真・恋姫†無双 外伝:こんな秋の日
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こんな秋の日

 

 

冷たい風が、勢いは弱くとも間断なく吹き続ける。太陽は既にビルの向こうに隠れ、さらには地平線にも顔を沈めているのだろう。見上げた空には紅い色は見えず、紺碧の天幕がその色合いを漆黒へと変えていく。

 

「はぁぁ…」

 

吐く息は白くはないが、外気との温度差は相当のものなのだろう。口元にかざした両手はほんの少しの温もりに包まれ、そしてまた冷やされていく。

 

「まだ、ですかね……」

 

駅前のロータリーは乗客待ちのタクシーや次々と発着を繰り返すバスで溢れ、歩道には家路を急ぐスーツ姿の男性、買い物帰りの主婦、これから飲みに行くのか、固まって元気そうに騒ぐ若者集団、塾へ向かう小学生と、様々な人種が行き交っていた。

 

「………………」

 

少しだけ、寂寥感を感じた。これだけ人がいるというのに、私のようにじっと立ったままの人間は見当たらなかったからだ。移動していない人間も携帯電話片手に誰かと話していたり、あるいは喫煙所で紫煙を燻らせたりと、何かしらする事を持っている。

 

「早く…」

 

声音がかすかに震えた事を自覚する。理由はきっと、この肌寒さだけではない。

 

「一刀、さん………」

 

再び両の掌を吐息で温め、そのまま口元を隠して呟く名前。かれこれ2週間も会っていない、私の恋人。早く会いたい、そんな想いに急かされながらも、私はただじっと立ち尽くしていた。

 

 

 

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「バックパッカー、ですか?」

 

月の初め、一刀さんの部屋でゆったりと過ごしている時に、思い出したように言われた言葉を反芻した私は、読みかけの本をテーブルに伏せて彼の方を向いた。

 

「あぁ。色々と忙しくて言うのを忘れていたんだが、2週間ほど旅行に行く事になってるんだよ、俺」

 

彼はと言えば、収納の中をごそごそと探り、その奥から大きなバッグを取り出した。

 

「聞いて…ないです………」

「言ってないし」

 

軽く返しながら、一刀さんは鞄をまさぐって昔に入れたままだったのであろう紙屑などをゴミ箱へと移していく。その捨てられる紙屑は、まるで私の気持ちを代弁しているようだった。

 

『お願い、捨てないで!』

『すまない、稟。実は、稟のようなスレンダー系美人よりも、ジョディのようなナイスバディが好みなんだ』

『オーゥ、ソーリーソーリー!ワタシがカズートのカノジョね。とっととカエレやこのマケイヌが!』

『そ、そんな………』

『そういう訳だ、稟。楽しかったよ………』

『行かないでぇっ!!』

 

「おーぃ、稟さーん」

「ですが、私に一刀さんが忘れられるわけもなく、この悔しさをバネに己を高める事を決意します。そして度重なる手術にも耐え、あのにっくきジョディを越えるばでーを手に入れるのです。『俺が悪かった、稟!』『一刀さんっ』―――そして再会する私達………『頼む、稟!罰として、その豊かな膨らみで俺を窒息させてくれ!』言うや否や、彼は私のその2つのメロンに顔を埋め、両手を使って己を挟み込むのです。『だ、ダメです、一刀さん!こんな昼間から………』『俺のリビドーはもう限界なんだ!このまま挟んでくれぇ!』………そしていつしか一刀さんは私の身体の虜となり……彼が好むのは、彼のいきり立った【自主規制】を挟み、擦り立てる事で………『ぁ、熱いです……』『すまない、稟。だが稟のその胸を見ているだけで俺は、俺は――――――』………事が終われば、彼は私の胸を枕に、まるで赤子のように安らかな寝顔で――――――」

「さて、今日は何?だろうな……」

 

一刀さんが私の顔の下に洗面器を持たせた事にも気付かずに、私の妄想は暴走を続ける。だくだくと流れる鼻血も知らず、私は夢の世界へと旅立つのだった。

 

 

 

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「まったく、最近の一刀さんの扱いは酷いの一言に尽きます」

 

グチグチ文句を言いながら、私はレバ串に噛り付く。

 

「そうは言うがな、稟。妄想内での俺の扱いも、大概酷い気がするぞ。なんで稟の中の俺は巨乳好きなんだ」

 

そんな私に苦笑しながら、一刀さんは運ばれてきたほうれん草のおひたしを小皿に取り分ける。私の皿に多めに乗っているのは、きっと気のせいではない。

 

「はい、味噌おでんですよ」

 

店のおばさんが私の前にガンモと厚揚げのおでんの器を置いて去る。鉄分摂り過ぎというコメントは受付を終了しましたので悪しからず。

 

「でも欧州に行くのでしょう?きっとジョディのようにナイスバデーな女の人が一刀さんを誘惑してくるに違いありません」

「誰だよ、ジョディって……」

 

頭を抱える一刀さん。別に信じていない訳ではないが、それでも心配なものは心配だ。

 

「もっと別の心配をしてくれよ。健康に気をつけろとか、治安が悪そうなところには行くなとかさぁ」

「一刀さんならその辺りはしっかりとしているので心配はしてません………木刀は持って行ってくださいよ?」

「出国審査にひっかからないかな………」

 

いつもの居酒屋での、そんな会話。

 

 

そして一刀さんは旅立っていった。成田まで見送りにいった私は、ずっと泣きそうな顔だった事を覚えている。笑顔で見送ってあげられなかった事が心残りだ。

いっその事私もついていこうかと思って航空券をネットで検索したが、やはり遅すぎたのか、いまの私の経済力ではとても賄いきれなかった。もっと早く券を取っていればとも思ったが、一刀さんですら2ヶ月も前に―――私と付き合い始める前に取っており、その時にも数はギリギリだったという。どちらにしろ、一緒に行く事は無理だったのだろうと自分を言い聞かせて、私はひとり、空港を後にした。

 

 

 

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そして、今日が一刀さんの帰国の日である。空港まで行くと言ったが、もし遅れたら申し訳ないし、成田から電車に乗ったら連絡するという約束で、私は自宅で待機していた。

そして電話が来たのがおよそ1時間前。

彼が最寄駅への到着時刻を伝えてくれていたにも関わらず、私は待ちきれずにこうして駅前まで出てきていたのである。

 

まだ9月だというのに、夕方の街は肌寒い。少し薄着に過ぎたようだ。こんな事なら秋物の1枚でも出しておけばと後悔しても、後の祭である。私と同じように感じる人が視界の中の半分以上はいるようで、皆がポケットに手を突っ込んだり、半袖の手に吐息を当てながら早歩きで去っていく。

 

「あと、少し………」

 

携帯で時間を確認すれば、彼が教えてくれた時間まで残り5分。いてもたってもいられずに、私は改札前へと向かうのだった。

 

 

約束の時間が来た。焦るな。電車の音は聞こえてきたから、いま下車した頃だろう。もう少し待つんだ。何度も何度も自分に言い聞かせる。

そして、改札の向こうの階段から、大群のように人々が降りてくる。改札から出てくる人たちの邪魔にならないように場所をあけながらも、その姿を探した。

 

「一刀さん…一刀さん………」

 

何度もその名前を呟く。そして、人の群れが途切れたところで、大きなバッグを背負った影を見つけた。

 

「一刀さん!」

 

周囲の視線も気にせず、私は声を張り上げた。その声が届いたのだろう。彼はきょろきょろと周りを見渡、そして私の姿を認めると笑顔を浮かべてくれた。

 

「………………………………………………あれ?」

 

その後ろに、巨乳美人を引き連れて。

 

 

 

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重そうに膨らんだバックパックを背負った彼と、スーツケースを転がした女性が連れ立って改札をくぐる。

 

え…どういう事………?

 

「ただいま、稟」

「………」

 

笑顔で私に帰国の挨拶をする彼の声も遠く、私は彼の背後にずっと視線を注いでいた。

 

「稟?」

「………………どちら様ですか?」

 

訝しむように問う彼に応える私の声は、自分でも驚くほど低かった。

 

「あぁ、彼女か。彼女は――――――」

「へぇ?この娘が一刀の彼女か?なんや、えらい別嬪さんやなぁ」

 

一刀さんの声に被せるように、彼女は関西弁で私に話しかけてくる。なんて遠慮のない………って、まさか、私が危惧していた事が現実に――――――。

 

『ま、ウチの方が美人やけどな。な、一刀?』

『あぁ、勿論だ。という訳で稟、俺の新しい彼女だ。悪いが、君とはこれまでだよ』

『何を言っているのですか、一刀さん!?』

『言葉のままやで、お嬢ちゃん。ってー訳で、一刀はもろたで。ほなな』

『今まで隠していたが、実は、俺は関西弁萌えなんだ………稟の標準語はもう受け入れられない』

『え、そっ…そないな事、言わんといて………』

『なはははっ、そんなん関西弁言わんて、稟。ま、一刀はウチの関西弁にベタ惚れやからな』

 

「稟さんやーい」

「『あぁ、置いていかんといて………っ!』追いすがる私は払いのけられ、地面に倒れ伏します。彼は関西弁女と共に、夜の大阪へと消えていきました。………私は決意します。いつか関西弁をものにして、彼を振り向かせてみせると。

1年後、大阪のとある大学には編入試験をクリアした私の姿が。ここから私の復讐が始まります。夜の店で職を得て、関西弁を学んでいくのです。そして数年後、完璧に関西弁をマスターしたウチの前には、かつてウチを捨てた男とウチを捨てた女………。

『久しぶりやな、お二人さん………』『り、稟なんか?』『せやで、一刀はん。どや、ウチの関西弁?ウチ、アンタの為に頑張って勉強したんやで?』………そんなウチに抱き着いて許しを請う一刀はんは、以前の彼と変わってへんかった。ウチは彼を胸に優しく抱き締め、そのままあの女の視線を気にする事なく――――――』

 

「アホかっ!?」

「あいたっ!?」

 

一刀はんのツッコミがウチのドタマを振るわせるのだった。

 

 

 

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「ったく、なんで俺まで関西弁なんだよ……」

「お恥ずかしい限りやわ…」

 

何とか正気を取り戻した私は一刀さんに連れられて、駅近くの居酒屋へと入っていた。よく酒を飲むカップルだ。

 

「まだ抜けてないぞ。というか京都弁が入ってる」

「………おほんっ」

 

一刀さんのツッコミに、私は恥ずかしさを紛らわす様に咳払いをする。何とも気まずい沈黙が流れる。はやく来て、店員さん………!

 

 

店員の持ってきたグラスをぶつけて、彼の帰国を歓迎する。あぁ、駅で出会った関西弁の彼女―――霞さんと言うそうだ―――はいない。なんでも、機内で隣に座った彼女が、偶然この街に住んでいたとの事だ。あの後大笑いで説明する彼女には、頭を下げっぱなしだった。

 

「稟も早とちりと言うか、勘違いが凄いというか」

「一刀さんが悪いのです。帰ってきたと思ったらあんなに美人なんか連れて………」

 

睨み付ける私に苦笑しながら、彼はビールを口に運ぶ。海外のも美味しいが、やはり日本のものが口に合うと言っていた。

 

「確かに美人だったな」

「ほら、やっぱり――――――」

「まぁ、稟の方が美人だと思うけどな」

「フラグなんて立て………へっ?」

 

そう言って、メニューを眺め始める。

 

………ずるい。そんな自然に言われたらこれ以上文句を言えなくなるではないか。

 

 

 

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あとがき

 

 

最初はちょっと切ない稟ちゃんのお話を書こうと思っていたら、いつの間にか崩壊していたぜ。

ゲスト出演していただいた霞さんは、今後登場していただく予定はありませんwww

 

ちなみに、今回の話は一郎太が旅行中にしていた妄想です。

 

妄想:彼女が見送りに来てくれたらなー

現実:1人で成田まで。成田からももちろん1人

 

妄想:飛行機で隣に可愛い娘座ってくれないかなー

現実:60歳くらいの夫婦。しかも仲良くなった

 

妄想:彼女が待っていてくれたらなー

現実:友達とラーメン

 

みなさんも妄想は程々に。

 

という訳で、また次回お会いしましょう。

バイバイ。

 

 

 

説明
という訳で、またまた別の外伝。
さっさと本編進めろというコメントは受付を終了しました。
時間がたっぷり取れれば書こうと思ってます。
外伝に関しては、突発ネタなので、続くかわかりません。
ではどぞ。
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コメント
「さて、今日は何?だろうな……」 1?出りゃ普通は死ぬのにな・・ 不思議!ww(Alice.Magic)
>>ACE様 HAHAHAHA!………………orz(一郎太)
おいやめろ現実をカミングアウトされると泣きそうになるだろ(´;ω;`)(ACE)
>>ロッカー様 個人的にはその次のページの妄想じゃない方の京都弁が好きですw(一郎太)
大阪妄想ストーリーに腹がよじれるほど笑わせてもらいました(ロッカー)
>>瓜月様 尾道いいですよね。作者は喜多方も好きです(一郎太)
>>rin様 ………orz(一郎太)
両方です。(^ム^)(rin)
>>IFZ様 べ、別に泣いてなんかいないんだからねっ!(一郎太)
>>通りすがりの名無し様 えらく気に入られて、「あと10コ歳があったら末の娘の紹介したんだけどなぁ」と言っていたwww(一郎太)
>>よーぜふ様 ………orz(一郎太)
涙・・・ふけよ。(IFZ)
60歳くらいの夫婦。しかも仲良くなった→孫娘を娶ってくれ!→押しかけ女房、まで妄想しました。(通り(ry の七篠権兵衛)
これが りんさんの ただしいあつかいかた ですw ・・・ふぅ、現実とは描くもかなしいものですよ(よーぜふ)
>>こるどいぬ 現実が厳しいからこそ妄想が幸せなものに………orz(一郎太)
>>Joker様 残念ながらお孫さんは雄だったぜ!(一郎太)
>>ルーデル様(´;ω;`)ブワッ(一郎太)
>>shirou様 困った時の妄想オチという事で(一郎太)
>>cuphole様 心配というのは作者の現実がでしょうか?www(一郎太)
>>悪さする2号様 お久しぶりです。続きの予定は現在思いつかないぜwww(一郎太)
>>シャル様 こんな夏の日シリーズとか幸せそうじゃないですかw(一郎太)
>>ブンロクZX様 風とセットで出てくる事が多いからじゃないですかね(一郎太)
>>骸骨様 つ【ティッシュ】(一郎太)
>>砥石様 (;ω;)カワイソス(一郎太)
>>ロンギヌス様 夏はもう過ぎたので、今度は秋です。ただネタがぱっと思いつかないので、更新は不定期かも(一郎太)
>>rin様 最後って本編でですか?それともあとがきでですか?w(一郎太)
>>AC711様 (;∀;)イイハナシダー(一郎太)
>>アロンアルファ様 目から汗とは変わった体質ですねw ………(;ω;)(一郎太)
>>氷屋様 そんな事はない。きっといつか空から女の子が降ってくる日が(ry(一郎太)
>>12様 orz(一郎太)
・・・現実は悲しいぜ・゚・(ノД`)・゚・(運営の犬)
ま、まだ『機内で仲良くなった老夫婦には可愛い孫娘がいて、その娘が…』という可能性も…も……orz(孔明)
一郎太さん、そのカミングアウトは涙を誘います・・・・・・(ルーデル)
稟・・・・・いじらしいなぁ。でも妄想が激しすぎるよw一刀をアナタが愛した人を信じてあげて。原作ではあまりそう思わないだろうがw(shirou)
いやもっと鉄分を・・・正直心配(cuphole)
更新お疲れ様です!かなり久しぶりに読みにきました〜私生活がかなり忙しくまったく拝見できずでした…これから一郎太さんの作品もたまってた分呼んできます!自分はあなた様の外伝がかなり好きなんで、続きに期待です♪(悪さする2号)
稟の…幸せな稟の物語を読みたいです…(シャル)
あれ、何だろう。前が霞んで見えないよ…(´;ω;`)(量産型第一次強化式骸骨)
現実はいつだって辛いのであります…(´;ω:`)(ブワッ(砥石)
待ってた期待のシリーズ 実は夏が過ぎ去って、ちょっと忘れかけてたけど・・・ 続きに期待(ロンギヌス)
コメント封じが多いなと思ったら、最後にコメントし所山盛りですね(-_-;)(rin)
いいハナシだなー(*;Д;*)(AC711)
あれ?目から何か落ちてきた。涙じゃないよ、汗だよきっと…(´;ω:`)(アロンアルファ)
現実なんてそんなもんだ(ぉ(氷屋)
現実なんて大っ嫌いだorz(12)
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真・恋姫†無双  一刀 ゲスト出演でごめんなさいorz 『こんな〜シリーズ』 

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