桜花の姫君と隙間の妖怪
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「はじめまして」

この言葉から私と幽々子、二人の関係は始まった…

 

「あなた、妖怪?」

桜色の髪の少女は突然のことに戸惑いながらも空間の亀裂から上半身だけを出して話しかけてきた金髪の少女に問いかけた。

「ええ、しがないスキマ妖怪よ。あなたは面白い能力を持っているわね。その力は人の中では辛くないかしら?」

と自らを妖怪だと名乗った少女も問いを返した。

「そうですね、どうせならあなたのように妖怪として生きていけたらと思います」

少女は正直に答えた。

「面白い事言うのね、なんだったら私がご教授して差し上げるわ」

とほんの少しの茶目っ気を込めて金髪の少女は提案した。

「ふふ、おもしろい妖怪さん」

桜色の髪の少女の顔にも自然と笑みがこぼれた。

「私は西行寺幽々子です」

と桜色の髪の少女、

「私は八雲紫」

と金色の髪の少女、

この時から人間と妖怪という奇妙な組み合わせではあったが、二人は友人となった。

 

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 境界を操ることでどこにでもいてどこにもいない妖怪、八雲紫が良家の一人娘であるとはいえ一介の人間、西行寺幽々子に興味を持った理由は二つあった。

一つは幽々子の持つ能力である。その能力とは人を死に誘う能力であり、明らかに人間の範疇を超えた異形の力である。伝説では幽々子の父親は死者を蘇らせたことがあったという。西行寺家は反魂の力を持った家系であり、一族の者ならばそのような力は多かれ少なかれ持っていた。そして同じように幽々子も「死霊を操る」能力を持っていたが、その能力はいつしか「人を死に誘う」能力に変わっていった。そして幽々子はこの能力を疎んでいた。

もう一つは西行妖である。その桜は満開になるごとに人を死に誘う妖怪桜であった。歌聖と謳われた幽々子の父親がその花の下で天寿を全うした後に、彼を慕う多くの人間がそこで命を絶ったために、その血と命を吸ったために妖怪となり、西行妖と呼ばれるようになったのだった。

このような理由から幽々子に近づいた紫ではあったが、幽々子との仲は予想以上に深いものとなった。流石というべきか幽々子は歌聖と謳われた人物の娘ということもあり歌によく通じており、教養もかなり深かった。もちろん人とは比べようもない程の永い時間を生きる妖怪である紫に知識では及ぶことはなかったが、話し相手としてはとても良き人間であった。初めの頃は西行寺家に仕える魂魄妖忌という半人半霊の男に不審人物とおもわれ斬りつけられそうになったことも良い思い出だ。妖忌は幽々子の能力を知りながらも仕えており、幽々子の従者でありよき理解者でもあった。そして時には妖忌も交えて三人で語り合うこともあった。尤も妖忌は最後まで心を開くことなく、紫に対して恐怖心を抱いていた。その感情は紫には勝てないと見抜きながらも、西行寺家に仕える者として戦わねばならない時が来る可能性を考えたために起こったものであった。このことから妖忌が熟練した武人であり、主君の為には命を投げ出す覚悟のある忠義の男であることが見て取れた。

 

 紫が自身の勘違いに気付いたのは幽々子と出会って初めての春、幽々子に連れられ満開となった西行妖を見た時だった。西行妖の美しさはこの世のものとは思われないほどのものであり、西行妖はたしかに妖怪桜であった。しかし紫は自身が妖怪であったために

解った、

いや、解ってしまった。

西行妖には人を死に誘う力がないことに。

西行妖は多くの人の血を、魂を吸った為に妖怪になってはいたが、唯それだけだった。まだ人を殺すほどの力を得るには程遠い、唯々吸った人の命で美しく咲くだけ、それほどに貧弱な妖怪だった。

そして友人の能力に思い至る。「人を死に誘う」能力、元々は「死霊を操る」能力だったその力に。幽々子の父親が桜の木の下で死んでしばらくは多くの人間が後追い自殺をしただろう。しかし年を重ねるにつれそのような人間は減ったに違いない。幽々子は父親が世間から忘れられていると感じたのかもしれない。

彼女が愛した父親、桜を愛した男、歌聖と謳われた歌人が忘れられてしまったと。

そしてそれは彼女にとって耐えられないものだったのではないか?

そして彼女は

無意識的に、

意図せず、

「死霊を操る」能力で桜の下の自殺者の霊で新たな自殺者を呼んだのではないか?

そしてその時から彼女の能力は「人を死に誘う」ものになったのではないか?

そのように考えた紫ではあったが、幽々子の前ではそのような素振りを見せないように振る舞った。

幽々子と別れた後に紫は西行妖での自殺者の数を調べて、自分の考えが正しい事を確信した。しかし紫は彼女の友人にそのことを伝えないことにした。

自らの能力を疎む彼女、

愛した父親の死んだ桜が恐ろしい妖怪になったと思い悩む彼女、

か弱く愛しい友人にそんなことは言えなかった。

反魂の力が命を奪うという矛盾、

自らの力で父親の死に場所に汚名を着せたという事実、

そんなことを友人に言える訳が無かった。

次の日、幽々子に会った時、また西行妖の下に自殺者が出たことを知らされた。

 

 それから一年は幽々子も紫もそれまでと変わりなく過ごした。時には妖忌も交えた他愛ないお喋り、歌の詠み合い、そのほかの様々なこと。紫はこのような楽しい時間がずっと続くものだと思っていた、幽々子が老いさばらえて亡くなるまで…

そしてちょうど一年後の2月16日、一年前に幽々子が紫に西行妖の満開を見せた日、紫がいつものように幽々子の家に行っても幽々子の姿が見当たらない。妖忌も知らないという。所謂蟲の知らせというものであろうか、紫がそのようなものを感じて西行妖の下へ行くと、そこに幽々子はいた。

正確には幽々子だったモノ、自らに刃を突き立て果てた幽々子がいた。

そして幽々子の身体から流れ出た血はまるで蝶の羽のような形を描いていた。幽々子の亡骸はさながら紅の翅を持つ蝶のようであった。そういえば幽々子の父親、「願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月の頃」と歌った歌聖も同じ日、2月16日、に亡くなったな、と紫は場違いなことを考えながら幽々子の亡骸を抱き寄せた。そして幽々子が遺書と思われる手紙を持っていることに気付いた。それを読んだ紫の目に涙が溢れた、そこには幽々子の後悔と懺悔が綴られていた。

幽々子は気付いていたのだ。

西行妖ではなく自分こそが人々を死に誘っていたのだということを。

なぜ幽々子は気付いたのだろうと紫は考えた。

私の言動だろうか?

私と付き合っているうちに西行妖の妖怪としての力が解るようになったのだろうか?

それとも初めから気付いていて、私がそのことに気付いてしまったことが分かってしまったからだろうか?

どれにしても紫は自分が幽々子と出会ったことが原因だと考えた。

後悔し、友人を自害させる原因を作った罪悪感に苛まれた。

自分が幽々子と出会わなければこんなことにはならなかっただろう。

紫はもうこれ以上彼女が苦しまないようにすることにした。

幽々子の亡骸で西行妖に封印を施し、輪廻の輪から外れさせることで転生したら受けるであろう苦しみから解放させることにした。そして生前の記憶全てを忘れて亡霊として生きさせようと考えた。

閻魔に頭を下げ説き伏せて、幽々子を冥界の管理人にするように取り計らった。

妖忌には全てを説明し、詫びた。そして妖忌も一緒に冥界に連れていくということで許可を得た。

そして書物には

「富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつその魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印し、これを持って結界とする。願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ…」

と書かれた。

 

 

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それからしばらくたったある日、

「……」

紫の気分はあの日を思い出し沈みこんでいた。

突然、

「わっ!」

と聞き覚えの無い大きな声

「うわぁ!!」

不意をつかれた紫は柄にもなく驚いた声をあげた

「紫様こんにちわ〜」

と少女が挨拶をした。猫耳が付いている所からすると、どうやら猫又であるようだ。

「こいつは私の式となった橙です。いろいろと面白い奴ですよ」

紫の式である藍がそう紹介する。

「紫様〜、なんでそんなに暗〜い顔してるの?」

と橙が聞くやいなや

「ほら、無理にでも笑わなきゃ」

橙がそう言って「うにー」と紫の顔を笑顔の形に引き延ばした。

「な!!こら橙!無理矢理笑わせてどうするんだ!」

驚いた藍が橙を叱りつける。

「うにゃ〜」

主に叱られて丸くなってしまった。

「ふふ……ちょっと白玉楼まで行ってくるわ」

橙の狼藉に怒ることなく笑った紫はそう言って出かける準備をした。

 

紫が白玉楼の階段を昇り切り、敷地内に入ると…

「待て!そこな妖怪!この白玉楼に何の用だ?白玉楼初代警護役、魂魄妖忌が…」

妖忌は途中まで口上を述べたが、相手が紫だと気付くと、

「ん?お主か、すまなかった」

と謝った。

「別に気にしないわ。初めの頃なんてあなたに斬られそうになった訳だし、これくらいどうってことないわ。変わらず真面目みたいで安心したくらいよ」

と紫は応えた。

「主に仕える者として当然だ。しかしお主はもっと早く会いに来るかと思っていたが…」

妖忌の言葉に紫は、

「気持ちの整理がつかなかったのよ…」

と答えた。

「でも、もう踏ん切りがついたわ」

「そうか、なら通るがよい。幽々子殿は縁側にいる。お主なら案内はいらんだろう。屋敷は以前と変わらないからな」

「ありがとう」

そう妖忌に言い残して縁側に向かった。

歩いていき、幽々子の姿が見えた所でここに来る前に藍が言った言葉を思い出す。

「紫様、あなたなら失った物をまた取り戻すことができます。また初めからやり直す事が出来ます。また、あの言葉から…」

藍と橙に感謝しないといけないわね、そんなことを思いながら紫は幽々子の前に立った。

そしてあの言葉をいった。あの日、二人の関係が始まった言葉を

 

そしてまた二人の関係は始まる…

「はじめまして」

 

説明
初めと終わりを見ればすぐに分かりますが、東方の有名な名作FLASH「はじめまして」(http://www.youtube.com/watch?v=xBPH_d0rgYY)を元にして途中に自分なりの解釈を突っ込んでみました。pixivに投稿したものを書き直しました
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八雲紫 西行寺幽々子 魂魄妖忌 東方 東方PROJECT 

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