SILVER BEARING 追憶の疾走 第一章 銀の帰還 1 |
関東地方にある地方都市。白宮市。
第二次世界大戦時に帝国陸軍の軍事工場があり、そのため連合軍から爆撃の対象となったこともあり市の中心部は、戦後、比較的早くからしっかりとした区画整備が進み鉄道の駅を中心に繁華街が立ち並び、離れていないところに公共機関の区画が存在する。その東に流れる川沿いには工業地帯が広がっていた。
この区画から遠くなるほど、発展は緩やかに速度を落とし、隣接街に近くなる頃には、のどかな田園風景が広がる。
これと言った長所もなく短所もない、よくある地方都市である。
「妙だな?」
大手の部品工場を通り過ぎ、中小の工場が密集してる場所にある。竹取工務店に向かっているはずなのだが、進もうとしてる道を進む前に自然と右に曲がってしまう。
最初は道を間違えたと思ったのだが、今度は左に曲がろうとしていた。
「人払いの結界が起動してるのか?」
疑問に思った煉也はシルバー・ベアリングを一つを操作して十字路の先を偵察させる。
異質な感覚が伝わってくる。人払いの結界が機動してることを確認する。
少し先にある廃工場から耳障りなメロディを拾うことができた。おそらくは携帯電話の着信音だろう。
人がいるとしたら廃工場の中のようだ。そちらに進めると中の様子が流れ込んでくる。
さび付いた鉄骨に、埃や段ボールが床に散乱している。
壁は亀裂が走り、銃創が見られる。
「事件かよ。なんで行く先々で遭遇するかな。日ごろの行いはいいのだが……」
自分の日ごろの行いの悪さを棚の上に放り投げて愚痴をこぼす。
更に廃工場内部の状況を確認するようにシルバー・ベアリングを操り探らせる。
脳内に立て続けに入り込んでくる情報を整理、選別していく。
霊子力の反応は大きいのが1つ、同じのが2つ以外は反応はない。前者が敵で、後者が人間の波動。
戦況は遮蔽物が多い廃工場。
廃工場の耐久力は十分あり、直ぐに倒壊する恐れ無し。ただし、戦闘による破損があり。
敵の霊子力量と内部にいる人間の霊子力量と比較した結果、戦況は僅かに人間の方が不利。
戦況を確認した煉也は非常にさわやかな笑顔を浮かべて、素晴らしいことを思いついた。
「恩を押しつけに行こう」
本当のところ、結果の中にいる二人が予想通りならば、竹取工務店の関係者なので案内してもらうことが出来る。
コートの内ポケットからルーン文字が刻まれた音叉を取り出し、そこに壁があるように軽く叩く。
小気味のいい音色が波紋のように広がり空間を歪ませ人が一人、入れるくらいの穴を作り出す。
「さて、行くとするか」
軽やかにスキップをしながら煉也は戦場へと踏む込んでいった。
廃工場の壁が爆発と共に崩れ落ちる。
「HAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
変わりに獣のうめきのような、歌のような奇妙な叫びが響く。
吹き飛ばされた壁から、背中に羽の生えた奇妙な人型の化け物が現れる。
異様なほど発達した腕に対して他はミイラのように干涸らび、背中の羽は黒と白が斑に混ざり合っている。生物としてあまりにもかけ離れた醜悪な姿をした存在。
――エンゼル・フェイク
そう呼ばれる化け物。
煙と粉塵の中から現れた男。岩見 宗次は無骨な金属の鍵爪を装着した右手を突き出し突進していく。
「せぇぇぇい!」
羽根付きは丸太のような腕を交差することで、防御を成功させる。
「ケッ、割りに頑丈だな。おい」
長身痩躯の若い。学生服を着ているところを見るからに高校生くらいなのだろう。
オールバックの茶色く染めた髪は粉塵で汚れ、額の汗を左手で拭いながら、目つきの悪い双眸には不屈の闘志を宿している。
左腕を前にし右腕を後ろに少し下げ腰を落とす。体内から湧上がる霊子力を自らの肉体にコーティングするように包み込む。
エンゼル・フェイクには通常の武器や兵器は役に立たない。
霊子力を利用した聖域と呼ばれる力場を発生されており、威力が打ち消されてしまう。この力場を打ち破るには同じく霊子力を操り相殺するか、力場を力尽くで無理やり突き抜けるしかない。
霊子力をぶつけ合い力場を突破すれば、後は純粋な攻撃力で倒せるようになる。
突貫に適した構えに切り替え、突進していくが、その度に人間離れした強靱な肉体に阻まれ、羽根付き攻撃が繰り出される。
太い腕から繰り出される破壊力で、近くにあった鉄筋の柱を薙ぎ倒していく。
宗次も紙一重で回避し、再び突貫していく。
一進一退を繰り返し、僅かな空白に銃弾が直撃する。
「休ませない」
淡々とした口調で、少女は両手に構えたイングラムMAC11のトリガーを引き続ける。羽根付きの動きが止まったところで宗次が鋭い鍵爪を突き刺そうとするが、阻まれてしまう。
その動作、表情は冷たい金属を連想させるほど、無機質な雰囲気を纏っていた。
クセのあるショートで、ひとふさだけ後ろで一纏めにした髪をなびかせ、岩見 羽美が弾倉を交換しながら、援護射撃に適した場所へと移動していく。
「このままじゃ、ラチがあかねぇ……羽美ねぇ。なんとか動きを止められないか!」
「エンゼル・フェイク。タイプ……アンジェリ。防御特化とパワーが特徴」
冷静に状況を分析し、相手の情報を瞬時に分析する。
エンジェル・フェイクは、基本的に内包する零子力量でカテゴライズされる。
トレイダーの能力の一つに零子力を視ることが出来る霊視がある。これにより、ある程度の能力の把握出来る。
「現時点での武装は有効にならない……」
霊子力を纏った弾丸より力場を相殺できたとしても本体の防御力に対して、火力が撃ち抜けなければ意味はない。
羽美は両手のイングラムMAC11を捨てると、近くに置いてあったギターケースからレミントンM870を取り出す。
「弾頭は完全被甲弾」
素早く、ポンプアクションをしトリガーを引く。
腹に響くような銃声音とともに銃弾がアンジェリの体を貫く。
「有効……」
有効打になることを確認し、次弾を弾倉に装填する。
「援護……?」
「な、なんだこの音?」
突如、入り口の方から爆音が響く。音速により生じた衝撃波と共に何かが地面に突き刺さる。
「な、なんだ!?」
鉄骨が杭のように降り注ぐ中で、宗次は回避行動を取りつつ目の前のエンジェル・フェイクを確認する。
エンジェル・フェイクも予想外の事態に動くことが出来ず、数本の鉄骨が突き刺さって身動きがとれなくなっていた。
「約20メートル先の崩れた資材置き場の鉄骨の乱射……正気?」
「よーし、そのハッピートリガー野郎、今すぐぶちのめす!」
羽美が冷静に状況を分析する。
「状況。目の前の敵に集中、確認終了」
「出来るか!」
即座にツッコミを入れた。
「私の色香に迷った? こんな状況で求めるなんて大胆ね」
「どこをどう見たら、そう思えるってか、この状況を少しは考えてくれ羽美ねぇ!」
無表情で感情の起伏のない声色で、とんでもないことを口走るする姉に対して、やはり、ツッコミを入れる。
「残念。10秒後に乱射が収まる。援護するから一撃で決めて……」
「わかった」
戦いにおける羽美の戦術眼に絶大な信用を置いてるらしく、即座に本来退治すべき異形の存在へ意識を向ける。
無作為に降り注ぐ鉄杭は、すべて無視する。
羽美が援護すると言った以上は敵を倒すのが役割。事実、宗次に突き刺さりそうになった鉄骨はすべて、羽美がレミントンM870の銃弾に撃たれて僅かに軌道をそらしている。
精密射撃を通り越し神業とも言える。射撃の腕があるからこその完璧な援護と言えよう。
彼も目の前の敵を倒すために意識を集中させる。
自らの霊子力を高め、体に流れる血液とは別の流れ霊脈を使い右手に集めて練り上げていく。霊子力をを電気へと変換し電圧を掛け続ける。
「5,4…………0」
「決めるぜ!」
彼の右手に装着されている機械の鍵爪の手のひらにプラズマが収束していく。
十分な破壊力を得た右手がアンジェリの胸に突き刺さす。血肉を貫く感触に一瞬、嫌悪の表情を浮かべるが怯まずにさらに突き刺していく。
「燃え尽きやがれ、電撃式激動砲……発射!」
電撃式激動砲。錬金術の技術で作られたアーティファクト。
装着者の霊子力を蓄積し圧縮することで、プラズマを生み出すことが出来る。
砲の名が示すとおりプラズマを打ち出すことが出来るが射程距離が30センチに満たないので、宗次は格闘戦の攻撃力上昇として使用している。
掛声と同時に右手に集めた力を解放する。その瞬間、圧倒的な熱が羽のついた化け物を内側から燃やし尽くす。
「HAAAAAAAAAAA――」
異形な叫びを上げながら、焼き崩れていく姿を見つめながら一瞬緊張を解いてしまった。
「油断しないで、ハッピートリガーがいる」
淡々と警告する羽美の警告を効き、すぐに宗次も戦闘態勢に切り替える。
二人の視線の先は、狙撃ポイントと思われる入り口を見つめていた。そこにいる男は無造作に手にしていた鉄骨を投げ捨てた。
「相変わらず、見事……って、俺が評価するのも見当違いか」
「あなた……」
「オマエ、日本に帰ってきたのか?」
軽薄な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと二人に向かって歩いてくる。
「久しぶりだな、恥ずかしながら坂神 煉也。帰って参りました」
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趣味全開で書き連ねている作品です ジャンルは現代ファンタジーになります |
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