ポイントカード
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ポイントカード

 

「お買い上げありがとうございます。二百四十円です。ポイントカードお持ちですか?」

 

「いや、持ってないけど……」

 

 その言葉を聞いた店員はお金を受け取るとそそくさと会計を済ませた。おつりを受け取ろ

うとする僕に向かって一緒にいた妻が言った。

 

「何、あなたポイントカード持ってないの?もったいないわね、私のカードがあるからこれ

に付けてくださらない?」

 

 そう言って妻は自分の財布からカードを取り出し店員に渡した。慣れた手つきでカードを

レジに通すとにこやかな笑顔とともにカードを妻に戻し「ありがとうございました」といっ

た。

 僕は妻とともに買ったばかりの缶コーヒーをもってコンビニを出た。そこで妻が驚いた表

情で僕に言った。

 

「なんであなた、ここのポイントカード持っていないの?」

 

「なんでって、ここコンビニだよ?ポイントがあることすら知らなかったよ。僕だって電気

屋のポイントカードくらいは持っているけど、でもコンビニなんて……」

 

 僕の答えに妻はあきれ顔で言葉を返す。

 

「あのね、今の時代どんなお店でもポイントカードは必須よ。コンビニだけじゃない。レン

タルビデオやガソリンスタンド。病院から魚屋さんまでポイントカードのないお店のほうが

少ないんだから」

 

 熱く語る妻に手を振り「いいよ、どうせたまらないからさ」と答える。そんな僕に妻はさ

らに力を込めて説明を続けた。

 

「何言っているの。今はポイントの移行ができるの。少ないポイントでも一か所に集めれば

大きな財産になるんだから。あなたもこれからはしっかりためるのよ」

 

「わかったわかった……」

 

 僕は適当に相槌を打ってこの話を終わらせた。このままでは夜までコンビニの前でポイン

ト講座を開かれかねない。

 

 正直、面倒くさがりの僕はポイントなどためたことがない。電気屋のポイントもためるこ

となく、次に買い物に行ったときにすべて使い果たしてしまう。どうせいつかは使うものだ、

早かれ遅かれ使うことには変わらないだろう。

 

 

 

 それからも妻は事あるごとにポイントの収集に執念を燃やした。

 

「税金はこの銀行振り込みにするとポイントがたまるの」

 

「お買い物はここのスーパーにしましょう。ポイント還元率が高いの」

 

「選挙のときはこのポイントカードを持参するのよ。百選挙ポイントで次の選挙の投票権が

一回もらえるのよ」

 

 おいおい、それはないだろう。と思ったが、現政権の不景気対策の一環としてポイントの

奨励が行われているのは本当らしい。エコロジー推進のためにエコ用品を買うとエコポイン

トが、少子化対策に一人子供を産むたびにベビーポイントが、選挙の投票率を上げるために

選挙ポイントが。ということらしい。いやはやとんでもない時代になったものだ。

 

 そんなご時世にも流されず僕はポイントに振り回されない生活を送っていた。生きてく上

でポイントなどなくても困らない。そう思っていた。

 

 

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そんなある日僕らは飛行機事故に巻き込まれて二人とも死んでしまった。

 

 僕たちが気がついたのは雲の上で閻魔大王に尋問をされているところからだった。 

 

「ふむふむ、お前たちの生前の行いでは善良ポイントが不足しているな。地獄行きだ」

 

 閻魔大王は地獄行きの書類に判を押そうとしている。

 

「ちょちょっと待ってください。天国と地獄ってポイントで別れちゃうんですか」

 

 僕はあわててすがる。こんなところにまでポイントの波が訪れていたとは。

 

「そうだ、人間界で善行を重ねたものには善良ポイントが与えられ、天国に行ける。誰にも

平等なシステムだろう」

 

「そんな、知ってたら僕だってもっと善良な行いをしてきたのに……」

 

 がっくり膝を落とす僕に変わり、今度は妻が閻魔大王に食ってかかった。

 

「天国行きはポイント制なんですよね?私、いろいろなポイント持ってます。生前いっぱい

ためたんですよ。旅行会社とレンタルビデオと電気屋さんスーパーのもあります。これ移行

して使えますよね」

 

 何を言い出すのか、僕はあいた口がふさがらなかった。しかしこの後、僕はさらなるあき

れ顔を披露することになる。

 

 妻から手渡されたカードを確認し、閻魔大王は唸った。

 

「うむ、すべて提携会社のものだな。いいだろう善良ポイントに変換すればノルマクリアだ。

天国行き」

 

 妻の書類に『天国』の判が押された。妻の背中に羽が生え空に浮かぶ。

 

「ええっ!待ってくれよ。僕も……」

 

「貴様は交換できるポイントを何も持っていないじゃないか。地獄行きじゃ」

 

 地面に空いた穴に落ちていく僕に妻が悲しそうに声をかける。

 

「だからポイントはためておきなさいって言ったのに……」

 

 

 

 

「ここは?」

 

 僕は鋭くとがった針が敷き詰められた山のふもとで目を覚ました。

 

「あんた新入りだね、ここは針山地獄さ、ここでの仕事はこの針山を上って石を頂上に置い

てくる。それだけさ、足は血だらけになるけどね」

 

 ぼろ布を身にまとった男は一抱えもある石を担ぎながら言った。

 

「なぜこんなことに」

 

 僕は頭を抱えてしゃがみこんだ。そんな僕に男は説明する。

 

「大丈夫、石を一個運ぶごとに1ポイントもらえるんだ百万ポイント集めると天国に行ける

んだぜ」

 

 明るく話す男に僕はうんざりした顔で答えた。

 

「またポイントかよ、もうこりごりだ」

 

END

 

 最後まで読んでいただきありがとうございます。あなたに柊ポイントを1ポイント差し

上げます。百ポイント集めると……

 

 

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