、ただユーリ達は聴いていた。

 

ただただ、聞いていた。

 

『仲間が死ぬ……それは誰でも悲しい事です。だから……私は習っていた錬金術を使って……何か出来ないかと思って……』

 

今にも消えそうな声が、医務室に響いた。

 

その言葉を聴いたユーリは、ただ俯いて

 

リタも、ただ俯いて溜息を吐いて。

 

レイヴンは、少しだけ真剣な顔で聞いているだけだった。

 

しばらくして、医務室の扉が開かれる。

 

扉の方を見ると、そこにはエドが居た。

 

『……エド』

 

ユーリがそう言うと、エドはそのまま医務室に入って行った。

 

『お師匠さん惨状ね。心優しき弟子に、どのような言葉を掛けに来たのよ?』

 

レイヴンが、少しだけふざけた言葉でエドに言った。

 

だが、エドは無視をするように、ただエステルを見つめていた。

 

エステルは、エドの顔を見なかった。いや、どうしても見ることが出来なかった。

 

”人を生き返らせる事なんて考えちゃいけない”

 

それを、師匠と約束したはずなのに、破ってしまった。

 

師匠と会わせる顔が無いのだ。もう、どうしても……

 

そして、聞きたくなかった師匠の言葉が、エステルの左耳に入って行った。

 

『………人を生き返らせる事は出来ない。これは世界の法則であり、宇宙の法則でもある。』

 

エドの声は、いつになく真面目であった。

 

『一は全、全は一。世界や常識は一の為に動いていて、その流れに流れるがままに働いている。人を生き返らせるという事は、流れを変えるという事だ。』

 

エステルは、いつになく俯いていた。エドの顔を見なかった。

 

『……人を生き返らせるような事をさせたくなかったのは、必ずしも罰を受けることになるから』

 

そして、エドはエステルに背を向けて歩き出した。

 

その様子を、三人はただ見つめる事しか出来なかった。

 

扉の前に立ったとき、そこでエドは立ち止まった。

 

そして振り向き、最後の言葉を放った。

 

『破門だ』

 

エステルに向けて言ったその言葉は、短くも大きく、エステルの心に刺さった。

 

エステルは、この時だけ強く、布団を握り締めた。

 

『もうお前と俺とは師弟関係じゃねぇ。もう俺に錬金術を習おうとするな。俺の事を師匠と言うのも止めろ。』

 

そしてまた扉の方に向き、扉を開けた。

 

その間に、エステルは言葉を放った。

 

『私は……これからの私はどうすれば良いのですか……?』

 

エドは、そのエステルの言葉を無視するかのように、扉の外側へと歩いた。

 

去り際に、エドはもう一言付け加えた。

 

『………真理を見たからには、これからは自分で考えろ』

 

そう言って、扉は閉められた。

 

 

 

 

 

 

静寂の後、エステルはまだ俯いていた。

 

そして、目からまた涙を流し、布団を握り締めていた。

 

『私は……とんでもない事をしました……』

 

そして、また言葉をつなげていく。

 

『ルカくんを……私は二度殺しました……。それも、一度とは別に……もっと酷い殺し方に………。』

 

そして、エステルは微笑んだ。

 

悲しみの中の微笑で、それは自分を笑うかのようだった。

 

『……師匠に嫌われて当然です。私は……錬金術を使う資格なんてありません……。』

 

エステルがそう言った時、リタが立ち上がった。

 

そしてエステルの方まで歩み寄り、そして立ち止まった。

 

エステルが見上げると、リタは分厚い研究書本を持って、エステルの上に振りかざしていた

 

『……リタさん?』

 

エステルがそう言った瞬間、リタは思い切りエステルの頭に本を振り下ろした。

 

表紙が固い本だったので、ダメージは大きいと思われた。

 

だが、気絶にまでは至らなかった。

 

『〜〜〜〜〜〜!!』

 

痛がるように、エステルは頭を押さえる。

 

じんじん痛む頭を押さえて、今度は痛みの涙が左目から流れる。

 

そして上から、リタの声が響いた。

 

『アンタねぇ、あのチビが言った言葉をちゃんと理解してる?』

 

エステルは、訳が分からずにリタの顔を見た。

 

それは、まるで教師のような、教える者の顔をしていた。

 

『破門っていうのは、絶交の意味じゃないの。師弟じゃ無くなった今、これからは普通の隊員同士として接する事が出来るって事なのよ。』

 

その言葉に、レイヴンは納得した。

 

そしてレイヴンは微笑んで、エステルの方を見つめて、

 

リタの代弁をするように答えた

 

『多分、エドっちはねぇ。これからは錬金術を独自で勝手に習えって言ってるんじゃないかしらぁ?だって、もう錬金術を使うなとは言ってないんだしぃ。』

 

さらに、ユーリが再び言葉を付け加える。

 

『それに、真理を見た……って言ってたよな。』

 

その言葉に、エステルは頷く。

 

ユーリは、その返事を聞いて、小さく微笑んだ。

 

『多分、エドはエステルの事、結構信頼してると思う。』

 

ユーリの言葉が分からなくて、エステルは首を傾げた。

 

そしてユーリは立ち上がり、出口の方へと向かった。

 

その答えが分からなかったエステルは、行って欲しくなかったが、何も言わなかった。

 

去り際、ユーリは再び答えた。

 

『大体、人を生き返らせたいと思ってんのは、エドだって同じことだ。それに、その間違いを犯したからこそ見つけられる真理があるんだ。だから、今はもう少し誇りを持って良いんだぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

アンジュ不在の間に、一通の依頼書が届いた。

 

その依頼書を第一に発見したのは、アルフォンスだった。

 

『……なんだろう。』

 

さすがに、アンジュの精神の崩れにより拒否というわけには行かない為、

 

念のため、その依頼書に目を通した。

 

『えーと…………え?』

 

アルは、目を疑った。

 

その内容は、またとんでもない内容だったからだ。

 

《光の精霊レムに出会ってきて欲しい。その者ならば、この悪魔的現状を和解する事が可能であることが確実だ!!》

説明
エヴァンゲリオンの旧劇場版、何回見ても面白いと感じてしまいます。でも今は、新劇場版が面白いです。新しいこの世の中、一際輝いて見えます。
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