妹紅と慧音のある朝 |
〜何にもなくて平和なある朝のこと〜
「もこーう。朝だぞ、妹紅!」
「朝食が出来たぞ……っと。やはりまだ寝ていたか」
「妹紅、起きろ、妹紅〜……起きないと……」
〜〜〜〜〜
ピチチチ…
朝の涼しい空気とさわやかな鳥の声に目が覚める。
重いまぶたを何とか押し上げる。
目に映るのは見慣れた天井…ではなく、吐息がかかるほどに近づいた慧音の顔。
寝起きの頭は一瞬、状況が理解できない。
「…けーね?」
「っ?!」
わたしが呟くとバッと身体を起こして視線を明後日に向けた。
その頬は赤く染まっている様に見えた。
わずか数瞬で覚醒した頭は、数秒前のシチュエーションと慧音の様子から答えを導く。
はは〜ん…さてはわたしが寝てるのをいい事に……――しようとしたわね?
にやり。
やられたらやり返すのが基本よね。たとえ未遂でも。
これからすることに免罪符を与えた。
心の中の企みを見透かされないように、いつもの笑顔を浮かべた。
「おはよっ、慧音♪」
「う、うむ。おはよう、妹紅……!?」
どもりつつも返事をした慧音がこっちに向いた瞬間。
華奢な彼女の腕を引き、ぽすっとわたしの懐に収める。
「なっ?! ぅん…っ!!」
そして何かを言う前に、すばやくその唇をふさいだ。
わずか数秒の口付け。
「っぷはぁ…、さっきのお返しよ」
「さっきの…? う、あ、いや、えっとその、あれは違……」
「何が違うのかしら?」
あたふたと弁解する慧音に少し意地悪く言った。
「うぅ…。さ、さっきのは別にどうしようと思ったわけではなく妹紅を起こそうと思っただけであって、決して怪しいことを考えていたわけではないんだ!!」
「ふ〜ん、『怪しいこと』ねぇ…」
わたしの言葉に慧音は自爆したことを知る。
その顔は今やお湯が沸かせそうなほど真っ赤になっている。
これだから慧音をいぢるのはやめられないのよね〜。
里で「慧音様」って呼ばれてる時とは大違い。
たいてい未遂に終わるのに時々大胆になっちゃうところとか、すごく可愛い♪
「す、すまない。これからは気をつけるから…」
何も言わなかったことからわたしが怒っていると思ったのか、いつの間にか慧音はしゅんとうなだれていた。
「あ、いや、別に怒ってないわよ? むしろバンバンやっちゃってくれていいわよ!」
「は? …妹紅、それはいったいどういうことだ??」
くすくすとわたしは軽やかに笑った。
「妹紅?」
愛しい人がわたしを見上げて名前を呼ぶ。
…ってちょっと待って。
至近距離で上目遣いとかされたら…我慢できないに決まってんでしょ!!
「…それはね?」
「ああ…」
「かわいいけーねをおいしくいただける機会が増えるからよっ!!!」
「ひゃん!」
朝から理性が臨界点突破。敷いたままの布団に押し倒す。
「ちょ、ま、もこ…っん!」
異変に気付いた慧音の声は意味を成さず、それはわたしに遮られる。
数秒じゃ味わいつくせない柔らかい唇は、ますますわたしを魅了していく。
「む……ぅ…ん」
驚きに見開かれた瞳がとろんととろけて閉じていく。
外から差し込む光が布団に広がる銀の髪にきらきらと光る。
そのまぶしさにわたしは目を閉じた。
始めは軽く。優しく。
だんだんと長く。甘く。
息が苦しくなれば少し離れて、数回キスを繰り返す。
この愛しい気持ちを伝えるように。
時に強く。激しく。
「ん……ぁ…」
ぴりりと脳に心地よい刺激が走る。
いたずら心でちらりとまぶたを上げてみる。
愛しい彼女は悩ましげに眉を下げ、恥ずかしさにギュッと目をつぶっている。
つやつやとしたきれいな肌は今、紅く染まっている。
「ふ…ぁ……はぁ」
幾度目かのキスの後、慧音の口から大き目の吐息が漏れる。
名残惜しかったけど、これ以上やればホントに止まらないからわたしは身を離す。
それを感じたのか、慧音は目を開けてわたしを見る。
しかしキスの余韻が残っているのか、まだぼんやりとしている。
普段の凛とした姿からは想像できない慧音をしばし観賞する。
やがてふるふると軽く首を振って、いつもの調子に戻った。
「少し遅くなってしまったが朝食にするか」
「そーだねー」
〜〜〜〜〜
ほとんど毎日、朝ごはんは慧音の手作り。
めったにない例外はわたしが慧音よりも早く起きた時。
確率的には1年に1回あれば多い方かしら?
まあとにかく「今日も」慧音の手作りと言うことよ。
まもなく料理が運ばれて来て、エプロン姿の慧音がわたしの向かい側に座る。
「待たせてしまってすまない」
「ううん、大丈夫。全然待ってないし、慧音の料理のためならいくらだって待つんだから!」
「なっ!!」
同じようなことを何回も言ってるはずなのに、いちいち反応してくれるのが嬉しい。
あ〜あ、またそんなに紅くなっちゃって…。
「はい、それじゃあ頂くとしますか」
「あ…ああ、そうだな」
「「…いただきます」」
いままで何回も繰り返してきたから合図がなくてもピタリと揃った。
オーソドックスな料理はその人の味が出る。
慧音の料理からは優しさと思いやりの味がした。
「妹紅、ご飯つぶがついてるぞ」
もぐもぐとご飯を食べていると慧音の声が聞こえた。
「え?うそ、どこどこ?」
慌てて頬に手をやる。が、その手をついっと押さえられる。
「こら、箸を持ったままやるんじゃない。行儀悪いぞ」
「あ、ごめんごめん」
ひとまずお茶碗とお箸をちゃぶ台に置く。
目の前の慧音から視線をはずしたのは一瞬。
右頬に温もり。左頬に柔らかく熱いモノ。
ざらりとソレが頬をなでる。
ゾクリと背中に悪寒が走る。
刹那に感じた温度は気付けば真逆。
むぐむぐと口を動かし、何かを飲み込んだ慧音が済ました顔で言った。
「さっきのお返しだ」
唐突な出来事を、脳はやっと理解する。
「…もう!それくらい自分で出来るのにー」
照れ隠しにふいっと横を向く。
わずかな空気の振動を感じて盗み見れば、慧音が笑っていた。
「ふふふ…今度は上手くいったぞ…」
「む〜〜」
何だか悔しかったけど、そんな慧音もかわいいから許す。
でも今のでまた火がつきそうなんだけどな〜…。
不完全燃焼を我慢しつつ、朝食を食べきった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様」
「今日もおいしかったわよ、慧音」
「ありがとう、妹紅」
どちらからともなく笑みがこぼれた。
「それから……」
「ん?」
すっと慧音のそばに寄る。
「けーね大好き☆」
ぎゅっと慧音を抱きしめた。
これで不完全燃焼が少しましになるハズ。
今日は寺子屋の日だから昼間慧音はいない。
その予防策として慧音分補充したし、夜まで悶々としなくてすむわね♪(多分)
そんな妹紅を他所に、抱きしめられた慧音は三度真っ赤になって、されるがままになっていた。
……妹紅とだいたい同じようなことを考えながら。
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もこけーね好きによるただの妄想です。甘々。 | ||
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