ナイトメア@ボーカロイド第1話第1章
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 ジリリリリリリとうるさい音が鳴り響く。

 この音聞くといやでも目が覚めてしまう。うっすらと目を開けた。

 黒い遮光カーテンの隙間から朝日がこぼれてくる。本当に朝になってしまったみたい。

 うぞうぞと手を伸ばすと何かにぶつかった。音の主、目覚まし時計だ。がっちりと時計のスイッチを押し、不快な音を消した。音を消しさえすれば後は静寂が待っているだけ。このまま夜まで眠りたい。どうせ私の、私たちの晴れ舞台は夜の闇だから。

 「ミクー。朝だよー。」

 朝なのはわかってるよ。でも、夜からが本番なんだから少し寝かせて。

「ミクー。ごはんできてるよー。」

夜まで、夜まで。

「ミクー」

夜まで

「いい加減起きなさい!なにをグースカ寝てるのよ!」

 布団をはぎとられた。うつらうつら目を開けると私の目の前にいたのは

「・・・あ、オニババ」

「誰がじゃ!」

ツッコミとともに尾びれが顔面にあたった。ベチッという音と衝撃に仕方なくモゾモゾと起きる。まだ眠い。目の前にいたのはもちろんオニババじゃない。ショートカットの黒髪がセクシーなマーメイドだ。セクシーなのは外見だけだけどね。

「おはよう。ミク」

「・・・じゃっhdkづるうぇいはkらふぃあえj」

「なーにをねぼけてるんじゃい」

こんどは頭にげんこつを食らった。さすがにこれはイタイ。目が覚める。

「いったーい。」

「ほら、目が覚めた?」

「おはよう、めーちゃん」

「おそよう、ほら、朝ご飯出来てるから、早く来なさい」

「はーい」

 返事を聞くとめーちゃんという名のマーメイドは、陸を進むときに使う車いすを進めながら部屋から出て行った。部屋の外から食卓を囲むにぎやかな声が聞こえる。本当にみんな朝早く起きてるみたい。少しむくれる。夜が晴れ舞台のはずの私たちなのに、なんでみんなこんなに朝が早いんだろ。これじゃ人間と同じじゃない。そう思いながら時計に目をやる。あ、やば。もう少し寝てると遅刻だった。

 歯磨きをすませ部屋を出ると、トーストとハムエッグとサラダが食卓に並んでいた。カイトの作る朝ご飯だ。でなきゃこんなに朝から豪勢な物は出ない。

 食卓にはすでにみんないた。

「おはようミク」

「ミクさん。おはようございます。」

「おはよう。朝ご飯食べよ。」

すでに食卓に座っていたのは金髪の少年レン、桃色のロングヘアが特徴の美人ルカである。彼らと朝の挨拶を交わし、青いマフラーをして、つぎはぎのある顔をしたカイトも笑顔で私に朝食を進める。私も「おはよ」と声かけて食卓に座った。トーストにバターをぬって食べる。1人の時は、ご飯を食べる時間も削り、惰眠をむさぼっていた。でも、今は起こしてくれるメイコがいる。朝ご飯を作ってくれるカイトがいる。そして、レン、ルカもいる。なんだかんだいいながら健康な人間なみの生活を送っている訳だ。あれ?

 「リンちゃんは?」

「まだ寝てるよ」

「えーいいなあ」

私たちの中でリンだけぐっすり朝寝坊することができる。とってもうらやましい。なんか不公平を感じてしまう。

「いいなあってリンの場合しょうがないでしょ」

「そうだよ。日の光浴びたらリンちゃん、病気になっちゃうよ」

メイコやカイトに言われる。そうなんだけどさ。ほおをふくらませてしまう。

「どうして私は朝から起きなきゃいけないの」

「学校があるからでしょ。」

「でも、お化けは学校も試験も何にも無いんでしょ」

「ミク。それは遠い昔の話だろ。しかも世界観がらりと変るから」

レンからつっこまれる。やっぱり納得できないなあ。こんな話をわいわい言いながら、ハムエッグをもそもそと食べる。それでもあくびがでてまだまどろんでしまう。すると、

「ミクさん。不満もわかりますがお時間は大丈夫ですか」

ルカが聞いてくる。え?

 顔を上げて時計を見る。8時17分?ヤバ!もう遅刻じゃん!

「あああああああああああ」

あわててサラダとトーストをミルクで飲み下し、部屋にかけ戻る。

「まったく」

「ほら急がないと。」

「気をつけてくださいね」

「けがすんなよ」

「はーい。行ってきまーす」

みんなにいろいろな言葉でおくられながら、家を出る。そして、鞄からネギを出してそれに腰掛ける。飛べ。ふわって浮かび上がる。急がなきゃ。空を急スピードで飛ぶ。

 私の名前はミクロア・フェイオニー。人間じゃないの。魔女なの。

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 お化けは学校も試験も何にも無いっていうけれど、今時の魔女はそういっていられない。魔法使いは一人前になるために学校で勉強しなくちゃいけないし、試験に合格して卒業しないと正式な魔法使い、いわゆるウィザードとして認められない。だから人間と同じように学校に行かなきゃいけないのだ。

 ローゼンクロイツ学院。これがミクの通う魔法学校の名称だ。この学院は六年制で、一学年につき一クラスを二人の先生が受け持っている。二人の先生はそれぞれ西洋魔術、東洋魔術の専門家であり、生徒は最初の二年間は様々な魔術を習うことができる。その後、自分の専門を一つに絞りその魔法を4年間かけて習得していくのである。ちなみにミクは4年生。今はウィザードとして認められるために、ひとつの魔法を一生懸命勉強している。

 

 ようやく校門が見えてきた。ミクが校門に入ると同時に予鈴がなる。ギリギリセーフ。ほっと胸を撫で下ろした瞬間、

「ミクー。まーたギリギリじゃない。」

背後でいきなり声がした。一瞬ビクッとしたが、聞き慣れた声なのでそんなにハラハラしない。後ろを向くと、ネルがいた。いつもの腰に手を当てたポーズでしょうがないというような顔でミクを見ている。

「ナハハハ。おはよ。ネル」

「おはようじゃないでしょ。これ以上遅刻したらヤバいってあれほど言ってるのに。」

ネルの本名はネイル・ノイストと言う。ケルト魔術をつかさどってきた名家のご令嬢で彼女もケルト魔術の魔法使いを目指している。ミクの入学した時からのお友達で、いつも切磋琢磨して勉強してきた仲だ。

「ほら、早く教室入ろう」

「うん。でも、ネルなんでここにいるの?」

「いいから早く」

「ネルもギリギリだったんでしょ」

ペチ

上からピコピコハンマーが落ちてきた。ネルの魔法だ。どうやら図星だったみたい。ミクは頭をさすりながらネルの後を追う。ネルは自分に都合の悪いことはあまり聞こうとしないのだ。

 教室に入り、自分の席に着くとホッと一息つく。すると、すぐに先生が入ってくる。今日の朝礼の担当はローラ先生だ。ミク達のクラスで西洋魔術を教えている先生である。クールな雰囲気がかっこいい女教師である。朝礼が終った後、いつもはすぐに授業の準備に入る。ただ、今日は違った。朝礼が終った後、

「さて、ミクロア・フェイオニー」

「はい」

いきなり呼ばれてびっくりして立ち上がる。

「今日、遅刻だな」

「FE?」

「どこからどのように発音している?」

「いや、でも、予鈴が鳴ると同時に入れたと」

「正確には鳴り終わった後だがな。3秒遅刻だ」

「さ!?」

こ、細かい。それくらいいいじゃない。思わずミクは口をとがらしてしまう。

「それにな。ミクロア。」

「はい?」

「たかが3秒と思ってるかもしれないが、お前今月何日遅刻したと思う」

「はあ」

「今月に入って5回目だ。これが何かわかるな」

「あ」

「ペナルティだ。放課後、私のところに来るように」

「・・・はい」

みんなクスクス笑っている。

「それでは、今日もがんばるように」

ここで朝礼終了。授業の準備に入る。けど、ミクは軽く落ち込んだままだ。

「ミク。ほら行くよ」

「ミク。元気出そうよ」

ネルが激励すると同時に、クラスメートのハクが声をかける。しょうがなく立ち上がると、もぞもぞと歩き出す。

「ほら、しゃきっとしよ。」

ハクに腰をたたかれて、ミクはため息をついた。

「しゃきっとって言われても、やっぱり落ち込むよ。」

ローラ先生は厳しい人で有名だ。ちょっとでも遅刻したり、校則違反するとかなり厳しい罰が待っている。

「だったら、早起きしていけばいいじゃない。それだけの話よ」

「ネル。人のこと言えないじゃん。あなたもぎりぎりじゃない」

「でも、私はいつも予鈴の5秒前にはついてるもん」

「どんぐりの背比べね」

ミクとネルの言い争いに、ハクがつっこむ。ハクは白音若が本名。魔具作りが専門で東洋魔術の魔具、宝貝の製作を勉強している。ハクは昔、ある事件が元で留年した生徒であり、今年になってミクとおんなじクラスになった。以来、なにかとミクの世話をしてくれているのである。

 朝礼からこれじゃ、今日も先が思いやられるなあ。と、思っていたとき

「まったくあなたはダメねえ。ミクちん」

3人の後ろで声がした。いつも朝礼の後、なにかとつっかかってくるあいつといえば。後ろを振り向いて苦笑い。

「テトにゃん…」

「そのあだなで呼ぶな!」

テトにゃんとよばれた女生徒は、ドリル型のツインテールを指にからませながら近づいてくる。累之宮稲采恵。非常に長ったらしいが彼女の名前だ。ミクたちのクラスの学級委員長で、由緒正しい陰陽師の末裔である。そして、彼女。ミク達の学年でトップクラスの成績を誇る。後ろから数えたほうが早いミクと比べたらえらい違いである。クラスの女生徒からも人気があり、取り巻きも多いが、ミクはからかわれまくりだし、ネルとは犬猿の仲である。

「ミクちん。本当にあなたはクラスのお荷物よね。」

「…」

「そのような態度で、一人前のウィザードになれるとでも?」

「…」

「どうしてあなたのようなダメが学校に入れたのかしらね」

「…」

「やる気が無いならすぐにいなくなってほしいんだけど」

「…」

ますます落ち込んじゃうミク、見兼ねたネルが言い返す。

「言いすぎでしょ。テトにゃん」

「そのあだなで呼ぶなと言ってんだろがい!」

「じゃあ、もっといいあだなつけましょうか?テトリスとか?」

「それゲーム!」

「ならてっちゃん?」

「鉄道オタクじゃありません!」

「武田鉄矢!」

「くぉんのバカチンぐぁ!」

また言い争いが始まりそうになる。すると、

「何をやってるんだ?授業がはじまるぞ」

ローラ先生が教室から顔を出した。あわててみんな移動を開始する。ハクとテトは東洋魔術の教室へ。ミクとネルは西洋魔術の教室へ向かう。ネルはテトにあっかんべして、しょげすぎてジェル化したミクをひっぱっていく。

 今日も前途多難だなあ。ミクはため息まじりに教室へ向かった。

 

 そして放課後、

「し、失礼しまーす」

ネルとハクと別れて、おそるおそるローラ先生の研究室のドアを開ける。ローラ先生はちらっとミクを見ると、無言で前のパイプいすに座るよう促した。そーっと座る。座ると同時にローラ先生が話し始める。

「さて、ミクロア。」

「…はい」

「今日は一段とすごかったな」

「…はい」

「朝の遅刻はともかくだ。授業中に15回も居眠り、天候変化の実習では、雨をふらせることはできても、晴れに戻すことはできない。」

「…はあ」

「そして、極めつけは召還魔術の実習だ」

「…うう」

「今日もネギだったな」

「…」

「ミクロアのネギに対するあくなき情熱はわかるが、召還魔術で召還するのは精霊や魔物だ。」

「…はい」

「あそこまでネギだされても困るぞ。ここは八百屋か?」

「でも、この前までは長ネギでしたけど、今日は下仁田ネギにレベルアップしました」

「レベルアップなのかそれ?」

「…すいません」

ちょっとしたギャグのつもりだったのに。ミクはうなだれた。

「このままではペナルティの他に、召還魔術の授業、また赤点だぞ。」

「…はい」

「これまでのようにはいかないからな。がんばるように」

「…」

「さて、それじゃペナルティだ」

「はい」

「レポートを提出するように」

「はい」

「課題はベート退治」

「はい?」

「聞こえなかったか?ベート退治だ」

ベートとは子牛くらいの大きさのライオンの身体に熊の手足、赤いたてがみをつけた狼の顔を持つモンスターである。きわめて獰猛な性格で、人を襲い食べる危険な怪物だ。たまに現れて人をおそうのでウィザードによって退治されるのが常である。しかし、生徒に対してモンスターの退治は授業ではおこなわれない。最高学年の、警察関係の仕事に就くウィザードに対しておこなわれる卒業試験の課題の1つだ。まだ、学生の身分であるミクにはあまりにも厳しい課題である。

「一匹ベートを退治して、その習性と退治方法をレポートに書いて提出するように」

「正気ですか?」

「正気だ」

「いや、無理でしょ」

「無理とは言わせない」

ミクは二の句がつげられず、ぽかんと口を開けたままにしていた。その様子を見てローラ先生は一息ついて続けた。

「ここにきて、遅刻の数が多い。さらに、授業態度に問題があるからな。ここで少しお灸をすえなくてはいけないと思ってな。」

「はあ…」

「それに、ベートの数が最近増えてきて、被害が拡大している。この被害をとめるためにも必要な課題だ。気をしっかりと持って望むように」

「はい…」

「それに」

まだあるの?

「ミクロアには強力な助っ人がいるだろ」

「…あ」

「そうだ。あのナイトメアの面々だ。彼らの助力があれば大丈夫だろ」

「先生、それは」

「このレポートがいい出来だったら、ウィザード達のナイトメアに対する理解も深まる。そうなったらお前も気が楽になるかもしれないと思ってな」

「…わかりました」

「提出は明後日までだ。気をしっかりと持って取り組むように。明日は遅刻してもおおめにみよう。詳しい出現箇所はここに書いているから、くれぐれも気をつけてな」

 

説明
もし、ミクが魔法使いで、他のキャラが妖怪だったらという、私の妄想から作ってみました。ボーカロイドとは話の内容が全く異なるのでお気をつけください。それでも大丈夫という方は少しだけこの駄文におつきあいください。
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ボーカロイド 魔法使い ナイトメア 初音ミク 

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