外史異聞譚〜幕ノ十五〜 |
≪漢中/魯子敬視点≫
私がやってた事は、そんなに難しい事じゃありません
大要を言えばこんな感じです
ひとつは収穫物の管理統制
ひとつは工業製品の指定と管理
ひとつは関税の管理
そして租税の設定
こんなもんです
まあ、これじゃああまりに酷いんで、もう少しだけ説明する事にしましょうかね、くきゃきゃきゃきゃ!
まあ、収穫物の管理と統制っていうのは、これはまあ当然なんですが、これをしっかりしないと租税が決まらないって訳です
畑によっても違いますし、邑によっても違う
ここは伯達さんが頑張って視察やらなんやらやってくれましたんで、ほぼ全地域の収穫状況や生産状況、人口が把握できた、ってことです
それを把握して管理しないと、生産物による格差ってのが大きくなってしまうって事です
作物による格差はできて当然なんですが、それがあまりに大きいとこれまた問題になるって訳で、そこは鎮守府で調整しないといけないんですよ
具体的には買い上げたり放出したり、場合によっては輸出や輸入したり
まずこれがひとつですね
次が工業製品の指定と管理なんですが、作物や収穫物によっては、そのままじゃ意味がなかったり日持ちしなかったりする訳です
肉なんかは生のままじゃ冬でも十日もてばいい方でしょう
林檎なんかはそのままじゃ商品価値が低いし、梅やら椿やらは加工しないことには話にならない
木材だって切り出してはいおしまい、とはいきません
ものによっては今まで廃棄してたものでも、加工方法なんかで利用方法があったりもします
なので、それぞれの邑や地域にあわせて、忠英さんが作ってくれた機材を提供したり職人を派遣したりといった事をやって、それらを加工して商品として扱えるようにしてもらったって訳です
鎮守府で買い取ってあとは市場に流す、という方法なら、不満も出づらいですしね
そういった商品は他地方にもっていけば価値もかなり高いものが多いんで、行商に融通することで漢中を起点に働いてもらおう、っていうのもあります
あとは養蜂なんかも含みますね
これも積極的に漢中にきてもらえるように働きかけてたりします
で、関税なんですが、これは商材とその量で税金をかける方法をとりました
これは後々は問題が出るんですが、最終的にあの腐れ太守が大陸を統一する意思があるなら、むしろこれを雛形に昇華させていく方法を考えた方が無難でしょう
他の地域と関税に差をつけて格安に“感じられる”ようにすることで、物流を促進したいっていうのが目的の措置ですね
そして租税ですが、これは主に伯達さんと公祺さん、巨達さんのおかげなんですが、実に6割を確保する事に成功しました
いや、作物家畜を公共事業の徴発の代価としたのは正解でした
もともと無償で配るはずだったものに価値をつける事ができて、民衆にも納得してもらえるなら、誰も損をしないってところが素晴らしいです
それに福利厚生って名目で租税をあげて、有事の保証を鎮守府でやる、という事で基本的な租税を高くする事ができたというのは、なんというか有難い話です
これは軍が積極的に公共事業や開墾に働いてるのも大きいです
こういうのを“徳”っていうんでしょうね
こうやって確保した財源で色々とやる訳ですが、うちの腐れ太守ときたら、基本的に丼勘定なんでたまりません
まあ、忠英さんの研究も皓ちゃん明ちゃん達の外交工作も、姉樣の諜報活動も、お金がかかるのは理解はしてんですが……
これをどう締め付けるかが私の腕の見せ所ってやつです
私は実はこういうのに向いてるのかも知れないですね
まあ、最初の頃はきつかったですが、こういった部分が軌道に乗ってきたのもあって、今では漢中は売り手市場になってます
そりゃまあそうです
他にないものばかり作って売ってるんですから
商品開発も推奨してますし、いいものは鎮守府が後ろ盾になってやるって布告も出させていただきましたんで、いやまあみんなやる気の出ること出ること
多分、金倉だけでいうなら、洛陽より多いんじゃないですかね、今の漢中
いやもう、出費も多いけど先があるっていうのはいいことです
これは笑いが止まらないってもんです、くきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃっ!!
まあ、これがあの腐れ太守の目論見だったってんなら、とことん付き合ってやろうかと今では思ってます
こうやって民衆も官も兵も、みんなが笑える日が続くなら、いつか私も“瘋子敬”じゃなくなる日が来るかも知れませんしね
でも、今はやめませんけどね
くきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!
≪漢中/張儁乂視点≫
拙者が漢中に来てからやった事は、実は独創性や発展性といったものを必要とされる事柄はあまりありませんでした
理由は仲業殿が大要を組み上げてくれておりましたので、拙者はそれに準じておけば問題がなかったという点があげられます
拙者らは将帥として指南役として職分を分散して互いの負担を減らし、より効率のよい訓練方法や事業参画を考慮すればよかった、という事になります
むしろ、拙者ら軍を預かる者が苦労したのは、太守殿が提示した新戦法と新兵器の扱いと習熟に関してです
具体的な内容はここで述べる事はしませぬが、今までの常識を全く無視したいくつもの事柄は、いうなればそれまでの兵の全てが新兵になったようなものでありまして一朝一夕でどうにかなる内容のものではありませんでした
軍の編成方式も従来のものとは全く異なり、特に歩兵においては劇的といえる大改革と方向転換を行う事となります
公営事業の推進と同時にこれら調練を行うために、拙者らが要求されたのは輪番の仕組みに関してです
これは主にそれを担当するのが拙者と仲業殿であったため、ふたりで計って大要を定め直す事となりました
その結果、全軍を主にふたつに大別して事に当たることとなります
ひとつは歩兵や弓兵といった、基本を徒歩で動く兵
これをふたつに別け、九日毎に交代で調練を行う事としました
片方の部隊が開墾や建設と個人調練を主軸にしている間、もう片方は全体調練を主軸に建設開墾を行う、という形式です
もうひとつが騎馬や戦車、工兵といった部隊で、これらは歩兵や弓兵とは質の異なる練兵設備が必要になるため、別個に事業に組み込むように手配しました
差が出てしまうのは致し方ない事なのですが、これらの兵の方が訓練比率をあげる事で対応を行うように考慮しました
これらの作業の中から兵の振り分けや篩い落しを行い、同じ階級であっても某給に差をつける事で軍の質と練度の向上を図る、という方式を採用致しました
これを提示した時に太守殿から提案されたのは、そういった練兵設備についての部分くらいのものでありまして、ほぼ拙者らの提案が採用される事となっております
ただし、新開発された武具や馬具の使用は原則として訓練時のみ、という事を徹底するようにという部分だけを入念に指示されたくらいです
太守殿のお考えでは、これらを他の諸侯の耳目に触れさせる機会は少しでも少ない方がよい、という事で、太守殿の考えでは、それは漢中が本格的に他の諸侯と“武力”で争う段階になってから、という意向によるものです
これらの事柄から、練兵は非常に特殊なものとなりまして、練兵訓練時には令則殿が指揮する司法隊の警護が練兵場に配備されるという事になりました
ここまで厳戒な練兵を要する軍というものは聞いたことがなく、その点に関しては身が引き締まる思いを続けていたといえます
また、令則殿の要請により、これら兵馬の中でも熟練兵に属するもので選抜された部隊で漢中の豪族の取り締まりを遂行する事になりました
これは、実施されている練兵が特殊であるため、武装に関して従来のものを好く扱える兵を用いる事で損耗を可能な限り下げよう、という意図が多分にあります
本来はこういった小規模な戦を新兵に経験させたいところなのですが、そこも太守殿が
「急がなくてもそういった意味で手頃な騒乱は数年後にはやってくるから、今は基礎練度を叩きあげる事だけを考えてくれればいいよ」
と申されておりまして、拙者としてはそれを不気味に感じながらも、日々効果をあげていく様々な方策を目の当たりにしている事もあり、素直に従う道を選びました
また、仲業殿の提案により、そういった騒乱の対処は主に拙者が担当しております
これは仲業殿に言わせると
「ボクや令則は打って出るより守る方が向いてるからね
同じ将帥といっても適材適所ってところかな」
などと気楽に話しておられます
ご自分の負担が増えるというのに、このような判断を的確になされるのには頭が下がります
また、先の宴席より、機を見ては太守殿と儒教やそれらに付随した事柄について度々話す席を設けてもらっておりますが、結論としては
「上に立つ者が徳を積む努力をするのではなく、徳があるものがみんなに選ばれて指導していく方が自然だと思うんだよね
それなら縁戚やら後宮やらといったものは介入する余地がないでしょ?」
という事のようです
拙者としては血筋というものは大事だとも思うのですが、それについては笑いながらこう申されておりました
「自分を誇り血筋による誇りを汚さないように自分を律して生きるのならそれは正しい
ただし、血筋におぶさり先祖の過去の業績のみを誇るような状態であるなら正しくはないよね
それらも儒教でいうところの五徳で説明はつくんじゃないかな」
血筋は己を律し誇る為のものであり、継承されることで敬われる事が正しいのではない
そういう事なのでしょうが、いまだ拙者には飲み込みきれぬ事でもあります
先祖に恥じず子孫に誇れる己であれ、という点には全くもって賛同致すのですが
誠に、一筋縄ではいかぬ御仁のようです
≪漢中/文仲業視点≫
ボクとしては特に言うこともない感じなんだよね
人材が揃った事で楽もさせてもらえる状態になったし、基本的な部分については漢中に来た当初から変わる事もないというのがその理由
まあ、忙しい事は忙しいけど、他のところの将軍達はどうだか知らないが、書類仕事に関しては巨達ちゃんがそれぞれに文官を配してくれたのもあって、基本的にボクらは最後に確認をすればいいような感じになっている
溜め込むと涙目で怒られるので、そうすると他の文官の機嫌が悪くなるから、さぼる事はできないんだけどね
元々ボクは攻めより守りの方が性に合っているのもあって、大規模動員でもなければ豪族の反乱鎮圧に赴く事もなく、むしろ調練にみっちり集中できたという事の方が大きい
漢中律の厳しさから、摘発されたり鎮圧された豪族に関しては長期の苦役や極刑が多いんだけど、そこもまあ、これまでさんざん民衆から搾取してきたツケだと思えば、ボクにはむしろ自業自得に思える
一刀の強い希望で未成年は助命されてるけど、むしろボクに言わせればそこは甘いかな、と思う
同じ事は令則も言っていて、これには司法隊の監視をこっそりつけているらしい
たまにそれらの話を聞く限り、やっぱり復讐とかを考えているのが大半みたいだから、いずれ摘発の対象にはなるだろうね
とりあえずボクとしては、現状の軍務については裏方にまわって、忠英さんや令則、儁乂や令明のところに優先的に振り分ける兵を日々見定めながら、予定されている事柄を推し進めている、という訳だよ
なのでこれはある意味必然なんだけど、各将帥の中で現状最大規模の軍を預かっているのはボクという事になる
まあ、みんなには質を優先しているから、実際に同数で演習とかをやると、かなりきついんだけどね
でも、まず“守り方”を徹底的に叩き込む方法をとっているのと、一刀が提案した戦術や兵装がそういった部分に非常に“向く”のもあって、少なくとも時間を区切れば負ける事はまずない
演習の勝利条件によってはボクが勝つ事も少なくないので、他のみんなはかなり悔しい事も多いみたいだ
これはボクの持論ではあるんだけど、守り方を知らない軍は、そもそも攻める事ができない、と思ってる
攻めるのは、これは言い過ぎの部分もあるけど、ある程度勢いとかでなんとかなってしまう場合も多いのだけど、守る事に関しては陣形や気持ちをしっかりと保っておかないと絶対に無理だからだ
戦場というのは狂気の世界だ
誰も彼もが相手を“殺す”という事に凝り固まってやってくる
なのでボクは、まずそういう相手をしっかりと受け止める事ができる“守り方”を教えるべきだと思ってるんだ
狂気と恐怖に負けたらそこで終わり
だからこそ肉体的にも精神的にも厳しい状況を常に経験し、訓練や調練をこなす事が大事だと思っている
そう言う意味では、むしろ公共事業に軍を最優先で導入したのは正解だったのかもね
あれは今でこそ抵抗もなくなったけど、それでもきつい事が多いもんな
兵士諸君に対しても、手は抜かないけど同情はする事がいまだにあるよ
それくらい一刀がたまに提案してくる事は常識外というか、とんでもない事がいまだに多い
ボクらも含めてだけど、実際にこうして実績があがってきているから、今でこそ不平不満は出なくなってきているけどね
そんなボクの今の危惧はただひとつ
貴族や諸侯、武門といった血統や身分や立場に対する誇りというものを、一刀がかなり軽視している部分だけだ
基本的に一刀の施政やその方向性は素晴らしいと思うし、事実官民の為にもなっている
ただ、戦場はそういう場所ではなく、武とはそういう理屈で推し量れない人間達の領域だ
多分遠くないうちに、そういった事柄で揉める時は来るだろうね
その時には悪いけど、ボクは武人の側につかせてもらう事になると思う
一刀を嫌うとかついていけないとかじゃなく、一刀がいうように“必要な事は受け入れ飲み込む”という事が必要だろうからね
その時はせいぜい笑ってやりきる事にしよう
笑えない状態になる確信もあるのが辛いところだけどね
説明 | ||
拙作の作風が知りたい方は 『http://www.tinami.com/view/315935』 より視読をお願い致します また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します 当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです 本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」 の二次創作物となります これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール 『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』 機会がありましたら是非ご覧になってください |
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コメント | ||
子敬ちゃんの今北産業最高!・・・って四行だったw おお、仲業さん視点で、一刀が甘く見積もっている部分が見えてきましたね。(通り(ry の七篠権兵衛) 魯子敬さんの頑張りで金が舞い込み、張儁乂と文さんの指導で兵が基礎から叩き上げられる、と。そういえばまだ黄巾の乱は起きてないんですよね。現状でもオーバー気味の戦力を持つ天譴軍、彼らは一体何と戦ってるんだ(ryとかそんな次元ですよねぇ……。ただ、文さんが「一刀がこの時代の考えがいかに根付いているかを軽視している」というのが気がかりですね。(田吾作) なるほど、文仲業のこの考え方が後の『あの一件』に発展するわけですね。(M.N.F.) |
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