外史異聞譚〜外幕・仲達旅情篇・幕ノ九〜 |
≪?・酒家一階/田元皓&沮元明視点≫
「ねえ元ちゃんどうしようか」
「うん元ちゃんどうしようか」
『馘になっちゃったものは仕方ないよね』
私達は南皮で袁本初様のところを馘になり、?へと戻ってきていました
袁本初様は、私達が仕官したときには
「常にふたりで動くさまは、なーんて華麗で優雅でわたくしの部下に相応しいのかしら
おーっほっほっほっほっほ!」
などと、鬱陶しいくらいに機嫌良く笑っていたのですが、私達の献策の悉くを
“美しくない”
とか
“貧乏臭い”
とか
“みすぼらしい”
とかいう理由で退ける
(顔将軍が「ほんっとーっに、ごめんなさいっ!」といつも頭を下げてました)
ので、さすがに堪忍袋の緒が切れました
なので
「金ぴかだったら華麗だと思うなこのおほほ名族」
「くるくる頭で中身がないのを表現して楽しいかこの脳まで脂肪」
「文将軍と一緒に艶本でヤられてろこの乳だけおばけ」
「でも文将軍は乳なしだから需要は少ないかも」
「それがいいっていうのもいるから大丈夫」
「おーっほっほっほ、は地位転落して肉奴隷にでもなれ」
「それは宦官のジジイ共のおもちゃになると決まってる」
「題して名族袁本初の優雅で華麗な転落」
「副題は金の張型に喘ぐ金ぴかお嬢様と無乳将軍」
「顔将軍は苦労人なのでなぜか餌食にはならない」
「餌食にしては可哀想というかむしろ相手側」
「でもおーっほっほっほ、と食欲無乳は堕ちてよし」
『てことで無理せずお肌とおつむに気を使え、くるくるおばさん』
などと、とりあえず思う様上奏(?)をしたところ、完全に本気で殺されかけたので慌てて逃げてきたのです
事実を指摘されると人は皆立腹するとはいいますが、それにしても狭量です
私達はふたりでひとり、比翼鳥のように片側だけでは何もできない人間です
ですので、ふたり一緒に仕官できる場所を探しているのですが、なかなかいいところがありません
袁本初様はそういう意味では非常に条件のよい仕官先だったのですが“おーっほっほっほ”に代表される“華麗で優雅で雄々しい政事”というものが私達にはどうしても理解できませんでした
顔将軍、頑張ってください
袁家の未来は貴女の不幸(?)にかかっています!
と、心で応援しつつ、私達は酒家で次の仕官先を模索しています
「さてさてこれは困ったね」
「ほんとにこれは困ったね」
「即日飢える事はないけれど」
「急いで仕官する必要もないけれど」
『このままごはんが食べられなくなるのは困るよね』
私達にとってはふたり一緒にというのは絶対に譲れない条件です
かといって貞操の危機が及ぶような職場も困ります
しかし、ここで問題がひとつできてしまいました
「さすがにやりすぎたね」
「さすがに言い過ぎたね」
「すかっとしたから後悔してないけど」
「おさるのようだったからざまみろと思ったけど」
『首に懸賞金かけるまで怒るとは思わなかったね』
そう、私達は勢いに任せてやりすぎたのです
とはいえ本当に後悔はしていないので、とりあえず袁家の権勢から身を護れるだけの士官先を考えないとならなくなってしまったのです
このように私達が悩んでいると、酒家の二階からお呼びがかかります
これがどういう事かといいますと、複数階で建てられている酒家は旅行中の名士が利用する事が多く、行きずりに論議などを楽しむためにそこを訪れた人を誘うことがあるのです
ですので、地元の学士などは大抵行きつけの酒家をもっています
それが仕官のきっかけとなる場合も多いので、帰郷してきた私達も馴染みの店で相談していた、という訳です
格式の高い酒家酒楼の場合は、離れや東屋を利用する場合もあります
とりあえず店員さんにどんな人かを尋ねてみると、都の流行に沿った上物の衣服を身につけて絹の靴を履いているちょっとみないような別嬪さんだということです
私達に声がかかった理由は、この地に田元皓という方がいないかと聞かれたので、たまたま店の一階にいるのでお呼びしましょうか、と言ったとのこと
私達はしばし考えます
「どうする元ちゃん」
「どうする元ちゃん」
「もしかしたらいいお話かもだよ」
「もしかしたらいいお話かもだね」
「少なくとも一食浮くよ」
「もしかしたら二食は浮くよ」
「会ってみるのもいいかもね」
「話してみるのもいいかもね」
『じゃあとりあえず行ってみよう』
もったいないのでさっさと卓上を片付け、二階へと足を向けます
そこには、下座に位置して十分な酒肴を揃え、悠然と微笑む少女がいました
≪?・酒家二階個室/司馬仲達視点≫
わが君がおっしゃるには
「河北、多分南皮から?にかけての地域で田元皓ってひとがいるはずなんだ
俺の知る知識ではかなり剛直で歯に絹を着せない発言をする人物で、そこを袁本初に疎まれたっていう硬骨のひとだ
逆をいうとそれを受け入れられれば非常に有能なひとなんだよ
同じ地域で同じような処遇をされた人物に沮元明っていう人がいる
ふたりとも張良や陳平に準えて語られる人物なんで、できれば片方だけでも探してきて欲しい」
との事でした
平原に立ち寄った折、田元皓と沮元明が袁本初を罵倒して不況を買い?へと逃走した、という噂を耳にしました
実際に懸賞金もかけられているらしく、袁本初の本気度が伺えます
「田元皓は剛情で上に逆らう人為だ、とも言われていたし、扱いづらい人物の可能性はあるよね」
とのわが君の評もありましたので、なるほどと納得して急ぎ?へと向かいます
取り急ぎ?で宿を求め、ある程度の格式のある酒家で情報収集をはじめたところ、偶然にも下階に来ており、元々馴染みの客であると店主から聞かされました
主人に心付けを渡して話を聞いてみると、沮元明と田元皓は常に共にあり、まるで比翼の鳥のようだ、とのことです
両名共に博学多才の人物として有名ではあるのですが、二人で話し動くその様は京劇のようで並の人間にはついていけない、という話でした
(太平道以上に異常なものなどありはしないでしょうが、どうしてこうも有能かつ特殊な人材ばかりを我が君はお求めになるのか…)
当然ながらその“特殊”に自分を加えてはいない司馬懿である
閑話休題
ひとしきり店主から話を伺い情報をまとめたところで、おふたりを呼んでもらうことにしました
そうして部屋にきたのは、ひとりひとりを見れば奇抜としか言えない身形の方々です
比翼の鳥と酒家の主人が表現した通り、二人並んで均整がとれている、という感じでして、なるほど劇のようだと納得しました
などと感心してばかりもいられません
私は仕種で上座を示しながら、お二人に挨拶します
「お呼び立てして申し訳ありません
私は司馬仲達と申します
ささやかながら酒席を用意させていただきましたので、まずは中にお入りください」
「綺麗なひとだね元ちゃん」
「酒席も立派だね元ちゃん」
『挨拶が遅れました』
「私は田元皓」
「私は沮元明」
「田ちゃんもしくは皓ちゃん」
「沮ちゃんもしくは明ちゃん」
『そう呼んでくれると喜びます』
お二人は少々独特ではありますがきちんと礼に適った挨拶をすると、中座を選んで座り、時候の挨拶をはじめました
それからごく普通の論議をしてみたのですが、なるほど、これは確かに慣れるには時間がかかりそうです
ただ、この旅で(不本意にも)鍛え上げられた私から見ると、そう異常なこともないでしょう
面立ちは似ていますが服や髪の色の差もあり、見分けるのは非常に容易です
むしろ気をつけるべきなのは、お互いに話しかけるようにして進められる、この独特の会話方式でしょう
本来ひとりで駆け引きをやる論戦や思考のとりまとめを、こういう形で補うというのは非常に新鮮です
しかも、それぞれが一流と言える才と能を有しているのであれば、その効果はいかほどに膨れ上がるのか想像もつきません
(これは、思っていた以上の異才のようです
割と言葉に遠慮もないようですし、袁本初あたりではさぞ持て余した事でしょう)
ただ、今回の場合は仕官を促すのは非常に簡単です
彼女達は早急に保護を求めたい立場でしょうから、現在大長秋の養子として漢中太守となっている我が君の庇護下に入れば、いかに名族袁家といえど、簡単には手出しはできないからです
軍を差し向けるにも、洛陽・長安を経由しての長征をするほどの余裕はないでしょう
となれば、庇護下に置いた上でそれなりに機嫌をとれば解決する、ということですから
論議を交わしながらそこまで思考した私は、徐にそれを伝えてみることにしました
「ところでお二方」
「なにかな仲達ちゃん」
「どしたの仲達ちゃん」
『私達に何か用かな?』
「不躾ではありますが、漢中太守様の下に仕官を…」
『是非お願いします!!』
「やったね元ちゃん!」
「やったよ元ちゃん!」
「仕官先がもう見つかったよ!」
「逃亡先もこれで見つかったよ!」
『ばんざーい!!』
「してみる気は、って…
もう答えは出ましたね……」
ええ、不満は何もありません
難しい事もなくお話が進んだのですから、これはこれでいいことなのです
なのに何故でしょう、このなんとも言えない不完全燃焼な気持ちは…
私は、両手を挙げて歓喜を示す二人を前に、そっと溜息をついたのです
≪田元皓&沮元明視点≫
元ちゃん達が即答したのに、仲達ちゃんはびっくりしてるみたいです
まあ、普通に考えたらそうだよね
これでも元ちゃん達は真面目にしっかりとお仕えするつもりだったので、情報収集や人材登用、他州の情勢などといった事柄は、しっかりと集めて分析したりもしてたんだよね
そこで、最近注目してた場所のひとつが実は漢中だった、という訳なのです
大抵の諸侯なんて、租税を搾り取るのに夢中で私腹を肥やしてるのを上には見逃してもらえるようにせっせと賄賂を贈るんだけど、民衆がどう噂してるかとかは、意外と無頓着だったりする
理由は簡単で、田畑を捨てて逃げる度胸がないと、旅人や行商人なんかに噂話をしたりできないから
余計な噂をする奴は殺してしまえばいい、というのも多分本音
民衆も逃げた先で生活が楽になる保証なんてなくて、大抵は屠殺業とかといった、身分的に再下級の仕事で糊口を凌ぐ事になる
そういう仕事なら蔑まれても需要はあるからなんとか食べていけるって訳だけど、そこまで堕ちたい人間もまずいない
こういった事情から情報っていうのは基本的には州都まで足を伸ばさないと集まらないようになっているんだけど、漢中の内政状況に関しては無難なものしか返ってこない
これは普通は見逃してしまう事なんだけど、ちょっと考えればどういう事かすぐに理解できちゃうんだよね
漢中はちょっとやりすぎたってこと
情報の統制がしっかりしすぎてる、という事になる
つまり、漢中の今の太守は、普通に官吏宦官や諸侯の間で言われている人物とは毛色が違うってことの証明だったりするんだよね
情報の統制ができているってことは、外部に出していい情報と悪い情報がしっかり判別できているということで、商人や旅人をある程度以上管理できている、ということ
こういう時に人海戦術を行える袁家の力量はさすがだと思って、元ちゃん達もそれに甘えに甘えてせっせと働いたんだけど、よっぽど後暗いのか隠したいのか、漢中から入ってくる報告は無難なものに終始してたって訳だね
これだけだったらまずいかなー、とか元ちゃん達も思ったんだけど、租税が下がったなんて話はどうやったって隠せないからね
この太守は先はどうあれ、民衆の人気取りをする程度の良識はもってる、という判断ができたわけなのです
洛陽を挟んで西側にあるのもあって、注意を常にするほどではないけれど、先を考えるならいずれ仲良くしておこう、と上奏するつもりだった相手だったっていうのが、仕官即答の理由です
まあ、貞操は不安もなくはないけど、仲達ちゃんみたいな美人を外に出すくらいだから、多分そんなに危険はないだろうな、と思う
ついでなので、元ちゃん一押しの人を紹介して、ちょっと覚えがよくなるように配慮もしようと思います
保身も兼ねてるけれど、多分これはいい選択だから、いいひとは連れてっちゃおうと思います
そんな訳で、仲達ちゃんにお願いして酒肴を用意してもらって、早速いってみようと提案することにします
あ、実は元ちゃん達はお互いなら喋らなくてもある程度以上はお互いの考えている事が解るんだけど、それがどうしてかは今は内緒だよ
今の元ちゃん達はふたりでひとり、それが全てです
説明 | ||
拙作の作風が知りたい方は 『http://www.tinami.com/view/315935』 より視読をお願い致します また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します 当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです 本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」 の二次創作物となります これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です 尚、登場したオリジナルキャラクターについては 『http://www.tinami.com/view/315164』 を参照いていただけると助かります コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール 『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』 機会がありましたら是非ご覧になってください |
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コメント | ||
田吾作さま>カテゴリーFとは違いますが、きちんと理由ありますよう(小笠原 樹) 通り(ry の名無しさま>加筆の結果、かなり後で出るはずだった設定をここで(ぇ(小笠原 樹) そこまで貶せば普通は本気で殺しにかかるよ二人ともwwまぁそうなるのも無理ないけどさw……あれ、ちょっと待った。この子達カテゴリーFか何か?以心伝心ってレベルじゃねーぞ!(田吾作) テレパシー使えたのかっ!(くわっ ある程度『以上』って折衝の時から突然の分かれての買出しまでなんでもござれだな・・・。(通り(ry の七篠権兵衛) |
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