バレット 〜赤錆色の銃を持ちし旅人〜
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この世界は、力がすべての世界。力なきものは飢えるか、力のあるものに縋り付いて生きている。

そして、俺は一人飢えと戦いながら我が道を進んでいる。

弾頭がなく薬莢のみ代物と赤錆色をしている古びれた拳銃を一丁、それとほんの少しの食料とほんの少しの金があるのみの行き当たりばったりな旅だ。

「このパンを食べれば、腹は満たされる。だが、食料はそこを尽きる。どっかに食料が落ちてないものか・・・」

俺はふらふらとした足取りで、ただひたすら前に進む。荒野の暑い日差しが、俺に照りつける。当たりに町も見当たらず覚束無い足取りのままひたすら歩き続けるが、さすがに空腹には勝てず俺は力尽きて地面に倒れてしまった。

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「・・・銃は持っているようだし、食わせるもんを食わせりゃ何でもするんじゃねぇか?」

目を覚ますと、そこには鎧を身に纏った二人の男がいた。

「お、兄ちゃん目を覚ましたか。腹も減ってるだろうから、とりあえずこれでも食いな」

男が差し出したのは、保存に持って来いの物凄く固いパンと暖かいスープだった。さすがに空腹なだけに断ることも出来ず、俺はとりあえずご馳走になることにする。

物凄く固いパンは、スープにつけてある程度柔らかくして食べる。そのまま噛り付いてもいいのだが、相当顎の力がない限り噛み切る事なんかは出来ない。出来たとしても、パンひとつを食べるのに相当な力が要る為、食べ終った頃には疲れきっていると言うくらいに硬い代物なのだ。

「とりあえず、兄ちゃんが目を覚ました事をお頭に伝えてくるわ」

食事を差し出した男は、そう言いその場から立ち去った。もう一人の男は、俺の様子を観察しているようだ。とりあえずは、冷静を装って食事を続けることにする。

「お前さん、薬莢とこんな使えるか分かったもんじゃない銃を持って何をしているんだ?」

腰周りがやけに寂しいと思っていたら、やはりガンベルトを取り上げられていたようだ。

「当てのない旅をしているのさ。その銃は、あくまで護身用に持っているだけで、薬莢は弾が入っているように見せかける為の物さ」

こうでも言っておかないと、厄介な事に巻き込まれかねない。とは言っても、一食の恩はあるから物事を強制されると困る。

「それじゃあ、お前さんはこれで弾を撃ったことはないのか?」

まぁ、これが普通の反応だな。

「弾を買う金もないし、今の状態で弾を撃ったらどうなるも分からない代物だ。普通の弾は、撃ったことはないさ」

普通に売っている弾は撃ったことないが、特殊な弾は撃った事があるとも取れる言い回し方でつい言ってしまったが、相手が言葉の意味をどう取るか少しばかり不安ではある。

「確かに、くず鉄のようなこれじゃ、弾なんて撃てんわな」

自分で口走っておきながら、頭の回転が速くない相手でよかったとほっと胸を撫で下ろす。

「とは言っても、お頭が作った規則でいくらくず鉄だろうと、身内意外に武器は持たせてやれんのだ。だから、お頭が来るまで大人しくしててくれや」

それにしても、統率されている部下といい、部下からの信頼すら感じるお頭という人物。たぶん、背丈2メートルを軽く超えているグリズリーのような男なのだろうか、などと勝手に想像をしてしまうがこういう時は大抵、真逆になると言うのがお決まりといった所だろうか。

「だから、いいかげんに、お頭じゃなくて、隊長と呼びなさい」

頭以外を鎧で包み、いかにも騎士といわんばかりの女性が現れた。見た目からは、お頭と呼ばれる意味が読み取れない。

「あなたが、行き倒れてたって人?ようこそとは、言わない。この村も旅人に食べさせてやれるほど、食料は豊富じゃない。もちろん、食べた分はきっちり働いてもらうのが、うちの流儀だ」

なんとなく、お頭と呼ばれる意味が分かった気がする。村を守る為なら、よそ者に有無を言わせない。それだからこそ、付いていこうと思う者が現れ統率もされていていく。

「このご時世に、タダで食べさせて貰おう何て思ってないさ。もちろん、食べた分はきっちり働いて返す」

今まで見てきた村や町は、差がありはするがどこも似たり寄ったりな状況である。それ故に、旅人は拒まれている。それに、食糧不足は作物が簡単に育つような土質ではないのが、原因でもあると考えられている。

「そう。どこも、あまり変わらないって事を良く知ってるのなら、話がはやい。あなたには一番重要な水の確保の為に、縦穴堀をしてもらおう」

縦穴堀は一番きつく、もろい土質である為とてもリスキーな仕事である。まぁ、食べさせてもらったのだから断る理由もない。むしろ、断ったらどうなるか分かったもんじゃない。

「わかった。それと、ガンベルト返してもらえると助かる。いつも付けてる物だから、腰周りが寂しくてね」

見た目が見た目なだけに、返してもらえる可能性は少なからずあるだろう。だが、その見た目が銃である事も変わりようのない事実なわけだから、五分五分と言った所だろう。

「それは許可できない。腰周りが寂しいなら、この銃に見合った重りでも用意させる」

ですよね。なんとなく予想ができた、答えが返ってきた。

「銃は、この村を出る時に渡す。それが嫌なら、すぐにでも村を追い出させてもらう。旅をする身としては、少なからず食料は欲しいだろう。それなら、言う事を聞くのがあなたにとっての得策。この村にいる限り、あなたの身の安全は保障する」

彼女の目には、揺るぐ事のない信念を感じる。そして、それが彼女を支えているものであると言う事が分かった。

仕事が縦穴堀とはいえ、ようやく外に出ることが出来た。辺りを見渡すと、強固なまでの防壁が聳え立ち守りの頑丈さを知らしめているようである。その反面、店らしき建物は見当たらずバーすらも見当たらない。

「村の様子に驚いたか?でも、俺らが生きていくには、切り捨てなければいけないものもある」

切り捨てるもの。それは多分、俺のような『旅人』の事なのだろう。当たり前の選択といえば当たり前だが、それはこの村の食料問題がどれだけ過酷であるかをものがたっている。

「おっと、忘れるところだったが、寝床はさっきの所になる。もちろん、監視付だ。それと穴掘りは、昔使われていたらしい古井戸を再利用して穴を掘ってもらう」

古井戸。過去に水があったとされる所。多分、それが少ない手掛かりであり希望なのだろう。でも、古井戸があると言う事は少なからず、この村が黄金時代と呼ばれた時に作られた代物の一部ということなのだろう。

古井戸に着き、縄梯子をおろしスコップを片手に古井戸内に降りていく。古井戸の中は、時の経過を感じさせるほどの土の量。でも、古井戸自体は壊れている所が見当たらず、劣化も想定されたつくりとなっている。そして、不思議なのは、古井戸の壁には土が付着していない事。意図的に詰められたと考えられる足元の土には、ほんのり湿り気を感じる。もちろん、湿り気は微弱なもので、そこから水を取り出せる程のものではない。

「あの口ぶりだと、少なからず複数の古井戸があると考えた方がよさそうだな」

ついつい口に出してしまったが、古井戸が複数存在する場合、水源が別に存在する可能性がある。そうなると、水源と古井戸同士を繋ぐ水路が少なからず存在しているはず。だが、確証を得る為には足元の土を掘るしかない。確証を得る為に足元の土を掘り進めていくと、いかにも突貫作業で塞いだと思われる壁が現れた。さすがに、一人で掘り進めているだけあって、掘り進められる速度は遅い。今は塞がれているが、水路であろうものは、この古井戸に三箇所見つかった。しかしながら、すべての土を掘り出してから調べるまでは、ぬか喜びさせてしまう可能性があるから話さないほうが良いかもしれない。

「おーい。もう、日が暮れるから作業やめて上がって来い」

言われるがまま縄梯子を上り古井戸から出るとそこには、鎧を身に纏った隊長さんが立っていた。

「掘り当てられそうか?」

水を何とかしたいのは分かるが、現状としては・・・。

「なんともいえない」

これが、妥当な答えだろう。水が出ると確定していないが、水路だと思われる横穴を調べるにはさすがにスコップ一つだけというのは心もとない。

「だが、手がかりになりそうなものは見つけた」

そう言うと、隊長さんは口元に手を当てながら考え込んでいる。

「その言い方だと、不確定要素は多いという事。それに、ほかの問題が出る可能性があるってところでしょう」

さすがは隊長さん、なんとも鋭い勘を持った人のようだ。

「だとすると、不確定要素で周りを喜ばせるのも何だから、聞かなかったことにしましょう。その代わりといってはなんですが、必要なものを一つだけ用意させます。それを使って明日以降の作業をしなさい」

もちろん選ぶものは、銃とガンベルトをセットにした一式。どちらか片方では、意味がないのでそこは何とか無理に通してもらった。

「持ち物をすべて返して、さらに昔の地図と今の地図をよこせとはなんとも図々しい。だけど、地図が必要だと言う意味を教えてくれるというから、仕方なく持ってきた。早く、種明かしを早くしなさい」

隊長さんが持ってきた黄金時代の地図と思われるものと、現在の地図を井戸を重ね合わせてみる。すると、村にある古井戸の直線状、つまり村の外にも古井戸が存在し、その古井戸をすべて繋ぐと円を描いている事が分かった。そして、すべての井戸が円の中心に水路を延ばしている可能性がある事が判明した。

「信じがたい事だけど、調べてみる価値はある。村の外の古井戸は、こちらで調べてみる。あと、この円の中心は村からそう遠くない所にある不自然な大岩がある地点と重なっている」

不自然な大岩があると言う事は、封をしたと考えるのが一番手っ取り早い答えだろう。黄金時代を滅ぼしたと言われる、大寒波。もちろん、寒波と言われているが、それは歴史上そうした方がいいからと言う事。実際は、全世界で一斉に起きた機械の誤作動が齎した核の冬、『ゼロリセット』と言うモノである。機械の誤作動には、謎が多い為ごく一部の人物を除いて大寒波と言う事で処理をしたのだろう。公表されたことが大寒波であったと言う事もあり、放射線の被害で亡くなった人も多い。この村に住んでいた人達は、すべてを知っていて水路を自分達の手で封じた。そう考える事で、納得がいく。

「大岩の方は、後回しの方がいいと思う。それに、ここら辺の事は、隊長さん達の方が詳しいし、水が出ると知ったら厄介事になる可能性もある」

厄介事。この世界では、盗賊紛いな事をする集団が多く存在する。自分達のことだけしか考えず、村の食料などを強奪する。水の事を聞きつければ、この村に強襲をかけて来る恐れがある。水が出れば出たで、脅威がさらに増えると言う事に繋がる。それでも、隊長さんは村の為に水を求めるのだろう。

「とりあえず今言える事は、水源と思われる大岩を村の一部にする事と、村以外の古井戸を破壊してしまう事。あとは、村の守りを強固にすればいいだけの事」

隊長さんも分かっている事だろうとは思うが、あえて口に出す事で再認識させる。

「それは分かってる。村を広げるのは以前から考えていた事だから、みんなは納得してくれると思う。守りに関しては、防壁の改善案があるから何とかなる。村以外の古井戸を破壊する事については、無理かもしれない。村を広げるので、人員を割いてしまう。それに、破壊といっても、どれ程まで破壊すればいいのか分からない」

村の人達に手伝ってもらって村を広げるのだろうけど、それを守る人が少ないという事なのだろう。

「分かった。俺は、水が出るかを調べるだけにして、水を出す出さないはそちらに任せようと思う。そして村以外の古井戸は、俺がこの村を出て行く時に破壊して行く」

少なからず、隊長さん側にとっては悪い申し出ではないはず。

「村の人間でないあなたを、そこまで信じることは出来ない。だから、古井戸を破壊するところは私の目で見させてもらう」

まぁ、ご尤もな意見と言った所だろう。でも、少なからず信用はされているのかも知れない。

「話はもういい。明日は忙しくなるだろうから、早めに休んでおきなさい」

最初の印象を覆す厳しさの中にある優しさが、隊長さんらしさなのだろう。でも、それだからこそ付いていこうとする者達が多いのだろう。なんとなく、隊長さんの周りにいる人達が生き生きとしている理由が分かった気がする。

ガンベルトと銃を返してもらい、食事を簡単に済ませ眠りについた。

翌朝、辺りの騒がしさに目を覚ました。どうやら、敵襲のようだ。昨日の今日というタイミングで敵襲とは、偶然なのだろうか。よそ者である俺が考えたところで、その考えがあっているかはよそ者である俺には判断は出来ない。だから、自分が今出来る事を精一杯するだけ。

ガンベルトから銃と薬莢、それと弾を作り出す為のパーツを取り出す。中折れ式の銃を、弾を詰める状態にしてそこにパーツを組み込む。そうする事によって、ナックルとして使用可能な保持力を生み出す。フロントサイトからリアサイトの間にある、四つの窪みにそれぞれ薬莢を載せる。そして、隠し持っていた火薬をそれぞれの薬莢に詰め、弾頭を軽く乗せた状態にして銃に組み込んだパーツ収納し、パーツについているレバーを上下に動かし、レバーが軽くなった所で今度はレバーを左右に動かす。そうする事で、弾が四つ完成する。

中折れ式のリボルバーで、装弾数が四つというおかしな銃ではあるが、おかしい点はそれだけではない。まずは見た目、赤錆色をしていてわざとらしくボロボロな感じに作られている。そして弾は、通常の拳銃などに使われる弾を撃つ事は一切出来ない。ライフリングが無く、通常の弾を撃てば銃身内で詰まる様な仕組みが作られている。もちろん、見た目では分からない様になっている為怪しまれる事はない。

パーツを外し、出来立ての弾を弾倉に装填し、ガンベルトに銃とパーツを戻して部屋を出る。見張られているはずにもかかわらず、あっさりと部屋から出る事が出来たと言う事は、それだけ人手が必要な証拠なのだろう。俺は建物から出て、耳を澄ます。所々に、騒がしい場所があるのが分かる。その中でも、一番騒がしい場所に俺は向かった。

「敵を近付けるな。手の空いてる者は、負傷した者の手当てをしろ。守りを固めて、攻撃のチャンスを待つ」

隊長さんの指示で、うまく纏まっている。見ていると、この村を守っている者達は、防衛線が得意のようだ。負傷している者の大体は、守り専門ではなく攻撃専門のようだ。

「敵を、門に近付けるな。もう少ししたら、私が出る」

ちゃんと指揮を執りながらも、隊長さんは自分の準備を整えている。パイルバンカーが組み込まれた大きな盾に、マガジンを六個差し込まれているガンランス。そして、兜を被り鎧の各所に被せた布を取り除いた。フルプレートアーマー、嘗てそう呼ばれていたものだが、動きに特化させつつも従来の防御力を落とすことが無く改善された代物だった。

「よし、準備完了。ん?」

やる気満々の、隊長さんと目が合った。

「そこにいても構わない。けど、自分の身は自分で守るんだぞ」

そう言うと隊長さんは、防壁を駆け上がりそこから飛び降りて外に出た。

隊長さんの登場で、敵はざわつき始める。隊長さんが一歩進むごとに、敵はうろたえ始める。

「さすがおか・・・隊長。これだけ、相手に恐れられる人はそうもいないぜ」

初対面であれば無謀に挑むものだが、それをしないと言う事は、何度か戦っていると言う事になる。

「おい、隊長さんはいつもどんな戦い方をする?」

なんだか、嫌な予感がする。

「隊長はいつも、死に繋がる様なダメージは与えない。それと、なるべく村から離れた所で戦う」

そうか、そう言う事か。隊長さんは、村への被害と相手の事まで気遣っている。

「見た目に騙されるな、これは相手の作戦だ。こちらに、注意を集中させる為の」

誰も微動だにしない。やはり、よそ者の言う事に耳を貸すほど優しくないのがこの世界と言うことか。

「第四防衛小隊。その男の指示に従え」

振り返る事無く、隊長さんは指示を出した。隊長さんもきっと、何かを感じ取ったのだろう。

「隊長の命令だ。仕方ないが、一時的だがお前に従おう」

もし目の前の攻防が陽動だとしたら、本命は単純に考えて一番遠い場所であろう反対側になる。

「ここから、一番遠い場所に連れて行ってほしい」

隊長さんが俺に付けた第四防衛小隊は、守り専門が二人の攻撃専門が二人、どちらも行う事の出来る遊撃が一人の五人構成となっている。隊長さんが現状で割けると考えた小隊数は、一小隊と言う事なのだろう。

移動を開始すると同時に、背後で轟音と共に舞い上がった土煙が辺りを包む。土煙を吸い込まぬように、服の襟首で口元を覆いその場を後にした。

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あの男は、もう行っただろうか。私は、よそ者であるあの男を完璧に信じているわけではない。でも、あの男の目は、信用出来そうな何かを感じさせた。ただ、それだけの事。

そして、私はどんな手を使っても、この村を守らないといけない。例えそれが、自分の身を滅ぼしたとしても。

「敵を一人たりとも、防壁内に入れるな」

守りを完璧にすれば、村を守る事は出来る。それに、私の射程範囲内に仲間を入れることなく済む。シザーシールドバンカーと三連マシンガンランスを持って戦場に立つ私には、自らの身を保つだけでいっぱいいっぱいなのだから。

轟音と共に、辺りを土煙が覆う。攻撃は、防壁には達しなかったものの、遠距離射撃を可能な大型兵器を奴等はどこからか手に入れてきたようだ。軌道的に、重力を利用した投石型と考えるのが一番だろう。だとすれば、着弾地点から直線状に、大型兵器は存在する。ならば、敵陣のど真ん中を突っ切って、目的の物を破壊するだけ。もちろん、それは私の一番得意とする戦法。一時的に村を危険に晒してしまう可能性はあるとは言っても、大型兵器を野放しにしておけば、村は確実にただではすまない。

村の方は、さっき出した命令で十分だろう。相手にも、少し混乱が見られる。だとすれば、今の隙を逃す手は無い。なるべく、相手を傷つける事無く終わらせる。甘い考えかもしれない、でも相手が人である以上私は本気を出してはいけない。きっと、いつかは分かり合えると信じているから、私は人を傷つけることはしない。

私は、相手の混乱を利用して、敵陣内を駆け抜ける。盾で相手を押し退けつつも一歩また一歩と前に進んでいく。そして、大型兵器の前にたどり着く。大型兵器は、投石を可能とする構造を持った大型の機械兵器。兵器は、改造を施したもので、元は移動に使われていた物なだろう。

「ッチ、こんなに簡単にたどり着かれるとはな」

大型兵器を操っていた男が、銃を構え発砲してくる。相手の弾を盾で受け止めながら、大型兵器の弱点を探す。

「てめぇら、何呆けてやがる。はやく、こいつを取り囲め」

兵器の、弱点を発見。どうやらこの兵器は、投石を行う時に地面に固定をしないといけないようだ。だとすれば、囲まれる前に足を落とすだけ。

三連マシンガンランスを回転させ、地面に向けて無数の弾を撃ち放つ。そうする事によって、土煙を起こす事が出来、煙幕として使用が出来る。

良い具合に、土煙が辺りを覆った所で行動を開始する。ランスで近寄ってきた敵を薙ぎ払いつつも、シールドのシザーアームの状態に展開させる。

シザーアームは、名前の通りハサミを意味している。パイルバンカーを撃つ為の押さえてしても使うが、一番の使用目的は切り落とす為に使う。シザーアームに掴まれば、決して逃げる事は出来ない。力で動きを封じ、そのまま押し切る。アームに仕込まれた刃は、力がかかると飛び出す仕組みになっているから、人を捕まえる時は刃が出ない程度の力で拘束する。とは言っても、拘束目的で使用した事は今まで一度もない。

ランスでかく乱しつつも、シザーアームで素早く兵器の四つの支えを破壊する。これで、少なからずバランスが取れなくなるだろう。あとは、移動さえ出来なくする為に、動力炉であるエンジンを破壊するだけ。土煙が晴れぬうちに破壊してもいいが、爆発する可能性を考えて、土煙が収まってきた時が一番いいだろう。余った時間でランスのマガジンを取替え、投石部の破壊をする事にした。もちろん、土煙で見えにくい状況でわざと音を出して陽動しつつも、何度かに分けて投石部を攻撃を繰り返す。良い具合に土煙が収まってきた所で、シザーアームを使い一気に投石部を破壊する。

「手間取らせやがって、的が見えれば外す事はねぇ。野郎ども、やれ」

どうやら、私は大きく包囲されていたようだ。とは言っても、円状に囲んだ状態から中心に向かって銃を撃てばどうなるか分かるはずだけど、どうにも分かっていないらしい。あと、どうやらこの大型兵器は使い捨てる気でいるようだ。

「この状況で、銃を撃つのは得策ではない。それも分からないとは、なんとも指揮の程度が知れている」

この状況で、相手に恐れを与えるとしたら近くになる大型兵器を豪快に破壊し、投げ捨てる事ぐらいだろうか。だとすれば、シザーシールドバンカーの奥の手ともいえる豪腕モードを使うしかないだろう。豪腕モードは、シールドを名前の通り腕として使うと言う事。シザーアームを含めた五つのアームが手となり、一時的に怪力を生み出すモノ。その反面、使用終了後に体の力が一気に抜け丸一日立つ事さえ出来なくなってしまう。その為、シールドの裏面には、『圧倒的な力は、自らの身を滅ぼす』と刻まれているぐらいだ。それに、悲しみと憎しみの連鎖は絶対に避けたいものだから、私は悪魔にでもなろう。

「モード開放」

私はゆっくりと、豪腕モードを発動させ軽々と大型兵器を持ち上げ、パイルバンカーを撃ち頭上に放り投げる。そして、相手の半数以上はそれに目を取られるので、そこを見計らって指揮官を取り押さえるのが私の目的。案の定、相手は宙に舞った大型兵器に目を奪われている。そのうちに私は、姿勢を低くして素早く移動する。囲まれている状況なので、数人をランスで薙ぎ払い指揮官を取り押さえる事に成功した。

「食糧輸送の日は相当先と分かっていて襲ってくると言う事は、うちの村に何かあると掴んで来た証拠。何が何でも、話してもらう」

ようやく、相手は異変に気付くが時は既に遅い。

「ただ押さえ込んだだけで話すと思うか?」

まぁ、ご尤もな意見ではあるが、知らない方が良いと言うこともある。

「ちなみに、今お前を抑えてるコレだけど、パイルバンカーが付いてるんだ」

そして、タイミングよく空中の大型兵器が爆発する。

「あ、やっぱりパイルバンカーで撃ち抜いたから爆発したか」

指揮官は、粉々に飛び散った大型兵器の破片を見つめながら震えている。どうやら、確実に戦意喪失したようだ。他の者達は、指揮官が抑えられている状況で身動きが取れない。

「話す。話すから、命だけは助けてくれ。お前らも、手を出すなよ」

これだと、どっちが悪者か分かったものじゃない。

「さて話してもらいましょうか」

周りを警戒しつつ、指揮官の話に耳を傾ける。

「俺達は、三つに分かれてこの村を襲う事になった」

三つ?一つは私がいるココで、もう一つはあの男が向かった所。だとすると、あとの一つはどこに。

「大型兵器を使っての陽動が、俺の所ともう一つの所の役目。最後の一つは、たしか古井戸を使うとか言ってた」

相手が古井戸の存在をしていてもおかしくない状況だったにもかかわらず、私とした事が今まで野放ししていた。それも、あの男に言われるまで調べようとすらしていなかった。私とした事が、とんだ失態だ。

私は、指揮官を放り投げ、村へと急いだ。

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ようやく目的地につき、目を凝らして状況を把握する。人数的には、隊長さんの所と大差ないようだ。それに、大型兵器も投石型である。そう考えると、時間をかける戦法であると考えるのが一番である。投石による村へダメージを与えると言うのが普通だろうが、一箇所でやるのではなく二箇所に分けてきた事を考えると、そうも単純ではないということなのだろう。二箇所に戦力を分けてまで、何をしようとしているのか。

「戦力の分散。それと、警備にまわす人員を少なくする為」

口に出してみるが、多分違う。戦力の分散はあっているだろうが、この村の警備の人員は変動していない。ということは・・・

「二つとも、陽動か」

だとすれば、村に攻め込む、攻め込まないにしても、相手に気付かれる確率が低く陽動によってさらに発見が遅れる所と言えば、一つしかない。

それは、古井戸だ。

古井戸は、村の外にもある。それを使えば、容易く村に潜入する事も出来る。潜入しないにしても、村の地下にある水路を爆破すれば、地盤沈下させる事が出来て村にダメージを与える事が出来る。その隙を狙えば、村に攻め込むのも容易い事だろう。だからと言って、目の前の敵をそのままにして古井戸に向かうわけにも行かない。

「はぁ〜、今日は奮発するしかないようだな」

俺の銃は、普通の銃と違い特殊である。何が特殊かと言うと、持ち主の魂を食らうとされているからだ。もちろん、それは生身であればの話である。俺の右腕と両足は、機械の義手と義足になっている為に対象から外される。その為、威力が半減してしまうが、特殊な加工を行っている薬莢を大量に使う事で威力の減少を補っている。

『人に害をなす、悪しきモノよ。大地の剣で、葬り去りたまえ』

大量の薬莢を地面に撒き、地面に向かって銃を構える。

「一体、何をなさっているのですか?」

身振りで、近づかないように指示を出す。そして、目を閉じ剣をイメージをする。

『アースグレイブ!!』

叫ぶと同時にトリガーを引く。銃から放たれた光は地面に消え、地面に撒いた薬莢も跡形もなく消え去る。その代わりに、無数の大地の剣が敵の武器を貫いた。もちろん、相手の武器と言う武器をすべて無効化にしただけで、相手に一切の怪我は負わせていない。

「相手の武器は、今ので一切使えなくなってる。それでも攻めてくるなら、守りを固めるだけでしのぐ事は出来る」

次の行動に移る為、銃をガンベルトに戻した。

「ところで、今のは何だったんですか?」

目の前で起こった不思議な現象に対しての、ご尤もな質問が飛び出した。

「この銃は、黄金時代に作られた代物で、魂を食らう銃と言われている。まぁ、簡単に言うと、ロストテクノロジーの一つだ。」

大抵、ロストテクノロジーと言えば分かってもらえる。ロストテクノロジーの大半は、人に害となるモノが組み込まれている事が多い為である。その観点から言えば、この銃もロストテクノロジーであると言う事になる。もちろん、代償の大きさは、そのモノの威力や力の大きさとも言われている為、欲しがる者も多いと言われている。とは言っても、ココは隊長さんがしっかりしているから、ロストテクノロジーに手を出す者はいないだろう。それに、魂を食らうなどと言われて欲しがる者はよほどの者ぐらいだろう。

「魂を食らう銃ですか・・・。ですが、あなたに変化が見られない。それは、何かあなたに秘密があるからですか?」

魂を食らう銃を使用しているのに、さすがに何も変化がなければ誰でも気付いてしまうのは当たり前。仕方なく、上着の右手の袖を捲くり義手に被せている革のバンドを外す。

「見ての通り、俺の利き手である右手は義手だ。この義手は、あまり出回ってない代物で、コレをつける手術も下手したらポックリ逝っちまうくらいの、痛みを味わうモノさ。もちろん、こんな事をしなくても使えるが、鎧などを着てようが間接的に銃に触れていれば魂を食われるのには変わりはない。義手と言う代物は銃にとって、特殊だったと言う事さ。それでも信じがたいと言うなら、自分で使ってみるといい。もちろん、責任は一切取らないがね」

俺の置かれている状況が、どんなものか少しは理解してもらえただろう。それに、この銃を持つ者として気軽に持てるものではないと言う事を、教えておかないといけない。

「だとしたら、隊長の持つあの盾もロストテクノロジーと言う事になるのかもしれない」

隊長さんが、ロストテクノロジーの所有者だと・・・。確かに隊長さんは、いつも盾を身に付けていた。少しばかり変わった盾だと思っていたが、まさかロストテクノロジーだとは思ってもみなかった。

「おい、その盾の力を使用するとどうなる」

ロストテクノロジーの中には、何度も使用すると突然使用者を死に至らしめるモノも存在すると言われている。

「隊長は力を使用した後、体の力が一気に抜けその日丸一日は動く事が出来なくなります」

体の力が一気に抜けて、丸一日動けなくなる。代償としては、きっと軽い方なのだろう。でも、少しばかり気になる。ロストテクノロジーでありながら、代償がその程度でなのだろうか。まぁ、自分以外のロストテクノロジーは、銃を手に入れた時に見つけた書物に書いてあったのを読んだのみでしか知らない。

「隊長さんの、盾に付いてはわかった。俺はこれから、昨日行った古井戸を調べようと思う。お前さんらは、これからどうする」

武器を失ったとはいえ、敵が目の前にいるのは変わりない。

「我等は眼前に敵がいる限り、ここから動くわけには行きません。それに、古井戸に関しては、隊長はあなたに任せるといっていました」

どうやら、昨日の時点で隊長さんは指示を出していたのだろう。さすがは隊長さん、なんとも素晴らしい統率力だ。この場は彼らに任せて、昨日の古井戸に向かった。

古井戸に着くと、隊長さんの戦っている方から大きな爆発音が聞こえた。多分、あの爆発音は大型兵器を破壊した音なのだろう。俺は古井戸内に飛び降り、塞がれた壁を蹴破る。蹴破った衝撃で、土煙が上がる。

「思ったより、柔なつくりだ」

簡単に蹴破る事が出来るぐらいの頑丈さでしかない壁の向こうには、きれいに一列に並べられた爆弾が無数ある。人の気配は、感じない。だとすると、時限式の爆弾なのだろう。爆弾は全てが繋がれており、同時爆破を行えるようになっている。爆弾同士を繋ぐ線を切れば、その場で爆発するのは間違いないだろう。しかし、爆弾の一個一個は、単純な構造になっている。だからと言って、一個ずつ解体していくほどの時間は多分ない。なら、大量の子爆弾には、親機があるのだろう。俺は、繋がれてる爆弾をたどりながら移動する。

「一つの村に、コレだけの爆弾を用いるとはなんとも」

この現状を見て、この世界のあり方を考えさせられる。この村は、近くにバイオプラントをもつ都市に食べ物を分けてもらう。その都市は、王都によって管理され自由もなくただ生かされているだけでしかない。そんな世界を作り上げてしまったのが、『ゼロリセット』。核の冬で、大半の生命は息絶えてしまっている為そう呼ばれている。地上で生活が出来るようになり、地上に出た人々は荒れ果てきった世界を目にして絶望した。それから、約何百年かけて復興してきた。しかしながら、今まで築き上げてきた世界まで戻す事は出来なかった。そして、今も昔の事を『黄金時代』と呼び復興が続けられている。それはまるで、一度壊れてしまったモノを必死に直そうとしている幼い子供のように。

そんな状況のこの世界に、爆弾を使ってまでもひとつの村に固執する状況を再確認した。

「コレは、予想通りといった感じだな」

親機にたどり着きまわりを見渡すと、村の下にあるだろう水路の方には爆弾を繋ぐコードが伸びている。

「この見渡しの良さ、ココが中心ってわけか」

円柱状にくり貫かれているスペース、中心には大きな柱が天井まで届いてる。そして、どこからか日が差し込んでいるのか辺りは明るい。これなら、解体作業も手間取る事はなさそうだ。

「ふむ、二分弱で爆発か。とりあえず、アレを使って解体するか」

義手と義足には、ちょっとした物が納められるスペースがあり、その部分に俺は便利な物を隠し持っている。義手には火薬と弾頭が入っていて、義足には万能ツールが一つずつ入っている。その二つの万能ツールを取り出し、親機の解体作業に取り掛かる。どうやら蓋は簡単に外せるようだが、何かの仕掛けが組み込まれている事を考えて慎重に取り外す。警戒して蓋を外したが、仕掛けはなく少しほっとする。中をのぞくと、剣山のような無数の針が出てきた。

「毒薬付きと考えるのが、妥当か」

万能ツールで慎重に取り外し、先に外した蓋の上に剣山のような物を乗せる。そして、ようやく回路にたどり着く。回路の作りは単純に見えるが、偽装しているに過ぎない。トラップを回避しつつ、着実に解体を進める。

「赤と青。なんとも、当たり前なパターンときたもんだ」

爆弾解体といえば、最後の選択に赤と青の線を使う。それは、判断力を鈍らせる為のものでしかない。別に、色は何でも良いのだ。

「もう少しで止まるのか」

背後から隊長さんの声が聞こえ振り返ると、大きな手の形をした盾だったであろうモノとガンランスを持ったまま俺の後ろに隊長さんは立っていた。

「爆発する事を考えて、村の人を安全な場所に移動させないと」

今の俺が言えることは、コレぐらいだ。

「敵の指揮官から、情報を聞き出した。だから、避難に抜かりはない」

避難は出来ているなら、心配する事はない。隊長さんは危ないという事を分かってココに来ているのだろうから、聞くだけ野暮ってもんだ。

解体作業に戻り、残っている二本の線を切る。すると、爆弾のタイマーが止まった。

「解体完了。あとは、マイトを切り離せば完全に大丈夫だ」

先に子を解体すれば良かったのではないかと思うだろうが、ダイナマイトを切り離すと親機が他の子爆弾を爆発させるシステムがやはり親機に作られていた。その為、親機を無効化してから出ないと取り外すことは出来なかったのだ。唯一の救いは、二液混合型爆弾ではなかったこと。二液混合型爆弾とは言葉通りの意味で、二つの液体薬品を合わせる事で爆発させるもの。手持ちの道具で解体は難しく後処理も大変な代物だったから、助かったと言えば助かったのだろう。

「隊長さん、子爆弾の解体を見せるから、解体するのを手伝ってほしい」

そう言って、隊長さんの近場にある子爆弾のダイナマイトを取り外すところをいつもの三倍遅く作業して見せる。

「なるほど、これなら私でも簡単に出来る」

隊長さんの協力で、子爆弾からダイナマイトを外す作業は思ったより早く終わらせる事が出来た。

「それで、これはどうする」

隊長さんは、ダイナマイトの山を指差している。

「有効活用すればいいさ」

三十本はあるダイナマイトの山を、有効的に活用する方法。それは、村地下にあるの水路以外を潰すのに使う事。

「隊長さんは、地域密着型の盗賊さん達とこの村を都市にまでする気はないのかい」

水が出れば、バイオプラントを作る最低条件がクリアされる。それはつまり、自分達の村で食べるものを作る事が出来、飢えをしのぐ事が出来るようになるということ。

「バイオプラントを作れば、王都の支配下に置かれて村人に今より不自由な思いをさせてしまう」

都市にすれば、その代償に自由を奪われる事になる。しかし、この村には、一つ隠された機能が備わっている。

「そういえば、隊長さんは気付いていたか。ココは、光を一切取り込む事の出来ない場所にもかかわらず、明るいと言う事に」

ちなみに水路にも、点々だが明かりがついている。

「それに関しては、私も不思議に思っていた」

この村の最大の特徴は、地下施設がいまだに生きている事。

「どうやら、この村はゼロリセットの被害が薄く地下施設が完全に停止していないようだ。つまり、黄金時代に使われていた地下プラントは健在だと言う事になる。荒れ放題だと思うけどな」

何が言いたいかと言うと、人手さえあれば復旧する事が可能であり、王都にも知られる事なく食べるものを調達が出来、飢えに困る事はなくなるという事である。

「食べるものに困る事無く、王都に支配を受ける事がない。でも、その代わりに人手が必要になる。最善の選択は、盗賊を取り込んでプラントを管理する人数を多くしつつも、村の守りを今より少し強化する事が出来ると思う。楽なものではないが、王都の支配におかれないと言う点では、最高の代物だろう。とはいっても、それをどうするかは俺が口出しする事ではないな」

もしかしたら、『旅人』である俺のお節介であり、隊長さんにとってはとんだお節介なのかもしれない。

「お節介だ。と言いたい所だけど、その提案を私達なりに考える事にする」

隊長さんが『私達』と言ったのは、きっと反対意見も出る事を予測しているのであろう。これは村全体の問題であり、隊長さん一人で決められる事ではないし、向こうを説得するのにも一人では到底無理な事。

「これは他人からの受け売りだが、『人は分かり合う為に言葉を喋る』。例え、深い溝があろうとも、長い時間かければ埋める事は出来ると言う事さ」

よそ者である俺とした事が、成り行きとはいえ村の事に少しばかり深く関わってしまってしまったようだ。

「分かった、私なりに結論を出して頑張ってみる。それとダイナマイトは、この村に必要ないものだから好きにして貰ってかまわない。それと、水路とかに置かれたものも片付けてもらえると助かる」

ダイナマイトはこの村にいらないと言い放った、隊長さんの目には強い意志を感じた。

「ダイナマイトとかは、あとで処理しておく。それと話は変わるが、隊長さんの盾はロストテクノロジーらしいと聞いた」

ようやく、本題であるロストテクノロジーの話に入る事が出来そうだ。

「ロストテクノロジー・・・。確かに、これはそう言われていたモノだ。しかし、コレを他人に渡す気はない」

どうやら隊長さんには、俺がロストテクノロジーを欲していると思われたみたいだ。まぁ、そう思われても仕方ないのだが。

「隊長さんは聞いたかもしれないが、俺は当てのない旅をしている。しかし、ただ歩き回っているわけではない。ついで程度ではあるが、ロストテクノロジーがどのように使われ、それが使用者にとって本当に必要なモノなのかを見てまわってる」

もちろん、半ば出任せではあるが。でも、ロストテクノロジーがどのように使われているかは気にはなっている。

「それで、私の盾はあなたの目には必要なのモノなのか、不必要なモノのように見えたのか」

見たところ、隊長さんは悪用するのではなく自分の信念に伴いそれを使っている。

「少なからず、この村には必要なモノである事は確かだ。しかし、代償が伴う代物であるのは変わりない。その代償は、ロストテクノロジー自体に刻まれている文字の内容に関わってくる。つまり文字が、代償が何かを物語っていると言うことだ」

ちなみに、俺の銃には『魔術師の技は、魂を食らう魔物』と刻まれている。その意味どおり、使用者の命を食らって発動するわけだから魔物とは上手く言ったものだ。

「『圧倒的な力は、自らの身を滅ぼす』。私の盾には、そう書いてある」

圧倒的な力は、自らの身を滅ぼす。つまり、力を使い続けることによって、寿命をすり減らしていると言う事だろう。即効性はないが、着実に死に近づいているという事。

「その盾の力を使い続ければ、思い半ばに倒れる事になるかもしれない。それでも、隊長さんはその力を使うか」

その問いに、隊長さんは即答だった。

「例え、この身を滅ぼしたとしても、自分の信念を貫いていたのなら後悔はしない。それに、この力を必要としてくれる人達がいる限り、私はこの力を使い続ける」

隊長さんには、迷いなどは一切ないみたいだ。

「わかった。隊長さんには、ロストテクノロジーについて少し話そう。ロストテクノロジーは、三つの形状を持っている。隊長さんの盾で言えば、『盾』『シザーアーム』『豪腕』の三つ。しかし、中には四つの形状を持つモノもある。それが、俺の所持するこの銃。この銃には『銃』『ナックル』『弾製造』『契約』の四つある。契約は、ロストテクノロジーのネックとも言える代償をなくす事が出来る。しかし、それをさせる事が出来るのは、この銃以外のロストテクノロジーにのみになる。契約を行えば、今まで消費された代償も取り戻す事が出来る。しかし、血の契約である為に契約を行った者以降の血族のみが、受け継ぐ事が出来る。血族以外の者が使えば、今まで通りに代償が伴うだけだ」

血の契約。それをすれば、気兼ねなく力を使う事が出来、使用後に倒れる事もなくなる。それを行なうかどうかを決めるのは、ロストテクノロジーを持つ者のみ。

「血の契約と言うのだから、それなりの量必要なのだろう」

隊長さんの疑問に、俺は一番重要な点をいい忘れていたことに気付かされた。

「いや、血は一滴でいいんだ。使用者の情報を記憶させるだけでしかないから、そんなにいらないんだ。もちろん、この薬莢に入れてもらわないといけないんだがね」

そう言って、答えを聞かず隊長さんに薬莢を手渡した。

「別に、やるといってない」

おっと、ついつい、早とちりしてしまった様だ。

「一晩だけ、待ってほしい」

俺が提案しているのは、決して悪い話ではない。でも、隊長さんの判断を鈍らせている何かがあるからこそ、一晩の考える時間が欲しいのだろう。

「早い決断を待っているよ。これ以上この村にいたら、この村に情が移りすぎてしまいそうだからね。答えが出るまでは、ダイナマイトとかの後処理があるからココにいる」

隊長さんは、軽くうなずくとこの場を去っていた。

-5ページ-

 

一晩だけ考える時間を貰った。

迷っているのかと言えば、私は迷っていると答える。豪腕モード自体は、私個人の力であることには変わりない。でも、代償と言う名のリミッターが無くなるという事は、昔の自分に戻ってしまいそうで怖い。

昔の私・・・

五年ぐらい前だろうか、私がこの盾と出会ったのは。都市に住んでいた私は、すべてを決められた生活を送っていた。息苦しさを感じつつも、食べ物にありつける事をうれしく感じていた。そして、ある時に私は知った。働く事の出来なくなった人は、都市から追い出されると言う事を。そう、王都は私達を道具としか見ていなかったのだ。しかし、力もなく歯向かう事すら出来ない私は、息を殺しつつも生き続けていた。きっと、いつか機会が訪れると信じていたから。

その機会は、すぐに訪れた。飢えた近隣の村人が、私の住む都市のバイオプラントに奇襲をかけたのだ。王都の兵が暴動に目を奪われているうちに、私は都市に住む少数の者しか知らない隠れ住みし魔物の洞窟に向かった。

人の目を盗んで入った洞窟はとても暗く、明かりがない限り先に進むのは困難な場所だった。でも、後戻りする事が出来ない私は、暗闇の中を手探りで進んだ。長時間暗闇に居た事によって、自然と目が慣れてきた。相当、深い所まで来ている筈なのだが、洞窟の闇は永遠と続いていた。私は時間を忘れ、ただひたすら洞窟の奥を目指した。きっと、希望があると信じて。そして、たどり着いたのは、今にも崩れ落ちそうな天井とほんのり明るい光を灯している村だった。その村には既に人は住んでいなく、村は荒れに荒れていた。時折、天井から砂が落ちてくる。

希望も何も、あったものじゃなかった。でも、すぐに帰るわけも行かず、私は仕方なく村を散策する事にした。大半の家の壁は劣化により脆くなり、崩れている所も所々あった。砂が落ちてくる音が止め処なくする中を、私は歩いた。そして、美術館であったと思われる場所に飾られている、三分の一が崩れているレリーフを見つけた。レリーフの後ろに、何かがあるのが私には見えた。レリーフに手で触れると、レリーフは簡単に崩れ落ちた。レリーフの後ろに隠れていたのは、大きなガントレットのようなモノだった。そのガントレットのようなモノは、周囲の建物とは違い劣化すらしていない様子だった。言葉では表現の出来ないくらいの何かを感じさせるそのモノに、私は引き寄せられた。

ガントレットのようなモノに触れてからの記憶は、とても曖昧なものだった。それはまるで私の体を、知らない誰かに操られているような感覚だった。

覚えている事は、ガントレットのようなモノを持った私が洞窟から出た所と、都市のバイオプラントが焼け落ち、その周りにはたくさんの人が倒れていると言うものだけ。そして、気が付いた時には数少ないオアシスにいた。私の手元には盾があり、服には血と思われるシミが無数に付いていた。その時私は思った、ガントレットのようなモノに触れる時に私はあの都市が無くなってしまえばいいと。

覚えていないとはいえ、私はとんでもない事をしてしまったのではないだろうか。

「倒れこむように眠りに入ってたから心配していたんだが、なんともなさそうで良かったよ」

突然現れた男は、優しい笑顔で私に微笑みかけた。

私は、自分が何をしていたのかすら覚えていない事を男に話すと、自分の知っている範囲でいいならと男は話してくれた。

その話の中の私は、亡霊のよう消えては現れを繰り返しながら王都の兵士をなぎ倒して行ったらしい。そして、都市にとってなくてはならないバイオプラントをたった一人で壊滅させた。服に付いた血は、王都の兵士とやりあった時に付いたものだと思われる。しかし、一番驚いたのは、死者を一人たりとも出さなかったと言う事。男が言うには、私が大きな腕で傷を負った者達を直していたらしい。例え、それが王都の兵士であったとしても、私はその傷を癒していたらしい。

「おかしな話だが、そんな君の姿を見た王都の兵士数人が王都を捨てた」

私はその兵士達に事情を話したが、その兵士達は口を合わせてこう言った。

『例え、それがあなたの意思で行った事ではなくても、王都を捨てる事を決意した自分の意思を信じたいのです。少なからず、王都に不信感を持っているものは多いですし、今回の事が自分にとっての切っ掛けになったというだけの事です』

過酷になるかもしれない、まだ王都の兵士だったらこんな思いをする事はなかったかもしれない。そんな風に思う事が、これから出てくるかもしれないのにもかかわらず、彼らは王都を裏切った。私自身も、決断しなければいけないのだと思った。そして、答えを出し黄金時代の都市であったと思われる跡地で村を作り上げた。幾度となくガントレットのようになる盾を使い、村を守りながら暮らしてきた。

その反面、盾の力を使った時にあの時のように意識が飛び、暴走をしてしまわないかが心配だった。だから、私は意志を強く持ち、逃げる事すら出来ない状況に自らを追い込んで制御していた。代償が無くなれば、使い放題ではあるがいつ起こるかわからない事がある以上、代償を無くすのはよくない事だろう。それに、あの男はロストテクノロジーに詳しかった。もしかしたら、私の不安要素を取り去る手段を知っているかもしれない。不安要素が無ければ、私は私として戦う事が出来る。

昔のことを思い出しながら、考えをまとめている内に自分の部屋についていた。鎧を着ながら寝る事にも既に慣れてしまったし、ベッドに腰掛けて盾の力である豪腕モードを解除する。力なくベッドに倒れこみ、私はそのまま眠りに付いた。

-6ページ-

 

隊長さんが去ってから、何もやることが無いからつい眠りに付いてしまった。

「さて、色々と調べさせてもらうとするか」

何を調べるかと言うと、この一帯の地質などを調べるのだ。この村とあまり関わらないようにすると思いながらも、何かをしようとしている人達にささやかなる贈り物と言ったところだろうか。もちろん、目に見える範囲で何かをするわけではないから、恩を売ったとは思われまい。

『大地を司る精霊よ、我が前に現れよ。召喚、ノーム』

詠唱終了と同時に、銃を取り出し地面に向かいトリガーを引いた。地面に打ち込まれた弾の所を中心に魔法陣が広がり、魔法陣の内側の土から小さな白い髭を生やした老人が現れた。

「はて、何用ですかな」

現れたノームは、その場に腰を下ろした。

「土に関しては、君達ノームの得意分野だと思ってね」

目の前にいるノームは一人だが、作業を行う時は体が小さいので仲間を呼んで作業を行う。手先が器用なのはもちろんだが、鉱石関連も彼らの得意分野である。

「ふむ、なんとなく察するに、地質調査といった感じですかな」

四精霊の中で一番呼び出すことが多い為、なんとなく察して貰えるのはありがたい。

「とりあえず、プラントが二つあるから、そこで作物などが育つかどうか調べてもらいたい。それと、爆弾に使われた機材を処分してもらいたい。あと、この柱から水が出そうかも調べてもらいたい。」

柱がどれかノームに分かりやすいように、柱を叩いて見せる。

「分かりました。すべての作業が終わり次第、報告しにきます」

そう言って、ノームは土の中に消えていった。ノームに、大半の事は任せた。残るは、アレの処理のみ。

「さて、今のうちにアレを取引してしまうか」

アレを取引してしまうというのは、一番処分に困るダイナマイトを特別な方法で処分するという事。

『悪魔の左手よ、我が取引に応じたまえ』

詠唱を終え地面に弾を撃ち込むと、魔法陣が広がり何もない空間から左手が現れる。その手は、人の手とはかけ離れている手で、人目で人ならざる者だとわかる。

悪魔の左手は、早く物をよこせと手で表現する。手だけのみこの世界に召喚されている為、しゃべる事は一切出来ない。その為、手ひとつで行なえるジェスチャーなどで取引を進めて良く。

「そんなに焦らなくても、渡すよ」

銃をしまい悪魔の手に、ダイナマイトを乗せられるだけ乗せて、置けない分は魔法陣内に入れる。すると、一瞬でダイナマイトは消え去った。その代わり、悪魔の手には、薬莢と弾頭が五個ずつあった。

「せめて、十個ずつにしてくれないか。ダイナマイトを、三十本渡したんだからさ」

すると、悪魔の手は、薬莢と弾頭を地面に置くと、無理だとジェスチャーで言う。

「だったらせめて、何か付けてくれないか」

悪魔の手は悩んでいるのか、手を握りって魔法陣内を回り始める。そして、悪魔の手が指を鳴らし掌を広げると、掌の上に何かの鉱石が現れた。大きさ的には、拳一個分とまぁまぁなサイズ。その鉱石を薬莢と弾頭の側に置くと、悪魔の手は姿を消した。とりあえず、これで取引完了という事になる。

「見た目てきに、石ころじゃないのは分かるんだが、何の鉱石かは分からんな。とりあえず、ノームが報告しに着たら聞いてみるとするか」

鉱石は地面に置いたままにして、薬莢をガンベルトの薬莢用に設けたポーチに入れる。弾頭は、義手内に設けた専用のスペースに収納する。

「薬莢的には、マイナスだな」

今のところ使った薬莢は三十近く。弾頭は、アースグライブとノーム、悪魔の左手で撃っているから三といったところ。薬莢はポーチ内に入ってる物以外に、保管専門の悪魔の右手に大量に預けてある。とは言っても、補充される事がなければなくなるのも時間の問題といった所だろう。特にやる事がなくなったので、目を瞑り少し心を落ち着かせる。

「作業が、終わりましたぞ」

どうやら、ノームが報告に来たようだ。思った以上に、早く作業が完了したようだ。

「それで、どうだった?」

ノームは、鉱石の上に座り報告を始めた。

「二つのプラントですが、植物が育つように多少手を加えておきました。それと、水についてはプラント側に使用可能な水汲み場がありますので、そちらを使えば問題はないと思います。爆弾に使われた機材の方ですが、手を加えたプラントに再利用させてもらいました」

とりあえず、水の確保と出来るという事が分かっただけでも、この村にとってはいい事だ。

「それともうひとつ頼みがあるんだが、お前さんが今座ってるその鉱石が何なのかを調べてもらえないか?」

ノームは座ったまま、ピッケルで軽く叩いた。

「これは、鉄ですな」

鉄ということは、鉄鉱石という事。それにしてもピッケルで叩くだけで分かるという事は、相当量扱ってるって証拠なのかもしれない。

「かなりいい鉱石のようですから、何かに加工しますかな?」

加工するとしても、武器とするには微妙な大きさ。だとすれば、答えは簡単。

「そうだな、インゴットにしてくれるか」

インゴットとは、金属を精製して一塊にした物。鉱石の状態より、インゴット状態にしておいた方が何かと使える。

「インゴットでしたら、ちょうど作り置きの物があるのでそちらと交換という形の方がよいですかな?」

そう言い、ノームはどこからともなく鉄のインゴットを取り出した。

「持ち運びしやすいように、小さくしたインゴットが四つになります」

うまい具合に、義足に詰め込めそうな大きさのインゴットが四つ。何かと、呼び出しているせいもあってとても気が利く。

「あぁ、助かる」

ノームから鉄のインゴットを受け取ると、ノームは鉄鉱石を持ち上げて土の中に消えていった。ノームが去った後、俺はとりあえず、鉄のインゴットを義足の空きスペースに収納する。どうやら、やる事をすべて終わらせてしまったようだ。

ここに来たのは日中で、結構時間が経っているからたぶん今は夜なのだろうと思う。ここは常に明かりがある為、昼夜の判断がしにくい。でもよく考えると、隊長さんが去ってから少しばかり俺は眠りについていた事を思い出した。どのくらい寝たかは覚えていないが、今は眠気すらないので結構な時間眠っていた可能性がある。まぁ、とりあえず、契約時に使う魔法陣でも書いて時間でもつぶす事にする。

魔法陣は、円を書いてしまえば暴発するかのせいがある為、円を省いた状態で書き進めていく。魔法陣は書く文字が違うだけで基本的に形は同じな為、文字さえちゃんと書ければ大丈夫なのだ。

そういえば、少し気になっていた事がある。隊長さんの盾には、三つの形状の他に変わったものを持っているようだった。盾の時には一切感じなかったが、豪腕の時は微弱だが癒しの力を纏っている様だった。多分それは、以前の使用者が得意とした魔法のひとつだったのだと思う。それが微弱ながらあの盾に残っていただけなのかもしれない。となると、強い意識的なものが残っている可能性も少なからず出てくる。でも、契約を行えばリセットするのと変わらないから気にする事ではない。

「私なりの、答えを出してきた」

そう言って、盾を片手に隊長さんは現れた。

「私には、気がかりな事がある。この盾を初めて付けた時、自分の意思とは関係なく体が勝手に動いてしまった事。それが解消されない限り、契約する事は出来ない」

隊長さんが契約を渋った原因を、隊長さん自ら明かした。

「なるほど、なら取って置きの話がひとつある。」

隊長さんには話していなかった、リセットのようなものについて話す事にした。

「ロストテクノロジーについては、昨日教えた形状と契約の二つが主なものだが、契約についてはもうひとつの意味がある。そのもうひとつとは、今まで使用していた者達の力を断ち切る事。ロストテクノロジーは、使用者から余分に力を吸い取っている。それは、発散される事はなく積み重なっていくモノだ。それを発散させる為のが、契約という行為が必要になる。もちろん、今までの使用者には影響を及ぼす事はないから安心していい。それに、今まで盾が溜め込んだ力を解放しない限り、その盾は今まで以上に力を溜め込み最終的には盾自身が自己崩壊を起こし大規模な爆発を起こす可能性がある。それと、契約を行うことで、真っ白な状態に戻されるわけだから隊長さんの気にかけている操られるような感覚というものがなくなる。操られる感覚は、以前の使用者が残した強い信念の篭った力が及ぼすものだから解消される事は間違いない。念には念を入れて、術式にマインドコントロール系を無効化するものを組み込んでおこう」

いつもなら円を二重にするだけですむ術式だが、隊長さんの要望に答えて新しく術式を組み込む。

「アレが何とかなるのだったら、契約をしても大丈夫だ」

そう言って隊長さんは、未完成の魔法陣の中心に盾を置き、隊長さんは昨日預けた薬莢を俺に手渡した。受け取った薬莢には、ちゃんと血が入っていた。血の入った薬莢を盾の中心に置き、盾の状態を確認する。盾は無数の傷があり、かなり使い込まれている事が分かる。しかし、契約時に修復される許容範囲をかるく超えている。そうなると、形状を変えるか、修復に必要な分の素材を用意しないといけない。

「隊長さん、盾の形状が変わる事は避けたいか?」

その問いに、隊長さんは軽く頷く。やはり、使い慣れた形の方がいいようだ。今使える素材といえば、鉄のインゴットが四つだけ。足りるか分からないが、やってみるしかない。義足から四つのインゴットを取り出し、盾の側に置く。そして、銃を構え盾に向かいトリガーを引く。盾に弾があたると同時に未完成の魔法陣が輝き出し、足りない円も浮かび上がった。魔法陣を書き込む時の術式は、イメージや口に出して唱える事が必要ない為、簡単でいい。その反面、事前に書いて置かなければ使えないのが唯一の不便な点だ。

光が盾を包み込み、魔法陣が消え、光の玉となり宙に浮く。鉄のインゴットが消え、盾修復の呪文とマインドコントロール系無効化の呪文の文字が光の玉を中心にして囲んだ。そして、すべての文字が光の玉に吸収されると、光が弾け新しく生まれ変わった盾と大量の薬莢が出てきた。

「なぜ薬莢が?」

隊長さんの疑問は、分からない事はない。

「盾に蓄積した力は、元の主に戻る事が出来なければ、この銃の力によって薬莢に変えられる事になっている」

隊長さんは、宙に浮いた状態の盾を取り腕に取り付ける。

「なるほど、あなたにとって利点あっての契約だったという事か」

そう言いながらも隊長さんは盾を豪腕モードにして、すぐに盾に戻し変化を確かめている。

「別に、文句を言う気はない。お互いに、利用しあっただけの事だから」

そう言うと、隊長さんはどこからか布袋を取出し手渡してきた。

「この中に水とパンだけだが、約二日分の食料が入っている。少ないと思うが、これぐらいしか渡す事は出来ない」

なるほど、すぐさま村を出てほしいという事か。

「追い出すようで悪いが、これ以上いれば村に深く関わってしまう事になる。『旅人』であるあなたにとって、それは避けるべき事のはず」

隊長さんは、不器用ではあるが俺に気を使ってくれているらしい。

「約二日分か。少ない食料を分けて大変なのに、俺みたいな『旅人』に分けてもらって悪いな」

地面に転がっている薬莢を拾い集め、専用ポーチに入れる。

「ここから出る時は、村側の古井戸から出てくれ。それと一応、名前を聞かせてもらいたい」

この世界で人に名を聞く時は、その人を記憶にとどめておきたい時である。

「バレット・ギルスだ」

久しぶりに、口にする自分の名前。

「バレット・ギルス。その名を、私の記憶に刻み付けておこう。私の名だが」

隊長さんが自分の名前を言おうとしたので、俺は人差し指で隊長さんの口を軽く塞いだ。

「悪いけど、俺は物覚えが悪くてね。それに、覚えたとしても物忘れをするたちなんだ。すぐに忘れてしまうから、俺は隊長さんの名を聞かなくても大丈夫だ」

もちろん、今言った事はすべて嘘だ。俺は名前を知らない子供にパンを分け与え、その子供の笑顔でさえ鮮明に覚えている。だからこそ、名前が重荷になってしまう。名前ひとつで、思い出がフラッシュバックしてしまうのを避ける為にはこれが一番なのだ。隊長さんの口から人差し指を離し、出口に向かう。

「そう・・・」

隊長さんの顔は、少し寂しそうではあったが俺は『旅人』だ。『旅人』は自分の事を第一に考え、利用できるものは最大限に利用しないといけない。それに、一番厄介な感情などに左右されてしまってはいけない。そう思いながら、後ろを一切振り返らずに古井戸を登り、そのまま村を出た。

二日間ではあるが、村に居ただけでこんなにもこの村を離れるのが愛おしく思ってしまう。人と触れ合う事は、悪い事ではない。でもそれは、自らの世界を狭めてしまうきっかけを作ってしまうモノなのかもしれない。囚われることがなく、色んなものに出会える事が『旅人』であり続ける意味なのかもしれない。

-7ページ-

 

あの村を、旅立って数週間。俺は、とある村の闇市にいた。

「聞いたか。村の守りに徹底している鎧女の村なんだが、敵対していた賊を取り込んだらしいぞ」

俺は聞き耳を立てつつ、役に立ちそうな保存食を物色する。

「賊を取り込んだって?何考えてるんだ、そいつは」

どうやら話を聞いていると、隊長さんはうまく盗賊を説得できたようだ。

「それが、取り込んだ賊なんだが、どういうわけか更生しちまってるらしい。今では村の為に、汗水流して働いてるって話だぜ」

色々と隊長さん達の村の話を盗み聞きしていたが、地下プラントの事と水の事は一切漏れている様子はなかった。あの隊長さんの事だから、細心の注意を払って村から情報がなるべく漏れ出ないようにしているのだろう。

おっといけない、ついつい悪い癖が出てしまったようだ。隊長さん達は、ちゃんとやっていけてる、それだけ分かれば十分。これからは、あの村の事を一切気にせずに旅を続ける事が出来る。

「その缶詰三つと、パンも三つ貰おうかな」

なんていったって、俺は『旅人』なのだから。

説明
この作品は少し変わった作品となってます。どこが変わっているかは読んでいただければ分かると思います。自己満足の塊のような作品ですのであらかじめ了承ください。あと絵もないです・・・
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