GROW4第二十二章 シスター |
1
試合が始まってだいぶ経つというのにお互いが顔をなかなか合わせることができないでいる。このフィールドに大量発生している厄介な鉄兵軍団のせいだ。
数の割にやたら強くなかなか倒せないでいる。手こずっているうちにどんどん増えてきやがった。
俺がいるフィールドは城の内部の為外の情報は全く分からないが、これだけ広い城だから姉さんを内部で闘っている筈。全く戦闘の音が聴こえないところから察するに、かなり広いか防音仕様のどちらかなんだろうが、城の豪華な造りを見るからに狭いとは決め付けがたい・・・
「ゲホゲホッ。なんて数だ、倒しても倒しても次々出てきやがる!このままじゃもたねぇ」
『人間思ったより弱いヨワイ』
「くっ。一塵鉄火双(いちじんてっかそう)っ」
ガキィィィン
ザザッ
『無駄ムダ』
「倒れねぇ」
どこに攻撃を打ち込んでも一撃では倒れずに向かってくる鉄兵。囲まれてはうまく動けない。
スタスタスタッ
「あらららら。まだこんな連中に手こずってたんだ・・・」
「なっ!?」
姉さん。やっぱりこの城の内部にいたのか。だとすれば鉄兵に行く手を阻まれた筈では・・・
「私神(シシン)」ボソッ
ガシャァァァァン
ドサドサドサドサッ
「鉄兵が一人残らず倒れた?一体何を!?」
「楽しみにしてたけど全然たいしたことないみたいね・・・」
何をしたんだ?攻撃もしてないのに鉄兵が機能停止するなんて。
「アキくんもまぐれでここまできたわけか」
「人間相手なら負けないさ。姉さんが魔術を使っているなら俺が勝てる」
「黒の礎、あんなものでわたしを倒そうとしているのなら止めたほうがいいよ。黒臼(くろうす)」
ググッ
「握った拳が真黒に?」
姉さんの右拳が真黒に染まると同時に空間がねじ曲がる。後ろに構えた拳には強烈な気が溜まっていく。
「その気を奪い取るまで。気の強奪(テガロセッチ・マーガリオス)」
「甘いよアキくん。そういうせこいマネは格下にしか通用しないことを思い知りなさい。喰量黒酷(くうりょうこくこく)」
ヒュン
ズガァァァァァン
「ぐぁぁぁぁっ!!!右腕がっ、粉々になる!!」
「とっさの判断は素晴らしいわね。一歩遅かったら全身粉々だったわね、アキくん」
「取り込める許容範囲を遥かに凌駕している!?触れた右腕が肘辺りまで吹き飛びやがった」
「前回の相手が弱過ぎたからその術式は使えたみたいだけど、わたしはあんな弱い奴とはレベルが違うよ。それに・・・まだまったく本気じゃないし♪」
「そ、そんな」
軽く力を入れただけであんなにすさまじい気が出せるもんか。でも姉さんは魔法の一つも使ってすらいない。使ったのはただの気が籠ったパンチだけだ。
実力が違いすぎると言うのか。俺と姉さんとの・・・
「あらら。“軽い”パンチで最高の術式を破っちゃったのがそんなに悔しかったのかなぁ?でもわたしに勝てないレベルじゃ優勝なんてできないよね」
「甘かったよ姉さん。こんな人の力盗んで闘う術式で上を目指そうだなんて」
「ニヤニヤして。これ以上の策があるみたいね」
「ああ。見せてやるよ俺の本気を!!禁忌癒咏(きんきいえい)っ!!ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
「全身の気を身体全体へ循環させ均等にすることで器にし、右腕を復活させる荒良治・・・
黒の礎といい使ってる技がいちいちじじ臭いわね」
ドクン、ドクンッ
「ああ、師匠が古いからな。積年一期(せきねんいちご)」
(ごめんなエイミーさん。あなた以外に師匠を持ってしまって)
「まさか、まさか!?」
(借りるぜ治郎さん。あなたの古術禁式裏の門を)
「そんなばかな!?アキくんが・・・」
「戦人攻守覇式(せんじんこうしゅはしき)、故人の英雄色(フラオデギマ・サーヴァン・アネステミニア)」
シュゥゥゥゥ
「ありえない。それを使える人間は血筋で決まる筈なのに」
「そんなの努力の前では建前にすらならない。始めようか姉さん。これで互角以上に戦える」
「あらら高飛車仕様になるのかしら?わたしを看破しようものならその三倍は必要だけれどね」
2
今発動している気は負担がかかりすぎる。常にこの状態を維持している治郎さんが異常過ぎるのだ。かといってすぐに切れるということはない。
(10分程度ならば)
「はぁっ」
ガガガガッ
「随分マシになってきたじゃない。すこしばかり本気を出してしまおうかしら」
「くっ。蛇の鋼鉄陀(ツガラナ・タージャ)」
「三遅進(さんちしん)、蓬莱(ほうらい)」
ギギギンッ
シュラァァァァッ
「通らない」
「やっぱり付け焼刃じゃわたしの体術すら崩せないわね」
どんなに複雑な攻撃を仕掛けても、絶妙なタイミングで受け流されてしまう。パワー、スピード、技術。どれをおいても姉さんには何一つまともに届いていない。
体術も一カ月以上鍛えてきたっていうのに・・・
「フフフフフ。アキくんが思った以上にやるようだから本気を出そうと思ったけれど・・・
正直言ってわたしが強すぎるのがいけなかったかしら?実を言うと聖ではわたしがナンバー1の実力だしね。て言っても驚殿下とさして変わんないんだけど。ここでわたしが降参してアキくんが次に進むのは簡単だけど、結果上がってきた驚殿下にぼこぼこにされるのが見えてるわね」
「ここで俺が姉さんに勝てる確率は“ゼロ”ってことか」
「見たかんじそうね。でも今から鍛えるなら別よ」
「鍛える?今からここでか?」
「そう。この城の中なら絶対に外に情報が漏れることはないわ。確認済みだし」
「だとしてもだ。俺を鍛えてなんのメリットがあるんだ?優勝する気はないのか?」
「あらら怖いわね。わたしがアキくんのお姉さんってことで理由にならない?」
「辺理屈だよまったく」
「そっぽ背いたアキくんも可愛いよーーー?」
「抱きつくな気持ち悪い」
「つまんないのー。まあいいや。アキくんを今から鍛えるとして、特別にアキくんにわたしの“真”の力をお披露目しようじゃないか♪」
「お、おう」
「な、ありえない。こんなのが聖にはもう一人いるのか?」
「ふふふー。いまからアキくんにはわたしとおんなじ“聖処女”(マリア)の能力を身につけてもらいます♪頑張って身につけなさい」
・・・・・・
「結果女装みたいになるんじゃないか?」
「いいのいいの。可愛いから問題ないよ。」
「変身したらシスターの格好になって女体化とかありえないだろこんなの」
「これはもともとマスター神父が趣味で確立したって聞いたんだけどいろんな意味で最強だよね」
「こんな設定つい最近どこかで聞いたような・・・」
「いいよアキくん細かいことは。これでアキくんはとりあえず驚殿下とトントンくらいになった筈だよ。まあわたしには勝てないけどねーー♪」
「最後にも一回勝負してくれないか?姉さん」
「・・・・お望みならば、“本気で”・・・」
シュゥゥゥゥ
「あちゃぁ、倒しちゃっよwwまずいよお城が消えちゃう」
「ゲホゲホッ。姉さんあり得ないよ強すぎるよww」
結局歯が立たないじゃん姉さんに・・・
俺が倒れたことで城のフィールドが消えかかっている。このままでは完全に負ける。
「何やってるのアキくん。早く立ちなさい」
ブンブンッ
「分かってる」
「じゃあわたしは気絶した設定でいくから」
「ごまかせるのか?明らかに俺のほうがボロボロなのに」
「・・・・・・・」
「うわーー、し、死んでる?」
姉さん動かなくなったよ。すごい演戯うまいな。
「ん?おお、現れました。立っているのは・・・
勝者、渡邊彰文!!」
「なんだかやらせみたいだったな・・・」
(いっこ開くから次の試合まで時間はある。それまでに)
3
次の試合もまったくの未知数。圧倒的な力の差を見せつけた今井高三枚頭の一角、失われた魔法(ロスト・マジック)使いの一年生。馬慈魔結。対するは、今回が初の試合となる聖の三年。緒貴田驚殿下。
第三回戦の第六試合は予想もつかない展開になりそうだ。
「何をそんなにむくれているのですか?」
「ん?いやなんでもない。先の試合において貴殿の友人が破れた。あのメモリがやられるところなど見たことなかったが・・・」
「城の内部で戦っとたんやし何が起こったかくわしくわからないげどな」
「あの小僧にそんな力があるとは到底思えん。確かに只者ではない感じだったがメモリを看破するなど・・・」
「かいかぶりすぎやで長髪騎士王さん。わたしも本気を出せばあの赤髪を倒せた」
「ほう、たいした冗談だ。主がメモリをとな。甚だ片腹痛いわ!!」
「騎士王の没落紳士がわたしにどこまで通用するのか見せてほしいね」
「いいだろう。幼女風情が地に頭を伏せてよーーく反省することだな」
(案外冷静そうやね)
(事実一筋縄ではいかぬ相手とみた)
「第三回戦第六試合、始め」
「暗黒魔法、死(デス)」
「なっ!?」
ギュギュギュギュュン
「死への直下航路(ミードル・ハ・デス)」
「真空の守り人(クレード・ドア・アリエース)」
ドドドドドッ
「ほほうっ。死の暗黒魔法を通さないほど密度の高い真空の鎧。それだけでも驚いたが、貴殿の仕掛けた周りに漂う暗黒物質までもまとめて浄化してしまうとはな」
「聖職者が黒魔法なんか使うなんて前代未聞だね。わたしでなければ今ので死んでいた」
「死なぬと分かっていたからの小手調べだ。本来黒魔法など貴殿の扱う専門ではないのでな。貴殿が操る究極魔法、それは“光の魔法”だ。レア度でいうなれば主の天空魔法の上をゆく」
「“レア度”だけでしょう」
「いいだろう。見せてやる。魔法の中で最高峰と呼ばれる闇の魔法と対をなす光の魔法をな」
「最初っから100パーセントでいかせてもらう」