不思議的乙女少女と現実的乙女少女の日常 プロローグ
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何処までも落ちていけそうな空だった。その青色のキャンバスには白の一滴すらかかっておらず、落下を止める障害物は何一つ存在しなかった。

 だが、手を伸ばしても彼女は当然の如く地に縫い付けられていた。その場で跳ねてみても同じだ。空の青色に触れることすら出来ない。それが当然の事だと理解したのは何時の事だったか。少なくとも、最近の話では無い。しかし、未だにそれを夢見てしまう。

 「まあ・・・・・・乙女な事ね」

 彼女の親友・・・リコはそう言った。呆れている様子は無い。彼女にとっては何時もの事なのだ。

 この考えはおかしいだろうか。果たしてそうだろうか。

 「じゃあ、リコ。リコは風の流れるままに身を任せてしまいたいと思った事は無いというの? ライラックに囲まれて眠りたいと思った事は?」

 「無いわね。私は普通にベッドで眠りたいわ。隣に大富豪の彼氏でも居れば最高ね」

 なんと現実的な奴だろうか、と彼女は嘆息した。それが普通の事だという意識は持ち合わせているが、なんというか吐き気がする。反吐が出ると言い換えても良い。例え乙女だと馬鹿にされてもそれでいいのだ。実際、彼女は処女だった。穢れの無いとは素晴らしい事ではないか。

 そうした反論が口から放たれることは無かった。何時もの事だからだ。同じ言葉を何度も繰り返す趣味は無い。

 まあ、若干傷つきはするが。

 長方形の学生鞄を後ろ手に持ち替え、道端の電柱によりかかる。

 「なにしてんの。置いてくよ?」

 リコは、今度こそ呆れた様に言った。そしてその言葉には諦観が多分に混じっていた。二人は性格的にまるで正反対ではあったが、それ故に親友なのであった。だから、リコには彼女がやや拗ねている事が分かるはずだ。いや、分かっているから呆れるのだろう。そうやって拗ねるのはこれで何度目だ、と。

 「・・・・・・・・・」

 彼女が答えないと、リコは無言でこちらに近付いてきて、彼女の手を取った。そして無理矢理引っ張っていく。リコは彼女の扱い方なら心得たもので、こうした場合彼女がどうして欲しいか分かるのだ。

 「あんたって本当に面倒臭い奴ね」

 「乙女ですから」

 彼女がそう言うと、リコはデコピン。

 痛い。

 額を押さえて、引っ張られるままに足を引きづる。

 「別に空に落ちていかなくてもいいじゃない」

 「・・・・・・?」

 「上に行っても寒いし空気は薄いし、おまけにアンタの求める青色は、瞬きの無い星に取って変わられるわ」

 風が吹いて、彼女とリコの髪を揺らした。

 しばらく歩いた所で、彼女の手とリコの手は離れた。

 「ああ・・・・・・宇宙の事は考えて無かった」

 落胆したように彼女は言った。空に落ちていく夢は、重力が許してくれても止めた方がよさそうだ。宇宙は彼女にとって未知の概念だった。

 「まったく・・・。まあ、いいじゃない」

 「いいかなぁ」

 「こうやって歩いてたほうが、アンタの言う青空に近付いてるとは思わない?」

 疲れるから何時までも手を引っ張らせないでくれ、と言いたいのだろう。

 だが・・・・・・リコに言われて空を見上げたら、まあ、確かにそんな気がしないでもない。もしかしたら代償行動というやつかもしれないが。いや、この場合どちらにしても達成できないのだからそうは言わないのかもしれない。

 「その提案のったぁ。でもさ・・・・・・リコ」

 「なによ」

 「リコもいい感じに乙女ねぇ」

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