天象儀 |
本田はドイツの古い博物館の最上階にある、ドーム状の部屋の中にぽつんとつったっていた。窓ひとつない部屋の中央には、見たこともない機械が鎮座してる。
「面白いものがあるから見に来るといい。」
そう言ってルートヴィッヒにつれてこられたものの、いったいなんの部屋なのか本田にはさっぱり分からなかった。
つれてきた本人といえば、ここで待っていろと言ったきり、その奇妙な機械にかかりきりだ。
「ルートヴィッヒさん、ここはいった何をする部屋なのですか?」
困り顔で声をかけると
「ああ、すまない。すぐに始めるからそこの椅子にかけていてくれ。」
本田は、はぁ、と気の抜けた返事をするとわけが分からないまま木の椅子に腰掛けた。
博物館自体は古いものの、このドームは最近作られたもののようだ。並べられた椅子も最近運び込まれたもののように見える。
もう一度、声をかけようとしたとき、室内の照明が落ちた。
「る、ルートヴィッヒさん?」
急に視界を失った本田は慌てて立ち上がりかける。
カチリ……ヴゥゥン…。
機械の駆動音がすると、ドームの天井一面に光の点が広がった。
「これは……星空?」
本田はぽかんと口をあけて上をみあげた。
機械からあふれ出した光が作り出したのは、確かに星空だった。
それも、日本の。
「どうだ?緯度経度を計算してお前の家の空を再現してみたんだが…。」
声に振り返ると、すぐ後ろにルートヴィッヒが立っていた。
にこりと笑いかけてくる彼はすこしばかり自慢げに見えた。
「すごいです、なんですかこれ?あんな小さな星まで再現するなんて!」
握りこぶしをつくって興奮している本田に苦笑しつつ、ルートヴィッヒも天井を見上げた。
「プラネタリウムというんだ。うちの天文学者が天体の運行を再現するために作った。」
「…プラネタリウム…。すごいですねぇ…。」
落ち着いたのか、本田は、ほう、と一つため息をついて人工の星空をみあげた。
外は昼で、しかもドイツだというのに、ここはまるで自分の家の夜空をそのまま持ってきたようだ。
先ほどまではただの白い壁だった場所には、美しい天の川が流れている。
「あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの こいぬ
ひかりのへびの とぐろ
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす」
ルートヴィッヒが天井から視線を本田へと移し、訪ねる。
「なんだ、その歌は?」
「星めぐりの歌、というんですよ。私の家の詩人の作った歌です。」
「星めぐり?」
にっこりと微笑んでうなずく本田。
「天の川にそって順番に星座をめぐっていくんです。」
歌いながら星座を指さしていく。
「ね。」
と、笑いかけると、ルートヴィッヒは何故かじっとこちらを見つめている。
「あ、日本語の歌じゃ分からないですよね。すいません。」
「いや、すまない。そういうことじゃなく…。」
恐縮したように頭をかく本田に、ルートヴィッヒは
「ええと、あれだ。横にもれた光が、本田にあたって、昔お前の家でみた蛍のようだと思ったから。だ。」
酷く慌てたような様子で言う。本田には暗がりで良くわからないが、赤面しているようにも見えた。
「はぁ…。でもたしかに、そういわれればそうですね。」
ふふ、と笑って頷く本田に、ばつが悪そうに咳払いをするルートヴィッヒ。
「気分転換くらいにはなったか?」
「ありがとうございます。すごく気にいりました。」
「そうか。」
目をきらきらさせて頷く本田に、ルートヴィッヒも満足そうに頷いて人工の星空を見上げた。
後日談 ると、ろで、えり
「ルートヴィッヒ、何をへこんでいるんですか。本田さんにプラネタリウムを見せて喜ばれたといっていたばかりではないですか。」
「それがね、ローデさん。本田さん、あのあとすぐに最新のプラネタリウム一式、注文していったんですって。」
「良いことではないですか。それで何か問題が?」
「ルート君はプラネタリウムを売りたいんじゃなくて、見たいときにはこっちに 来て一緒に見てほしかったのよ。ねぇ。」
「………。」
「おばかさん、遠まわしすぎます。」
「今度はルート君が本田さんのところのプラネタリウムを見にいけばいいじゃない。」
「!!」
説明 | ||
独日 ずいぶん前に、日本に最初にはいってきたプラネタリウムが西ドイツのカールツァイス製だという話をみつけて書いた駄文。 √→菊風味? |
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ヘタリア 腐 独日 ルートヴィッヒ 本田菊 | ||
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