SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:11 |
SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガール ACT:11
その一角だけ時間の流れが違っているのかと思うほど、赤く巨大なクレーンはゆっくりと、だが確実に傾き、これまで自らが組み立ててきた巨大な鉄骨構造物へと寄りかかっていった。
だが、本体に接触するよりも先に、鉄骨に直接取り付けられていた二基の小さなクレーンのうちのひとつにぶつかり、衝撃で小さなクレーンは、まるで巨人にはたき落とされた小枝のように地上へと落下し、今度は巨大なクレーン自身もそれと目に見える勢いでぐるりと旋回し、先端が天を指した状態で止まった。
遠いので亜郎にはディテールまでは見えないが、小クレーンは運ぼうと吊り下げていた物もろともに落下したのだろう、未だ骨組みだけの高層ビルの足もとにはもうもうと砂煙がたちこめるのが見える。
やがて少し遅れて、ぐわらぐわら、と遠雷のようなもの凄い音が聴こえてきた。
その音に屋上にいた他の生徒もようやく次々と気づいて周りが騒然となってきた。と、亜郎の内ポケットで携帯が鳴った。表示を見ると副部長の平賀だ。
〈亜郎、いまどこだ〉
「ああ、いい具合に屋上ですよ。今ちょうど電話しようとしてたトコ。新兵器…ラジコンヘリはすぐ使えますか?」
〈今まさにそいつを出動させたんで、この電話はその報告も兼ねてる〉
「さすが平賀さん。でもあまり接近させないように。後処理のデジタルズームで充分だし、プロより巧く撮れてたらかえって後がうるさいですからね。パパラッチ扱いだけはされたくない」
〈わかってるって、そこら辺のさじ加減は。逆に巧く撮っといてデジタルでトウシロっぽく荒らすってのもアリだろ。それが特撮のリアリズムってやつさ〉
「はは。なるほどねえ。」
でも、と亜郎は心の中でつぶやいた。これは本物の事件なんだ、と。
本当ならネットで動画配信の現場中継といきたいところだが、高校生という立場上あまりクロウト臭いことをやってしまうとカストリ雑誌あたりが勘づいて、モラル問題あたりで痛くもない腹をさぐられるおそれもある。
いくら優秀でも学生記者には学生らしい視点というものがある、というのが世間一般の見方だからだ。とかく、出る杭は打たれるのが世の常だ。
CGの扱いやカメラ付きラジコンヘリもそうだが、新聞部や放送部のテクニカルな面は全て副部長の平賀がまとめている。平賀は二年で、そもそも年長の彼が亜郎を盛り立て、ともすれば能力より年功序列になってしまう学校部活体質の軋轢(あつれき)から亜郎を守ったからこそ、今のメディア部がある。
三年生の前部長の弱みを握るなどの裏工作で亜郎をひっぱりあげたという噂さえもあるが、それも亜郎・平賀コンビの実力の前では沈黙する。
「とにかく、もう少しここから取材を───」
そう言うや否や、背後から女子生徒の悲鳴とも叫びともつかない声が聞こえ、ぐわああああん、と梵鐘のような音がいくつも響いた。
亜郎が一瞬目をそらしたとき、傾いたクレーンのアームが振り子のように勢いよく旋回し、ビルの上に設置されていた残りの小型クレーンも殴り飛ばしたのだ。
「折れたぞ!!!!」誰かが叫ぶまでもなく、その衝撃で小型クレーンは鉄骨にしつらえられた土台からポロリと外れ、やぐらの足もとでなお渦巻いている砂埃の中へ呑み込まれたかと思うと、地響きと共に幾重にも複雑に重なり合った破壊音がした。
さらに爆発音のようなものも聴こえてくる。
「大惨事だな…」
周りを見回してみたが、まだ消防署や救急車は来る気配さえない。それもそのはずで、まだ異変に気づいてから何分と経っていないのだ。今やっと通報で各機関にスクランブルが発せられた頃だろう。
砂埃が少し収まってきたが、かわりに火災のものらしき煙が上がりはじめた。倒れかけの巨大クレーンは鉄骨のやぐらに引っかかったまま小康状態を保っている。
まわりでは、携帯電話についているカメラで事件を撮影している生徒も多い。副部長の平賀が操るラジコンヘリは、大新聞社のチャーターヘリよりもものすごい特ダネをものにするだろうが、イカニモ学生新聞らしい一般人っぽいビジュアルも欲しいなと思い、亜郎も自分の携帯電話をビデオに切り換え、撮影を始めた。
学校は中庭を挟んで『コ』の字型をしていて、直接事故が見聞きできるのはそちらの方に面した一辺しかない。
フト観ると轟音を耳にしたためだろう、全校生徒がざわめき、音の発生源がどこなのかと窓という窓にむらがっては、当てが外れたと知れば他の方角の窓へ移動しているのが見える。
いずれ屋上というバツグンの見物台の存在に気づいた野次馬がどっとやってくることだろうし、その危険を察知した教師も生徒を追い払うために走ってくることも察しがつく。
たったひとつしかない階段がパニックになる前にさっさと待避して、部室で平賀が放ったラジコンヘリの成果をライブで確認した方が良策だと判断した。
その時、はじめて亜郎は真横で須藤夕美が事故現場を食い入るように見ていることに気づいてぎょっとした。
身長は亜郎と変わらない。亜郎は男子としては背が高いほうではないのだ。
ジャーナリストのサガで何を見てもまずは観察するクセがついている亜郎は、まるで瞬時にスキャンでもするように至近距離の夕美をつぶさに観た。さっき遠目に見た印象とは異なり、あんがい綺麗な横顔だな、と思った。色白でまつげも長い。
そして遠目にはピアスかと思っていたものが、じつはピンクのハート型をした小さなアザだったことを発見したとき、亜郎は妙にどぎまぎした。
とはいえ、頭脳は冷静である。
彼女と知り合うちょうど良いきっかけにもなるな、とチャンスに気づくが早いか亜郎は夕美に声を掛けていた。
「あの。ここにこのまま居たら危ないですよ」
「え?」
「早く。物音を聞きつけた野次馬が殺到します。今ここを出ないと面倒なことになりますよ」
(よし、俺、いまチョットかっこいいよな?)
亜郎は頭の回転は速かったが、かといって賢いとは言い難い部分もある。
〈ACT:12へ続く〉
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毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ?つ!!”なヒロインになる…お話、連載その11。 | ||
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