真・恋姫†無双 〜夢の中で〜 第八話 『対峙』
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【男】は歩き続けていた。

先程あった不可思議な頭痛は消え、今では頭痛があった事すら忘れていた。

中庭を離れ、【男】は城に向かっていた。その中には蜀の重鎮達がこぞって軍議でもしているのだろう。

突如に現れた五胡の軍勢。

『何故ここまで接近を許したのか。』

『たった2年でどうやってここまで軍備を回復させたのか。』

そう考えているだろう、と『あいつら』が言っていた。

 

【男】自身が考えたわけではない。『あいつら』が言っていた事を思い返しているだけだ。

【男】は余計な事を考えない。

考えないことが一番正しいと思っているから。

楽だ。と

間違えないですむから。と

それが一番『あの子』の為になる。と

思っているから。

 

なのに

「・・・・・・。」

ぴたり、と【男】は歩を止めた。そして自分が先程いた中庭の方を振り返った。

 

どうしても気になる。

 

『何か』がある。

『いる』の方が正しいかもしれない。

 

【男】の進む向きは自然と180度変わっていた。

 

 

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「うわぁ……。」

 

「これは……。」

 

「すご……。」

 

音のした方へ向かって走ると桃香さんと愛紗さんと私は中庭に着いた。

 

「音がしたのって…ここ、ですよね?」

「う、うん。」

「恐らく…そうだと、思いますが。」

音がしたのは1回。『――ズドォォォン!!』の1回だけのはず。なのに、中庭にはクレーターのようなものが沢山あった。1個や2個ではない、おそらく10個ぐらいある。

 

「一体誰が…。」

「…?あれ?あれって…。」

桃香さんが何かを見つけたらしく、急に走り出した。

「桃香さま?」

愛紗さんも私も走って桃香さんを追った。

「――!!きゃあああああ!!!」

「!?っっ!!」

「っ!!ひっ!!」

り――!!

「鈴々ちゃぁん!!!」

「鈴々!!」

「鈴々ちゃん!!」

血まみれの鈴々ちゃんが中庭の端に倒れていた!!

「鈴々ちゃん!鈴々ちゃん!!」

桃香さんが涙を流しながら叫んでいる。

「と、桃香様!落ち着いてください!!」

「桃香さん、落ち着いて!!」

ゆさゆさと桃香さんは鈴々ちゃんの体を揺さぶっている。なのに鈴々ちゃんは目を覚まさない。

「桃香様っ!」

愛紗さんが桃香さんを抑えた。

「詩織様!!」

「う、うん!!」

愛紗さんが桃香さんを抑えている間に、うつぶせの鈴々ちゃんを((仰向|あおむ))けにし――!!!

「きゃああああっ!!」

「詩織様!?」

思わず悲鳴が出た私に向かって愛紗さんが声をかけてくる。

「ひどい…!!」

鈴々ちゃんは首の下から腰まで血まみれだった。おそるおそる触ってみたが、傷はそんなに深くはなさそうだ。

だが、刀のようなもので肉体が切り裂かれていて、血が大量に出ていた。

 

(心臓は!?)

 

鈴々ちゃんの胸に耳をあて、目を閉じる。

 

 

――――――――――――――――

 

――――――――――――――――

 

―――――――――――ン――――

 

――――――――――クン――――

 

―――――――――ドクン――――

 

――――――ドクン、ドクン―――

 

 

(聞こえる!!)

よかった。もし聞こえなかったら…。

 

「愛紗さん!!」

「はっ!!」

急がないといけない。

「このままじゃ死んじゃう!!早くお城に!!」

心臓が動いていても、出血が多いと死んでしまう!!

「承知しております!!」

私は両手でそっと鈴々ちゃんを抱き上げて、愛紗さんは桃香さんを背中に抱えた。

「急ぎます。詩織様、ついてこれますか?」

「大丈夫。たぶんついていける。」

愛紗さんは無言でこくりと頷いた。

 

「行きましょう!!」

 

私達は城に向かって全速力で駆け出した。

 

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【男】はまた頭痛に襲われていた。

「っ…ぐっ…。」

ずきずきとこめかみが痛む。

先程の赤毛の子と闘っていた時にも感じた痛み。消えていたはずの痛みがまたぶり返してきた。

今度はさっきよりも長い。

不快だ。

気分も悪くなってきた。

 

そんな感覚ともう一つ。

 

『何か』が来る、という直感もした。

 

そしてその直感に従い、【男】は『あいつら』から与えられた『札』で数メートル先に兵を放った。

 

 

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中庭から城に行くには、途中にある森を抜けなければならない。

今はその森を抜けている最中だった。

「詩織様!少し速度を上げます!!」

「分かった!!」

急がなきゃ。

『間に合わなかった』なんてのは許されない!!

「森を抜けるまで、あとどれくらい!?」

「あと3分の1程です!!」

そんなに!?

くそっ!

 

詩織がそう歯噛みした時。

 

 

「!?」

 

進行方向先に白い影が。

 

「愛紗さん!!あれって!?」

「味方ではないでしょうな…。侵入者を許すとは…!!」

愛紗さんが呻く。

「こんな時に…!」

白装束のやつらが向かってくる。数は5人。

「どけええ!!」

「邪魔!!」

足に気を纏わせて白装束を蹴り飛ばしていく。っていうか弱っ!!

「なんだったんでしょうね…。」

「さあ…。」

私と愛紗さんは走りながら顔を見合わせる。

その時。

 

私達は影に覆われた。

 

「!?」

「詩織様!!」

 

ズドォォン!!

 

とっさに横に避ける。

 

私達がいた場所に見知らぬ【男】がいた。さっきの白装束を黒く染めた服を着ている。

【男】は私達の邪魔をするように、道の前に立ちはだかった。

 

「貴様…何者だ!?」

「そこをどいて!!相手をしてる暇はないの!!」

私達が言うも、【男】は聞こえてていないかのように無反応。

(どうしよう!?このままじゃ鈴々ちゃんが…!)

(落ち着いてください。やつの意図は分かりませんが、こちらは一刻を争います。)

小声で愛紗さんが語りかけてくる。その間も【男】は黙ったままじっとこちらを見ている。

(…私に策があります。…聞いていただけますか?)

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分からない。

自分が何をしているのか。

なぜこんなことをしているのか。

『あいつら』が言っていた通りにすればいいのに。

目の前の三人の少女を見ながら思う。

よく見れば3人でなく4人だ。

水色の服を着た少女は、さっき自分が始末したはずの少女を抱えていた。

 

 

さて、どうしようか。

 

 

長い黒髪の女は関羽だ。しかも背中に劉備を背負っている。

水色の少女と赤毛の少女はどうでもいい。だが関羽と劉備。奴らは消す必要がある。

いい偶然だ。

そう思い、【男】が実行に移そうとした時。

 

水色と長髪の二人が同時に駆けた。

 

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私達は【男】は無視して、迂回する手を選んだ。

前に愛紗さん。その後ろを私。【男】は当然後ろから追ってきた。

(速い…!!)

(もう少しです詩織様!)

とてつもない速さで【男】はじりじりと距離を詰めてくる。このままじゃ捕まる。

「詩織様っ!!」

 

来た!!

 

愛紗さんが叫ぶ。

 

それを合図に私達は『跳んだ』。

 

「…!?」

この先に何があるか知らなかった【男】は『巨大な落とし穴』にひっかかった。

 

《ちょっと前》

『…私に策があります。…聞いていただけますか?』

『なに?』

『ここから右にまっすぐ行った所まであの【男】を引き寄せます。』

『何で?…何かがあるの?』

『はい。…我らが同士に馬岱、という者がおります。その者は大のいたずら好きで…。』

『その、馬岱って人が仕掛けた罠が向こうにあるの?』

『左様。そこは馬岱の罠が詰まった場所。足止めが可能です。』

 

 

【男】は落とし穴…っていうかあれ本当に落とし穴!?直径20メートルぐらいあるよ!?

…ゴホン。【男】は穴から出ようとして数歩歩いた。それにより他の罠も作動。ロープでくくられた丸太が飛んできたり、鉄球が大量に落ちてきたり、槍が大量に…って何これ!?壮大すぎるでしょ!!!

しかし【男】はそれら全てを叩き落す。穴から飛び出てくる。

そして

 

 

再び『愛紗さんのところへ向かおうとしたところ』を私が蹴り飛ばした。

 

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『左様。そこは馬岱の罠が詰まった場所。足止めが可能です。』

『…なるほど。その間に私達が――。』

『いえ、詩織様達だけで行って下さい。』

『え。』

『お願いします。鈴々と桃香様を連れて城まで行って下さい。』

『愛紗さん、あいつと戦うつもりだね?』

『はい。おそらく罠もすぐに抜けてくるでしょう。』

『何で!?向こうにある罠って結構すごいんでしょ!?』

『はい、普通の兵士なら大丈夫でしょう。ですがあの男は無理です。』

『…断言しちゃうんだ。』

『はい、分かります。あの男はとてつもなく強い。鈴々をやったのも恐らく…。』

『……。』

『だから詩織様、お願いします。』

『……無理。』

『え?』

『無理無理。愛紗さんじゃ勝てないよ。』

『…何故そう思うんです?…先刻の戦いに私に勝ったからそうおっしゃるんですか?』

『違うよ。…愛紗さんは鈴々ちゃんをやられて怒ってる。そりゃもう尋常じゃないぐらいに。』

『…そうですが。』

『だから駄目。そんなんじゃたぶんやられる。』

『ですが!私が残らなければ!』

『私が残るよ。』

『なっ!?』

『私が残る。』

『危険です!!詩織様が一人で残るなど!!』

『大丈夫。…たぶん大丈夫。それに、城までの最短の道は愛紗さんの方が詳しいでしょ?』

『…そうですが。』

『だから、鈴々ちゃんを城に送ったらすぐに助けに来て。それまで何とか持ちこたえるから。』

『……。』

『……。』

『…分かりました。必ず戻ります。だから絶対に死なないでください。』

『うん、りょーかい。』

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右手にダガーを構える。

【男】は服にかかった砂をぱんぱん、と手ではらっている。

【男】はすっ、と私を見る。愛紗さんが行った方はもう見ていない。完全にロックオンされたね。

 

「……。」

【男】は手を前にかざして、構えを取った。

 

ビリビリと空気が震える。汗が体中から吹き出てきた。

手も震える。足も震える。

 

でも

 

キッと私は【男】を睨んで、体の震えを止めた。

 

……死なない。こんなところで。死んでたまるか。

お兄ちゃんに会うまでは!!!

 

 

 

〈続く〉

説明
新しいPS3も欲しい!けどVITAも欲しい!

どっちにすりゃいいんだ!
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コメント
謎の男・・・何者だ?(幼き天使の親衛隊joker)
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