孤児院の夜
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“ねえ、サギ”

「んー?」

少し眠そうな声。

“ギロってさ。あーだこーだいうけど、子供のこと好きだし、好かれてるよね”

ふふ、とサギは笑う。

「多分ギロは否定するだろうけどね。僕も、そう思うよ。ふぁ…」

大きめの欠伸を一つ。

“眠い?”

「少し……。でも、もうちょっとあれを見ておきたくて……」

 

台所近くのテーブルで頬杖をしながら見守っているのは、はしゃぐ子供と、そんな子供に構うギロ。

体をよじのぼられたり、腕を引っ張られたり、体の中に入られたり。

やめんかと言いながらもどこか楽しそうに見える。

ふと、1人の子がサギに手を振った。

サギも手を振り返す。

「久しぶりに孤児院に帰ってきて、みんなに構ってやったはいいけれど……向こうはまだまだ元気がありあまってるよね…」

晩御飯食べた後なのにね、と付け加える。

“反動ですぐ寝ちゃうよ。昔のサギみたいにね”

「そういうこと言わないでよ」

思わずサギは苦笑した。

“でも本当のことでしょ?”

「まあね」

ぼんやりとギロを眺めていると、昔のことを思い出してきた。

 

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「ぎろぉー!ぎろ!ぎーろー!ぎろぎろ!」

甲高い声を上げ、大好きな人形の名前を呼ぶ。

『…そんなに呼ばなくても聞こえておる。なんだ、サギ?』

どこか苦笑するようにして、身を屈めてくれる人形。

サギはめいっぱいの笑顔をギロに向けた。

「あそんで!」

ギロは目を明滅させると、呆れたように首を横に振る。

『さっき遊んだだろう。もう夜も遅いし、ぬしも眠くなる時間だ。早く寝ないとまたジーナに……』

「やーだぁ!あそんでー!もっとぎろとあそーぶーのー!ぎろお!」

そうやって纏わり付き、ぽすぽすと殴るとギロは困ったように肩をすくめる。

それでも構わず続けていると、暫くして肩を落とす。

『…やれやれ』

ひょいと抱えられて、サギはきゃあきゃあ騒ぐ。

なんだかんだ言いながらも、ギロはいつだって遊んでくれるのだ。

「ありがとう、ぎろ!」

嬉しそうに言うと、ギロはため息をつくような仕草をする。

『ジーナに叱られても、わしは知らんぞ』

抱えられたまま、サギは目をぱちくりさせて当然のように言い放つ。

「そのときは、ぎろもいっしょでしょ?」

『うっ……』

何も言い返せず固まっていると、サギは不思議そうに首をかしげる。

「どーしたの?」

『なんでも、ない……』

覚悟を決めるギロである。

そうして、ギロに遊んでもらうのにサギはすぐ寝付いてしまう。

そもそもギロにおねだりする時点で眠気が襲い掛かってきているのに、はしゃぎきって反動ですぐにこてんと横になるのだ。

『そうらな』

サギの寝顔を見ながら、ギロはいつもそう呟いていた。

そんなことを言う人形の顔は、とても穏やかに見えた。

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「……なんかやたらに鮮明なんだけど…」

思わず顔を手で覆う。少し気恥ずかしくなった。

あんなに、はしゃいでいたのだろうか。今のあの子たちのように。

“それくらい、遊んでもらってたってことじゃないの?”

「…そうかなぁ」

なんで自分が眠った後の、ギロの顔なんて覚えてるんだ、ともやもやしたが。

「僕が寝付いちゃった後、多分きみが、見てたんだよね…」

それで記憶が混ざった。うん、そういうことにしておく。

ふとギロを見ると、からだの中に子供たちがぎゅうぎゅうと入ったのか、すごい形になっていた。

「風船みたいだね、ギロ」

“ねー”

 

『さ、サギィ……見ておらんで助けんか』

聞こえていたのか、ギロにそう声をかけられる。

どこかぼそぼそと小さな声で。

いまやギロの身体は倍以上に膨れていた。ちょっと怖い。

そして変なポーズをしていた。さらに怖い。

「や、なんか楽しそうだったしさ。いいよ、僕に気を使わなくても」

ひらひらと手を振ってやる。

『ど、どうやったらそう見える……どうやら中で寝ておるヤツもいるから、早く出してやってくれんか』

“不思議なポーズのまま固まっていると思ったら、そういうことだったんだ”

「起こさないように…ってこと? ギロって、本当」

子供好きだよねえと口の中で呟いて、サギはギロと子供の救出にとりかかる。

 

ギロの身体から次々に眠っている子供をゆっくり慎重に引っ張り出す。

その中にはチックやワッチョもいて、サギは思わず笑ってしまった。

“ほぼ皆寝てるじゃない”

「きみの言った通り、反動で寝ちゃったんだね。これはすごいや」

抱えた子供を、ジーナやお姉さん方に引き渡していく。

ジーナたちはその子供たちを次々とベッドに寝かしていった。

どんどんギロの身体がしぼんでいく。

そのバケツリレーのような動作を、外から帰ってきたミリィが眺めていた。

 

「ぽかーん。なにあれ?……ちょっと、わたしも混ぜなさいよ」

『うるさい小娘が来おったわ』

「そーんな小声で言っても聞こえてるわよ?ポンコツ人形。なーによ、動けないくせに」

『む。別に好きで動けないわけではない』

「はいはい。そういうことにしといてあげる。おばさま、わたしも手伝います」

『……むう。すまんな』

 

孤児院の夜は更ける。

説明
バテンカイトスU、サギの故郷シェラタンにある、孤児院のおはなし。ギロ子供好き説な、ただの小話。
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タグ
バテンカイトス 小話 サギ ギロ 

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