鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第四十八話
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〜バンエルティア号〜

 

早朝

 

エドが起きた時、まだイアハートは帰っていなかった。

 

その事に関して疑問を持ったエドは、まだ眠っていたカノンノに何も言わずに部屋から出て行った。

 

まだ早い朝なのだろう。どこに耳を傾けても物音一つ聞こえなかった。

 

ここまで早く起きるのは、おそらく不安や焦りを生じているからだ

 

『…………ったく。どこで何してんだあいつ……』

 

そう小さく呟いた瞬間、後ろから聞き覚えのある声が響いた

 

『兄さん』

 

『うぉお!!』

 

いきなり、予想外に現れた巨大な鎧

 

いや、見慣れた物なのに一瞬だけ恐怖が湧いた。

 

『兄さん。こんなに早く起きて、どうしたのさ』

 

アルが続けて言葉を発した。

 

アルの言葉で、エドは話の内容が見え、真っ当な答えを出した

 

『あ………いや、なんだかよく眠れなくてさ……』

 

エドはそう言って頭を抱えるフリをしてアルに言葉を返した。

 

そのエドを見た時、アルは少しだけ意外そうな顔をしていた

 

『そうなの?珍しいね。いつもは昼近くまで眠ることが多い寝坊助なのに』

 

『………お前、それ兄に言う言葉じゃねぇと思うぞ』

 

エドが渋々した声で再び足を動かした。

 

『そういえば、結局イアハートさん帰ってこなかったけど、何かあったのかなぁ……』

 

アルが不安と心配の混ざり合った空気を吐き出すように語りだした。

 

その言葉は、エドに取っても少し心配することでもあるし、

 

それが目的で早起きしたのもあった。

 

『船のどっかで寝てんじゃねーの?』

 

『もう……兄さん少しは心配しなよ』

 

いつも通りの兄弟の話に戻るように、エドは心情とは別の感情をアルに見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわぁあ!!』

 

フロアに辿り着くと、そこにはアンジュが居た。

 

『あ……ああ………アンジュさん!?』

 

アルが、驚きと心配の混じった感情でアンジュを見つめていた

 

アンジュが二人を見ると、笑顔になって返した

 

『あら、お早う。兄弟揃って早起床かしら。感心するわ』

 

前の風貌とは違い、顔色が悪い。

 

それに、前は少し小太りしていたにも関わらず、今は頬がこける程痩せている。いや、やつれている。

 

しばらく御飯を食べていない事、ショックから余り抜け出せていない事が、目に見えて分かった。

 

『こ……こんな早くから…なにしてんだ?』

 

『まぁ、見て分かる通り仕事……ね。ギルドのいリーダーともなると、隊員よりも早く起きて、まず仕事するのが基本だからね。』

 

声も元気が無い。少し枯れているようにも聞こえる。

 

おそらく、水分をほとんど取っていない

 

『ア……アンジュさん。もう少し休んでいたほうが……』

 

アルが心配そうな声でアンジュに声をかけると、アンジュはただ微笑みかけるだけだった。

 

しばらく間が空いても、返事は返ってこない

 

『いや、冗談じゃねぇって!マジでもう少しだけ休まねぇと、死んじまうぞ!』

 

エドがそう言うと、アンジュは少しだけ俯きながら答えた

 

『大丈夫よ。私は……私の出来る限りの事をしているだけ。死にたかったら、今すぐ死んでいるわよ。だから……これくらいでは死なないわよ』

 

アンジュは笑顔でそう答えていたが、やはりこのままでは倒れるのも時間の問題だろう。

 

『いや……でもやっぱり……』

 

『こんな所で、私が立ち止まっていちゃいけないもの。』

 

そう、また微笑みを返すと、エドとアルは何も返せなかった。

 

そして、代理だったクレスとミントがフロアに現れると、定位置に居るアンジュを見て驚きの表情を隠せないで居た。

 

『アンジュさん!!』

 

クレスとミントは、大慌てでアンジュの元へと急ぎ、

 

ミントがアンジュの手を引いて、医務室へと向かおうとした

 

『駄目ですよ!まだ精神的にも治っていないのですから、まだ大人しく眠っててください!!』

 

だが、アンジュは抵抗してその場で立ち続けようとした。

 

『だいじょうぶ……大丈夫だから……!!』

 

『大丈夫じゃありません!このままじゃ……肉体の負担が大きくなってしまいますよ!』

 

ミントがそう叫んだ瞬間、またこのフロアに誰かが入ってきた。

 

『うわぁああ!!』

 

やつれたアンジュを見て、叫ぶような悲鳴を上げたのはロックスだった。

 

『あ……アンジュさん!!大丈夫ですか!』

 

ロックスがそう言うと、アンジュはロックスの方を見て微笑んだ。

 

『ああ、ロックス。朝食の方は終わったのかしら?』

 

アンジュがそう言った後、少しだけ申し訳なさそうにロックスに言った

 

『ごめんなさい。今日はちょっと……食欲が無いから、私の分は誰かに授かってくれない……かしら?』

 

頬をこけたアンジュがその言葉を出した瞬間、ロックスは泣きそうな表情になった

 

『アンジュさん……そう言って昨日……ルカ……彼が死んでから一度も何も……口にしてないじゃないですか……』

 

いや、一日食べなかっただけでこんな事になるはずがない。

 

それは誰もが分かっていた事なのだろうが、今この状況は、アンジュは確実にやつれている。

 

一日でこれほどの精神的にも肉体的にもダメージを負っているのだ。

 

そんな人を、働かせるわけにはいかなかった

 

『休んでください……。アンジュさん。今は休むべきです。』

 

ロックスが優しくそう言うと、アンジュは少しだけ鋭い目つきでロックスを見つめた。

 

だが、ロックスは動じずに言葉を続けた

 

『体調が大分優れた頃に………精一杯のご馳走を作らせていただきますので。それまで……どうか』

 

そう言った瞬間、アンジュのミントの手を握る手が強くなった。

 

ミントは少しだけ痛がった表情をしたが、一言も言葉を出さなかった。

 

そして、次第に力は弱まり、最終的にアンジュは無抵抗になった。

 

『………そう。それじゃぁ………約束よ』

 

そう言って、アンジュは医務室に続く扉へと向かって歩き出した。

 

『お腹が空いた時、その時は私の食べたい物を遠慮なく言うから。覚悟しておいてね。』

 

その時に出したアンジュの笑顔は、食べ物に対する物ではなく

 

全員の心配に渋々応じた。そのような表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜医務室前 廊下〜

 

『まさか……食べる事が大好きなアンジュさんが……ここまで最悪な結果に落ちてしまうなんて……』

 

ロックスは、本当にショックの大きい表情をしていた。

 

おそらく、アンジュが美味そうにロックスの作った料理を食べたのが嬉しかったのだろう。

 

今の何も食べる気力が無いアンジュが、見ていて本当に辛いと感じていた。

 

さらに追い討ちをかけるように、ミントがアンジュの現状を伝えた。

 

『………アンジュさん、一昨日と昨日とで、体重の差が10キロもあったんです。』

 

『10キロ!?』

 

一日でそこまで体重が減ってしまう物なのだろうか。

 

エドとアルは心底驚いた表情をしていた。

 

『まだ……立ち直るのは先になりそうね………』

 

ミントがそう言った時、ロックスが反論するように言葉を発した。

 

『でも……このまま何も食べなかったら、アンジュさんは死んでしまいますよ!』

 

『だとしても、今はどうしても食べる事はほとんど不可能よ』

 

不可能

 

『でも………やっぱり無理してでも食べてくれないと………』

 

ロックスが、俯きながら言葉を発していたが、

 

その様子を見て、クレスは更に暗い表情になっていた。

 

『………ロックス。気持ちは分かる。でも……不可能じゃない。無理なんだ』

 

その言葉に、ロックスは疑問を感じる

 

『無理……?無理ってなんですか?』

 

『アンジュは、今は拒食症に陥っている』

 

拒食症

 

その言葉を聴いて、ロックスは更に驚いた表情をしていた。

 

『拒……食症?』

 

『ああ。昨日出してくれたロックスのお粥、ちゃんとアンジュは食べてくれたよ。でも……すぐに全て吐き出してしまった。』

 

その現状に、ロックスは更なるショックを隠しきれないで居た。

 

ロックスのその表情に、エドとアルは何も言えないでいた。

 

ただ、その場で俯くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

エドとアルがフロアの椅子に腰掛けてそのままボーッと座っていた。

 

どうやら、クレスが言うには今はエドとアルに振り分ける必要の無い依頼が多いらしい。

 

おかげで、今のエドとアルは暇の状態だった。

 

イアハートの遅い帰宅の事を聞いてみると、

 

『ああ、特に珍しい事じゃないよ。アームストロングさんだって数日は帰ってこなかった事もあったし、僕も依頼をこなすのに野宿した経験があるからね。夜中の森を通る仕事だから、今頃は洞穴で夜を明かしてると思うよ』

 

そう言って、特に気にしていない様子だった。

 

まぁ、確かにそれはあり得ない話でないし、

 

むしろ良くありそうな話だ。

 

心配して損した。とエドは溜息を吐いた。

 

クレスとミントは、自分達の仕事をする為に一度部屋に戻って行った。

 

その場のフロアに居るのは、エドとアルの二人だけである

 

少しだけ安心したエドは、ソファに腰掛けて天井を見上げた。

 

思えば、天井に色んな絵が描かれている。

 

それが何なのか全く理解できないが、四角や三角、あと丸

 

そして、樹の蔓が丸の模様を囲むようにしているデザインもあった。

 

『あら?珍しく随分暇そうな様子ねぇ。エドちゃん』

 

天井を見上げている時に、面倒臭い奴に出会った。

 

またベタベタと引っ付かれたくない。そう思ったエドは無愛想に機嫌の悪そうな表情をしてハロルドを睨みつけた

 

『何を企んでいやがる』

 

『ん――……いや、企んでいないと言えば嘘になるわねぇ。エドちゃんに用がが無いと言っても、嘘にもなるし』

 

エドはハロルドの方を見ないように、顔を思い切り逸らした

 

『どっか行け。俺はこれから忙しいんだ』

 

『随分冷たいことを言う人になったわね』

 

エドがそう言うと、ハロルドが寂しそうな顔をした

 

それに気付いたアルは、少し慌ててエドに話を出した

 

『兄さん、話くらいは聞いてあげようよ』

 

アルがそう言うと、ハロルドは嬉しそうな顔になった。

 

それを見たエドは、かなり嫌な予感がした

 

『黙れアル!こいつとは最も良い思い出が無い!!正直あんまり関わりたくねえんだ!!!』

 

『酷いわね。こっちは結構良い思い出が出来てると思ってるのに』

 

『お前だけだ!!俺は苦い思い出しか残ってねえ!!』

 

エドが不満の声を聞いたアルは、それを無視するかのように話を進めた。

 

『分かったよ。僕が聞くから……で、兄にどのようなご用件ですか?』

 

アルがそう言って、エドはギリギリ文句が無いのか、渋々とハロルドの言葉を聴くことにした。

 

『んー……そうねぇ。ちょっと言い辛いんだけど……』

 

しばらく悩むように考え、結果的にエドに伝えることにした。

 

少しイライラしていたエドの耳に、ハロルドの声が響く

 

『前に、エドちゃんのドクメントを展開して見せてくれたじゃない?』

 

その言葉を聴いた瞬間、エドの表情が真剣になった。

 

その表情で、ハロルドを睨みつける。だがハロルドは怯む事無く喋り続けた。

 

『どこのドクメントも、私たちの未開な情報が所々存在していたの。で、ヴェラトローパに居た……クラトスに、そのエドちゃんの持っている未開のドクメントを展開して表示させれば』

 

『俺に……また死ねってのか』

 

エドがそう言うと、アルは驚いた表情でハロルドを見た

 

『ええ!?死ね……て……』

 

『いえ、別にそこまでは言ってないわ』

 

ハロルドが、再び言葉を出す。

 

『そこで、そのドクメントを展開しても肉体的ダメージを少なくする方法というのを探す為に、ちょっと実験に付き合って欲しいんだけど』

 

『そんな必要無えだろ』

 

そう言って、エドは立ち上がった。

 

『んなもんやらなくても、俺は絶対死なねぇし、そんな面倒くさい実験に構っている暇は無い』

 

『兄さん…?』

 

その真剣な眼差しに、アルは疑問の表情をしていた。

 

これには予想外だったのか、ハロルドは少しだけ焦った表情で、エドの安否と問いた

 

『そんな無謀で危険な事はさせないわ。前回は奇跡的に帰ってこれたけど……帰って来る前は完全に死んでいたのよ?そんな目に、もう会わせたくないのが……船の皆の心情…』

 

『だったら、この依頼は極秘内容として扱う。俺達以外の奴らには絶対に知らせなきゃ良い。帰って来る頃に、俺が戻ってくれば良い話だ』

 

エドが言い終えた後、柱の影から少女が現れた

 

『アンタ……それ本気なの?』

 

リタが、不安と理不尽の混じった表情でエドを睨みつけていた。

 

だが、エドは何も動じずすぐに答えた。

 

『本気じゃ無い奴が、どうしてこの依頼を極秘内容にして隠すと思うんだ』

 

少しだけ呆れた口調でエドが答えると、さらにリタは真剣な目でエドを睨みつけた

 

『今度こそ……死んじゃうかもしれないのよ。プレセアが居なくなって……ルカが死んだ今、ギルドの全員はこれ以上の犠牲は望ましくない。』

 

目を見開かせるように、再びエドに睨みつける

 

『だとしても行くつもり!?』

 

その強い口調に、一瞬だけ黙ったが、迷い無くエドは答えた

 

『犠牲を出さなきゃ良い。』

 

そう言い捨てた瞬間、リタの真剣な目はどこかへ行った。

 

逆に、呆れと失望の目がエドに降り注がれた

 

『……全く、私には貴方が何考えてるんだか分からないし、ほとんど自分勝手に無理やり行動しようとする。』

 

そして、その目が濃く強く表し、強い眼差しでエドを睨みつけた

 

『だから私は、アンタが大嫌いよ』

 

リタがそう言うと、アルは複雑な気持ちになり、少し落ち込むような表情をしていたが、

 

エドは興味なさそうに別の方向に目を向けていた。

 

そして、リタを無視して扉の前まで歩んで行った時、手を振って、さよならの意を出すようにして手を振った

 

『俺も、てめぇが気に入らねぇし、臭いし、五月蝿いし、どっか行って欲しい程大嫌いだ。』

 

そう言って、エドは扉の方を開けた。

 

幸い、今はクレスがどこにも居ない。

 

居ても居なくても出られる事は同じなのだが

 

居ないほうが、今は好都合だと考えていた。

 

その勝手な兄の行動に、アルは呆れながら慌ててリタに頭を下げて

 

『ごめんなさい!兄さんが迷惑をかけて……!』

 

アルがそう言っても、リタは口を開かなかった。

 

何も言葉を発しなかった。

 

気まずい空気が走ったが、その内にもエドは遠くに去ろうとしている。

 

アルは、リタの返事を待たずにエドの方へと走って追いかけた。

 

更に続くように、ハロルドもエドの方へと追いかける。

 

扉に辿り着いたとき、ハロルドは立ち止まり、その場で振り返った

 

『世界を救いたいって思っている事も……それもエドちゃんの自分勝手の行動よ』

 

そう言って、ハロルドは船から去って言った。

 

しばらくホールで一人ぼっちになっている時、

 

リタはボソリと呟いた

 

『………仲間を心配しない奴なんて、この船には一人も居ないのよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ヴェラトローパ〜

 

大空に浮かぶ巨大な城

 

ここに来るのは何度目だろうか。

 

ただ、また違う人たちが来ているだけだ。

 

ハロルドが連れて来た、他のギルドの仲間

 

『へぇ……ここがヴェラトローパか。すっごく大きいな……』

 

リメインズから派遣されてきた、シング

 

それともう一人、黒髪の少女がハロルドと共にここに連れてこられた

 

『さぁ、もうすぐで着陸するわよ。そろそろ準備をした方が良いわよ』

 

ジュディスが、城の方に目を向けたまま語りだした。

 

その後、エドの方を見て微笑んだ

 

『それにしても、貴方は良くこの城に来るわね。気に入ったのかしら?』

 

『できれば俺は、こんな所に来たくない』

 

エドが渋々答えると、シングが疑問を持った声でエドに問いかけた

 

『え?どうしてさ。あんなに面白そうな所、何回行っても飽きないよ!』

 

『俺には、あんな場所悪い思い出ばっかりしか残ってない場所なんだよ』

 

エドが無愛想にそう答えると、コハクが少しだけ不機嫌な感情になった

 

『人が最初に産まれ育った場所に向かって、”あんな”は良くないと思うな』

 

そう注意されると、エドは益々ゲンナリした表情になる

 

そして、コハクからそっぽ向くように舌打ちをした。

 

さらに不愉快になったコハクは、エドに再び怒鳴るように声をかけた

 

『何よその舌打ちは』

 

コハクがそう言うと、エドは横目でコハクの方を睨むように瞳孔を動かした

 

『いや、何かお前俺の故郷に居る野郎に似てるな……と思って不愉快になっただけだ』

 

どうやら、お互い相容れぬ同士のようだ。

 

二人の睨みあいが、船の空気を悪くさせた

 

『兄さん、もう少し他人に気を配ろうよ。』

 

『不愉快を不愉快と言って何が悪い!』

 

エドは、今日は機嫌が悪そうだった。

 

最近、最悪な事ばかり続いていたからか。

 

それとも、お節介がここに居るからか。

 

両方だとアルは解釈した。

 

不愉快と言われたコハクは、だんだんと怒りで震えていた

 

それを見ていたシングは、エドの方に向かって声をかけた

 

『それにしても、エドって……どうしてもイズミさんの元弟子に見えないよなぁ……。』

 

シングが、頭を掻きながら疑問をエドに放った。

 

それに便乗するように、コハクも声を出した

 

『そうそう!こんなに礼儀が成ってない子供がイズミさんの弟子なんて、考えられない!』

 

子供という言葉を聴いて、エドの耳がピクリと動いた

 

『一体、イズミさんから何を習ったんだか。こんな小さな子供にイズミさん程の脚力も腕力も無さそうだし、頭を悪そうだし。』

 

『あぁ……。それにしてもイズミさんがコハクの蹴りを打ち消したと同時に反撃したのは凄かったなぁ……』

 

シングが、思い出して感心するようにそう言った。

 

『そうそう。イズミさんは信頼できるし、強いし…。それに年齢もシングや私とあまり変わらないはずなのに、著しく私よりも身長が小さいし…』

 

『ウガァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

小さいという言葉で、エドがついにブチ切れた。

 

戦闘体性に入り、右腕の拳をコハクにまで持って行った

 

『だぁあああああれがぁああああ!!!超微細胞級のドチビかぁぁあああああああああああああああ!!!!』

 

向かって来るエドに向けて、コハクも戦闘体性に入り、足を動かした

 

『ちょ……ちょっと二人とも!』

 

アルが止めに入ったが、間に合わず、

 

ジュディスは、面白そうにその光景を見ていた。

 

『ふぬぉぉお!!!』

 

『せい!!!』

 

エドの拳と、コハクの脚がぶつかった。

 

その瞬間、巨大な風と大きな音が響いた。

 

『うわ!!』

 

シングとアルは、その凄まじさに驚き、一歩下がった。

 

しばらく、二人は拳と脚が重なったまま動かなかった。

 

静まり返るその空間に、アルとシングは疑問を持ち始めた。

 

『に……兄さん?』

 

『コ……コハク?』

 

二人の声が二人の耳に届いた後、ものの数秒後

 

エドは右腕を、コハクは右脚を押さえながら悶えていた

 

『ぐぅぉぉぉ!腕が……付け根がぁ……!』

 

『脚があぁぁぁぁ……か……硬ぃぃ………!!』

 

二人とも、同時にやや同じくらいのダメージを負ったようだ。

 

二人とも、悶えたまま立ち上がろうとしなかった。

 

『着いたわよ』

 

ジュディスがそう言っても、二人はなかなか立ち上がらなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エリア・イダ〜

 

城の中に入っていっても、二人の仲は悪いままだった。

 

お互い、決して目を見ようとしない。

 

また悪い空気が、パーティの中で注がれていた

 

『んー……ここがヒトの祖や光の精霊とやらが居たヴェラトローパの中ね』

 

その中で、ハロルドだけが何も気にしないで辺りを見渡していた

 

そのまま一人で行動しそうなほど、自由に辺りを見渡していた

 

『兄さん、謝りなよ。さっきのはどう考えても兄さんが悪いよ』

 

アルがそう言うと、エドは怒りを思い切り爆発させるようにアルに向けて語った

 

『知るか!!どっちにしろ、謝ったら負けた感じになる!!だから!!俺は!!謝らない!!!!』

 

変な意地を張って、エドは再びそっぽを向いてしまった。

 

どうしてこう、僕の兄は子供っぽいのだろうか。そうアルは感じていた。

 

すると、シングがコハクから離れてエドの方へと歩み寄った

 

『どうして負ける感じがするんだ?謝ることって、そんな意味があるわけじゃないのに』

 

シングの言葉の正論に、エドは一瞬押される物の、シングに突きつけるように自分の主張を言った

 

『俺だけが謝るのは納得いかねぇ!!それにアイツだって悪い!!俺の事をチ……身長の事を言いやがったんだからな!!』

 

『ああ、気にしてたんだな。やっぱり』

 

シングがそう納得すると、更にエドは不機嫌になった。

 

その様子のエドに、真っ直ぐな気持ちでエドに言葉で伝えた

 

『だけど、コハクもそんなに悪気があったわけじゃないと思うよ。ただ、羨ましかったんじゃないかな?』

 

『羨ましい?』

 

その言葉を言った瞬間、コハクが反応してこちらに振り向いた

 

『ああ。コハクはイズミさんに弟子入りを希望したんだけど……断られてしまって』

 

『シング!!』

 

コハクの大声が、城の中を大きく響かせた

 

『え……?どうしたのコハク…痛てててて!!』

 

耳を引っ張られながら、シングは引きずられるように前へと進まされた。

 

『あんまり余計な事は言わないでね』

 

そう言いながら、ずかずかと内部へと歩いて行った。

 

『………………』

 

その様子を、エドとアルが見ていた。

 

『………師匠、人気あるね。』

 

『まぁ…弟子に入ったら入ったで、地獄が始まるんだろうけどな』

 

エドは、去っていくコハクに対して哀れむ目で見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エリア・イダ 精霊の間〜

 

かつて光の精霊が居たその場所に、エド達は辿りつく。

 

消去法で、いける場所を端から行ってみた結果、最後にここが残っただけというのが正しいのだが。

 

『ふーん……ここが光の精霊が居たって場所なのね。』

 

ハロルドが、関心を持つように辺りを見渡していた。

 

天井に大きな穴が空き、太陽の光が差し込んでいたが、

 

シングはそれには気付かなかった。

 

同時に、シングはある事を考え思いついた。

 

『なぁ、その”創世を伝えし者”を探さなくても、光の精霊にエドのドクメントを展開して見せれば良いんじゃないかな?』

 

『そういうわけには行かないわ。前にエドちゃん達がここに来て、光の精霊をボッコボコのメッタメタにやっつけちゃったから、来たとしてもまた襲い掛かってくるだけよ』

 

ハロルドの言葉を聴いて、アルとコハクがエドを冷たい目で睨みつける。

 

エドの事だろう。ほとんど容赦はしなかったにちがいない。天井の穴を見ても明らかだ。

 

約半分以上も瓦礫に変わり、太陽の光を直に受けている。

 

その時の現状を知っていたアルだけが、しょうがないと溜息を吐いた。

 

シングが、光の精霊を倒したエドに対して輝く目でエドを見つめていた

 

『本当かよ、エド!!お前、光の精霊をやっつけちまったのか!?』

 

『ああ、………まぁ、ボッコボコのメッタメタに』

 

エドがそう言い終えると、コハクは溜息を吐いた。

 

ハロルドが、目の前の扉の場所までたどり着き、扉に手をかけた

 

『……この扉の向こうが、どこか気になるわね』

 

ハロルドがそう言うと、エドが間髪を居れずに答えた

 

『ああ、そっから先は……パスカが居た世界だ』

 

パスカという言葉を聴いて、シングとコハクは首を傾げた

 

『………パスカ?』

 

『なんでも、大昔に滅んだ世界なんだとよ。ご本人がそう言ってるんだから。多分間違いは無いね』

 

エドがそう言った後、ハロルドはしばらく考えた後、扉に手をかけた

 

『よし、じゃぁ入りましょう』

 

その言葉を聴いた瞬間、エドは少しだけ驚いた表情になった

 

『おい、さすがにその中にクラトスは居ねぇと思うぞ』

 

『でも、ここまで探しても居ないんじゃぁ……居てもおかしいとは思わないけど?』

 

ハロルドのその言葉に、エドは呆れを隠せないで居た。

 

『……大体、どうしてヴェラトローパに居ると決め付けやがる。』

 

『最近、クラトスが帰ってこないしね。』

 

そんな理由だけで、俺達はここまで来たのか。

 

そう思ったエドは、大きな溜息を吐いた。

 

『おいアル、帰るぞ。もうこんな所に付き合ってらんねえ』

 

『駄目だよ兄さん、そこまでの我がままは通らない。ちゃんと依頼はこなさないと』

 

イライラしてきたエドに、コハクの言葉が飛び交った。

 

『ここで帰るなら、貴方はただの弱虫で臆病者になるわね。ただ、ドクメントを展開されることを恐れる、注射を恐れる小さな子供……』

 

その言葉を聞いたエドは、プルプルと震えていた。

 

明らかに怒りで震えているのが分かった。

 

『だぁ―――――!!いいさぁぁああ!!行ってやらぁぁあああ!!!もし居なかったらなぁぁあああ!!!一発顔面殴らせろやぁああああああ!!!!』

 

そう言いながら、エドは扉を蹴っ飛ばした。

 

その唐突さに、アルとシングは呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜パスカ〜

 

扉を蹴っ飛ばした先には、荒野とも言える墓場に辿り着いた。

 

永遠に続いているかのような墓標、花はもちろん、草が一切どこを見渡しても見つからなかった。

 

『…………本当に殺風景な所だね……』

 

アルがボソリと呟いた

 

さすがに、ここまで寂しく、悲しい風景は滅多に見れないのだろう。

 

慣れてはおらず、気が自然に落ち込んでしまう。

 

『一体この世界で何があったのかしらね。何か核戦争でも起こったのかしら?』

 

『そんな物騒な理由じゃねぇと思うぜ。世界も長年流れりゃぁ人類だってとっくに滅んだりしてるだろ』

 

エドがそう反論して前を見ると、一瞬動く影を見つけた

 

『ん?』

 

もう一度その影を見ると、明らかに動いている

 

遠くに居る為分からないが、生物があきらかに居るのだ

 

『あっ!おいエド!?』

 

シングが叫ぶ瞬間に、エドは影が動き出した方向に走り出した。

 

『あっちの影が動いた!何かが居るのは間違い無え!』

 

エドがそう叫ぶと、シングは驚きと共に納得した表情になった

 

『そうか……。よし!!なら行こうぜ!!』

 

そう言って、シングは全速力で走り出した

 

『ちょっと!もっと慎重に行動したほうが』

 

『そんな事言ってられねぇだろ!滅んだ世界に生物が居るんだぞ!クラトスの可能性だってあるだろうが!』

 

エドがそう叫ぶと、渋々と呆れた表情でコハクも納得した。

 

そして、動く影の方へと全員が走り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

エド達は追われていた。

 

超巨大な石で出来た巨人が、エド達の方へと追いかけてきているのだ。

 

先ほどの動く影は、おそらくこいつだろう。

 

遠くに居たから、という理由と、太陽の影で真っ黒に見え、色や形まで完全に理解できなかった事

 

気付いたときには、既に巨人はエド達に気付いていた

 

『ほらぁ!!だから慎重に行動したほうが良いって言ったじゃない!!!』

 

コハクがそう叫んだ瞬間、巨人が持っている棍棒を大きく振り下ろした

 

『来るぞ!!!』

 

シングがそう叫んだ瞬間、エドとアル、シングとコハクは二手に分かれた。

 

『きゃん!』

 

ハロルドは、その場で転んでしまった

 

『何やってんだ!!ケババァ!!』

 

そう言って、エドは錬金術を使ってハロルドの地面を盛り上がらせた

 

『!!』

 

コハクがその技を見て、目を疑った

 

『すげぇ……イズミさんと同じ技を……』

 

盛り上がった地面は、ハロルドを吹き飛ばし、アルの方向へと向かった。

 

『うわぁ!!』

 

アルは、飛んできたハロルドを何とか受け止め、そのまま後ろへ歩き出した

 

『だ…大丈夫ですか?』

 

『まぁね。ありがとねー!エドちゃーん!』

 

ハロルドが気楽にエドに感謝の言葉を放ったが、エドは一切無視した。

 

そして、巨人の棍棒が振り下ろされ、エドの練成した地面を粉々にした

 

『今だ!!』

 

そう言って、エドは棍棒に近づき、棍棒を錬金術で形を変形させた。

 

釣鐘のような形で、エドはそれにしがみつき、降りあがる棍棒を掴みながらエドは踏ん張っていた

 

『兄さん!!』

 

落ちれば確実に死が免れない場所にまで振り上げられたエドは、まだしがみ付いている

 

『アル―――!!この棍棒、この巨人の一部だ!!』

 

エドがそう叫ぶと、アルは瞬時に理解した。

 

この巨人は、練成可能なのだ。

 

『うん!!分かった!!』

 

アルはそう叫んで、巨人の方へと向かった

 

何が分かったか分からないシングは、その場で立ち尽くしていた

 

『えい!!』

 

アルが手を合わせ、巨人の足に錬金術を唱えたところ

 

何も変わっていないように見えたが、確かに光は放っていた

 

『!?』

 

だが、巨人が歩き出した瞬間、練成された足にはヒビが入り、大きな音を立てて今にも崩れようとしている

 

『よくやった!アル!!』

 

バランスを崩した巨人は、持っている様に見える棍棒を乱暴に地面に叩きつけようとした。

 

だが、その間にもエドは棍棒の上を走り、巨人の身体へと向かっていた

 

巨人の肩へ到着したエドは、巨人の棍棒が振り下ろされた瞬間、全員を呼び出した

 

『お前ら!!ここまで登って来い!!』

 

偉そうに命令した為、コハクは少し不愉快に感じたが、シングは何も気にせずに振り下ろされた棍棒の上へと登った。

 

アルも登り、ハロルドも上ってくる

 

『登ったよ兄さん!』

 

『よしアル!!いくぞ!!』

 

エドがそう言った瞬間、エドは手を合わせ、錬金術を使う造作をした

 

更にアルは、エドと同時に手を合わせて錬金術を発動させた、

 

そして巨人に手を置いた瞬間、巨人が悲鳴を上げるように音を出した。

 

錬金術が終わった瞬間、巨人にヒビが入った

 

『いけ!!トドメだ!!』

 

エドがそう叫んだ瞬間、全員が一斉に理解した

 

『よっしゃぁああ!!』

 

シングが、剣をヒビの中へと突き刺し、

 

『うりゃぁああああ!!』

 

その剣の上から、コハクが踵落しをした。

 

大きなヒビが入ったと同時に、ハロルドは呪文を唱える

 

『メテオスウォーム!!!』

 

瞬間、巨大な隕石が巨人の首元へと落とされた。

 

その瞬間、ハロルドも含めて全員は吹っ飛ばされた。

 

『うわぁあああ!!』

 

それと同時に、隕石も消え、巨人にはヒビしか残らなかった。

 

ヒビだらけになった巨人は、徐々に崩れていき、全身に隙間が開いていた。

 

その瞬間、身体が徐々に崩れていき、そして小さな欠片が地へと落ちていく。

 

それは、まさしく”死”を基づいた物に見えた。

 

その光景は、どこかしら悲しい風景にみえた

 

 

 

 

 

 

全てが崩れ去ったとき、そこは瓦礫の山となった。

 

『……それにしても、エドって本当にイズミさんの弟子だったんだなぁ…。』

 

シングが少しだけ羨ましそうにエドの方を見つめていた。

 

コハクは嫉妬しているのか、少しだけ悔しそうな表情をしていた。

 

どうやら、二人ともエドとアルがイズミの元弟子という事を確信したようだ。

 

エドに取って、それは胸が晴れる事だったが、今はそんな事を考えていなかった。

 

シングの言葉に笑顔で返した後、もう一度瓦礫の山の向こうに存在する無数の墓を見た

 

その光景を見たエドは、頭を掻きながら言葉を発した。

 

『……本当に、この世界で何が起こってんだろうな』

 

そう呟いた瞬間、後ろで足音がした

 

『!!』

 

まさか、また巨人なのだろうか。

 

先ほど、巨人を潰した彼らにとって、それは敵意外に考えられなかった。

 

振り向いた瞬間、エドは目を見開いて見つめた。

 

同時に、拍子抜けをした

 

『こんな所で何をしている』

 

クラトスが、いつも通りの身なりでエドを見下ろすように見つめている。

 

クラトスを見て安心したのか、エドは安堵した息を吐いて腰に手を置いた

 

『別に、アンタを探していたんだよ』

 

『どうやってこの世界へと入ってきた。光の精霊は何をしている』

 

クラトスの言葉に、代わりにハロルドが答えた

 

『光の精霊なら眠りに入ってるんじゃない?エドちゃん達にボッコボコにメタメタにされたわけだし』

 

ハロルドの言葉に、クラトスは少しだけ驚いているようだ。

 

だが、表情は余り動いていない

 

『光の精霊に……勝ったのか?』

 

そう言った後、クラトスは瓦礫の山を見た。

 

そして、納得するように俯きながら考える仕草をした。

 

『おい、そこで黙り込むなよ』

 

エドがそう言うと、次に質問の言葉を出した

 

『アンタに聞きたい事は山程あるんだ。まず、なんでアンタがこの世界に居るのと、襲ってきたこの巨大な物体の事だ』

 

エドがそう言った瞬間、クラトスの目は開き、エドの目を真剣に見た

 

『この巨像は……元この世界の住民だ』

 

クラトスがそう言った瞬間、エドの目が見開いた

 

さらに全員が、驚きを隠せない表情をしている

 

『じゃぁ………俺達は……この世界の……』

 

人間を殺したというのか

 

シングは、そこから先がどうしても言葉に出せなかった。

 

『分かった。………次の質問に答えてくれ』

 

さすがにここから先はエドも聞きたくなかった。

 

エドがそう言うと、クラトスは表情を何も変えずに語った。

 

『………この世界は、前に私が居た世界だ』

 

『は?』

 

エドは、一瞬だけ分からない表情をした。

 

『という事は……クラトスさんは、元はこの世界の住人だった……という事ですか?』

 

『そう言う事だ。』

 

クラトスがそう言うと、次にエドが言葉を発した

 

『どうしてこの世界が俺達の世界と繋がっている?それに……どうして光の精霊が管理してやがるんだ』

 

『この世界は滅んでは居ない……。つまり、繋がっているわけではないんだ』

 

クラトスが、その言葉を発したが、エド達はおろか、ハロルドも理解が出来なかった

 

『ええと……それってつまりどういう事?』

 

『ここは、過去のルミナシアだ』

 

クラトスがそう言った瞬間、全員が驚きの表情をした。

 

『ええ!?でも……こんな……人類がどこにも居ないじゃないか!!』

 

シングがそう叫ぶと、クラトスは間髪を居れずに答えた

 

『ここは人類の墓場。生きている者は、もう居ない。』

 

『だったら……尚更どうして光の精霊がここを管理してるんだ!!』

 

『人類に、この現状を伝えない為だろうな』

 

クラトスの言葉に、コハクはゾッとした。

 

この現状を伝えない理由、どう考えても悪い方向にしか思考できない。

 

偉い人が自分の利益を出す為に、民衆を騙すような

 

そんな、おぞましい何かしか考えられないからだ。

 

『元々、ヴェラトローパはこの世界で言う人類の最高峰の技術で作られた教育施設だった。』

 

クラトスが、息を重くさせながら声を出していく

 

『ある時、私は世界樹の本当の目的を知った。ディセンダーの本当の存在意味を。それは人の為であって、人の為じゃなかった。』

 

『全ての問題が掻き消される事………』

 

エドがそう言った瞬間、クラトスが悲しいことを思い出すような表情になった

 

『あんたはそれを知ってるんだな!!教えてくれ、一体もうすぐ何が起ころうとしてるんだ!!』

 

『それは言えない』

 

『どうして!!』

 

アルも同時に疑問をぶつけた瞬間、クラトスが真っ直ぐな目をして、また瞳の奥でどこか恐怖を感じていた

 

『………察してくれ』

 

そういわれた瞬間、皆何も言えなかった。

 

しばらく沈黙が続くと、再びクラトスは語りだした

 

『ヴェラトローパは民衆を捨てて、王は施設を宙に浮かせ、姿を隠した……が、無駄だった。』

 

『掻き消されたのか。』

 

エドの言葉を耳に入れて、クラトスはしばらく黙り込んだが、飲み込むようにその答えを言った。

 

『………ああ』

 

『それが……ヴェラトローパの本当の姿……って事か。』

 

エドがそう言った瞬間、全員はある答えに辿り着いた。

 

最初は、人類はとても賢い姿だった。

 

だが、一定の時間が経つと人類は消され

 

また、ドクメントだけの存在になる

 

『でもどうして!!どうして人間がそんな……そんな理不尽な扱いを受けるんですか!!』

 

『それを世界樹の求めているからだ。』

 

世界樹

 

その言葉を聴いて、シングはどうしても信じられなかった。

 

『嘘だろ……?世界樹は……俺達を守ってるんじゃ無かった……のかよ………』

 

信じていた物に裏切られる、これ程恐ろしく悲しい事は無いだろう。

 

コハクも、拳を握り締め、歯を食いしばっている。

 

『この世界も、全てが掻き消されてしまった。だが、これが最初ではない。この前にも……何度も行われている。』

 

『世界樹が………求め続ける限りか?』

 

『……その通りだ』

 

クラトスがそう言い終えた瞬間、コハクが言葉を出した

 

『でも!!どうして……どうして世界樹が人類を育てて、また滅ばせる事を望んでるんですか!人間が憎いなら……皆殺しにする事だって可能じゃないの!?』

 

『それは分からない』

 

クラトスがそう告げた瞬間、コハクは、次第に震えだした。

 

『これから……これから私達はどうすれば……良いんですか……?』

 

コハクは、失望した表情で地面を見つめていた。

 

まさか、守られていたと思われた世界樹が、とんでもない存在だったなんて

 

その衝撃の真実を告げられ、最早自力で立てそうにも無かった。

 

『……すまない』

 

クラトスは、その言葉しか送れなかった。

 

言葉を聴いたコハクは、そのままガクリと首を垂らした。

 

シングも、どうすれば良いか分からぬ表情をしている。

 

だが、エドとハロルドだけが普通の表情のままだ。

 

『一つだけ、手が無い事も無いわよ』

 

そう言った瞬間、一番食いついてきたのはクラトスだった

 

『どういう……事だ?』

 

クラトスがそう言うと、ハロルドは手の平をクラトスに見えた

 

『エドちゃんのドクメント。』

 

そう言って、エドに向かって手の平を向けた

 

『エドちゃんのドクメントには、ヴェラトローパの情報が入っていた。それも見た事の無い世界の。』

 

『ヴェラトローパを知って、何になるんだ?』

 

シングがそう言った後、ハロルドは指をチッチッチと振った

 

『ヴェラトローパの情報じゃないわよ。このエドちゃんのドクメントには、未知なる世界、人間がたどり着いてない境地のドクメントも存在していたわ。つまり、そのドクメントの中に何かヒント、もしくは答えがあるかもしれないわよ』

 

ハロルドが説明を終えると、クラトスはエドの方を見つめた。

 

この小さな子供に……。そのような物があるとは思えなかった。

 

『……初めて見た時から、普通の人間では無いと思っていたが……。君は本当に何者なのだろうな。』

 

クラトスの表情が、少しだけ柔らかくなった

 

『しかし大丈夫なのか?そこまでのドクメントを出すならば、エドワードの身体はタダでは持たんぞ』

 

『本人がやってくれって言ってるんだから、やってやるわよ』

 

そう言って、ハロルドはエドに向けて手を向け続けた。

 

『ちょっと離れたほうが良いわよ』

 

そう言った瞬間、エドの周りに風が起こった。

 

風は次第に大きくなっていき、髪が大きくなびくまでになった瞬間、

 

エドの周りに無数のドクメントが展開された

 

『!!!?』

 

その唐突さに、コハクとシングは異常な程のドクメントを見て言葉を失っていた。

 

初めてみるアルでさえ、それが尋常でないと考えていた

 

『兄さん!!!!』

 

『待て!!』

 

言葉を出したのはクラトスだった

 

『……………エドワード、お前は………』

 

そう言葉を発し、エドのドクメントに触れた瞬間、

 

『!!!!』

 

ドクメントの中から黒い手がクラトスを掴んだ

 

『クラトスさん!!』

 

さらに無数の手が現れ、クラトスを包み込む。

 

ドクメントの中から、さらに無数の目玉が現れた。

 

全て、クラトスの方へと向けて睨みつけていた

 

『ハロルドさん!!止めて!!止めてください!!!』

 

アルとコハクが叫んだ瞬間、ハロルドはエドの周りに巻き起こる強風に掻き消されそうな中で、大声を出した

 

『もうとっくに止めてるわよ!!』

 

そう叫んだ瞬間、アルはとてつもない恐怖に襲われた。

 

この光景……どこかで……

 

≪母さん≫

 

『………!!!!』

 

今にも気絶しそうなトラウマが、アルの脳裏によぎった

 

兄さんと一緒に行った人体練成。

 

もう一度母の笑顔が見たくて、犯してしまった禁忌

 

それと似たような事が、目の前で起こっているのだ。

 

そして、これを行った後、兄さんは一度死んだ

 

死んで当然な行為にも、見えた

 

黒い手が、完全にクラトスを包んだ瞬間、エドのドクメントの勢いがさらに増した。

 

だが、まるでピークから過ぎたかのように

 

激しく動いたドクメントは、次第にスピードを落としていき

 

そして完全に止まった。

 

その瞬間、ドクメントが薄くなり始め、そして消えていった。

 

そのドクメントの中で、エドは立ち尽くしていた

 

『兄さん……?』

 

瞬間、エドはその場で倒れこんだ。

 

大きな音と共に、派手に大きく跳ね上がるように地面に叩きつけられた

 

『兄さん!!』

 

『エド!!』

 

アルとシングが、急いでエドの元へと走り出した

 

『兄さん!!兄さん!!!』

 

揺さぶっても、揺さぶっても、兄は目覚めない。

 

シングがエドの脈を測ると、目が見開くほど驚く表情になった

 

『脈が無いぞ!!』

 

『!!』

 

コハクが、驚きを隠せない表情でエドの元へと走りよった。

 

そして、回復呪文をエドに向けて発動した。

 

『エド!!』

 

コハクが叫びながら回復呪文を使っている。

 

ハロルドもエドの元へと走り寄り、エドの名前を呼んでいる

 

『エドちゃん!!』

 

クラトスはどこへと消えたのだろう。

 

そのような事も、脳裏によぎる。

 

だが、今は目の前の仲間の危機感に何も考えられなかった

 

『兄さん!!兄さん!!』

 

アルが何度も揺さぶる。

 

だが、エドは起きなかった。

 

『兄さぁぁぁぁん!!!!』

 

アルの大きな悲鳴が、辺りをとどらかせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

エドは再び、真理の扉の前で座り込んでいた。

 

目の前には、またあの透明人間のような物体が居る

 

≪よぉ、最近良く会うな≫

 

真理がそう言った瞬間、エドは後ろに振り向いた。

 

声が、後ろに聞こえた気がしたのだ。目の前に真理が居るというのに。

 

後ろに振り向くと、もう一つの真理の扉が存在していた

 

『………どういう事だ?』

 

≪ああ、もう一人この世界に入ってきた馬鹿が居た。そいつが今、求めている真実を見つめている。ただそんだけだ≫

 

真理がそう言った後、エドは興味本位で真理に質問をした

 

『ふーん……。そいつもどこか身体の一部を持ってかれるのか?』

 

≪当然。等価交換だからね。これは免れないよ≫

 

そういってエドが前に向こうとした瞬間、扉が軋む音が聞こえる

 

扉が開き、一人の男性の悲鳴が世界に響き渡る

 

バタン

 

扉が閉まると共に、男性の悲鳴が止んだ。

 

そして、その場で立ち止まったままだ

 

『………エドワード』

 

エドの姿を見て、少しだけ立ち止まったが、すぐに扉の方へと目を向けた

 

『………そうか、エドワードのドクメントは……この扉の向こう側……その情報が存在していたのか』

 

すると、次にエドの向こう側に存在する透明人間に言葉をかけた

 

『すまないが…。もう一度この扉の向こうを見せてくれないか?もう少しで……もう少しで何かが分かるはずだ』

 

そしてクラトスは拳を握り締め、もう一度口を開いた

 

『この世界の情報が……この扉の向こうでは”一部”に過ぎない物だが、それでもより重要な物だった。私の知らない所で、何かが起こっていた。それが分かれば、解決法も見つかるはずだ。どうか、もう一度…』

 

≪あー駄目だね。ちゃんと通行料を払ってくれないと≫

 

『通行料?』

 

クラトスが疑問を感じた瞬間、扉を触れている手が徐々に消えて無くなっていっていた

 

『!!!!』

 

その現状を見たクラトスは、タダ事では無いと感じたのか、すぐさま扉から離れた

 

『何だこれは……どういう事だ!!』

 

≪通行料だよ。むしろこの位で済んでラッキーだと思うけどね。ちゃんと払う物は払ってもらおうか≫

 

理解が出来ていないクラトスは、ほとんど混乱状態に近い。

 

思考が、ままならなくなっていた

 

『おい、止めろ……!!止めろ!!』

 

≪無理≫

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言った瞬間、クラトスの姿が消えた。

 

おそらく、元の世界に戻って叫びながら悶えているのだろう。

 

≪んで、アンタはどうするんだ?鋼のおチビさん≫

 

真理がそう言うと、エドは立ち上がって扉まで進んだ

 

『どうするも何も、元の世界に戻れないわけじゃないだろ?』

 

≪まぁ、だが残念だよな。≫

 

真理の言葉が、耳に残る

 

『何がだ?』

 

≪せめて、身体もここに持ってこれたら、お前はもう解放されるんだけどな≫

 

真理のその言葉が、あまり理解できなかったが、

 

エドは特に気にしなかった。

 

おそらく、今エドが悩んでいる問題とは関係ないと考えていたからだ。

 

≪やっぱり帰るのか≫

 

『ああ、まだやらなければならねぇ事が沢山ある』

 

そう言って、扉を抑え付けて開けようとしていた。

 

≪その世界は、前にも言ったが相当いかれてるぞ≫

 

『ああイカレてやがる。だが、俺達の世界と対して変わらねぇだろ』

 

≪どうだかな。この世界は、世界そのものがイカレてんだけどな≫

 

真理がそう言った瞬間、エドはピタリと止まった。

 

そして真理の方へと振り向き、言葉を発した

 

『……これから先、何が起ころうとしているのか分かるのか』

 

≪まぁ、分からないわけではないな。教えないけどな≫

 

エドは、溜息を吐いてそのまま扉を開けた

 

『俺も、大体分かってきたから良いさ』

 

そう言って、扉を開けて中へと入って行った。

 

エドが扉の中へと消えていく時、真理はボソリと言った

 

≪家畜なんだよ。この世界で、人間は……≫

 

扉はエドを包むように、大きな音を立てて閉まった

説明
今週はとても濃い出来事が多かった為、この小説が中々手につきませんでした。遅れてごめんなさい。また遅れる可能性がありますが、ご付き合いお願い致します。
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