真・恋姫無双〜君を忘れない〜 五十八話
[全6ページ]
-1ページ-

風視点

 

 風の予想以上に手こずってしまいました――やや長引きそうではありますし、兵力の損耗も終わってみないと分かりませんが、この戦も風たちの勝利に終わりそうですねー。

 

 被害も結構出るのかもしれませんが、益州の情報を入手できたことは大きいですねー。これまで情報として兵力や将については知ることが出来ましたが、実際の兵の錬度、将の用兵術を、身を以って知ることが出来たのですよー。

 

 まさかここまでの精兵を揃えているとは――特に袁紹さんが、小勢で孫策軍に実質的に勝利をしてしまうなんて、本当に華琳様が聞いたら、何て言うんでしょうねー。

 

 後は、やはり天の御遣いさんが、どのような人物なのかに興味があるのですが、戦が終わってから無事に身柄を拘束することが出来るかどうかですねー。そこは春蘭ちゃんたちに任せるしかないんですけどねー。

 

 本当は生け捕りにするところまで命令したいところですが、戦場はかなり入り乱れていますからねー。そこまで欲を出してしまうと、今度は生け捕るために全ての力を出せない恐れがあるのですよー。

 

 そんなことを思いつつ、これまで研ぎ澄ませていた思考を、ようやく休めることが出来そうなことにホッと胸を撫で下ろし、自分の天幕に数人の将校と共に戻ることにしたのです。

 

 益州軍、孫策軍を打ち破ることさえ出来れば、その先の江陵を落とすことは容易でしょうねー。しかし、問題になるのは、その後の風たちの行動なのですよー。

 

 ――荊州制圧。

 

 それが華琳様から下された命なのです。荊州北部――襄陽と江陵を中心とする地は手中に収めることは出来ましたが、問題なのは荊州南部ですねー。

 

 既に益州軍が陥落させているという情報はあるのですが、今の軍勢でそこまで制圧するとなると、少々時間がかかり過ぎるかもしれませんからねー。その虚を突かれかねませんねー。

 

 一度、本国に戻って華琳様に此度の戦いの報告をすると共に、これからの指示を仰いだ方が良いのかもしれませんねー。

 

 ――と、今後の指針について机上の地図を見ながら、軽く考えているときでした。

 

「程c様ー? どちらにいらっしゃいますかー?」

 

「はいはいー、風はここにいるのですよー」

 

 外から風を探す声が聞こえてきたのです。

 

 おや、風の天幕がある場所は皆さんも知っていると思っていたのですが、知らないところを見ると、陣の外側にいた兵卒の人でしょうか?

 

「あぁ、こちらにいらっしゃったんですねー」

 

「どうかしたのですかー?」

 

「いえ、それが大変なんですよー。本陣に向かってくる部隊があるんですよー」

 

 本陣に向かってくる部隊?

 

 はて、敵の孫策軍は春蘭ちゃんと季衣ちゃんが相手をしていますし、益州軍も騎馬隊は凪ちゃんたちが抑えていますから、動ける部隊はないはずですけどねー。

 

「確認しますけど、益州軍の本陣は動いてなかったんですよねー?」

 

「はっ。それは間違いありません」

 

 風の質問に、左右に控えていた将校さんが断言してくれましたー。虚偽の報告なんかするわけもありませんから、それは間違いないはずなのです。

 

「それが、おそらくは益州軍の本陣が少数で攻めてきたみたいなんですよー」

 

 その兵士さんの言葉に、風は益州軍が江陵城を落としたときも、同様に少数の兵を迂回させて奇襲したことを思い出したのです。

 

 今回は城攻めではありませんし、何よりもいくら本陣から旧劉j軍がいなくなったとはいえ、僅かな兵士で落とされる程、この本陣の防衛網は薄くはなっていないのですよー。

 

 ですが、兵士たちに無用な不安感を持たせるのはあまり得策ではありませんから、速やかに撃退するが正しいのでしょうねー。それに敵の本陣には黄忠さんや魏延さんといった猛将も控えていますから、彼女たちが率いてきた可能性もありますねー。

 

「冷静に敵の数を見定めて、それより多くの兵で囲んで殲滅してくださいねー。風はここにいますから、少しでもおかしな点があれば、すぐに伝令を寄こすのですよー。無理な攻めはしないでくださいねー。基本は守りを重視して下さい」

 

「承知致しました」

 

 将校さんたちがすぐに兵士に指示を出すべく天幕から出て行きました。

 

「おや? あなたは行かないのですかー?」

 

「あー、私って戦うの苦手なんですよねー。どちらかというと、頭を使う方が性に合ってますからねー」

 

 間延びした声――そういえば、このような話し方をする兵士さんなんて見たことありませんね――などと、暢気な感想が、その人が兜を取った瞬間、吹き飛びました。

 

 風の思考は、この天幕に来た瞬間からほとんど停止していたと言って良かったのですよー。この戦の流れを完全に掴んだことで、風は勝利を確信してしまい、油断していたようですねー。

 

 戦の最中で油断することは愚の骨頂ですので、常に臨戦態勢を維持していたのですが、さすがにこの規模の戦を一人で切り盛りすることに、多少の疲れを感じていたようで、勝利の直前で気が抜けてしまったのです。

 

 兜の下の素顔は風が見たことない――と言っても、風も兵卒の顔まで全て把握しているわけではないですが、少なくともこのように無機質な笑顔を張りつけた人がいれば、絶対に記憶に残っていたはずなのです。

 

「敵将、程c、天の御遣いが確保せり」

 

 振り返る間もなく、風の首元に冷たい刃が当てられました。

 

-2ページ-

一刀視点

 

「敵の本陣に侵入?」

 

「ええ、おそらくそれが今、私たちが取れるもっとも有効な手段ですねー」

 

 七乃さんの言葉に俺は思わず驚いてしまった。

 

「だけど、敵の本陣だって相当厚い守りに覆われているんですよね? いくら少数精鋭で潜り込むとしても、やっぱり無理なんじゃないんですか?」

 

「それが、そうとは限らないんですねー」

 

 七乃さんは楽しそうに地図を広げると、現在戦いに身を投じている部隊の駒をその上に置いた。

 

「現在ですねー、太史慈さん、斗詩ちゃん、猪々子ちゃんがここで敵の先鋒と主力部隊とぶつかっています。そして、そこに孫策さんと周瑜さんが向かいました」

 

 孫策さんが率いた三千、そして、周瑜さんが率いた孫策軍の本陣を、敵から見て左方に置いた。

 

「あれ? 孫策さんは先鋒に加勢しに行ったんじゃないんですか?」

 

「たぶん、それは周瑜さんの策ですねー。夏侯惇さんを釣り出すために、敢えて自分が囮にでもなったんじゃないですかー? 私には到底出来ることではありませんが、周瑜さんのあの覚悟に満ちた目を見せられたら、そのくらいの手は打つと思いますよー」

 

 なるほど、確かに、地図上で見る限りだと、俺みたいに孫策さんが先鋒に助力すると考えれば、周瑜さんの部隊ががら空きになってしまう。そうなれば、敵がそちらへ向かう可能性は高い。

 

「でも、程cさんはそれに気付くんじゃないですか?」

 

「いーえ、おそらく同じ軍師である程cさんだからこそ、軍師が危険を冒すという愚をするはずがないと判断するはずです。戦において軍師が戦死してしまえば、総大将に次ぐ程の影響力を持つ人間がいなくなることになりますからねー」

 

 そうなると、先鋒と主力が、兵力差はあるものの、かなり拮抗した状態にまで戻すことが出来るはずだ。いや、こちらには孫策さんを始めとして武に優れた将が多くいるから、ほとんど同等と言ってよい。

 

 すなわち、ここで程cさんが打つ手があるとすれば――

 

「その通りです。必ず、前線に後詰の旧劉j軍を送るはずですねー」

 

 なるほど、だったら、敵の本陣に乗り込むことも不可能ではない。

 

「でも、そこに御主人様が行くのは危険じゃないかしら?」

 

 話を一緒に聞いていた紫苑さんがそう言った。

 

 確かに防備自体が薄くなっても、危険が皆無ということではない。

 

 後詰がいなくなるだけで、最低限の兵力は残しておくはずなのだから。俺もずっと鍛錬を積んでいるけれど、多数の人間を相手に出来るだけの力があるはずもない。

 

 そもそも北郷流の剣技は、多数を相手に想定したものではなく、飽く迄も敵の攻撃を完全に見切ることに特化した、一騎打ちのための剣術だ。多数を相手に、目を酷使してしまえば、すぐに疲労で動けなくなってしまう。

 

「そうですねー。一刀さんには多少の無理をしてもらった方が、この場合は良いんですよー」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

「私たち益州軍は、未だに曹操軍や孫策軍と比べると、益州での支持はありますが、大陸で見ればまだまだ知られていない勢力に過ぎないんですよー」

 

「確かにそうですね。益州は黄巾賊の反乱にも、反董卓連合にも参加していないし、今まで生き残ってきたのは、どこの勢力にも攻められていないと言われれば、何も反論出来ない」

 

「そうなんですよー。旧君主の劉焉さんの悪政の事実も、覚えている人は覚えていますからねー。ここで大陸全土に、私たちの名前を認知させるほどのことをしないといけないんですよー」

 

「それが――」

 

「天の御遣い――北郷一刀が傑出した人物であるという評判を立てることなんです」

 

 天の御遣い――その存在は、確かに益州ではもう既に公にされているものの、他の地域ではまだ怪しいものという認識があるだろう。

 

 俺が本物の天の御遣いであると証明するのではなく、天の御遣いと名乗っている俺が、侮りならない存在であると認めさせた方が効率は良いというものだろう。

 

「分かった。俺も敵の本陣に行くよ」

 

「御主人様は私が守りますわ。ですから、安心なさってください」

 

「紫苑さん、お願いしますね」

 

「じゃあ、私も――」

 

「あ、焔耶さんは駄目ですよー」

 

「えっ! どうしてだっ! お館が危険な目に遭うというのに、私だけここで留守番なんて納得できないぞっ!」

 

「いやいや、それには深ぁい訳があるんですよー」

 

 そう言うと、七乃さんはにこにこと微笑みながら焔耶に近づいた。

 

「ん? どうしたん――」

 

「失礼しますねー」

 

 ばっと焔耶の服を剥ぎ取ると、焔耶の豊かな胸が飛び出て来た。

 

「うひゃっ! お、おい何を――んん、こら……どこを……触って……んやぁ」

 

「あれあれ、焔耶さんって意外と良い身体してるじゃないですかー。ちょっと羨ましいですねー。ほれほれー」

 

「なっ! いい加減にしないかっ!」

 

「痛ぁっ! もう、殴らなくてもいいじゃないですかー。減るもんじゃないしー」

 

「えーと、七乃さん? あなたは一体何をしてるんですか?」

 

 焔耶のあられもない姿を見ないように、掌で目を覆っていた俺は――いや、隙間から少しだけ見ていたんだけど、七乃さんの不可解な行動に言葉を失っていた。

 

「はい、次は一刀さんの番ですよー。焔耶ちゃんには一刀さんに変装してもらいます。こんな目立つ服を着ていたら、すぐにばれてしまいますからねー」

 

-3ページ-

 

 そんなことがあって、俺は焔耶に聖フランチェスカの制服を着てもらって、俺が本陣にいる振りをしてもらった。元々ボーイッシュな顔立ちをしているから、意外にも俺の制服は似合っていて――いや、寧ろ俺よりもかっこいい。

 

 そんな微妙な心持だったのだけれど、とりあえずそれで曹操軍の目から俺の姿を隠すことは成功しそうだ。まぁ俺が平凡な顔をしているから、おそらく敵も俺の服装で判断するのだろうが、それはそれで非常に複雑だ。

 

「それで、七乃さん、紫苑さん、俺で敵の本陣に向かうとして、三人で何が出来るんですか?」

 

「大丈夫ですよー。敵の索敵範囲から、見つからないようにあっちまで移動することは出来ますし、辿りつくことが出来れば、私が何とかしますよー」

 

「じゃあ、七乃さんに任せますね」

 

「…………」

 

「どうしたんですか?」

 

「前から思っていたんですけど、一刀さんってよくもまぁそんな簡単に私を信用出来ますねー? 私なんかに任せて怖くないんですかー?」

 

「何を今さら。七乃さんはかつて周瑜さんを出し抜いたことがあるんですよね? だったら、俺にとってはそっちの方が怖いです。七乃さんが側にいることが、今ほどありがたいと思ったことはないですよ」

 

「ふーん、そうやって私を口説こうとしても無駄ですからねー。私は美羽様一筋なんですからー」

 

 いや、俺は決して口説いているわけではないのだけれど、何はともあれ、七乃さんに任せるしか俺には手は残されていないのだから、彼女を信じるしかない。

 

「へぇ……。一刀くんはそうやって女性を落とすのね」

 

 ……紫苑さん、ここでは御主人様って呼ぶんじゃないんですか? あと、目が非常に怖いですよ。

 

「そ、それは置いておいて、とりあえず時間もありませんし、すぐに本陣へと行きましょう」

 

 そして、七乃さんが敵に見つからないように俺たちを安全なルートで案内してくれたおかげで、一切俺たちの存在を悟られることなく、敵陣まで辿りつくことが出来た。

 

 そして――

 

「おや? あなたは行かないのですかー?」

 

「あー、私って戦うの苦手なんですよねー。どちらかというと、頭を使う方が性に合ってますからねー」

 

 七乃さんが敵の兵に成り済まして、程cさんの天幕から上手く敵兵を外させたところを、俺は裏から侵入して程cさんに近づいた。

 

「敵将、程c、天の御遣いが確保せり」

 

 程cさんの――俺の想像とは全く異なり、程cさんはとても可愛らしい少女だったので、こんな乱暴なことをするのは、非常に心苦しかったのだけれど、首に抜き身の刀を当てた。

 

「おやおや、天の御遣いのお兄さんですかー? 初めましてなのですよー。風は程c、字を仲徳というのですよー」

 

 そんな俺の心配をよそに、程cさんは一切の動揺を見せることなく俺に自己紹介をした。

 

「え? あぁ、こちらこそ――」

 

「全く、一刀さん。相手が可愛い娘だからって、相手に乗せられちゃ駄目ですよー」

 

「ふふふ……、そういうあなたは張勲さんですねー。あなたたちがこうして、風の許に来ることは知っていたのですよー」

 

「なんだって……」

 

 まさか、こうなることも程cさんは予想していて、予め罠を張っていたのか。

 

 そうだとしたら、非常にまずい状況だ。俺の後ろに紫苑さんが控えてくれているけれど、さすがに俺たちを守ったまま無事で済むことは出来ないだろう。

 

 俺たちが捕まってしまったら、益州軍はおそらく戦闘不能状態になるし、人質にされてしまったら、同盟軍である孫策軍も戦うことは出来なくなってしまう。

 

 しまった……、まさか、相手がここまでの智者とは――

 

「一刀さん、本当にあなたは人を疑うってことは知らないんですかー?」

 

「え?」

 

「そんなの程cちゃんの嘘に決まっているじゃないですかー。私たちがこんなところに来ることを予想出来るなんて、予言者じゃないんですから、出来るはずがないですよー」

 

「そうなんですか?」

 

「おや、やはりあなたは騙すことは出来ないみたいですねー」

 

「当たり前ですよー。だって、私、きっとあなたと仲良く出来そうですからねー」

 

 お互いが平然な表情のまま笑い合う。

 

「ですけど、そういう嘘を吐いちゃう悪い子にはお仕置きが必要ですねー」

 

 七乃さんはどこから取り出したのか、縄を手に取ると、素早く俺の手から程cさんを奪い取り、ぐるぐると縛って――しかも、何故か亀甲縛りにしてしまった。

 

「あ、あの……」

 

「いやー、一刀さん、良かったですねー。これで相手の頭脳である程cさんを抑えましたから、この戦、私たちの勝利ですよー」

 

 いや、俺が訊きたいのはそういうことじゃなくて、こんな少女をそんな風に縛り上げてしまうことは、あまり良くないんじゃないかと思うんだ。

 

「では、私は偽りの伝令を送って、前線の部隊を撤退させますから、紫苑さんと二人でぱっぱと引き上げちゃってくださいねー」

 

 そう言い残して、程cさんを俺の方へ放り投げると――勿論、怪我しないように受け止めたのだが、七乃さんは手をひらひら振りながら、去ってしまった。

 

「えっと……これはどうすればいいんだ?」

 

-4ページ-

冥琳視点

 

「でりやぁぁぁぁぁっ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 雪蓮と夏侯惇の一騎打ちは熾烈を尽くしていた。既に何十合と打ち合っているのに、一向に終わりが見えない。正に大陸を代表する豪の者同士の死闘と言えた。

 

 どちらも退くことをせず、既に満身創痍なはずなのに、闘気はなくなることがなかった。

 

 雪蓮を相手にここまで太刀打ち出来る人間がいるとは思わなかった。

 

 さらに、敵の後詰部隊の旧劉j軍が先鋒に加勢したという報告も入っているから、これ以上戦が長引いてしまったら、我々の方が再び窮地に陥ってしまう。

 

 しかし、これが私の最後の一手なのだ。雪蓮が夏侯惇さえ討ち取ってくれれば――と、雪蓮の戦う姿を見ることしか出来ない自分に失望しながらも、何か手はないかと逡巡しているときだった。

 

 俄かに敵兵に動きがあった。

 

「夏侯惇様っ! 急報でございますっ!」

 

「ハァ……何だっ! ハァ……ハァ……、私の邪魔をするなら、貴様から八つ裂きにするぞっ!」

 

「申し訳ございませんっ! しかし、本陣から伝令が参りまして、襄陽にて旧劉j軍が蜂起、周辺に散っていた、旧臣たちも次々に集まり、既に数万規模の軍勢を保持し、許都を窺う姿勢を見せているということですっ!」

 

「なんだとっ! ……クソっ! 孫策、その命、もうしばらく貴様に預けておくっ! 次に相見えるときこそ、貴様の最期と心得よっ!」

 

 夏侯惇はその知らせに、さすがにそれ以上戦うことはせずに、速やかに兵を纏め上げると、撤退命令を出して去っていった。

 

 同様に先鋒もすぐに撤退してしまった。

 

 それにしても、どういうことだ?

 

 旧劉j軍が蜂起だと?

 

 連中は先君の劉表の頃から知っているが、そのようなことをする輩がいるとは思えなかった。これも敵の罠かもしれぬと勘繰り、無用な追撃はすることなく、軍を纏めて江陵に戻った。

 

 すると、しばらくしてから、敵の本陣から北郷と黄忠と張勲が戻ってきたという報告が入った。そのとき、張勲がそこにいるという理由で、まさかあやつが何か策を弄したのではないかと思ったが、ずばりその通りだった。

 

「どういうことか説明してもらえるか?」

 

「はい。俺たち三人で敵の本陣に侵入して、敵の軍師である程cを捕縛しました。七乃さんに、その隙に敵に偽りの伝令を流してもらい、敵を撤退させるように仕向けた後、程cさんには、ここに来る途中まで同行してもらいましたが、俺たちの安全が確保出来た段階で、曹操軍に戻ってもらったんです」

 

 私の質問に北郷が答えた。

 

 まさか私たちが戦っている間に、敵の本陣に入り込むなんて真似をしてのけるとはな。そんなこと、果たして私たちが出来るかと問われれば、正直なところ、難しいだろうな。自らの主君を危険に晒すなんてこと、簡単に出来ることではない。

 

「あー、後ですねー。虚報を流すついでに、本陣にあった食料庫やら武器庫やらを燃やしてきたので、当分の間は敵もこちらに軍を送ることが出来ないと思いますよー。安心してくださいねー」

 

 おそらく――いや確実にこの献策を行ったのは張勲で間違いないだろう。

 

 こやつには私たちが独立する前から散々苦労させられたが、一人で本陣に焼き打ちまでしただと? そんなこと常人に出来るはずがない。やはり、私たちが独立を達成した戦では、こやつが一枚絡んでいたのだろう。

 

 そのことに何も思わないということはない。だがしかし、今はこやつのおかげで我々は窮地を完全に脱することが出来たのだから、今回ばかりは多少の感謝の念を覚えても良いのかもしれないな。

 

「だけど、こんな呆気なく敵を追い返すことが出来ちゃって、逆に何だか不安ね」

 

「まぁ、だがとりあえず、何があったにせよ、我々の勝利であることには変わりはない」

 

「そうね。御遣い君、今回ばかりはあなたたちに助けられたわ。孫呉を代表してお礼を言わせてちょうだい」

 

「い、いえいえ、俺たちこそ独力では絶対に勝てませんでしたから、お礼を言う必要なんてないですよ」

 

「あら? 孫呉の王たる私が礼をしたいって言っているのよ? 私に恥をかかせる気かしら?」

 

「う……それは反則ですよ、孫策さん」

 

「雪蓮よ」

 

「え? でも、それって真名なんじゃ……」

 

「構わないわ。私たちは同盟して、お互い信頼し合うって誓ったのよ。それに、私はなんだか君のことを気に入ったわ。今度、是非とも私たちの国にいらっしゃいよ。歓迎するわよ」

 

「はぁ、雪蓮、私も北郷のことは認めているから構わないのだが、蓮華様が聞いたら、きっと腹を立てるぞ?」

 

「いいのよ。きっと蓮華もこの子に会えばきっと気に入るもの。それに……」

 

「それに?」

 

「いいわ。これは後のお楽しみにしておきましょう。それよりも、御遣い君、私たちの戦勝を祝して、共に勝鬨を上げましょう」

 

「はい」

 

「では行くわよ。孫呉の勇者たちよ」

 

「そして、益州の勇者たちよ」

 

「我らは共闘して見事に曹操軍を撃退した。我らはここに同盟を誓い、共に勝利を祝おうではないか」

 

「皆、勝鬨を上げよっ!」

 

 雪蓮と北郷の声で、我らの兵士と益州の兵士たちは共に勝鬨を上げた。

 

 それにしても、雪蓮が言いかけた言葉――こやつがこういうことを言うときは、きっと何やら悪いこと考えていることに違いない。

 

 蓮華様の怒りが絶頂を迎えないことを願っていよう。

 

 そして、とりあえず今は、私もこの勝利の甘美な味を存分に満喫しようではないか。

 

-5ページ-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。

 

 

 

※注意※ 

 誤解を招いてしまったようなので、ここで加筆修正しておきます。

 上記の台詞は、今回自分の思うように物語を締められず、読者様を失望させてしまったのではないかという恐怖に苛まれた作者の心情を、謀アニメのバイト戦士風に表現しただけですので、本作品とは一切関係ありません。

 最近アニメ化したものなので、「失敗した」でググってもらえると、これがどういうものなのか分かると思います。

 誤解を招いてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

-6ページ-

あとがき

 

 第五十八話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 まずは今回でようやく長かった荊州での戦も終結となりました。

 

 さて、謀厨二病アニメの台詞は置いておきましてですね、まずは今回の終戦に際して、皆様の中にはこのような呆気ない終わり方に失望した方もいらっしゃるのではないかと思います。

 

 とりあえず、そのような方々には謝るしか、作者には出来ないのですが、言い訳くらいはさせて頂きたいなと。

 

 本来、この話はここまで長続きする予定はなく、孫呉との同盟まではプロット通りだったのですが、その後の曹操軍の戦いは完全にプロットから外れてしまいました。

 

 プロットの段階では、霞の奇襲で同盟軍が崩壊状態に陥ってしまい、もう終わりかと思いきや、白蓮さんの華麗なる登場により、勝利を掴み取るって感じだったのですが、どうにも麗羽様の活躍を描きたいなと思ってしまい、内容を大幅に改変。

 

 それに作者の嫁補正がある風にはもっと強敵要素を盛り込みたいという一念で、キャラが動くがままに任せてしまった結果、この様です。本当にすみません。

 

 さてさて、今話の内容ですが、やっぱり勝利を決めるのは七乃さんではないかということで、揺るぎないチート能力を発揮して頂きました。

 

 こんなときにすら、シリアスに徹することが出来ない七乃さんは素敵だと思います。空気が読めないのは仕様です。寧ろ、こんな軽いテンションで、こんなことを成し遂げてしまう七乃さんは敵無しではと思います。

 

 前話にコメントして下さった劉邦柾棟様に、見事に予想が的中されてしまいました。とりあえずはおめでとうございます。今後も妄想して頂けるとありがたいです。

 

 そして、通り(ry の名無し様がコメントで、風を捕虜にしてくれと仰っていたのを思い出しまして、それも内容に放り込んでみました。勿論、さすがに仲間に加えると言う訳にはいきませんでしたが(笑)

 

 延々と続いた挙句にこのような終わり方を迎えてしまって、皆様に大変申し訳なく思うのですが、作者の文才の無さを思って、容赦して頂くと大変ありがたいです。

 

 本当はもっとスタイリッシュに終わらせたかったのですが、作者にはそこまで能力があるはずもなく、また、麗羽様と白蓮さんと七乃さんの活躍を中心に描きたかったので、作者的には書きたいものは書けたので、グダグダになる前に終わりにしました。

 

 さてさてさて、雪蓮が何を言おうとしているのか、予想するのは簡単ではないかと思いつつ、その予想通りの展開にしていきたいなと思います。

 

 勿論、作者はそれだけではなく、あまり本編や他の作者様の作品でも活躍するシーンがない人材を狙って、その人物に焦点を当てたお話でも紡ぎたいなとも思っています。

 

 物語も徐々に最終段階になってまいりました。もうしばらく、作者の駄作にお付き合いして頂ければと思います。

 

 とりあえずは、荊州激闘編はこれで終了となります。

 

 劉備邂逅編以上に長続きしてしまったこの話が、皆様のお気に召したことを願いつつ、今回はここで筆を置かせて頂きます。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 

説明
第五十八話の投稿です。
ついに荊州での激闘も終焉を迎える。果たして、幾重にも張り巡らされた策略、そして、将たちの死闘がどのような形で終わるのだろうか。
はい、言い訳はいつも通りあとがきにて。本当にいつもながらすいません。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
8980 6647 67
コメント
yoshiyuki様 大変申し訳ありません。最後の台詞は作者の苦悩を謀アニメのワンシーンを再現しただけですので、物語には一切関係ありません。紛らわしいので修正しておきますね。誤解を招いてしまって申し訳ありません。(マスター)
オレンジぺぺ様 どうにも紫苑さんの嫉妬を書こうとすると、ヤンデレ風になってしまうのが現在の悩みです。種馬無双も面白そうですけどねぇ。孫呉の将との関係は悩みどころではありますね。(マスター)
瓜月様 ここまでチート過ぎると、誰と戦っても勝ってしまいそうなので、当分は自重してもらいましょう。まぁ孫呉のフリーダム王ですからねぇ。蓮華の苦労が目に浮かぶようですよ。(マスター)
氷屋様 いやぁ、すいません。どうにも物語の締めが呆気なさすぎるかなと。確かに戦争的にはありかもしれないですが、ここまで物語を盛り上げた以上、きちんと纏めたかったんですよ。(マスター)
ttt様 驚かせてしまったら大変申し訳ありません。今回の物語の締めに満足できず、また読者様に失望されたのではという無念さを謀アニメのバイト戦士風に表現しただけです。(マスター)
山県阿波守景勝様 さすがに国力差はかなりありますからね。今回は何とか乗り切りましたが、次回はどうなるのやら。雪蓮の言動は今回はそこまで裏を読まずに素直に考えて頂けたら良いのかなと。(マスター)
ブンロクZX様 もはや優秀な軍師が揃う益州陣営でも彼女に対抗できる人材がいないんではないかと(笑) さてさて雪蓮の思惑がどうなるかは次回以降の展開をごゆるりとお待ちください。(マスター)
根黒宅様 すいません(笑) 謀アニメのワンシーンを使って、作者の無念さを表しただけですので、あまり気にしないで下さい。(マスター)
通り(ry の名無し様 何と作者の書いていない部分で妄想を膨らませるとは、さすがですね、思わず唸ってしまいました。いや、もしかしたら素敵なお姉様との夢の3P をして(ry(マスター)
ロードスネーク様 お気づきなりましたか。原作をやっていたので、投稿し終わった後の無念を表すには彼女の台詞を使うのが一番良いと思いました(笑)(マスター)
shirou様 まぁさすがに分かりやすかったでしょうかねぇ。作者的にもそこまでサプライズの意を込めたわけではないのですが、それはさて置き、焔耶についてですが、さすがに前は隠していますよ。焔耶の素敵な胸なんか見えたら、兵士たちも戦いどころではないでしょう。(マスター)
最後のセリフを云ったのは誰でしょうね。失敗したのは、風・一刀・冥琳それとも誰か別の人?この時代の人なら捕虜は身代金の基と考えないのか。(yoshiyuki)
最後のちょっと怖いぞwww、前話でみなさんお予想通り一刀は身代わりでしたね。戦闘は終わるときはちょっとしたひょうしにあっさり終わることもあるのでこれはこれでいいのではないかと、春蘭だしねえ・・・w(氷屋)
最後の何(ttt)
今回は勝ちましたが、次が厳しいですね。それまでにどれだけの成長が出来るか……雪蓮さんの考えは、なんとなく予想出来るけど合ってるかなあ?何度も予想を外したし……(山県阿波守景勝)
最後のページはなんか怖いですけど…(根黒宅)
ありがとうございます! って、捕虜になった風に短時間でナニをしたんだ一刀ぉおおおおおお!!!・・・紫苑さんいたから無理でしょうけど・・・まさかねはははこやつめ、いやしかし紫苑さんはいざとなれば手段を選ば(ry(通り(ry の七篠権兵衛)
鈴羽w(ロードスネーク)
まぁ誰が着てるのかな?って思ってましたが焔耶だと前は開けたままですねぇw(shirou)
タグ
真・恋姫無双 君を忘れない 北郷一刀 紫苑 七乃 焔耶  春蘭 雪蓮 冥琳 

マスターさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com