ツグミ
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「あなたって神様って信じてる?」

旅をしていた二人の少女はとある町でばったりと出会った。

普通であれば何事も無くすれ違うと思われたが、世の中は意外と不思議なものだ。

何気ないことで仲良くなったり。

もしくは、突然と偶然ともいえる出来事が起きてそれが原因となって仲良くなってしまうこともある。

二人の少女の場合は後者のほうだ。

街の中、複数の大男が一人の少女を襲った。

そこへ偶然か、奇跡か、必然か。

そこへ異国の服をきた緑のショートの髪、緑の目ををした一人の少女が鎌を持ち、明るい黄の色をした髪の少女を助けた。

その鎌はとても大きく、振り回せば確実に人など消してしまうような大きな鎌。

けれども何も模様のない鉛色の目立つようで目立たないようなそんなもの。

少女は巧みにその大鎌を自由自在に操り、怪我をさせること無く一人の少女を助けた。

鎌を持った少女の名前を”ツグミ”と言った。

助けられた少女の名前を”レイン”と言った。

二人はその件があってか、すっかりと意気投合した。

お互い話をして互いが旅人で宿を探すということを知ったのもあって二人で同じ部屋の宿を取った。

そんな宿の部屋の夜、ツグミから出た言葉はソレだった。

「神様?」

「そう、神様。あ、別に信てないなら信じてないって言ってくれればいいんだよ?答えたくないのなら答えなくてもいいよ」

窓の月明かりを見ていたツグミの目は返事するタイミングに合わせてそっとレインの方へ向いた。

「んー、別に信じてはいない……のかな、信じてるって言えば信じてるかも」

ツグミはちょこっと首をかしげた。

「別にそんなに気にかけたことはないってこと?」

「うん、だっていたからって私達に何かをしてくれるわけじゃないでしょ?だったら信じても信じなくても一緒だと思うの」

そう言ったレインの言葉を聞いてツグミはフフフと声を漏らしながら微笑んだ。

「そっか」とそう言って少し頬の上がったその顔をそっと逸らして目をつむった。

レインは何故そんなことを聞いてきたのか気になり言葉を紡いた。

「それがどうかしたの?」

「…………」

「ツグミ……?」

「うん、そうだね」

そう言って目を開け、コクリと頷いた。

夏の夜ということもあってか、寒くはないが暑くもない。

そんなところへ寒くない、涼しい風が大きく吹いてツグミの髪を大きくまき散らした。

「レインに聞いて欲しいの、一人の神様のお話し」

少し不思議とも言えようその光景にレインはゴクリと息を飲み込み混んだ。

「神様のお話し……?」

「そう……」

――――――友達が欲しかった神様のお話し

 

 

 

 

 

それは小さな神様の一族でした。

全員でわずか20ほど。

これしか居ないのは寿命が無く、お互い数が増えていく必要性が無いから自然とそうなっていく。

時々誰かが思いを込めて新たなものをうみ、時々いつの間にか誰かが消えていく。

大人は二人いた、残りの十八はみな子供。

子供と言っても見た目が大人だっている。

大人なのはただ子供を生み出した長であるというだけ。

「お母さん、私友達が欲しいよ」

「ダメよ、絶対に」

親はそう言った。

理由など聞かなくても知っていた。

その”親”は”もう一人の親”をとても嫌っていた。

だから”兄妹”は居ても”友達”は少女には居なかった。

「9号、友達なんて作ってはいけませんよ、えぇ絶対に」

名前なんて無かった、誰か識別さえできれば要らないのだそうだ。

どうして、とは聞くことは出来ずずっと一人だった。

 

ある日のことだった。

花が好きだった少女はこっそりと家から離れたところへ庭園を作っていた。

いつもの様に庭園にある花達に水をやろうと来たのだけれどその”いつも”とは少しだけ、その日は違っていた。

見知らぬ少女が目を輝かせ、自分の庭園の中で花達を眺めていたのだ。

「誰……?」

そう言うと少女は慌てふためきそそくさと逃げようとした。

「ま、待って!大丈夫だから逃げないで!」

何を大丈夫なのかは自分でもわからなかったが、逃げないで欲しいという気持ちからとっさにでてきた言葉はその言葉だった。

その言葉を聞いてか、立ち止まった。

少しビクビクと震えながらも、パッと振り向き、もじもじと顔を隠しながら「うん」と小さく呟いた。

 

少女の名前は芽愛(メア)というのだそうだ。

とても小さな女の子なのだけど、髪は白く透きとっており、下半身の腰辺りまであるほど長い髪が印象的だった。

芽愛は”もう一人の親”の娘なのだそうだ。

名前はあるけれど別に優しいということは無く、同じくこちらの親を嫌っていた。

芽愛はそんな家に居場所がなく、家を出てきたのだそうだ。

そこへこの庭園がありやってきた。

二人はとても息があった。

親や兄妹との関係もそうだけど何より二人は優しかった。

ツグミはただ、芽愛と話しているだけで楽しかった。

芽愛はただ、少女と話をしているだけで幸せだった。

二人は友だちになった。

毎日、昼をすぎると二人は何時もそこにいた。

二人が会うと何時も話をした。

話すことが無くなってしまったときは一緒に花へ水をやったり眺めたり。

それ以外の時は花に囲まれて二人でお昼寝をした。

その一時は居場所の無く、幸せを噛み締めたことのない二人には楽園であり、お互いは自分自身の全てとも言える存在だった。

ほかから見れば別に大したことではないかもしれない。

だって誰でも友達はいるものだし、居なくても心を紛らわす何かはあったはず。

それが無い二人にはそれがあまりにも大きすぎるものだった。

 

芽愛と出会ってから二十日ほどたった日のこと、少女の親は喋った。

「お前、最近良く出かけているようだけど何か隠していることはないかい?」

話すわけがない。

だってようやく自分の見つけた居場所だもの。

「ううん、何も無いよ」

そう言って少女は家を出た。

庭園にはいつもどおり芽愛がいた。

顔を合わせると距離があっても分かるようにしっかり微笑んでくれた。

「芽愛、もしかしたらお母さんにバレそうかもしれない……」

少女は迷わず芽愛に話した。

お互い信頼しており、何かあったら基本話し合っていた。

「実は、今日私も聞かれたんだ、”毎日なにしてるんだい?”って」

「このままだと会えなくなっちゃうかもしれないよ……」

「どうしよう……」

そう同じく困ったように芽愛も言葉を返した。

二人は話し合った、そしてこういった結論が生まれた。

「少しの間……ココに来るの控えようか……」

とてもつらい選択だったけれど、二度と会えなくなってしまうよりはマシだとそう思った。

「そうだ!今度会うときは名前で呼び合おうよ!」

「名前……?私名前なんて無いよ」

「名前くらい私がつけてあげる!……うーん、そうだな〜」

そう嬉しそう目を瞑りながら考え、パッ!っと大きく開いてこう言った。

「ツグミ……!ツグミって名前がいいよ!うん、とってもいい!」

「ツグミ……私の名前はツグミ……!うん、素敵な名前ね!」

嬉しかった、自分はもう9号ではない、ツグミなのだ。

「ねえツグミ!私たち友達だよね!?」

突然そう言われ、戸惑った。

今まで自分には友達が居なかったからそれがどういうものかわからなかったからだ。

しかしその曖昧な考えはすぐに確信に変わった。

大きな声で精一杯言葉を返した。

でも後になって後悔した、言わないか、戸惑うかでもすればよかったのだと。

――――――そうかい、お前たち友達なのかい。

目の前に血が飛び散った。

……あれ?これは何だろう。

おかしいな、何が起こっているか分かっているはずなのにどうしてもそれが考えられないよ。

「あっ・・・・・・あああぁぁぁぁ!!!!!」

ツグミはそっと芽愛を抱きしめた、とても強く。

いくら強く抱いても決して血は止まらない、止まってはくれない。

涙が流れる、誰求めることのできない大粒の涙。

抱き寄せている前の方から声が聞こえた。

「あぁ!家の娘になんてことを……!許さないよ、許さないよそっちの親!」

後ろの方から声が響く。

「あぁ、決着つけてやろうじゃないか!」

お互いの子供達もそこへ着ていた。

けれどツグミはけっしてそれを見ず、目をツグミ全てから目を逸した。

花は燃えた。

血は崩れた。

牙は神を貫いた。

火は舞、血は流れ、大地は嘆いた。

それでも見なかった、見たくはなかった。

どうしてこの人達は戦っているのだろう?

どうして自分たちのようになることはできなかったのだろう。

もし親達に何かお互いを嫌う理由が有ったとしても、どうして子供たちまで戦うのだろう?

きっとそんな理由など無いはずだ。

お互いを嫌うことはあんなにも辛いことなのに、お互いを好きになることはこんなにも素敵なことなのに。

もっと違う道が有ったはずなのに……。

勝ったのは自分の親だった。

兄妹達はみんな死んでしまった。

最後に生き残ったのは自分の親のみだった。

「あぁ、みんな死んでしまった……。まぁいいさ、また作ればいいからね」

兄弟たちを失ったことなど別に大したことは内容だった。

「さぁ9号、何時までそんなことやってるんだい?行くよ」

そう言って自分の家のほうへ向き、数歩歩いて再び止まった。

「9号、聞いてるのかい?」

ツグミは目を合わせずに言った。

「ねぇお母さん……どうして芽愛を殺したの……?」

「芽愛?あぁ、その娘かい、あんたが友達って言ったから殺したのよ」

「友達のどこが悪いの……?」

そう言いながらツグミは芽愛をそっと下ろし、立ち上がった。

「あの親の子供だよ?私の嫌な奴の子供を友達だって言うんだよ?死んで当然じゃないのかい!」

そう言いながら母のほうへ歩き出す。

「お母さん、私あなたの子供じゃないわ」

「あん?何言ってるんだい?」

ツグミは大きく叫び捨てた。

「私はあなたの子供じゃない!私は9号じゃない!!私は!……私はツグミよ!!!!!!!!!!!!!!!」

もし刃、つまり武器を例えるとしたら何?そう言われたらあなたは剣と答えるのかな?

私はきっと鎌って答えると思う、それも大きな大鎌。

どうしてかって?分からない、でもきっとそれが一番合っているのだと思う。

それはまるで死神のよう。

ツグミは大鎌で自らの母を切り捨てた。

目は決して背けない。

それはきっと自分の見るべきものだと思ったから。

 

 

 

「ごめんね、変な話をしちゃったかな」

ツグミは言葉を閉じた。

「ううん、そんなことないよ」

そう言ってレインは少し目を閉じた。

それを聞いたレインはしばらく目を瞑っていたけれどこういった。

「うん、私決めた!」

え?とツグミはとっさに振り向き

「ツグミ!私と友達になってよ!」

レインは想いを大きく込めた、ツグミに届くように。

ツグミはそっと涙を流した。

「あぁ、芽愛、私はやっぱりツグミだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

説明
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