外史異聞譚〜外幕・仲達旅情篇・幕ノ十二〜
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≪洛陽郊外/司馬仲達視点≫

 

こうして私達は忠英殿が官職を辞して出立の準備を整えるまでの間、忠英殿のお宅にお邪魔する事になりました

 

皓ちゃんと明ちゃんは工房や資料が興味深かったのかしきりとそれらを見学し、夜には忠英殿とそれらについて語り合っております

 

儁乂殿は忠英殿の抱える兵馬の質に感心されていて、日々彼らと訓練をしながら、独特ともいえる装備の利点や欠点について学び、時折改善点を指摘したりしていたようです

 

忠英殿にしても、このように自分の研究に理解が得られるのが嬉しいらしく、口では悪態をつきながらも嬉々としてそれらに応じていました

 

私も、晴天には共に武を嗜み、雨天には書を紐解き、夜には皆と論議を交わすという、久方ぶりに充実したといえる日々を過ごしていました

 

そして、忠英殿の身辺生理も終わり、そろそろ漢中へ向かおうか、という時のことです

 

不吉な話が飛び込んできました

 

それは、袁家に縁のある官吏のひとりが、褒章と歓心を得るのを目的に、洛陽の郊外で我々を襲撃しようとしている、というものでした

 

『ごめんねみんな』

「元ちゃんのせいだよね」

「元ちゃんがやりすぎたからだね」

「迷惑かけるわけにはいかないよ」

「間に合わなかったんだから仕方がないよね」

『私達はここで捕まってもいいから大丈夫だよ』

 

そういって申し訳なさそうに縮こまるおふたりに、私も含めた周囲の皆が苦笑します

 

「ここで見捨てて漢中に向かうようなら、最初から共に旅など致しはしません」

 

そう儁乂殿は斬馬刀を掲げてみせ

 

「私の部下はそこらの軟弱な官吏に指揮される兵にどうこうされるほどヤワじゃあないんだけどね

 信用ないなぁ…」

 

と忠英殿がぼやき

 

「多少の手間はかかるでしょうが、それは恐らく私兵でしょう

 策を弄するまでもないと思います」

 

こう私が答えたところで、お二人は感極まったのか泣いてしまわれました

 

今更袁家ごときにどうこうする私と我が君ではありませんのに、もう少し信用して欲しかったものです

とはいえ袁家の権勢を考えれば、おふたりがこう考えて我々の身を案ずるのも仕方のないことですが

 

とりあえず、おふたりが気を取り直したところで相談することにします

 

「私財はどうなされますか?」

 

「う〜ん………

 研究資料なんかもあるから、捨てていく訳にはいかないんだよなぁ…

 うちの連中の家財なんかも含めると、処分して金子にしたとしても、輜重もあわせて馬車20は堅いねぇ」

 

そこは可能な限り削ってはみる、と忠英殿は言っていますが、研究施設で換えのきかない部品や手間のかかる部分などは、やはりどうにかしたいようです

 

『それだったら』

「元ちゃん達はおとりになるよ」

「元ちゃん達は別行動するよ」

『それだと後で合流すればいいよね』

 

皓ちゃん明ちゃんがそのように言うと

 

「なるほど…

 拙者も同行して、忠英殿に半数程も兵をお借りして一気に踏み荒らせばいけそうでありますな…」

 

「な〜るほどねぇ…

 私は輜重を含めて別の道程でいって、長安に着くまでに合流ってことならいけそうだわな」

 

その場合はちょっと遠回りになるが戦闘を考えれば誤差はそうないはずだ、と儁乂殿と忠英殿が言い、早速洛陽から長安までの地図を確認しはじめています

 

『だとすると、出発の前後でちょっと細工しないといけないね』

「元ちゃん達はこそこそ出ないといけないね」

「輜重隊の方は逆に徹底的に荷物改めしてもらうように仕向けた方がいいね」

「こっちで300もらって、それぞれ100で儁乂ちゃんに奇襲してもらうのがいいかもね」

「だったらこっちは歩兵で弓と盾があれば十分だね」

「儁乂ちゃんには騎馬がいいよね」

「軽装で蹂躙を基本にした兵装だと助かるよね」

『そんなところでどうだろう?』

 

地図を見ながら皓ちゃん明ちゃんが襲撃地点を予測しながら策を提示しています

 

はっきりいって私が何かする必要がありません

かなりしょんぼりです

これでは余りにもせつないので、兵馬の武装の隠匿について提示してみることにします

 

「武装をしっかりとしては警戒されるでしょうから、解体を前提に馬車を用意し、馬車を解体して盾や弓になるように偽装するというのはどうでしょうか」

 

すると、全員から一斉に声があがります

 

『それだ!!』

 

さすがに吃驚して声が出ない私を他所に皆さんが熱く語っています

 

「それだとちっと手間がかかるけど、馬車の5〜6両もありゃ100人分の用意はできるわ」

 

「騎馬はそれに含めずともいいでしょうから、実質は10射分程度の矢と弓と盾、あとはできれば槍があればいいということですな?」

 

『輜重隊の方はそのままの武装で堂々といけばいいよね』

 

「元皓殿と元明殿が予想している襲撃地点が、徒歩で洛陽から二刻程の森の前ですから…」

 

「うちの連中の騎馬なら、遠回りして先行しても、半刻は余裕はあるね」

 

『じゃあ輜重隊は港周りで長安にいけばいいよね』

 

「ま、官匪の私兵だからいいとこ500だろ、うちの連中ならその倍でもいけるわ」

 

「では、一撃は元皓殿と元明殿に止めてもらい、私が奇襲をかけて蹂躙するということで宜しいですな」

 

『大丈夫ー!

 都を出たら馬車を解体して武装しておけばいいしねー』

 

「んじゃ、輜重隊に食料を多めに持たせて、翌日に森を出たとこで合流ってことにしよか」

 

『応!』

 

 

なんといいますか、本当にやることがありません

 

我が君が得た人材の有能さに感心しつつも、ちょっと寂しさを抑えきれない私がそこにいました

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≪???/司馬仲達視点≫

 

洛陽を出立して二日後

 

私達は無事合流して長安へと向かっていました

 

「予想してたより襲撃人数が少なかったのは助かり申した」

 

そう儁乂殿が喜んでいます

 

あのまま何もしないのは流石にせつなかった私は、策ともいえない策を少し弄したのが効果を発揮したようです

 

それは

「田元皓と沮元明が別途に少数で洛陽を抜ける」

という流言を流すことでした

 

恐らく買収されているであろう洛陽の守衛を狙い、こちらから買収して官吏の耳に入るように仕向けたのです

いかにもありそうな内容でしたので、その官吏は裏を取らずに少数の私兵を抱えていったのでしょう

 

恐らく今頃は野に骸を晒している事でしょうが、自業自得というものです

 

襲撃の撃退に関しては、儁乂殿に固く「ただの一人も逃さないように」と念を押しておきました

私兵といえど官吏が関わっているため、どこで足を掬われるか判らないためです

これに際しては、前後して宦官に鼻薬を嗅がせて追手は出ないように配してもいます

 

皓ちゃんと明ちゃんはそのあたりの事に気付いていたのか

 

『仲達ちゃんありがとう!』

 

と抱きついてきました

そういうのには慣れておりませんので、いささか困ったことも事実です

 

ともかく、忠英殿の手勢にも軽傷はあってもひとりの死者もなく、討ち漏らしもなかったとの事で、皆が非常に機嫌良く過ごせる旅路となりました

 

 

そして長安に到着

 

ここでの滞在は補給を含めて3日です

 

私はここで我が君に頼まれていた“仕込み”をいくつか行うのですが、これに関しては皓ちゃんと明ちゃんの手伝いが非常に助かりました

とにかく忠英殿も儁乂殿も“そういう事柄”には向いていないだけに、彼女らには補給に専念してもらう事となりました

 

この“仕込み”については後日語ることもあるかと思いますが、ともかく我が君の深謀遠慮と性格の悪さを再認識させられたものだと言えるものでした

 

 

こうして長安での短い滞在を終え、数ヶ月かけた旅がようやく終わり、私は漢中へと帰ることができたのです

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≪漢中鎮守府/北郷一刀視点≫

 

その早馬が着いたのは俺が執務室で悲鳴をあげていたある冬の午後の事だった

 

「一刀様、早馬が着きましたのでご報告にあがりました」

 

今報告をしてくれている子は令明といって、懿が旅に出てから俺に仕えてくれることになった子で、秘書兼護衛みたいな事をやってもらってる

令明が誰かは後で説明するとして、今はとりあえず置いておくことにしよう

 

で、なんで秘書なんかいるのかっていうと、なにしろ俺は病弱で表に出られない、と偽っているからね

懿に頼んだ旅で得られた人材には事情を説明して直接入ってくるのを許しているので、早馬が来るのは緊急事態でかつすぐに漢中の鎮守府に戻ってこれない場合に限られているって訳だ

 

「早馬?

 今日は確かみんな出払ってるはずだけど、なにか事故でもあった?」

 

「いえ、早馬は長安からで、近日中に仲達様がお戻りになられるとのご報告です」

 

「そうか…

 やっと帰ってきてくれるのか…」

 

俺がそう呟いてゆっくりと椅子に身を委ねると、ちょっとむすっとした顔の令明がそこに居た

 

「ん?

 どしたの?」

 

俺はよく女性に対する気遣いが足りないと公祺さんあたりに言われるんだけど、多分今回もそうなんだろう、むすっとしたまま令明がぼそりと呟く

 

「一刀様、嬉しそうですね…」

 

「まあね……

 やっぱり彼女は特別かな

 なにせこの世界ではじめて出会った子だし」

 

認めよう、これは失言だった

令明は更に頬を膨らませると、足音も高く無言で退出してしまう

 

(あちゃあ……

 これは後で機嫌取るの大変だろうな……)

 

なにせ彼女は基本的に無口で、今のように事務的な事柄以外を話すのは俺の前でだけなのである

それなのにこうなってしまっては、そりゃあ公祺さんに

「コマすだけコマして気遣いが足らないんだよアンタは」

と怒られるのも当然である

 

とはいえ言い訳はさせてくれ

 

実に4ヶ月以上も、俺は懿の顔を見ていないんだ

そりゃあ懐かしくもあるし安心もするし、やっぱり特別でもあるし…

 

そうやって自縄自縛に陥っていると、さっき怒って出て行ったはずの令明が戻ってきた

 

「え、えっとね…

 さっきの特別ってのは深い意味があったわけじゃなくてね…」

 

必死に言い訳をしようとしている俺に、まるで仕返しを企んでいる子供のような視線で返事が返ってくる

 

「そのあたりの事は追々お聞かせ願うとして、宜しいのですか、一刀様」

 

「………え?

 なにが?」

 

してやったりという顔で嬉しそうに令明が答える

 

「あの早馬は先触れだったようです

 唯今、司馬仲達様がおつきになりました

 一刀様に直接ご報告したいと、お連れの方を別室にご案内して、今ここに直接お越しになっています」

 

え?

なに?

今いる?

それってもしかして聞こえてた?

 

神様、これはなんというか、あんまりでしょ?

 

なにもこんなときに、よりによってさぁ…

 

この場に出来する珍事を予測したのか、令明が退室していく

 

それを引き止める間もなく、懐かしいあの微笑みを“貼り付けて”ゆっくりと懿が入ってきた

 

 

「唯今戻りました、我が君

 まずは色々とご報告差し上げようと思ったのですが、今の少女の事も含めて、聞かなければならない事が随分とあるようですね」

 

あ、死んだ…

なんていうか俺は今死んだ

 

だって、微笑みは全開なのに、目だけ笑ってないんだもん!

 

「さて我が君、まずは何からお伺いしましょうか………」

 

今迄にないくらい艶然と微笑む懿を目の前に、俺は人生の終わりを感じていた

 

多分今の懿の不満ゲージはレベルMAXだ、間違いない

 

 

そんな状態でガクブルと震えていた俺だけど、これだけは絶対に譲れない

 

やっと帰ってきてくれた彼女に、俺は心からの笑顔と共に告げる

 

 

 

「おかえり!

 久しぶりに懿の笑顔が見れて嬉しかったよ!!」

説明
拙作の作風が知りたい方は
『http://www.tinami.com/view/315935』
より視読をお願い致します

また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します

当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです

本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」
の二次創作物となります

これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します


その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です

コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール
『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』
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コメント
田吾作さま>司馬一刀爆誕! 並にどこから突っ込んでいいのかわからん(笑)(小笠原 樹)
通り(ry の名無しさま>むしろネジ切るので(どこを?(小笠原 樹)
↓つまりガブリと噛み付いたシバチューさんが魔精力を一刀君に注入して、彼が仮面ライダーシバに変身するんですねわかります(ォィ それはともかくとして、これで主要人物が集結したと見てよろしいんでしょうかね。さて、民主主義を中土に根付かせるためにどう動くのか。楽しみです。(田吾作)
たぶん、懿に思い切りガブリとやられるんだよ・・・うん・・・(どこをとは言わないが(通り(ry の七篠権兵衛)
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