優しすぎる男 |
男はテレビを見ながら考えました。俺はそこそこの会社で働き、家ではこうしてビールを飲みピーナッツを食べ、呑気にしていられる。だけど、あの子供達はどうだろう!画面には、世界の恵まれない子供が映っています。学校にも行けずやせほそった身体で働く子供達。病気になっても薬を買うお金もなく、やがて死んでいく子供達。
俺は、こんなに呑気にしていて良いのか?
思い立ったが吉日。男はさっそく、今までしてきた貯金を全額募金しました。明日は運良く給料日ですので、それも募金することに決めます。休日になったら、家の中の物を全て売り払って、その代金も勿論募金です。
俺がした募金は、一体どれだけの子供を助けられるだろう?想像して、思わず顔がにやけます。そして男は会社に泊まり始めました。同僚は尋ねます。どうして突然泊まり込みなんて始めたんだ?急に忙しくなった、などということはなく、業務は通常どおりの筈です。男は答えました。実は人助けで、今家がないんだ。
同僚は思いました。友人か誰かに家を貸してでもいるのか?こいつはやたらに優しい奴だからな。そういうこともあるかもしれない。同僚はそれで納得してしまいました。男が、実は家すらも売って募金しているなどとは思いもせず。家は文字どおり、ないのでした。
男は昼食を食べることを止めました。上司は言います。最近昼飯をとっていないじゃないか。そんなに大変な仕事を回した覚えはないし、まさかダイエットでもないだろう?ほら、あいつらと飯に行ってこい。指をさされた男の部下達は、それに気付いて、男に近寄ります。今からあそこのレストラン行くんですよ。一緒に行きましょうよ。男は首をふります。いや、最近食欲がないんですよ。だから、お前ら構わず行ってこい。そう聞いた彼らは心配はしましたが、無理強いすることは止めました。男が、残してあった食糧さえホームレスに譲ってしまい、昼どころか朝も夜も食べていないことを知りませんでしたから。
何も食べずに人が生きていられる筈はありません。男はやがて倒れました。運悪く夜遅くで、他の皆が帰ってしまった後でした。警備員に発見された頃には手遅れでした。
会社の皆は悔みました。あの日、もう少し会社に長くいたら、男が倒れた時に助けられたかもしれないのに。いや、それよりもまず、無理矢理にでも休ませていたら。あの時強引にだって食事をとらせていたら。
男の両親も後悔しました。もっとあの子と連絡をとっていたら。自立した子にあまりしょっちゅう電話をかけるものではありませんが、男の死とこじつけ、自分達のせいだと泣きました。
けれど男は幸福でした。最期まで人の役に立てた。満たされて、永久の眠りにつきました。何よりも、自分よりも、世界の大勢の子供達の役に立てたことが誇りでした。
でも、男は気付きませんでした。冷たくなって、煙となって、そうしたら会社の傍の道で転んだ子供を起こしてあげられることすら出来ないことに。
多くの子供を助けた男は、一人も助けられないものと成り果てました。
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愚かなほどに優しい男の話。 | ||
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人助け 愚か | ||
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