真恋姫無双〜風の行くまま雲は流れて〜第74話
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はじめに

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意下さい

 

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遠く山々の向こうから朝日が顔を出し

日が照らすその下

もくもくと煙が登る袁紹陣地

その様子を城壁の縁に肘を掛けながら見つめていた華琳がポツリと呟いた

 

「彼、来てくれるかしら?」

 

一里にも満たない互いの陣地の距離

此処から手を伸ばせば届きそうな場所に引いていった彼等は果たして何を話しているのだろうか

 

勇敢にて無謀な玉砕か

臆病にて無謀な撤退か

 

そのどちらの選択も彼等にしてみれば困難な道程であり、今日死ぬか明日死ぬかの二択でしかないという事を、敵対する立場故に彼女には見えていた

 

「来るやろ……来るに決まっとるやん」

 

彼女のすぐ隣

 

言い換えれば足下とも言うべきか

胡座をかき、城壁に立てかけた青龍刀の切っ先を見上げながら霞もまたポツリと呟いた

 

虚ろに、しかしどこか熱を帯びて潤んだ瞳が青龍刀の向こう、どこまで終わりなく透き通る空を横切る雲を捉え、ほうっと悩ましげな息を吐く

 

その姿は彼女を知る者であれば誰もが初めて見るものであり、勇猛と無邪気が同居する彼女の中にもう一つ……別の何かが押し入って来たこと顕著に知らしめていた

 

ふと

 

華琳は思う

何が一体彼女を

彼の何がここまで変えてしまうのだろうかと

 

「彼はそこまで強いの?」

 

棘のない薔薇のように佇む…それはもしかしたら言い過ぎなのかもしれないが、今この場で宙を見つめる彼女からは彼女特有の、戦場の兵特有の覇気というものが全く感じられない

 

そうか

これが骨抜きというものか

華琳の中でようやくに探していた言葉が見つかる

だがやはりそれをして理解が出来ない

「多分……ウチは勝てへんのやろな」

 

華琳が知る霞からまるでかけ離れたこの姿

 

「貴女は強い…その証明のために、貴女は誰彼にも挑むのでしょう?」

「せやからに誰より強くて誰より弱い…実力の順序は、それなりに理解してんねんで」

 

実力にあって彼女の上に立つ存在

それが彼だというのだろうか

再びに袁紹陣営を見つめ、彼を思い返す

事ある毎に顔を合わす麗羽の側にあって静かに佇む袁家の懐刀

他人を見下げる他を知らなかった筈の麗羽が唯一に特別な視線を送っていた存在

この世界に珍しい男にあっての実力者

初めのうちはまたいつもの見掛け倒しだろうと華琳もまた鼻にも掛けずにいた

袁家を、轢いては自身を褒め称えるばかりの麗羽

 

外目に、まして華琳からしてみればそれが如何に胡散臭く、事実彼女に限らず有力者からしてみれば袁家という張りぼてがどれほどに価値が薄れたものであったか

 

それを証明していた者こそ誰であろう麗羽本人だと、華琳は口にせずとも心の内に麗羽を卑下していた

 

それが今

 

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「私達の勝利が揺るぎない今、彼に貴女を当てる事は得策でないと稟が言っていたわ」

 

今や曹操軍にあって華琳の部下にあって外せぬ存在になった二人の新たな軍師

その彼女達はこの戦での損害をいたく嫌い、こと将…春蘭と並ぶ実力者である霞を失うことを避けるよう進言していた

 

同時に

彼女はまた彼に挑むであろうとも

そして霞から返って来た答えもまた、やはり彼女達が想定していたそのものであった

 

「ウチは…あいつと戦いたい」

 

風に消えゆくような微かな声を漏らす霞に華琳は目を細める

「勝ち目のないと貴女言ったわよね?」

「それでもウチは…あいつと繋がってたいねん」

 

膝を折り肩を並べたところで彼女が震えていることに今更ながらに気づいた

ふふっと鼻を鳴らして笑う霞の声が風に乗りかき消されてゆく

 

「あいつはな、肩並べられるの嫌うんや…やってんウチはあいつの真正面からぶつからんと…あいつと繋がって居られへんねん」

 

互いの武を競い合うそれとは違う

彼女が自分の武を他人に翳すそれとも違う

 

彼に抱かれる麗羽に嫉妬し

彼に想いを寄せられる月に嫉妬し

 

「何が良いんやろ…あないな男」

 

それでも

戦場で相対すれば胸の内が疼いて止まない

初めて

勝ち負けの結果ではない

ずっと

何もかも忘れて相対したい

勝ちたい、でも終わらせたくない

負けたくない、でも終わらせたくない

 

終わってしまえば

終わらせてしまえば

彼はもう

自分を見なくなってしまう

自分はもう意味をなくしてしまう

 

「なあ…華琳、ウチがもし負けたならあいつを引き入れてくれへんか?」

 

独白のように紡がれる彼女の声が日の光と共に地に影を落としてゆく

 

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「貴女が勝ったら…の間違いじゃなくて?」

 

大凡彼女から聞くことのない弱々しい声に自然と華琳の声が上擦ったものになる

声色に乗るように彼女は静かに怒っていた

 

「じゃあどっちでもええわ」

 

華琳の怒りに当てられたらのだろう

自虐的な笑みを浮かべ霞が立ち上がった

「ウチはもっぺんあいつとやる!…そんであいつは華琳に降る」

 

ん〜っと背伸びをした彼女は憑き物が落ちたかのような晴れた笑みを浮かべた

 

「彼は来るのね?」

「言ったやろ?華琳の首取るて」

 

まあそれはウチがさせへんけどなと彼女が白い歯を見せ、華琳から離れはじめた

 

「さあて…ウチの連中にも一発気合い入れななぁ」

口ではそう言いながらに欠伸を噛み締めて遠ざかる霞の姿に華琳も吊られるように背伸びし、口元を抑えて欠伸を漏らした

長い夜だった

幾多の戦場を経験してきたはずの彼女にとったも、今浴びている朝日をここまで眩しく感じたのは初めての事で

故に様々と考えさせられた

自分を慕う彼女達の事も

 

「…華琳様」

 

呼ばれた声に振り返ればフードの上の猫耳を風に揺らし直立不動の桂花がいた

「稟の説教は終わったのかしら?」

 

天に伸ばした両手を胸の前で組み、首を傾げて問えば

 

「…はい」

 

華琳を真っ直ぐに見つめる桂花の頬には赤く張られた痕

考えるまでもなく稟のものであろう

なる程、普段の態度とは裏腹に稟は桂花の事を気に入っているようだ

 

「なら私からは一つだけ」

 

強張った表情の桂花へと近づき肩へと手をやるとピクリと桂花が震えた

 

「貴女はもう私の物…あの男になんて譲りはしないわ」

 

たっぷりと桂花の唇を堪能した後、頬を上気させた桂花が俯きながら呟いた

 

「比呂は…死なないと言っていました」

「…そう」

 

まるで夢見る少女

一体この娘は彼に何を思い描いているのか

 

面白い

自信の頬の肉が両の瞳を押し上げるのが解る

 

面白い

愉快でならない

 

「貴女も彼は来ると?」

 

彼女もまた確信している

俯きながらコクンと頷き桂花の姿に情欲の感情すら沸いてくる

 

桂花の彼への想いを自分の想いへと塗りつぶしたいほどに

ここが城壁の上でなければ今すぐ彼女を辱め汚してしまいたいと思うほどに

 

「…可愛らしい娘」

桂花の顎を掴み再びその口を塞ぐ

 

空気を求め、霞掛かる思考の中

華琳もまた彼を思い描いていた

 

殺してやろう

決まっている

 

一度は手に入れかけた麗羽の首を攫っていったあの男を

 

そして今

それだけに飽き足らず自分の物に手を伸ばすあの男を

 

殺してあげるわ

貴方を

 

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あとがき

ここまでお読み頂きありがとうございます

ねこじゃらしです

え〜今回は華琳様にスポットを当てて嵐の前のなんとやらな回です

演義では何かと人様の物を欲しがる困ったちゃんな曹操様♪

そんな感じに表現出来てたら良いかなぁなんて…

さてさて

期末が終われば四半期と

 

社会人も学生と変わりなかったりするもんなんですな

言い訳ですね、はい!

 

それでは次回の講釈で

説明
第74話です

只今絶賛風邪引き中
皆さん季節の変わり目にはお気をつけて
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コメント
あ〜華琳さまの悪いところでちゃったか〜、すぐ人の欲しがる癖して独占欲強いんだから。(ハードラック)
サラダ様、コメント頂き有り難う御座います。いよいよ主人公たるところを見せてくれる…のか?(ねこじゃらし)
華琳さまに殺すと言わせる比呂さんマジパネェ。はたして言葉通りになってしまうのか、それとも覆されるのか。続きが楽しみです。(R.sarada)
タグ
真・恋姫†無双 桂花  二次創作 比呂 風の行くまま雲は流れて 

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