平凡な日常
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意外と全ては単純な所から始まる。

俺から言わせればそれはなかなかに難義なことだ。

学校生活を送ってる一学生から言わせてもらう。

普通なんてのはありふれた当たり前の一部でしかない。

例えばクリスマスにだけ働く不法侵入者予備軍の偽善者がこの世にはいたり。

一年に一度短冊を吊るして願いをする頃、ある神様がイチャついたり。

また、ある時は――。

などというのは恒例行事は普通だが普通じゃない訳で、でも毎年行われてるから当たり前だけど平凡ではない訳で……。

まあ平凡なんてのはごく毎日繰り返してる当たり前の事の積み重ねの変化って訳よ。

で、俺が今居る光景も平凡だったりしなかったりするわけで……。

 

「ねえ、カラオケ行こうよ〜〜」

「えーー。私と遊びに行ってくれないの?」

「そんなことより、気持ちいいこと……しよ?」

ざわざわざわ……

 

なんか知らんけどこれがモテ期というものなのだろうか?

最後に聞き取れた台詞は確実に何か裏がありそうだけど。

いつもの様に、ラノベとキャラクターのグッズを買い帰路の途中でこれ。

さっき買った荷物、鞄の中に入れといて良かったと一息。

こうなったのも原因は一つ。

クラスメイトの男子に何か変な香水をかけられたからと予測してみる。

 

「黙ってないで、ほらいくよ〜〜」

「あ〜〜アケミばっかずる〜〜い」

「こっちに行こうよ〜〜楽しいからさ〜〜」

「あのホテルがいいよ」

ざわざわざわざわ……

 

人が増えてる気がする。

しかし、さっきと同様最後に聞き取れた台詞にはツッコミを入れたくなった。

さて、どうしたものか……。逃避したい今日このごろ。

家に帰って大人しくゲームがしたい。

どうせならこんな化粧の濃い、いかにもな商売をやってるような人じゃなくて、学校の女子にモテてみたいものだ。

十数人の女性に囲まれもみくちゃにされつつある俺はある種、引っ張りダコだ。

どうにでもなってくれ……。

諦めるしかないだろ……これじゃあ。

これでまた小遣いが減るのか。

近年はこういう誘導的な引率行動が無いと商売上がったりなのかね。

まあ草食の男子が増えつつあるとかいうから仕方ないよね。高をくくるか。

 

「キミ、大丈夫?」

丁度なタイミングで下の方から密やかに天使のような声が聞こえた。下の方って何かいやらしいな。

とにかく、聞こえまいだろうが一応「大丈夫なわけないだろ?」と返答はしてみた。

所詮俺の妄想だろうから聞こえたところで変化は無いんだけどね。思わずニヤける。

途端「キャーーキャーー」という嬉しいのだろうか、黄色い悲鳴が鳴り響く。

 

「……しゃがんで。私の手掴んで。すぐそこの小路に走るから」

「ああ……分かった」

神経を凝らして無かったら聞き逃していた声に気づき反応してみる。

でも最初の方が聞き取れなかった。妄想だったら聞き取れてるよな。

もしかした本当に人かもしれない、そんな気がしてきた。

 

今は平日の昼過ぎくらいだ。

このお姉さん方はこの暑い時期も重なってかミニスカートに黒タイツ。

黒い辺りにエロスを感じなくも無いがいかんせん顔が……いや、なんでも無いです、すいません。

と、自分も人のことに口出しを出来ないなーーなんて思いながらしゃがむ。

人って怖いよね。だって生きるためにはきっと何でもすると思うよこの人たち。

かく言うその人たちは俺がしゃがんでも変化が無い。何か違和感。おかしくね?

ふと目の前に差し伸べ出されてた小さな手が一つ。

ああ……パトラッシュ……お前ここを探してきてくれたんだね。分かったよ。

お前は「いつまでも僕と一緒だ」って、そう言ってくれてるんだね…。ありがとう。

そんなに疲れてないけど、もう天国に行く時間なんだね……。

さよなら俺の青春。俺の人生。俺の嫁たちよ。

手を強く握り返した途端――

それは強く引っ込抜いかれたように強い力で腕を持って行かれる。

俺の右腕えええぇぇぇっ! めっちゃいてえええぇぇぇっ!

しゃがんだ姿勢から体勢が崩れそうになるも持ち直し、導かれるがままにお姉さん方の足下を抜けていく。

黒いハイヒールの女性の足を一回踏んでしまった。すまぬ。

おぼついていた足も人の波から抜ければ引っ張って進む相手のペースに合せ走ることが出来た。

陽は傾きつつあるため小路は日中なのに日光を遮断しているため相手がよく見えない。

判ることは俺よりも背が小柄で、どこかしらの学校の制服を着ている。女子用の物だ。

小路を抜け、人通りのある道に抜ける。

さっきの道より人通りは減った……逆ナンする人も居ない様子。

思考ははっきり機能しているものの体は悲鳴を上げて……酸欠っ!

「はっ……はっ……はっ……はっ……」

「だらしないね、キミ」

「はっ……はっ……はっ……は……キミ?」

なかなかの美少女だ。俺には輝いて見える。

息を整えつつ上を見上げればこの上無き美少女が居た。

さっき先導して腕を持って行った……引っ張ってくれたパトラッシュさん。

またの名を天使ちゃんと命名。他意は無い。意外と真面目に。さっきもそう呼んだし。

「あんなに囲まれてさ……何やらかしたの?」

「別にっ……やらかしてたっ……訳じゃないよ……」

息が続かず途切れ途切れになってしまう。

一方彼女――天使ちゃんは涼しげな顔で会話を進める。

「じゃあ何してたのよ? もしかしてナンパとかする男なの? ……また地雷かな」

意外とこの天使ちゃん、毒持ちだった。

確かに俺の顔面は核地雷ですよ……別に好きでこんな顔になった訳じゃねーーんだ!

「確かに皆、自分の顔を選べる訳じゃないけどさ……で、どうなの?」

つい、口に出てしまってたらしい。

「ん、いや。見てたら分かる通りだよ。こんな顔じゃナンパなんてする気にもならないし。

 あっちが勝手に寄ってきたらいつの間にかあんなになってたんだよ」

「ふーーん……。で、そのリュックは?」

「リュック? は……いや、プライバシーの侵害とかあるだろ。そう安々他人に物を公開なんてするか」

「ふーーーーん。あっ! もしかしてオタクさんなの?」

し、視線が痛い。そんな目でこっちを見るな!

「い、いや、普通の本が入ってるだけだよ?」

「そんな大きなリュックに普通の本? 辞典でも入ってるの?」

「いや、べ、別にそういう訳じゃないけど……い、いいだろ。こんなの持ってるくらい」

「うん。まーーね。他人同士だもんね。それじゃあ私そろそろ行くね」

「……あ、ちょっと待って!」

「え?」

やってしまった〜〜〜〜!

つい何も用も無いのに声を掛けてしまった〜〜〜〜!

なんとなくギャルゲの主人公とかの気持ちが分かった気もするけど……この際そんなの何の役にも立たないし。どうしよどうしよ。

「あ、いや、なんというか……助けてくれて。あ、ありがとう」

「ん、別に。暇だったから。……しかも……たし」

「なんか後半の方聞こえなかったんだけど何?」

「い、いや! べ、別に何も!?」

声がやたらと浮ついたというかそんな気がした。吃ってるし。

「良かったら……何か恩返しとかさせてくれない?」

「恩返し? 別にいいよ。そんなつもり無かったから」

「そ、そう……」

「う、うん。……それじゃあ、あたし急いでるからっ! じゃあね!」

呆然と立ち尽くす俺に、走って行く彼女の背中はどこか有志に溢れていた。

欲求を我慢していた何かの蓋が開かれたように。

……帰ってゲームでしよかな。

 

あ、CD買うの忘れてた。またさっきの場所に戻らないといけないのか……。

嫌だなーー。明日来るのも面倒だし、様子見つつ行けたら行って駄目だったら帰ろう。

さっきの小路を使い、居た場所にリターン。

丁度今さっきまで俺を囲っていた集団はどこかへと消えてしまったようだ。

本当なんだったんだろうか。さっきの集団。

俺が逃げたときも追いかけてこなかったし。本当に不思議だ。

まあいいや、過ぎた事だし。

「あ」

「あ」

さっきの天使が、舞い降りた。

説明
またも思いつきで描いたものです(笑)。
今までの中で一番長いのですが二時間くらいで描いたものなので容量にすると6KB程、読み終わるのに10分も掛からないと思います。
何かコメントしていただけると嬉しいです。
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