双子物語-7話-
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 特に何か起こるわけもなく冬も半ばに差し掛かっていた。夏に感じたのは何かの間違い

だったのだろうか。だが、その何かは徐々に迫っていたことに私は気づかなかった。

 バカみたいなおしゃべりを笑いながらしていると、私の足にチクという痛みを感じた。

足を上げて履き替えようとしていた上履きの中を見る。なんとそこには画鋲が入っていた。

思い切り履いてなくてよかった。

 

彩菜「なにそれ」

 

 私の何もなかったかのようにそれを靴箱のロッカーの上に置くと彩菜が真剣な面持ちで

上履きを見ていた。

 

雪乃「なにが?」

彩菜「雪乃、イジメにあってないよね」

 

雪乃「イジメ?」

 

 イジメなど受けた覚えは今のところはない。考えすぎだよと、頭に血が上ってそうな

彩菜を落ち着かせた。それでも納得いかないのか首をかしげながら教室前まできた。

 

彩菜「何かあったら私にいいなね」

雪乃「わかったわかった」

 

 適当に返事を言い、自分の教室に入っていった。具合の変化がときに激しい私は一日

に一回は保健室に顔を出す。借りていた本は全て読み終わって、先生に返すと。

 先生は両手を伸ばして私の顔に触れて見てから微笑みを浮かべた。

 

ヒロ「今日は調子いいみたいね」

雪乃「はい」

 

  逆に元気がなさそうな先生に私はつい聞いてしまった。

 

雪乃「先生はあまり元気なさそうですね」

ヒロ「ちょっと疲れちゃってね。最近、イジメだなんだと多いから」

 

  私は驚いた。私がこうやって普通に学校生活をしていても気づかないことがそんな

に多く行われているのだろうか。保健室を出てから教室までの道のりで、女子生徒が

ハンカチを落としていた。気づかない女子生徒。仕方なく私はそれを拾い上げ女子生徒の

元まで近づく。

 

雪乃「ハンカチ落としたよ」

 

 言ってから気づいたのか振り返って私が拾ったハンカチをものすごい勢いで掴んで

引き離した。わけもわからないまま、私は罵声を浴びた。

 

女子「汚い手でさわんじゃねえよ、ブス!」

 

 それから女子生徒が去るまでの間の時間は短く。何のことだか気づくまで、私は廊下

に一人で佇んでいた。以前と急激に変化していることに驚くことしかできなかった。

 

雪乃「な、なんだったの…」

 

  次の授業の休み時間、隣の教室を横切るとなにやら不穏な会話が聞こえてきた。

 

女子「今度は誰泣かせる?」

女子2「あの白い髪の奴、鬱陶しいよねぇ。髪染めちゃいけない私たちにとっては

ムカツクだけだよ」

 

女子「徹底的にやっちまおうぜ」

 

 背筋が一瞬寒くなった。多分、この二人が主体となって仲間を集めて行っているの

だろうか。そういえば少し前にやっていた集会でイジメについて話していたっけ。

 どんな内容かは忘れたけど、自分には関係ないと思って聞いていなかった。聞いた

ところで何の参考にもなりはしないのだろうけど。

 それでもすぐに何か被害が起こることはなかった。多分、彩菜と仲が良い子が多くて、

私を標的にする気がないからだろう。するとやはり、話をしていたあの二人のことを

気をつけなくてはいけない…か。

 今日の授業は全て終了。自分のことで植草くんを巻き込むわけにはいかないので何も

察せられる前に帰らせた。ほどなく彩菜が笑顔で迎えにくる。

 

彩菜「今日も一日ご苦労さま!」

雪乃「うん…」

 

彩菜「ん、どうしたの?」

 

 考えている私の顔を覗き込んで聞いてきた。ここは話すべきだろうか。だが、彩菜の

ことだからまだ確証もない状態でも相手をとっちめに行きそうだから怖い。暴力では何も

解決しないのだ。だから、私は黙って首を横に振った。

 彩菜に頼らざるを得ないときだけ、相談することにしよう。今はまだその時ではない

から。彩菜といると時々視線が刺さる。それは入学してからずっとで、気配がする方に視線を向けるがすぐに消えてしまうために誰のものだかが判別できない。

イジメグループの一人だろうか。あの二人の。考えながら歩いているといつの間にか

家についていた。頭に集中すると、実際どう動いているのか覚えていない。危ない危ない、

彩菜がついていなかったら信号が赤でも道路を渡っていそうだ。

 

菜々子「ちょっと、食べすぎじゃない…?」

雪乃「え?」

 

 今度は気づけばご飯をいつもの倍近く食べていた。私の隣には空き皿が重なっていた。

言われてみれば満腹の状態なのかもしれない。というか、無意識にこれだけ食べる私っ

て…。あー、だめだだめだ。考えても埒があかない。というか無意識の動きが怖すぎる。

 考え込むのを一時中断して、生活のことをメインにしておこう。そう、その時が来る

までは考えずにいつもどおりにして、その時が来たら考えることにしよう。遅いけど。

 

 

 

―春花サイド―

 

 

 

 ある二人組みに面白いことをしないかと持ちかけられた。それと一緒に友達になろうよ、

と。私の今までの経験上、その類の誘いはいつもロクなことにならなかった。

 だから断ろうとした。だが、せっかく久しぶりに友達ができようとしているのに

ここで断っていいのだろうか。話を聞いてからでも遅くはないと思い、話を聞くことに。

 しばらくはその内容については全然話題には上らず、ただ普通に遊びにいって私は

久しぶりに楽しい一時を味わえた。だが、やはりというか金持ちだということを知られる

と奢らせられるハメになったのだが仕方がない。今までだってそういう関係しか築け

なかったのだから、私としてはそれでも別にいいと自分に言い聞かせていた。

 冬、忘れかけていたその話題が上った。すっかり仲がよくなったと思った矢先に気に

食わない奴をいじめるという内容の話を楽しげに話す友の姿があった。

 面白いことってそんなことなのか。ばかばかしい、私はやらないと言うと二人は私の

弱みを握って脅してきた。一人になっていいのか。あんたの悪口を撒き散らして孤独に

してやると。私は嫌だった。もう一人は嫌。だからしょうがなく付き合ってしまった。

 弱い人間が泣いて謝る姿を見せ付けられる。全然面白くはなかった。というよりは

胸が苦しい方が強い。止めたい、だけどそんなことをしたらたちまち私はまた一人ぼっち

になってしまう。それだけは避けたかった。だから今日も私はイジメの手伝いをして

しまう。

 いつも目を追う、あの女の子。私とは違い、ちゃんとした友達を作って楽しそうに笑う。

私も何度か声をかけることはあったが、話すたびにあの子は私のことを覚えていることは

なかった。何度も名前を聞かれた…。

 そして、どんなに仲が良い友達でもいつも一緒に帰ろうとしない。後を追うといつも

あの子と一緒にいるのは白髪の女の子だった。どういう関係なのだろう。多分他の子に

聞けばすぐにわかったのかもしれないが、私は白髪の子に対する醜い感情で周りが見えて

いなかった。

 そこにいつも遊び相手をしてくれる友達二人が話を持ちかけてきた。今度のエモノは

あの女だと。あの女とはさっき私が見ていた白髪の子で、生意気そうだからという理由

からだった。私はその話に乗った。白髪の子からあの子を引き離せばもしかしたら私の

ほうも見てくれるかもしれないという、薄い希望。

 心の奥から沸々と湧き出る黒い感情を私は抑え切れなかった。

 

 

 

―雪乃サイド―

 

 

 

 心の準備をしてから一週間後、私のノートがいたずら書きをされていた。ついに来たか、

少し緊張感を持たせたほうがいいかもしれない。神経を警戒状態まで持っていかせること

にした。それを行った犯人はこの教室にはいなさそうだ。

大抵こんなことするやつは堂々としているもの。この教室には怯えた生徒か同情の

眼差しで見る生徒しかいなかった。そして数日間様子をみたが、小さないたずらは

されてもそれ以上進まないことに少し安心していたところに呼び出しがかかった。

多分いじめの張本人というところだろうか。

 私が全然気にもとめないものだからイライラが頂点に達したのだろう。階段を上らさ

れる私。前後に悪意に歪んでいる表情の女子生徒二人。上った先には見知った顔が気に

食わない表情で私を睨みつける。

 

雪乃「なぁに、話って」

春花「彩菜ちゃんのことよ」

 

雪乃「彩菜のこと?」

春花「呼び捨てにしないで!」

 なにを怒っているのだろう。姉妹なのだから呼び捨てるのは当たり前じゃないの

だろうか。私は首を傾げると、徐々に怒りのオーラが濃くなってきた春花ちゃんに再度

睨まれる。

 

雪乃「なにを怒るの。私と彩菜は姉妹なんだから呼び捨ては当たり前でしょう?」

春花「し・・・まい?」

 

 驚いた表情から察するに私と彩菜の関係を知らなかったことになる。こんなことが

あるのだろうか、彩菜は私との関係を説明していなかったのだろうか。

 

雪乃「彩菜や私に恨みでもあるの?」

 

 小さないたずらしちゃって、なんて余計なことは言わない。それは相手を怒らせる

だけだ。それに、私を挟んでいる二人よりはなんだか悪い相手ではない気がする。

 

春花「嘘、嘘嘘嘘!」

 

 嘘を連呼している。それだけで私と彩菜があまりにも姉妹には見えないことを

指している。まぁ、似てないけどね。ただ冷静にしようとしていても、その押し寄せる

狂気じみた圧力には圧されている。嫌な汗が一筋私の頬を伝う。

 

春花「そうよ、あなたなんかいなければ」

 

 急に表情を緩ませる春花ちゃん。しかし、それは爆発させていた感情が収まって機嫌を

取り戻したそれではなかった。そして彼女は懐から図工の時間で見かけたソレを手に

取った。

 ゆるんでいた春花ちゃんの表情が再び曇りだす。外野のうるさい声が私と春花ちゃんの

耳に響く。二人の女子はさらにたきつけるように言葉で煽る。

 

女子「とっととやりなさいよ」

春花「うっ」

雪乃「!?」

 

 春花ちゃんの様子がおかしい。カッターの刃をチキチキと徐々に出してきた。だが、

それは私に向けられたものではない。春花ちゃんの位置は私に向いているが目が横に

スライドしていた。危ない。

 何かの拍子に我を忘れてしまうかもしれない。どんなことがあってもそれは阻止

しなくてはいけない。どんな人間でも犠牲を出してはいけないのだ。

 

女子「いくじなし!」

女子「つまんない、もうあんたとなんか遊んでやんないんだから!」

雪乃「ちょっ…!」

春花「私たちは仲間じゃなかったの…?」

 

 二人の女子は意地の悪い、見ているも者を苛立たせる表情を浮かべ、見下したような

態度で春花に言う。

 

女子「あんたなんか、金もらわなかったら遊ぶわけないでしょ?」

女子「まったく、おめでたい性格ね」

 

 二人はその後、高い声を出して笑っていた。春花の心が崩れていくようなそんな音が

聞こえた気がした。私が止めないと。私が手を伸ばした瞬間そこにいた春花は消えて、

伸ばしきったカッターを構えて女子に向かっていった。

 

春花「ふざけんな…、コロス、コロス、おまえら全員コロす!!!!」

 

 声の質が変わった。春花は本気で二人に切りつける気だ。二人はできるわけないと

高を括って挑発をした。春花はまず一人の腕を切りつけた、鮮やかな赤が宙を舞う。

切りつけられた女子が悲鳴をあげている直後に隣にいたもう一人の女子に首めがけて

振り下ろそうとしていたところを私は体にしがみつき、引き剥がそうとした。だが、

思ったより春花ちゃんの力は強かった。なんとか少しの間を空けるのが精一杯で振り

下ろされた刃は女子の腕に深く刺さった。

 

女子「痛い!痛いよ!」

春花「があああああああっ!!」

雪乃「うわっ」

 

 体が浮いたような感覚がした。背景が斜めに傾いている。まさか、バランスが…。

気づいた瞬間、体が階段に叩きつけられる衝撃が襲ってきた。これはまずい。しかも

私だけじゃなく関わっていた全員が雪崩のようにドサドサと音を立てながら落ちるのが

見えた。最後の衝撃と共に私は意識がとんだ。

 

 

 

 痛みが体をつく。しかし、ガマンできないほどではない。目を開けるとそこは見慣れた

風景。保健室だ。誰に運んでもらったのだろう、誰が教えてくれたのだろう。ベッドが

足りないのか、少し大きめのベッドの隣には頭に包帯を巻いてある春花ちゃんの姿が

あった。どうして豹変したのかが気になったが、まだ痛いのと薬のせいか妙に眠いことも

手伝って私はまた再び眠りについた。

 次に起きたときには誰もいなくなっていた。先生に話を聞くがみんな大したことは

なかったと聞かされて私は安心した。私の怪我は頭から少し出血したのと腕に切り傷が

あったことくらいだった。先生は敢えて私に聞くことはなかった。

 あまりに不自然で、けが人だらけだったのにも関わらず、大事にしたくないということ

でその辺は見て見ぬフリをしてくれたというわけだ。この後、当然のように彩菜には

問い詰められる。彩菜からしたら私のコレは大怪我なのだ。ギャーギャー喚く中、私は

その日一日は春花ちゃんのことをけっこう長い間考えていた。

 春花ちゃんの家は金持ちだという。やはり金持ちならではの悩みが前からあったの

だろうか。人を傷つけたくなるほど、人に不信と恨みを募っていたのだろうか。

 考えれば考えるほどわからなくなる。本人に聞くまではそっとしておくべきなの

だろうか。それからしばらくは3人とも学校でみなくなっていた。私はすぐに

巻いていた包帯をとれるくらいまで快復。病院にもいったが、脳への影響はまったく

なかった。

 

 

 

 もうすぐ一年も終わるという時期に保健室に寄った私は先生にもう一度聞いてみた。

先生は笑っていた。本音は言わなかったが態度でわかる。ああ、厄介な生徒がいなくて

仕事が楽だと。普通、全ての生徒を心配するならば表情も曇るだろうに。驚くほど

清々しい顔をしちゃって、噛むこともなく話している。そして私は一言。

 

雪乃「先生も…人間なんですね」

 

 その一言で察したのか先生は私の顔を見て、それはもう見とれるくらいキレイな顔を

して「もちろん」と告げた。保健室から出ると視線を感じた。彩菜だろうか、それとも。

視線を感じる方向に目を向けた。すると、すぐさま廊下の角を曲がって走り出した。

 ただ、保健室から出てすぐが曲がり角なものだからちょっと走れば追いつく距離で

私は逃げようとする子の袖を捕まえた。その子は観念したかのように振り返る。

 

雪乃「春花ちゃん」

春花「…!」

 

 以前私を警告したあの時の子とは、まるで雰囲気が違っていた。そこにいた子は

小さく怯えた、雨に濡れた子犬に似ている。まるでひとりぽっちで…。

 ひとりぽっち…?そこに引っかかった私はこの間のことを思い出す。そうだ、

裏切られたのだ。普通あそこまで執着することはないだろう。それは裏切りと私に対する

嫉妬もそうだ。まるでこの子は独りになることを恐れている。だから人の温もりを

欲しがる。

証拠はないけれど、なんとなくそんな気がした。私は自然に彼女を抱きしめていた。

 

雪乃「大丈夫、怖くないから。友達になろう」

春花「う…うあ…」

 

 背中に何か濡れるような感じがした。彼女が言葉を殺しながら泣いていた。私は

落ち着くまで彼女の背中を撫でていた。幸い授業中だったため、注目が集まることは

なかった。だけど、泣き止んだ春花ちゃんはバツが悪そうにしていたものだから。

あまり人のこない私のとっておきの場所に案内した。校舎の裏側、木々の中に一つの

切り株があり、鳥のさえずりが聞こえるそんな場所。

 

雪乃「落ち着いた?」

 

 販売機とかないから給食にとっておいた牛乳を彼女に差し出す。温いけど、贅沢は

いっていられない。

 

春花「ありがとう…」

 

 そして微かな声で「ごめんなさい」と呟いた。聞こえてはいたけれどもっとはっきりと

聞きたかったから私は聞こえなかったフリをして春花ちゃんの座っている大きな

切り株の隣に座った。

 

春花「ごめんなさい」

雪乃「もう、治ったし大丈夫だよ」

 

 春花ちゃんの目は赤く腫れぼったくなり、声も掠れていた。こういうとき、少しでも

水分を取ると割と私はすっきりするんだけど、飲む気配はなかった。

 

雪乃「そっか、そんなに彩菜のことが好きなのか」

 

 こくんっと頷く春花ちゃん。私は彼女の手を握って立ち上がらせた。今、ちょうど

終わりの時間の6時間目が終了するチャイムが鳴った。

 

雪乃「よしっ、いくよ彩菜のところに」

春花「えっ」

 

雪乃「思い立ったが吉日。積極的に行動しないと、良いことも起きないよ」

 

 自分でも驚くほど積極的に春花ちゃんを引っ張った。まるでお姉さんにでもなった

気分だ。こうして、彩菜とも無事に友達になり春花ちゃんは今までにないくらいの

嬉しそうな笑顔を彩菜に向けていた。手を繋ぎながら歩く二人を見ながら私も後ろを歩く。

 途中、彩菜が私に気づき手を伸ばしてきた。それを受けようとした瞬間に背筋に寒気が

走る。春花ちゃんの目つきがまるで蛇のように私を睨みつけていたのだ。

 

雪乃「は…はははっ…」

 

 なるべく春花ちゃんの前では手を繋いだりとかそういうのは止めておこうと思った。

 

説明
昔のまま直してないので読みにくさ注意。そろそろ春花さんが本領発揮する頃ですね。色々キャラが増えていくのかもしれない。
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